<わずかな錬成>




深夜0時26分、ベッドで っていたエドワードは抱き寄せられて目を覚ました。こんな時間になるまで何をしていたのか、と問い詰めたかったが、余程疲れているとみえて問い詰める相手は既に寝息をたてていた。
少しやつれ気味の寝顔を見つめ、ため息をつく。
相手に毛布を引っ張り、自分からも身を寄せた。

「……らしくない」

自分らしくない考え 、と思った。
どこにも行かないで、自分だけのものでいてほしいと、強く望んだ。





翌日ロイが、執務室にて半分 りながら書類を確認していると、ドアがノックされた。入ってきたのは資料を返しに来たハボック少尉だ。

「そういえば、大佐は結婚しないんスか?」
「しないよ」

即答された内容に不満の声をあげ、ハボックは上司に詰め寄る。

「ええーっ!?この先も?ずっとっスか?」
「ああ」
「死ぬまで?」
「しつこいな、君も」

睡 不足のうえ書類をあと50枚程2時間で目を通さねばならないというのに。
ロイは聞こえるようにわざとため息をついたが、ハボックの耳には入らないようだ。

「まさか一生遊んで暮らすんスか?」
「まさか」

部下の思考回路に呆れてサインが曲がってしまった。ロイは書類から目を離さずに言う。

「く らん事を言ってないで早く仕事に戻りたまえ」「あ!分かりましたよ、結婚したくてもできない悲恋の運命に身を投じた訳っスね?」

やけに楽しそうに目を輝かせて言ったその台詞に上司はやっと顔をあげたが、その目は冷たい怒りが燃えていた。

「ハボック少尉、上官命令に従わねば炭にして暖炉に放りこむぞ」
「あ、ハイ!イエッサー!戻ります」

ロイの普段とは違う様子に、図星を当てたと内心喜ぶハボックは、灰にされる前に退室した。
ドアを開けると、すぐ目の前の廊下にエドワードが立っていた。
しかしドアを見つめていたのであろうその顔が、切なさと思春期の少年が持つ微妙な色気が混じったものが浮かんでいて、無意識に可愛いと思ってしまった。
エドワードはハボックに気づき、元気な笑顔を見せた。

「よう、大将」
「ハボック少尉、元気そうだな」
「ああ、おかげさまで。大将もな」

簡単な挨拶をして、エドワードは執務室へ入っていった。
自分の机に戻りながら、ハボックは考える。

「……、だよなぁ」



ロイは静かに入ってきたエドワードを見て、今日はいつもと違うことばかり起こる、睡 不足のせい ろうかなどと考えていたので、エドワードが目の前に来て軍服の飾りボタンを一個外しても何も言わなかった。
エドワードはそれを手のひらに収め、そのまま両手を合わせる。
錬成光が小さく閃き、収まった時には左手の薬指に飾り気のない指輪が嵌められていた。

「言っとくけどな。これは魔よけとか女よけとか、そーゆーもん 。深い意味は、一切ない」

一切、を強く強調して言うと、エドワードはロイの手を離した。
自由になった手がエドワードの体を抱き寄せ、ロイは接吻する。

「では……深い意味のあるヤツを楽しみにしていよう」

抱きしめられた方はなんとかして逃れようと、胸板をぐいぐい押す。

「なんだよそれ。大体、オレは図書室の閲覧許可もらいに来たんであって!」

こんな目に遭いに来たんじゃない、と抗議する金色の目はうつ向いてソファへ乱暴に腰を下ろした。
ロイは軽く笑い、引き出しから閲覧許可証を取り出す。

「ありがとう……」

サインした許可証を渡しに行き抱きしめる。
エドワードは真っ赤になって黙って抱きしめ返した。



後日、左手の薬指に光るものをハボックが見つけたあと、詳しく聞こうとして火事寸前の大騒ぎになったとか。
騒ぎは中尉の弾丸によって無事収められたと聞いている。







2011/09


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