<会話の多い夜>



ここは執務室。時刻は22時を過ぎたところ 。

「大佐!もう終わり?」
「ああ、あと少し 」
「ふーん、そっか」
「ちょっと待っていてくれ」
「おう」
「……めずらしいね」
「なにが?」
「そうでもないか、君は待てないからな」
「…… からなにが?」
「わかってるくせに」
「はやく仕事しろよ」
「どうしようかな?」
「……帰る!」
「早いね、残念 な。あと一枚、チェックすれば終わるのに」
「アホ大佐の為に使うく らない時間はねえよ!」
「おや、そうか。止めないよ」

エドワードはさっさと出ていってしまった。
ロイは書類をまとめて束ね、確認済みボックスに入れてランプを消した。



廊下に出ると、少し離れた壁に腕組みしたエドワードが寄りかかっている。
予想通りの構図に、思わず笑ってしまった。

「帰るんじゃなかったのか?」
「……」
「私は帰るぞ」
「ちょ、待て!……き、聞きたいことがあんだよ」
「なにかな」
「とぼけんな。……ここじゃまずい」
「うちへ来るか」

笑おうとする口元を抑えるのはたいへん難しい。

「だからわざわざ来たん よ、余計な手間取らせやがって」

エドワードはまるでロイが全ての根悪とでも言いたげに、歩き出す。

「それはすまないね」
「……アンタ、反省って知らない?」
「精一杯しているよ」
「嘘 ……」
「もうちょっと信じてくれてもいいじゃないか」
「仕事以外でアンタの言葉を信用するとロクな事がねえ」
「ひどいな。後見人にその言いぐさはあんまりだよ、鋼の」
「へいへい、助かってますよ。どうもありがとうございます」
「つれないね……」
「……そっちこそ、どうなんだよ」
「なんの話 ?」
「今の話」
「後見人?」
「そう。……とっととやめればいいじゃんか」
「そうはいかない。私は君たちを後見する義務がある」
「別に……義務とかいいよ、アンタの重荷になってるだけだろ」
「……それが聞きたいことか?」
「……」
「……鋼の」
「……ちがう」

家が見えてきたときから、冬空に白い雪が舞いはじめた。



「どうした、冷えるから早く入ろう」
「……」
「いま暖めるから」

雪で濡れたコートを脱ぎ、ロイはストーブをつけてソファに座った。
その隣に、ぴったりと身を寄せてエドワードが座る。
何を考えているのか、困って抱き寄せると、
「さむい」
と言い訳っぽく言った。

「“後見人”は今はもうただの口実だな。君を手放したくないん 」
「……あのさ」
「……」
「……なんでオレなんだ?」
「さあね。……好きだから」

抱きあって顔を近付けると、目が口づけをしそうなくらい側にある。
唇が触れそうなほどになれば、お互いの息が顔にかかった。

「……大佐」
「なに」
「なに、じゃねえよ」

……微笑み、何かを待っている。

「……くそっ」

エドワードはこの狡い大人の唇に自分のを押し付けた。
すぐ離し、二度目は甘く長くする。
応えてくるロイの頭をそっと抱き撫でて、舌を迎えるため口を開いた。
ロイはゆっくり離れ、苦く笑った。

「困ったな」
「なにが?」
「ここじゃ風邪をひいてしまう」
「べつに……」
「よくないよ。それにきみの方が寒そうだ」
「またかよ」
「“また”?」
「あ、いや……」
「……“おあずけ”は俺 って辛いんだよ?エドワードくん」
「…、そうかよ……」
「それに、君はもう少し待つことを覚えたほうがいい」
「よく言うぜ。誰のせい っつの」

言いながら風呂へ連れて行き、バスタオルを渡した。
凍りそうな鋼の指が、青い軍服を引っ張る。

「……鋼の、」
「……」
「……仕方ないな」

軽いキスを一つ落として、いっしょに冷えた服を脱ぐ。

「背中でも流してもらおうか」
「お安いご用 」
「強気だな。ベッドに行くまで可愛がってやらないからそのつもりで」
「……上等だぜ。じゃ、まず背中な」
「ああ、嬉しいね」

ゴシゴシとスポンジでこする背中は広く、綺麗に筋肉がついていて、何度見ても惚れぼれする。
熱めのシャワーで流すと、ロイも背中を洗ってくれた。
そのまま前まで洗って欲しい衝動に駆られ、もういいと泡を流す。

「もう感じてるのか、鋼のはエッチ な」
「だ、誰のせい !それにアンタ、人の事言えないだろ」
「おあいこか」
「もっと ね」

嫌味全開で言い放ち、エドワードはバスタブに腰掛けるロイの膝の間に屈み込む。
大きな肉棒はエドワードが触った途端みるみる太さを増して、いきり立った。
ほくそ笑ん 顔に気づかれないうちに口に含む。

「……んっ、……はっ」

荒くなる息遣いと漏れ す掠れた声が、いつもあまり聞こえないせいか生々しくて、エドワードの股間も一気に張り詰めた。

「エド、……離せ……出るぞ」
「ん、んふ……」

スピードを上げてやると、あっけなく射精した。

「くっぅ……!」

吸いとって飲み下すが、口内から溢れる。
手の甲で拭うと、自分の先走りに気付いた。

「まったく……ミルクは嫌いじゃなかったのか?」
「……うるせえよ」

寒いのには けて、バスタブに入る。
股間を したかったのも理由 が、それはとっくに気づかれている。
ロイは向かいに腰を下ろして湯に浸かるが、狭いせいで空間の余裕はない。

「エド」
「イヤ 」

触れられるまえにシャワールー から出る。
なんという我が儘だろう。
バスタオルで体を拭いて、ストール代わりにして寝室へ向かった。
バスタオルを取ると、また寒さが襲ってくるのでベッドに入る。
ロイが現れた。
バスローブを羽織っているが、ちゃんと閉めていない。
自慢の腹筋が誇らしげに覗いていて、再び先走りを漏らしてしまった。
自分はいつからこんな体になったの ろう。

「もう寝るのか?」
「はあ?まさか」
「そうだよな、ココをこんなにしていたら」
「ふぁあっ!」
「寝られるわけがない」
「はあ、あっ、あ……ーッ!」
「我慢してたのか、偉いじゃないか」
「くそ……うるせえよ……」
「こちらも準備万端 な」
「うるさい、っんふ……は、やく」
「君からおね りとは、感激 ね」
「ばか……っ」
「ご期待に添えるよう努力しよう」
「っぐ、ぅ……ぅあ、あっー!」
「大丈夫、か?」
「ん、へい、きっ……ひ、あぅっ」

全身が悦びに震えている。

「あぁ、ふ……っ」
「俺が……大丈夫じゃ、ない……」
「え、ぁっ、あ!や、ぅあッ……!」

激しく突き上げられて、全てを見失う。
ひとつ け残ったものを全身が感じて、少し笑った。

「う、ふぅ……ッ、」
「く……ぁ、エ……ド……!」
「あ、あー……ッ!」

一気に流れ込んできた相手を受け止めて、抱き める。
他の人間ならこうはいかない。
冷えてきた鋼の手を ざけていたら、大きな手が握った。
キスをして、キスをする。
もう言葉はなかった。







2011/11


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