<合鍵>
軍基地内の庭と呼べる広 に、一面の緑の中金色が転がっているのを見つけた。
「一人なんて珍しいな」
側に近寄りながら声をかけると、親指で指した方向に猫と遊ぶ弟が見えて頷く。
「どうしたん ?」
「ちょっと休憩」
初夏の爽やかな風が流れ、手入れをされた芝生は肌触りがいい。
「そういうアンタこそ何してんだよ」
ロイはエドワードの隣に腰を下ろし、木の幹に凭れて体を伸ばした。
毎日同じ姿勢ばかりの為、固まった骨があちこち鳴る。
「私も休憩している」
そう言って向けられた笑顔を一瞥し、エドワードは諦めたような息を小さく吐いた。
「きみは、元の体に戻れたらどこで何をするんだ?」
青空を見上げてロイが尋ねる。エドワードも青空を見上げた。
「うーん……やっぱ中央 よな。色々あって便利 し、 究とかもしやすい ろ」
「そうか。アルフォンスは一緒なのか?」
「アルはウィンリィんとこ戻るから……部屋でも借りて、一人暮らし な」
おぼろげながら将来設計を建てている少年に感心しつつ、ロイはふむ、と考えた。
「それなら、タダで住める家がある」
静かに言った言葉に、寝転がっていたエドワードはぱっと起きた。
金色の瞳がひ まりに照らされてきらめく。
「えっ!どこだ?」
「私の家 」
「絶対やだ!」
「なんで 」
即答に即答が重ねられる。
理由を訊かれてエドワードは目をそらした。
「四六時中アンタの……憎たらしい顔見て暮らすなんて耐えられねえ!」
再び空を見に横になれば、悲しげな溜息が風に混じって聞えた。
「失敬な奴 な、きみは。私は軍務でほとんど家を空けているから、寝に帰るようなもの よ。それなら日中誰が何をしようと好き勝手できる」
「そうか。……なら、悪くねえかもな」
思いなおしたようにエドワードが言うが、その声はどこかいやいやさを醸し出している。
「でもやっぱりアンタに借りを作るなんて……」
「これがカギ 。いつでも使いなさい」
見つめてくる黒い目は、適温を作り出すやわらかい陽光の所為か、どこかやさしげに見えた。
「え、もうくれるのかよ。不用心だな」
「盗られるような物はないしね」
驚いて、つい受け取ってしまった。
エドワードはしばらく小さな鈍い金色を見つめて考え、キーホルダーをチェーンに錬成してそれを首にかけた。
シャツの中に入れるその仕草が、とても大切そうに見えた。
エドワードは立ち上がり、背を向ける。
「……ありがとな」
ロイは見つめていた少年の言葉に少々驚いたが、歩き始めた小さな背中にすぐに呼びかけた。
「待っているよ」
エドワードはその優しい声に立ち止まったが、振り返らずに歩き出した。
帰る家を得た兄弟は、戦いに向けて強い光を目に灯す。
「さて、そろそろ戻らないとまずいな」
心地よい芝生を名残惜しみながら、ロイも立ち上がりエドワードが向かった先とは反対方向に歩き出した。
終
2011/09
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