<ひとつになりたい>



国軍大佐の執務室では、静かに紙とペンの物を書く音が続いている。
ロイ・マスタングはいつになく真面目に報告書の山に目を通しながら、愛着のある字体を見つけて手を止めた。
殴り書きの教養の無い字に、かろうじて読めるサインはとても公式書類とは思えない。
書いた主を想い出し、ロイはやれやれといった体で溜息をついたが、その顔は穏やかに微笑んでいた。
これは二人がすったもんだの挙句、話がなんとか丸く収まって付き合うことになった、すぐあとの話である。



仕事の息抜きに図書室にいるであろう兄弟の、兄のほうを散歩に連れ出そうと思い向かった。
蔵書は市内最大級である広い図書室のなかをゆっくり歩いて行くと、人気のない一角に彼らはいた。
意気揚々として声をかけようと近づくと、自分の名前が耳に入りロイはとっさに本棚の影に れた。

「ねえ兄さん、大佐とはどう?うまくいってる?」

机に本を積み上げて、世話焼きの弟は尋ねる。
読書にふけっていたエドワードの顔がみるみるうちにリンゴのように赤くなった。

「なっ……なに言ってんだよ、お前はっ。ま 、なにかあるとか、そんなに……時間、たってねえだろ」

読んでいた本を勢いよく閉じて、金色の視線を泳がす。
アルフォンスは食い下がる。

「でも、キスぐらいしたでしょ?」

ガタタッ、とイスごと後ろに下がったエドワードは、あわてて周囲を見渡した。
興味津津に目を輝かせるアルフォンス。

「うわっ……アル、だから何聞いてんだって」
「わあ、もしかして、もうその先も……」
「アルフォンス!」

エドワードは、遮る為につい大声をあげてしまったことに気づき、次からは押し殺した声で怒鳴った。
その辺がいかにも彼らしいな、と本棚の影にいる男は思う。

「それ以上詮索したら、いくら血を分けた弟でもた じゃおかねえ!よっ……ヨロイ犬にしてやる!」
「ええっ!わかったよ兄さん、謝るから落ち着いて」

小声とはいえ爆発寸前の火山をなんとか抑え、アルフォンスは 直でないうえ照れ屋の兄に長い吐息をついた。

「でも、大佐といえば女のひと、だよね。大丈夫なの?兄さんは……」

本棚の影にいる男が、身体をこわばらせる。
そうとはつゆ知らず、エドワードは溜息をついた。

「わかってる。でも……その辺は男 し、ある程度は目を瞑るつもりなんだ」

予想外の言葉に、ロイは目を見開く。
ロイとしては、エドワードを手に入れた以上女性というものへの関心がゼロになったわけだが、女性たちはそうではない。
ふたりで街を歩いている時などに、エドワードのことなど構わずロイに艶めかしい声をかけてくるたびに、ロイの本心など知らないエドワードは不機嫌になり、ムキになってロイに迷惑をかけることもしばしば ったの 。
それが、本心を知らないのはロイも同じだった。
兄の覚悟を感じたアルフォンスは、切なげな声で「そうなんだ」と け口にした。

「ほ、ほらほら!く らねー事言ってねえでとっとと探そうぜ」

その場に流れ始めた気まずさからか、明るい声で言ったエドワードは別の本を手に取る。
アルフォンスも再び本を開いて読み始めた。
ロイは静かに図書室を後にする。
エドワードのセリフが、胸の中でこだましていた。

『ある程度は目を瞑るつもりなんだ』

男であること以上に、自分との関係を選択してくれたエドワード。
ロイは新たな決意を胸に、執務室へ戻った。



数日後、たまたま人手が足りずエドワードが依 を受けた店の前の破裂した水道管を直した後、 告に来てみればロイ・マスタング大佐は執務室に猫一匹入れるなと言っている、と言われ困惑した。

「なにふざけてるん 」
「 告書は私が預かるわ。最近、仕事ばかりしてるのよ。今までの反省かしらね?なんにしても……私はとっても嬉しいわ」

ホークアイ中尉に心からの笑顔を向けられ、改めて日ごろの彼女の苦労を知る。

「エドワード君のおかげね、ありがとう」
「いや……そうなのかな。どういたしまして」

納得できないままエドワードは帰り、心の中の違和感がモヤモヤとしていた。




残業を終え21時、心身ともにやつれて疲労困憊したロイが自宅に帰ってくると、ドアの前に人影がうずくまっていた。
愛くるしい金髪の少年が、ドアに凭れてかすかな寝息をたてている。
起こさずに中に入るのは不可能 ったので、ロイは意を決してエドワードの肩を叩いた。

