<確認>





夕食の片付けを終えたところ、部屋へ行こうと振り返ると兄さんが立っていた。その顔はさっきまでと違って、少しだけ切なげで優しい。
どういう気持ちなのか推測しながら、僕はあまり気にしていない風で口を開いた。
でも明らかに兄さんはいつもと、さっきまでと違ったんだ。

「どうかした?」

一日の役割を終えたキッチンの電気を消して、兄さんの横を通り、部屋へ行く。
兄さんはゆっくり後ろをついてきた。
うーとか、あーとか言いながら、頭をかいたりして。僕はひたすら待つ。
部屋の電気をつけて、くつろごうと思った。
兄さんの話を聞くことになるかもしれない。
しかし予想は全部外れた。

「なぁ、アル……身体を見せてくれないか」
「えっ?」

驚いて妙な笑みがちらっと浮かんだ。
僕は照れ隠しのつもりだった。
でも、見ようによっては拒絶に見えたかもしれない。
幸い、兄さんは僕の表情について何も言わなかった。

「いや、そのー……ちょっと興味あってさ」

目線を反らして、気まずそうにわざとへの字に口を曲げる。
そんな兄さんに、僕は少しだけ期待した。

「……いいけど。どうかしたの?急に……」

困ったふりをしながら、ゆっくりシャツのボタンを外す。
単純に、なにか錬金術のことで知りたいだけかもしれない。
下着だけになって、僕は“これがなにか?”とでも言いたげに両手を広げて見せた。
兄さんは僕の身体を、眺めて、触った。
筋肉を軽く押さえて、肌を撫でる。
僕の心臓が早鐘のように鳴り出して、聞こえていたらと思うと恥ずかしかった。
ゆっくりと胸板を撫で、心臓の辺りに手のひらを宛てた。
ゆっくりと、だけど躊躇わずに、兄さんは僕に近付いて抱きしめる。
拒絶なんてことは、頭に浮かばないみたいだった。
僕は無意識に抱きしめ返す。
目を閉じて、兄さんの柔らかい唇を受け止める。
拒絶なんてことは、頭に浮かばなかった。
大人の男女がするようなキスをして、僕は兄さんの服を脱がせようとした。

「オレは、」
「いいから」

兄さんの肩には以前、機械鎧だったところに傷が残っている。
僕はベッドに腰を落として、もう完全に治り滑らかになった傷跡に、そっと唇をつけた。
傷は治ったけれど、変色したままの皮膚はこれ以上元のようには戻らない。
顔をあげると、兄さんがまたキスをしてくれた。
くすぐったい背徳感が官能的に刺激することに、僕は畏怖していた。
次第に激しい動物的な衝動が僕たちを襲って、それを律する術もわからず呑み込まれる。
いや、本当にわからなかったのかは、定かじゃない。

「ア……ん、んッ……」
「……は……、はァ……ん……」

呼吸と、鼓動を、全身で感じる。
もっと、求めた。

「……アル……」
「ふ……ッ、ん……!」

兄さんは、手に吐き出した僕の精液を潤滑油がわりに、ゆっくりと挿入する。
達したばかりの状態から覚醒した僕は、兄さんの優しさを知って少し微笑んだ。
うつ伏せのまま、顔だけ振り向くと、怯えたような兄さんの顔が見つめ返した。

「いいよ……痛いのは、同じだろ」

拒絶ではないと知って、僕と同じ金色の瞳が細くなった。
だけど心からの喜びじゃないのも、知っていた。

「……アル……っ」
「ん、……――ッ」

確かにつらい、けれど体よりも、心のほうが痛い気がした。
まだ、僕は、理解していなかった。
兄さんの声を、吐息を耳元で聞きながら、シーツを握りしめ、兄さんは僕の中で果てた。
それがどんなに幸せで、どんなに残酷なことか。
薄々気付いていたはずだ。なのに見ないふりを、わからないふりをして、ひたすら唇を重ねた。
僕たちには、必要だった。

「兄さん……」
「……アル、……んッ……」
「ん……」

何かを言おうとするけれど、うまく言葉に成らなくて、唇を塞いでしまう。
快楽に支配されながら、酷い虚無感から目を背けて、ひたすら愛撫した。
兄さんの中へ埋め込んだ僕の一部が、尽きることのないほど欲を吐き出して、このまま、一つになってしまったのではないかと錯覚したいと望んだ。
それは僕だけじゃなかった。
兄さんは覆い被さる僕の肩に生身の両腕を回して必死に、僕の存在を確かめるかのように抱き寄せた。
一つになっている、そう錯覚したいとひたすら望んだ。
兄さんは僕の輪郭を撫で、全てに触って、確かめた。
僕の体のすべてを求め、確かめた。

「夢なら良かった、って……思ったこと、ないか」

微睡みに身を任せたころ、兄さんが、僕が聞いてるかどうかも気にしない風で呟いた。
僕は小さく、首を横に振る。

「……夢じゃ、ないよ」

僕が言ったのは答じゃなかった。
だけど兄さんは驚いた顔をして、それから笑った。
すこし、自嘲ぎみに。
そして僕たちは抱き合って眠りにおちた。






2012/02




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