<探求>
エドワードはベッドに体を横たえ、自分の寝床を整える弟を、どこか夢でも見ているような感覚で眺めた。
“約束の日”に全てが終わって、数ヶ月が経ったというのに、未 に悪夢は脳内をかき回し現実との境目を失わせる。
「アル」
「なに?」
「……いや」
無意味 とわかっていても確認せずにはいられない、そんなエドワードの最近の癖を知っているアルフォンスは、ベッド脇に膝をついて兄の手を握った。
「……兄さん。大丈夫 よ」
微笑み返すが、その中に不安の色が濃く混ざっているのは誤魔化しきれない。
しかし、何か言おうと開きかけた口を塞がれて、言い訳も建前もどこかへ飛んでしまった。
「兄さん……」
自分の欲求、相手の都合、慰めの言葉。
何か言いたいの が、どれも嘘っぱちに思えて、出しては引っ込めを繰り返すうち、何も言わないほうがうまくいく気がした。
「アル?……っ」
もう一度、今度は戸惑いが消えた唇を強く押し付け、殴り飛ばされるのを覚悟で舌を差し込んだ。
初めは困惑していたエドワードの舌が、愛撫につられてゆっくりと奥から出てきたところを、絡め取ってかき回す。
そっとベッドの上に乗り、次第に深く激しくなっていくキスを繰り返しても、エドワードは拒否しなかった。
できなかった、弟の存在を確認し、刻み込む唯一の方法だったから。
恐る恐る手を伸ばして、自分からも求める。
頭の中の血という血が沸騰したような感覚を抱えながら、アルフォンスが服を脱ぐのを手伝った。
「……っあ、ア……」
言葉はもはや意味を成さない世界の扉を開けて、アルフォンスは兄の体を愛撫する。
熱を帯びた花芯を口に含んだとき、全身を震えが走った。
ただの快楽 けではない。
指でつつけば滅びそうな悦びと、大声で泣き出したくなるような喜びが共存して、心は破裂してしまいそうだった。
「あ、アル、も……はな、せぇーっ……っ……」
放たれた、純白であるが汚れた欲の成れの果てを、アルフォンスは自分の口の中に指を入れて絡めとり、エドワードの秘部に塗りつける。
痙攣が収まらぬうちに、再び熱を帯びた体は、自分でも厭になるほど淫靡で貪欲 。
「ちょっと け、痛いかも……」
「ん……、っふぅあぁ……ぐぁあ!」
引き裂かれるような痛みの後から、激しく突き上げる快感がやって来る。
ゆっくり、禁忌の扉を開き、慎重に腰を進めた。
己の中で弟の熱い脈動が硬く張り詰め、その存在を主張している。
唐突に理解した。
目を見てわかる、自分と同じ不安の色。
泣きそうになって、息苦しい胸を押さえた。
「お前は……ここにいる」
呟いて頬を撫でたあと、体を起こし、繋がりはそのままに体勢を入れ替えた。
「僕は……ここにいる」
自分にと言うよりは、兄に言い聞かせるかのように聞こえた。
頷いたエドワードはゆっくり腰を落とし、深くアルフォンスを受け入れる。
平らな胸にぬるい雫が滴り、彼が泣いているのを知った。
回数を重ねていないのに、慣れない体をいたわりもせず、必死に腰を揺らす。
「は、ア……っ、兄さ……ん」
もう少しゆっくり、と身ぶりで示すが、キスで誤魔化されるうち理性は快楽へ堕ちてしまった。
次第に昂る熱が、痛みを快感へ変化させてゆく。
再び張り詰めて上を向いたエドワードの肉棒を包み込んで扱きあげると、 め付けられほぼ同時に絶頂を迎えることができた。
息をすることがこんなに苦しく煩わしいものと思ったことはない。
汗の滲んだ空気を吸い込んで、息継ぎも気にしないほど夢中で唇を貪った。
バラバラになった 片をかき集めるかのように背中に回された手がまさぐって抱き寄せ、髪を撫でてかき上げる。
いくら掴んでも手に入ったことに気が付かない盲目の人のように。
それを宥めようとして、更に何度も口づけを落とす。
それは、いつまでも続いた。
終
2012/06
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