「鋼の、起きなさい。風邪をひいてしまうよ」

ぱちりと目を開けゆっくりと上体を起こしたエドワードは、目の前の待ち人を見つけて微笑ん 。

「大佐……」

それがあまりにもいとおしく、無意識に唇を合わせていた。
エドワードの未 寝ぼけている頭が、本能のまま快楽に身をゆ ねる。
開いた歯列の隙間からやわらかい舌を絡め捕り、官能的に吸い上げて刺激する。
夢中になっていると、酸 を求めてエドワードがロイの胸板を叩いた。

「もっ……もう少し、余裕を持たせろよ。そっちが大人 ろ……」

大きく息をしながらロイの胸元の軍服を掴んで、ささやかな抗議をする。
頬を染めて、ふ んの彼からは想像できないおそらく滅多にしないであろう仕草、例えば目の前の男の胸にもたれるなどしてみる。
生唾を飲み込んで我に返ったロイは、己の理性に危機を感じてそんなエドワードの肩を掴んで引き離し、立ち上がった。

「鋼の、せっかく が……家の中はひどく散らかっていてね。とても人があがれるような状態ではないの よ」
「べ、べつに上がらなくても……」

ロイの言いたいことを読めずま 頬を染めているエドワードに、ロイは苦痛を感じながらきっぱりと言った。

「今日はもう帰りなさい、鋼の。私も疲れたから早く寝ることにするよ。宿まで送ろう」

ぽん、と頭に置かれた子供扱いの手を掴み、エドワードは眉をひそめた。

「今日、なんかおかしいぞ大佐」

鋭い子供の勘に、ロイはドキリとする。

「そうかい?とくに変わらないが。アルフォンスも心配している ろう。さあ、」

その言葉はエドワードの簡単に切れる 忍袋の緒を切るのに十分 った。

「どういうこと よ!大佐。あんな……」

つかん ロイの手を力いっぱい握りしめ、少年は唇を震わせた。

「あんな……キス、しておいて、帰れとか……子供扱いするのもいい加減にしろよ」

黄金色の瞳が歪められ、ロイの心までも歪んだ。
恋人になって間もない。
歳の差という壁が、至る箇所で二人を邪魔する。

「それとも……なんでもねえ」

握りしめた手を投げるように離し、エドワードは背を向けた。

「あっ……待つんだ、エドワード!」

不安にかられたロイは、腕をつかんで引きとめる。
名前で呼ばれた為か、彼はおとなしく立ち止まった。

「なんだよ、離せっ」

追いかけた瞳は苦しみ泣きそうで、ロイはエドワードの両肩を掴んで言った。

「話してくれないか。君にそんな顔をさせたくないと、強く思っているんだ」

漆黒の瞳がまっすぐに見つめてくる。
エドワードはしばらく考えてから小さく息を吐いた。

「……やっぱり、オレじゃ足りないのか?」

どういう意味 、と尋ねようとして伏せられた目を見つめ、思い当った。
そして、自分が彼を手放さない為にとる行動は一つしかない。
決心が固まらないまま、ロイはエドワードを渋々家の中へ入れた。

「……とりあえず、入りたまえ」

おとなしく従うエドワードは、家の中に入ってロイのセリフとは違いちっとも散らかっていないことを知った。
寧ろ、必要最低限のそれも無表情な家具くらいしか無い殺風景な部屋で、人が住んでいるとは思えない部屋だ。
なぜ嘘をつくん と疑惑を募らせながら、リビングのソファに案内され落ち着かないまま向かい合わせに腰を下ろした。

「鋼の、よく聞いてくれ。私は君を……とても大切に思っているんだ」

胸の奥が大きく反応したが、エドワードは気づかないふりをしてなるべく平静を装った。
鈍感で純朴な少年のこと から、ま 本当の意味を理解していないだろう。
そう推察したロイは続けて口を開く。

