<温度>
エドワードが弟に対して、標準的な家族愛 けでないものを感じているのに気付いたのは、ごく最近のこと った。
それは一般的な恋愛感情でもなければ、ある種の依存的で一方的な愛情または嫉妬の類い等と言うちんけなものなどとは、似ても似つかない。
「アル、」
大人の男より大きい鎧を見上げて、エドワードはその名を呼んだ。
本来暗闇であるはずの目の奥に灯る小さな光が、エドワードを見つめ返す。
そのまま数分経ってしまい、アルフォンスは怪訝に思った。
「呼んだ?」
体のどこかから響くように聞こえてくる声。
鎧の中は、物質としては空洞だが、アルフォンスは確かに目の前に居る。
「……いや」
自分がこれほどまで、と自覚するほど弟に執着しているのは、やはり己の過ちにより彼を失ってしまったからだろう。
魂だけは繋ぐことができたものの、それだっていつまでもつか分からない。
思い詰めたような顔をしておきながら「なんでもない」と っ気なく言う兄を見て、アルフォンスはさらに訝しんだ。
「……話せることなら、話してね?」
エドワードの拳にわずかな力が込められた。
「ああ……ごめんな、アル」
一番嫌いな台詞を聞いて、アルフォンスは眉をひそめた。もちろん心の中で が。
兄は他人を傷つけたくなくて、代わりに己を傷つけるの 。
その日の夜は町から離れていたので、野宿した。
野宿を予測して買っておいた少量の食べ物で空腹を紛らすと、毛布を錬成して二人で木の幹に寄りかかった。
エドワードはアルフォンスに毛布をかけてやったが、ふとその手が一瞬止まった。
「……こういうのが、余計お前をつらくさせるん よな……」
止めるわけにも行かず、予定通り毛布を首まで引き上げる。
アルフォンスはくすくす笑った。
単純に、嬉しかったの 。
何も感じない自分の体を過剰なほど思ってくれていると知って、泣きたいほどに嬉しかった。
「心で感じてるよ、兄さん」
毛布の下で片手を胸に宛て、アルフォンスは兄を見つめる。
微笑んでいるのがわかる。
エドワードは自嘲ぎみに苦笑して、蹲った。
少し け、鎧に寄りかかって。
終
2012/02
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