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<電話>



連絡をしなさい、といつも言われるが、守ったことは一度もない。

旅先で小さな宿に泊まると、フロントを通るたびに電話が視界に入る。
だがエドワードはいつも無視していた。
面倒くさいとか、ちょっとこっ恥ずかしいとかいうのは、理由の一部に過ぎない。
例えばもし電話して、任務が終わった、これから何時の汽車で帰るからどうのこうの、と言ったとする。
しかし自分たちはホムンクルスたちに狙われている身だし、汽車だっていつ事故を起こすかわからない。
いつなにがあるかはわからない。
ましてや怪我や何かの出来事によって、言った通りの汽車に乗れるかすらわからないのだ。
万が一帰れなくなったときのことを考えて、エドワードはいつも電話をしなかった。

そもそも、帰るという言葉自体に、違和感を感じる。
自分の家は旅立つ時に焼いてきた。
その時、この身体と弟を取り戻すまで帰る場所は無いという意味を込めた。
その時計を持ち続けている以上、“帰る”ことはないのだ。
しかし。

エドワードは窓から容赦なく吹き込む秋の風に身震いして、上着をはおりながら窓を閉めに向かった。
小さな安宿の二階の窓から、明かりが灯りはじめた街が見える。
肌寒い空気を閉めきっても部屋はまだ冷えていて、エドワードは腕組みしてちぢこまった。
“さむい”と“さみしい”は似ている。
少し前はよく考えたことも、今は気にしなくなった。
邪魔な感情をできるだけ捨ててきた。
そういうつもりだったのに、今、折れそうなほどの心細さを感じていて、それが混乱させる。
こんなことで、立ち止まっている場合じゃないのに。

――オレは、ただひたすら、ひとつのことだけを考えたいのに。

「兄さん、どうしたの?」

偵察を兼ねた散歩から戻ったアルフォンスが、声をかけてきた。
ドアが開く音が聞こえていたのに黙ったまま、読みかけの資料を放置して窓辺でぼーっとする兄を見て、いつもと違うことが心配になったのだろう。

「……わからねえ」

珍しく弱音になってしまった。
しかし事実なのだ。

「兄さんらしくないね。……あったかいシチューでも食べに行けば?」
「ああ、そうだな……」
「……」

やっと振り向いたエドワードは、なんでもないような空気をまとってベッドに散らかした資料と本をまとめてテーブルに移し、コートと財布を持って戸口へ向かう。
アルフォンスは黙って椅子に座り、その様子をずっと目で追った。

「お前は?一緒に来ねえの」
「僕はいいよ。これ読んでる」
「ん」

本を手に取ってから、アルフォンスはやっぱり一緒に出れば良かったかなと思いを巡らす。
ドアが閉まり、本を開いたまま天井を見上げた。

「……どっちも、どっちなんだよなぁ」

そしてしばらく、自分は兄とその上司の不器用な二人に対して、何ができるかを考えた。



エドワードは腕組みしたまま、落ち着いた田舎の繁華街を歩いていた。
都会に比べれば落ち着いているが、田舎にしては賑やかではある。
だが人口も犯罪も少ないし、多少もめ事が起きたとしてもすぐに収まることが大半だ。
平和な街に、重い心を抱える自分がいて、妙な感じがした。

自分は何を求めているのだろう。

人のあまりいない静かな定食屋に入り、一番端のテーブルに座って大人しくシチューとパンを注文する。
安いうえに味もまあまあで感心した。
店の中もそんなに暖かくはなかったが、シチューのおかげで身体は軽く汗ばむほど温まった。
空腹が満たされると、人間の脳は少し思考回路を変える。
代金を払い、エドワードはカウンターに向かった。

「あの……電話、貸してもらえますか?」
「ああ、もちろんだよ」

愛想と恰幅の良いおやじさんは、薄汚れたエプロンで手を拭き、カウンターの下から少し古い型の電話機を出してくれた。
二回、エドワードの指は止まった。
一回目は番号を思い出す時、二回目はためらった時。
しかし耳に届いたコール音を聞いて、懐かしいと思った瞬間、交換手が出て、エドワードは思わず背筋を伸ばした。
おやじさんは特に気にするふうでもなく、踊るように大きな身体を揺らしながら料理を作っている。
店内は香ばしい匂いで満たされていて、それはなぜか安心する匂いだった。

「あ……こちらは、エドワード・エルリック。ロイ・マスタング大佐をお願いします。コードは……」







2011/11




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