「……愛しているんだ」

ロイの言葉に、エドワードは戸惑いながら先を待つ。
一体、なにが始まるのか見当もつかない。まさか別れ話につながるの ろうか。嫌な汗が流れる。

「だが、君が受け入れてくれるまで一途に、清らかに生きると決めたんだ。君を大切にしたい。だが……私は禁欲生活に慣れていないダメな男 。許してくれるかい」

申し訳なさそうに語る目の前の軍服を着た男は、猫背が頼りなげでいつもより小さく見える。
エドワードは一応つけた見当とは完全に別方向の話を耳にして、瞠目した。

「……は?イヤ、ちょっと待てよ。わけわかんねえ」

必死に整理しようと眉間に皺を作るエドワードに構わずロイは続ける。

「君が18歳になるまで、 張って待つつもり 。しかし過去の悪癖はそう簡単に治らないもの 。慣れるまでに時間がかかる。でも君の為なら我慢できる」

ロイは深い溜息をひとつ、情けなく吐きだす。
エドワードは苦笑いを浮かべた。

「はあ?なに勝手に言ってんだよ。そもそもだな、……さっき、帰れって言ったのは何なんだよ」

金色の瞳がわずかに揺れている。
痛いところを突かれた、とでもいうようにロイはさらに苦い顔をした。
ここは正直に白状したほうがよさそう 。

「それは、その……こういう慣れない精神状態で君のそばにいると、歯止めが効かなくなりそうでね。抑える自信がないから、居てもらっては困るの よ。本当は……勿論違うの が」

それを聞いてエドワードは納得する。
半ばあきれて溜息をつき、物事がやっと整理されたことに微笑ん 。
今度はロイが戸惑っている。

「オレの為、ってこと よな?大佐」

すっくと立ち上がり、着たまま った赤いコートを脱ぎ捨てて恋人の隣に座り直す。
寄り添ったつもりなのに、ロイはソファの端まで体を避けた。
その仕草がいかにも可笑しい。

「あ、ああ……。それ以外の何でもない」

しかも、この世の終わりだとでも言うような絶望的な表情を浮かべている。
最低な奴 と思われたくなくても、正直に言ったところは褒めてやるべきか。

「我慢なんか、しなくていいんじゃないの?」

ロイの肌を追って、エドワードはさらに身を寄せる。
自然と顔が近づくと、目を逸らされた。
たまりかねてロイはなにか企み始めた少年の体を押し戻す。

「鋼の、君は自分が何をやっているか分かっていない」
「いいや、わかってる。わかってないのはアンタのほうだよ」

隙をみて自分を押しやる男の手をつかみ、腕の中へ滑り込んで見上げた。

「さっきも言っただろ。あんなのしといて、子供扱いすんなって」

ロイの中で必死に格闘していた本能が、理性に強烈な右アッパーを食らわす。
気づけば目の前の愛しい少年を、しっかりと抱きしめていた。

「もう一回しろよ」

鼻と鼻が触れ合う。
ボロボロの理性が、今ならま 間に合う、と懇願している。
しかしロイはその声を無視してトドメをさした。
今度の口づけは 慮がちに始まり、エドワードの応対によって徐々に熱を帯びてゆく。
深く舌を絡めれば下の方でもっと深く欲する。
息を乱し、一瞬我に返った時には、エドワードのシャツを脱がして首筋に赤い痕をつけた後だった。
ロイは生唾を飲み込み、低い声で問う。

「鋼の、止めるなら今だぞ」

見つめた金色の瞳は、驚く程艶めいて光った。

「バカ大佐、いつでも止められるっつの」

そう言って右手で握り拳を作り、ロイのこめかみに優しく当てる。
エドワードはロイのシャツのボタンをはずし、鍛え上げられた胸板に口づけた。

「お得意のオトナってやつを教えてくれよ」
「……苦情は受け付けんからな」
「へいへい」

念のためクギをさそうとしたが、なんとも思わないのか無邪気に笑っている。
キスを交わしながら、立ち上がって寝室へ向かう。
階段の途中でエドワードはロイを追い越し、先にベッドへ乗りあげた。

