<引いたり押したり>
「じっとしてると体が鈍るな、たまには手合わせしようぜ」
二人して大佐の自宅で調べ物をしていたエドワードとロイだったが、全く進展がない為に退屈してきたエドワードが言った、ひとことがそもそもの始まりだった。
「いいだろう、私も座ってばかりだからな」
立ち上がって強張った筋肉を伸ばし、関節を鳴らす。二人は書斎から広いリビングへ移った。
「術抜き、道具ナシな」
「了解だ」
ドアをあけたとたんに背後から拳が飛んでくる。
それを避けて間合いを取るが、すばしこい少年は間髪入れずに撃ち込んでくる。数発避けきれず当たったが、特に右腕は加減していて痛くはない。
短い掛け声を重ね、全身を使って組手を繰り返す。
蹴りを作った足を掴まれ床に叩きつけられたが、転がって起き上がる。
ロイのパンチを受けて防御し、間合いを使ってフェイントをかけたら見事に引っ掛かり、僅差でエドの勝利に終わった。
「全く、若さには敵わないな」
「オレ様が強いだけだ」
床に大の字になったロイの腹に、エドワードが得意気に乗る。
疲労を和らげながら、ふとその尻を撫でると彼の体が跳ねた。
「うひゃっ!?おまっ、セクハラだ!」
「恋人の間では認めないよ」
なおもゆっくり尻を撫で続けていると、手を叩かれた。
「卑怯なヤツ」
エドワードはぷい、と顔を背ける。
「嫌なら、逃げたらどうだ?」
「……」
素直にならないこの少年は、急に空気が変わり恥じらい戸惑うような初心でもないが、顔を背けたまま黙ってしまった。
大人は悪いコトを考え笑みを浮かべる。
「それとも、もっとして欲しい?」
直球で行きすぎたのか、タイミングが悪かったのか、エドワードは立ち上がって右足で大人の脇腹を蹴り飛ばした。
「そんなわけねーだろ!セクハラ野郎!」
「痛いよエド……」
苦笑して起き上がったが、エドワードはさっさとキッチンへ行ってしまい、このやりとりは自然消滅となった。
しかし夜。
アルは別行動の為に、当初から大佐宅に泊まる予定だったエドワードが客間のベッドにもぐりこんだときまで、時間は進む。
「おやすみ、エドワード」
「あれ」
明かりを消して退室しようとしたロイの耳が、咎めるように漏らされた声を拾った。
「ん?」
「……」
幻聴かと思いながら振り返ってみると、薄闇で金色が仄かに光っている。
「どうかしたか?」
「……」
どうやら幻聴ではなさそうだ。
なにかあるな、と思いながらベッドの脇へ戻った。
「黙っていてはわからないよ」
エドワードは寝返りをうって背を向けてしまう。
「もういい。……なんでもない」
「エド……」
「おやすみ!」
出ていけとばかりに言われたら、余計ただ事ではない。
「怒らないから言ってごらん」
心配になってきたロイは、退く気はない。
「なんもねーよ」
「本当か?」
「早く寝ろって」
エドワードはこちらを見ない。
彼のこういう場合は、心配をかけたくない時と照れ隠しの時だ。表情を読ませない。
今夜は、後者だと踏む。
「気になって寝れないんだよ、……君のココが」
ロイは布団の上から、エドワードの腰をなぞって前を掴むように手を広げた。
「あっ!……てめっ……!」
怒って手を避け振り返ると、黒い眼に捕らえられてしまう。
「素直になりなさい」
「命令すんな!」
頬に伸びた手を拒むように掴むと、ロイは手を引っ込めてしまった。
「悪かった。じゃあおやすみ」
「……!」
ドアが閉まる。
翻弄され行き場のない手をゆっくりと下ろし、エドワードは混乱した。
ロイは己の扱いも彼の扱いも上手く行かず途方に暮れながら、二階の自室へ戻った。
一体どうすれば素直になってくれるのか、と思案しながら、疼く己の股間に寝る前に処理した方が良いか尋ねる。
ドアを開けたところで、微かな音がした。
じっと耳を澄ます、どうやら彼の義足が立てる足音のようだ。
程なくして階段の下に現れた影を見て、内心ほくそ笑みながら顔には出さない大人を睨みつけ、少年は上がって来る。
「寝れない」
目の前までわざわざ来て言うそれは、裏に意味が込められているはずだ。
それを読みとって欲しいのか、金色がまっすぐ見つめてくる。
「本でも読んだらどうだ」
「集中できない」
「私と話したいのか」
「イヤだ」
わざと核心には触れないロイに、腹を立てているが、エドワードは自分がどうしなければこの大人に勝てないかわかっていた。
「どうして欲しいんだ」
「……」
怒ったような顔で、立ち尽くしている。
怒りにわななきながら数分が過ぎ、やっと沈黙を破った。
「……さっきの続き」
やっと見つけた台詞はわかるようでわからない。
無論、ロイにはここへエドワードが来た時点でわかっている。
「……さっきの、というと……口論かな?」
「違うだろ!……アンタ卑怯だ。アンタみたいにはなりたくない」
