<依存>
視線を感じて読んでいた本から目を上げると、風呂上りに通りかかったエドワードがタオルで髪を拭きながら、ぼんやりした表情で見つめていた。
もしかして自分の寝間着に異常があるのかとも思ったが、とくに見当たらない。
アルフォンスは意図が掴めず、首を傾げて見せるが、エドワードは向かいのソファに腰をおろしただけで何も言わない。
「どうしたの?兄さん」
「……ん、」
短く刈った金髪は、もうほとんど乾いている。
それを軽くかき尋ねると、エドワードは暫し思案してから弟の隣へ移動した。
「やっぱさ、……」
切り出して、そのあとが続かない。
言うべきかどうか迷っている、どんな表現が適切か考えている。
「……良いな」
結局肝心な部分は したまま め括ったが、相手には充分すぎるほど伝わっていた。
アルフォンスは本をテーブルに置き、悲しみとも歓びとも読める微笑を僅かに湛えて兄に唇を押し付ける。
親しい挨拶以上の意義が込められた行為はすぐさま燃えるような熱情を帯びて揺らめき、二人の口から吐息が漏れた。
ソファに縫いつけた18歳の兄の体は、飾られた適度な筋肉を上気させる。
首筋から胸元へ降りる愛撫さえももどかしく、身に付けたばかりの下着を引きずり下ろす。
「あ、ッあ……は、」
「兄さん……。いつもより、なんだか……燃えてる」
似合わないことをわかっていてわざとらしく耳元に囁いた台詞に吹き出すのもつかの間、急かすように割れ目に手を挿し込まれて全身が跳ねる。
触れた けで中身を求めてヒクつき、愛液を溢れさせるほどに慣らされたそこに、熱い肉棒が宛てがわれ貫いた。
「ひ……ァ――……!」
「……ふ、……ッ」
れた声をあげ質量にきしむ体を揺らし、限界まで受け容れる。
まるでそのために存在するかのようにぴったりと接続された体の感触に、歓喜に酔いしれて狂いそうになる。
体を取り戻して2年、やっと不安も恐怖も薄れてきた。
これは夢なんじゃないか、幻なんじゃないかと思うたびに、アルフォンスは体を重ねて存在を示す。
依存しているのもわかっていて、それでも意義があったから身を任せた。
異質に思う人間もいること ろう。
「兄さ……ッ……あ、イク……う……」
「待て、ッアル、……ン……」
「ッ――!……っ」
切なげに歪んだ弟の顔に、背筋がざわつく。
あと少し、というところで引き抜かれ、戸惑う体が吐かれた以上の欲望を求めて小刻みに震えた。
「ったく……今日はどうしたん よ?急に始めるし……」
「ごめん……」
照れ笑いをしながらキスをして、股間に伸ばした手をエドワードが掴んだ。
「オレもお前を抱きたい」
さして驚いた様子も見せないアルフォンスを引き倒し、体勢を逆転する。
アルフォンスの精液を潤滑油がわりにして、張り詰めた自身をゆっくりと埋め込む。
「兄さん、僕、ふ」
「ア、ル……ッ!」
しがみついて震えるアルフォンスの熱を感じて、エドワードは射精した。
反射的に身体を引こうとするが、背中を抱いて止められる。
「ん、んん……っ」
「は……ぅん……」
何度もキスをするうち、再び硬くなる己に苦笑しながらも、抑えきれない律動は 速していく。
「お前のなか……熱い……」
「兄さん、……兄さん……」
座ったままのエドワードに、アルフォンスは乗るようにして頭をかき抱く。
「っ、……アル、……アル!」
「あ、ッ……!にい、さん……っ、」
今度は同時に絶頂を迎え、アルフォンスの白濁がエドワードの顎にまで飛散する。
存在意義を確かめるためだけでなくなった行為に、心の底から満たされて、深く口付けた。
「……またお風呂、入らなきゃね」
終
2012/02
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