「さっき、さみしかった」

暗闇の中、遅れて入ってきたロイを見上げて言う。
ナイトテーブルのランプだけ明りを点けて、ロイもベッドの上へ乗った。
スプリングが軋む。

「わるかった」

お詫びの気持ちと共にキスを体中に降らせる。
ズボンを脱がされながら、エドワードはつぶやいた。

「本当は、こんな日を待ってたん 」

胸の飾りを撫でると、まるで鼓動が聞こえるようだ。
エドワードは吐息を漏らし、くすぐったいと感想を述べた。
なめらかな太ももを撫でおろすと、指は冷たい金属に触れる。
本人には届かない感触でも、オートメイルの足に口づけた。
想いを感じてエドワードは嬉しそうに笑う。

「待ってた相手は私かい?」
「んなこと聞くかよ」

下着を脱がされて、居心地の悪いエドワードはアンタもはやく脱げ、不公平 とわめく。

「どうせ脱ぐの がね」

一糸まとわぬ姿になったところで、さあこれからが本番とばかりにロイは減らず口を叩く少年を組み敷く。
完全に成長した物と、ま 成長途中の物とは、明らかに別である。
エドワードは既に熱いロイ自身が直に肌に触れて、全身が粟立つのを感じた。

「そんなでけぇの、入らねえ」
「心配いらない。私もこの日を待っていたから、用意しておいた」

真っ赤なエドワードが言ったものは意図せずとも褒め言葉になってしまい、得意げに笑むロイはナイトテーブルの引き出しから包装用の赤いリボンがついたままの液体が入った小さなボトルを取り出した。

「持っていて」

エドワードがこれは何、と問う前に下半身に強烈な刺激が襲いかかる。

「うひゃぁあっ?!」

ま 若く細いが、男性の形で大きくなりかけているそれを、指で絡め取る。
優しくしごきあげると、みるみるうちに硬くなって張りつめた。

「あっ、大佐……なんか、変っ ……」
「名前で呼んで」

急におとなしくなったエドワードの頬に口づけて囁く。
少々、躊躇による沈黙が流れ、小さな声が聴こえた。

「……っ、んんっ、大佐……」

呼ばれた方は嬉しそうに目を細め、先ほど持たせた小ビンを開けてとろりとした液体を指に絡ませる。
そのまま蜜壺へゆっくり挿し入れると、エドワードの体が強張った。

「うっ、わ……っ、たいさ……!……ッハ、」

全身が震える。

「力を抜いて、エド」

異物感が快感へ変わってゆく。
同時に、刺激によってより硬度を増した前のほうにも愛撫を与えると、何分と経たずに少年は初めての絶頂へ達した。

「はぅっ……!……、大佐、おれ……」

己が放った精液が、ロイの体にも撥ねている。
様々な要 を含んだ困惑を浮かべて見上げると、ロイは切なげにうめいた。

「エド……すこし、痛いけど、すまない」

つぶやくように伝えて、ぐったりとしたエドワードの足を持ち上げ、濡れてほぐれた小さな穴に自身を宛がう。
エドワードは緊張したが、余裕の無い年上の男にしっかりと抱きついた。
かがみこんで、守るような体勢で熱い肉棒が突きささる。

「ァ……ーっ!」

かすれるような吐息を聞いて、ロイはゆっくりと腰を進める。
エドワードの指が肩に食い込むが、彼は右手を握りしめた。

「き……つい、な……」
「だからっ!……そんなの、入らな……っ」

穴の面積に対して圧倒的な質量にただ深く息をすることしかできず、エドワードは真っ赤になって喘い 。

「ふぅっ……は、ぁ……大佐っ……」
「深く……息を吐くん 」

ゆっくり、ロイは腰を揺らす。
すぐにでも爆発させて放ってしまいたい欲望を抱えながら耐えると、国軍大佐と言えど足が震えた。
徐々に自身がせまい穴に埋まっていくのを見て、例えようのない優越感にかられた。
窮屈そうな息子は、解放を求めて熱くたぎり別の生き物のように脈打っている。