「そうか。卑怯になりたくないなら、相手に答を言わせようとするのは……どうかな?」
「……っくそ」
悪態をついて、少年は睨みつける。しかし頬が染まっているせいか、いまいち凄みはない。
「さて、どうして欲しいんだっけ?ちゃんと教えてくれ」
ロイは腕組みして、とぼけた声を出した。
意を決してエドワードが近付く。
「……アンタのこれで」
左手がそっと、下着の股間に触れる。
「めちゃくちゃにされたい」
台詞を聞いて目を見張るロイは、まじまじと相手を見つめた。
真っ赤に震えるエドワードは、顔を隠したくてロイの腕に額を乗せる。
思わず、吹き出してしまった。
「そこまで具体的に言ってくれるとは……やりがいが増えたよ」
笑いながら腕組みを解いて抱き締める。
逃げられなくなって、エドワードは暴れた。
「ハメたな!」
「ハマったのは自分だろう?観念するんだな、エドワード・エルリック」
獣に餌を与えるようにキスをして、大人しくさせる。一気に股間が、くすぶっていた炭に火がついたように熱くなる。
そのせいでつい見せてしまったエドワードの舌を、くすりと笑いながら絡めとって蹂躙する。
少年をからかううち余裕をなくしてきた大人は、舌をほどかずに足を動かして、ベッドへ連れて行く。
エドワードの体に己の熱い塊を押し付けて主張させた。
もう抵抗はしないようだ。
「やめろ、恥ずかしいだろ」
文句は伝える。
「君が恥ずかしがるのが見たい」
「変態」
悪態はつくが逃げる気配はない。
「セクハラ野郎。無能」
しかし続く悪態に、ロイははあ、と呆れたように息を吐く。
ムードも何もあったもんじゃない。
「言ったな?残念ながら有能な部分もあることを証明しよう」
黒い眼が怪しく光り、エドワードは珍しく焦った。
「わっ……ヤべ、ぁあッ!」
背中とベッドの隙間に潜り込んだ手が滑り下りて、小さな穴を探り当てる。
撫で回され侵入してくる一本の指に、全身が震えた。
「お望みどおり、めちゃくちゃにしてあげよう」
すぐに解れ始めたところを見ると、エドワードも訳の分からないもどかしいやり取りをしている間にすっかり熱くなってしまったようだ。
下着を脱がして自身を挿入すると、エドワードの身体がしなった。
「はぁっ……!」
今までの抵抗はどこへやら、首に両腕をかけて抱き寄せてくる。
すぐに張り詰めた若い肉棒がロイの下腹部に当たった。
「アッ、たい、さ……ッ、んぁっ」
エドワードを抱きかかえ、律動の合間に耳元で囁く。
「やっぱり我慢してたんじゃないか、素直に言えば良かったのに」
「バ、カやろ……ぁ、はぁっ、ちがっ……あ、ああっ……!」
「身体の方はいいコだな。イってしまえ」
ロイはエドワードの右足を持ち上げ、腰を速める。
男根はより深く突き挿さり、張り詰めた体を揺さぶっていく。
「ぃや、だっ、ンはぁ……ぁぁーーッ!」
持ち上げられた足でロイの腰を引き寄せ、絶頂の痙攣と収縮が押しよせる。
「くっ……」
激しく締め付けられて、ロイも顔を歪めたが、何とか持ちこたえた。
反抗的な態度は、粛正しなければならない。
「いいコだ……」
「ロイ……っ、ふ、あッ」
律動は再開される。
「ここだな」
「んア!や、め……、はンっ!」
ロイの頭をまさぐって腰を動きに合わせるエドワードは、もはや普段の理性など欠片程にも残っていない。
「はぁ、はあっ、はぅッ!……もっ、と!」
「エド、ワード……っ、そろそろッ……」
「あ、やッ、うぁっ……ロイ、……またイく……」
早くも痙攣が始まり、二度目の絶頂が爪先から頭へかけ上がって来る。
「待て、……っくぅ」
「む、りっ……は、ぁ、あっ、ああッ、はぁーー……!」
同じ腹を白濁で汚し、エドワードは果てる。
その刺激も多いに手伝って、ロイも強くひと突きしたのち腰を震わせた。
「は、はぁ、くぅうッ……!」
抱き合ったままお互いに唇を求め、長いキスをした。
舌を絡め、繋がったままの射精後の敏感な熱源が、強すぎる刺激に再び大きくなるのを感じる。
「……ぁ、」
「は、」
「ロイ……の、どスケベ……」
先程よりは余裕を見せて、エドワードは腰を揺らす。いやらしい水音がして、ロイは悪戯っぽくキラキラする金色の目を、覗き込んだ。
「おまえもだ、エドワード……」
ニヤリと笑って、自ら身体を反転させ体位を変える。肩越しに己の中心を突き挿す男を見て、支配される感覚に息が荒くなった。
ロイは変えられた体位とその、少年にしては色気のありすぎる目線を捉え、己がさらに大きくなるのを感じた。
「めちゃくちゃにしてくれよ」
「苦情は受け付けないからなッ」
エドワードが切なげなためいきを吐き、ロイは小柄だが細すぎない腰をつかんで強く突き上げた。
数分後に倒れ込んだ二人は、素直になることについて再び口論を始めたが、エドワードは今夜少々教訓を得たようだった。
終
2011/09