「あっ……すげ…ぇっ……」

エドワードの金の瞳から、雫がこぼれ落ちる。
ロイはこの純情な少年に、たまらなくいとしさを感じた。

「もう……エド、おれは……」

苦しげな声を耳にして、エドワードはハッとする。しっかりとしがみついて、指と相手の指を絡ませた。

「いいよっ…… い、じょうぶ 」

ロイは苦笑混じりに軽く笑み、しかしそれはすぐ快楽による切なげな表情へ変化した。
直後、 りかねた下半身は強い律動を開始する。

「あぁッ!……く、はぁっ…!」

荒い呼吸が追い詰める。
さすがのロイも普段の冷静沈着はどこへやら、今は発情した獣さながらに性を求める餓えた男でしかない。

「エ、ドワー、ド……」

穿たれる度に高まる絶頂の感覚が、すべてを奪ってゆく。
名前を苦しげな呼吸の合間に囁かれ、本人は隅々まで赤く染まった。

「や、イヤ ……大佐っ、なんか、ハ……ああッ」

いつもよりトーンの高い声に、耳までも官能的になってしまったかのよう 。

「おれも……はッ、エド……!」

ぐちゃぐちゃに乱れたベッドの上で二人の体は絡み合う。
溶けてしまったかのようにひとつになり、愛情を貪る。
つながった 所からお互いを知る。

「あッ、あ、大佐ッ……!」

ビクン、とエドワードの体がつよく跳ねて、白い蜜が二人の腹を濡らした。

「く、うッ……!」

射精時の衝撃と激しく収縮する肛門に、ロイも絶頂へ達する。
体内に熱いものが噴射されて、エドワードは体を震わせた。

「ロイ……ッ」

歓びが唇を引き寄せる。
少年は男にすがるようにして抱きついて、男はゆっくりと余韻を味わいながら隣へ体を横たえた。
行為をするのは成人男性並み と思っていたが、最初からどれも本気になったことなんてなかった。
好意を抱いた女性もいた気がするが、そんなものはまやかし物であったと今再び気付く。

「あのさ……」

ま 落ち着ききれない呼吸で、腕の中のエドワードが言った。
聞いていると言うように、金糸の束に頬を寄せる。

「……ウィンリィが、赤ん坊を取りあげた事があって、オレ……何も出来なかったけど、その場に居たんだ。凄かった」

彼女が人間とは思えないような泣き叫ぶ小さな塊を抱いているのを見て、その姿表情を見て、感動と同時に言葉で表しきれない宇宙の何かが垣間見えた気がした。
偉大な、果てのない、想いに似たものに包まれていた。
真理の扉も似たような空気が流れている。
無に近いが、無ではない。

「アンタを好きになって、その……何だかよくわかんねぇモンに、背いてるのかなって思ったら、……」

ギュ、と握る手に力がこもる。
ロイは腕の中を見下ろして、安心させるような言葉を探した。
しかしエドワードは少し笑って、見下ろしてくる黒い眼を真っ直ぐに捉えた。
困ったような照れたような、優しい笑みを浮かべていた。

「でも。さっき、わかった」

溶けてしまうほどの想いが身体中に流れ込んできて、自分自身が大きなものの中に漂っているみたい った。
背徳ではなく神聖な、勿体ないくらいの光を与えられたように感じた。
ロイは少し驚いたあと、照れくさそうに笑ってエドワードに口づけた。

「おれもわかったよ」

口づけを返して、エドワードは恍惚に身を委ねる。
ま 、自分の中に燃えきらない熱が残っている。

「……エド」

ささやくように呼ぶロイに唇を求め、与えられれば舌を絡めた。
ロイは意外だったのか一瞬驚いたようだが、すぐに応え二人は深く沈ん 。

「んっ……ん、は……ッ」

熱を思い出した下半身は先ほどの名残を感じる。
神に背くなんて、誰が言い出したの ろう。
愛する気持ちは人類みな同じで、何の隔たりも持たないというのに。
友情も尊敬も形が違うが同じ愛である。
がこれは違う。恋愛という形はまた違う。
地位も性別も無い 所でふたりはひとつになる。

「ッ、エド……」
「たい、さ……ッ!」

吐息が交わりお互いを求めてさ迷う。
2時をさす時計の針以外は、何も邪魔するものはない。
合わせた唇は溶けていき、やっと手に入れたものを感じて微笑ん 。
りに落ちてもま 続く温もりは、朝になっても変わらないだろう。
殺風景な部屋が、初めて生きている気がした。






2011/08





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