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<いとしい肩の傷>



これは鋼の錬金術師と国軍大佐が、一線を越えた夜のおはなし。




じめじめと雨が降る夜だった。
エドワードはアルフォンスを連れて、セントラルの街を右往左往していた。
真夜中に近い時間、どこの宿も閉まっている。
こんな時間に営業しろと言う方が無茶だが、そういう無茶をする宿は胡散臭い雰囲気が濃く立ち上っていた。

「どうする?アル。やっぱ、さっきのあそこしかないよな」
「本気で言ってるの、兄さん!寝てる間に身ぐるみ剥がれて、売り飛ばされちゃうよ」
「んなこたねえって……つか、どっから覚えたんだそんな事」
「とにかく、どうにかしなくちゃ。野宿だけは却下、僕は錆びるし兄さんはどうせ痛くて寝れないだろ」
「こんな雨ぐらい……」

我慢していた機械鎧の付け根の痛みを指摘され、言葉に詰まる。
さっきの胡散臭いボロ宿しかないと途方に暮れる兄弟の横に、車が一台徐行で近づいてきた。

「鋼の、アルフォンス!こんな時間に、何をやっているんだ?」

ロイが車を止め、窓から顔を出した。
エドワードはげんなりして立ち止まる。

「ホント、何やってんだろな……」



いつものように軍基地内の図書室にいたはいいが、雨が降る外に出るのが億劫なこともあり、つい二人して読書に没頭してしまった。

「図書室が閉まって慌てて出たはいいが時すでに遅し、野宿よりはまだマシというレベルの宿しか開いていなかったというわけか」

まるで見ていたかのように事細かに説明されぐうの音も出ない。

「営業時間を見直す必要があるな。ところで、私の家なら狭いが君たちが寝るスペースくらいはあるぞ、濡れているばかりだからとりあえず乗りたまえ」
「いいんですか、大佐。甘えてしまって」

遠慮を台詞に含ませながら、アルフォンスはさっさと後部座席のドアを開ける。エドワードは展開についていけず、また行きたくない気持ちが足を止めていた。

「つーか、なんでこんな時間にいるんだよ?どうせ女の人と会ってたんだろ」
「会ってはいけないのか?」
「!」
「兄さん、いいから早く乗りなよ。追い剥ぎに遭いたいの?」

弟の言葉に、渋々助手席に乗り込む。
礼を言うアルフォンスとロイが笑いを混ぜながら話している間、始終無言で通した。
十数分でいつの間にか大佐の家に着いてしまった。
古すぎず新しくもなく、質素で汚れのない2LKである。

「くつろいでくれ、アルフォンス。鋼の、風呂はこっちだ」

これしかない、と謝られて渡されたアンダーシャツとリラックスしたパンツを眺めて、ため息をつきエドワードはシャワールームに入った。
雨を流してさっぱりした髪を拭きながらリビングへ行くと、アルフォンスとロイが談笑している。
エドワードを見るとロイは立ち上がり、アルフォンスにお休みと言って微笑む。床に座るアルフォンスの前にあるテーブルには、壁一面の書棚から抜いてきたのだろう本が積んであった。
ロイはエドワードを部屋へ案内する。
ドアを開けて現れたのは、彼の自室だ。
電気をつけると、軍服や細剣、数冊の本や書類が載った机と椅子、ちっぽけなクローゼット、そして硬そうなベッドが見えた。

「いや!そんな、オレべつに……」
「私は向こうの部屋のソファで寝るよ。それとも……一緒に寝て欲しいかい?」
「なっ……!」

妙な思考回路が勝手な妄想だとわかって、エドワードはわなないた。

「んなわけねえだろ!バカ!」

突き飛ばそうとして、何を間違ったのか、勢いで胸に飛び込んでしまった。
エドワードが離れようともがく前に、大きな腕が抱きしめる。

「おや……私はきみを、勘違いしていたようだ」
「え……?」

何を言いだすのかと、気になって視線を向ける。
ロイの黒い瞳が創りだす甘い雰囲気がどこからともなく流れはじめ、これはまずいとアンテナが教える。

「ちょ、ちょっ……」
「すまなかったね」

黒い瞳が近づいて、腕はしっかりと背を支え、心地よさに襲われて陶酔する。
ゆっくりと引きつけられる唇が

「っだぁあああ!」

重なる前に、エドワードはやっとの思いで両腕を伸ばし突いた。

「なんなんだよ!女の人と会ってたんだろ。それでこういうこと、するか!?」
「……何を言ってるんだ?」

いまいち噛みあわない思考に、エドワードはイライラする。
ロイはああ、と納得して苦笑した。

「“女の人”と会うのは、彼女が貴重な情報を集めてきてくれるからだよ。それをデートのふりをして、密かに集めているんだ」
「……どうだか」
「……いいか、エドワード」

名前を呼ばれて見やれば、真剣な光に緊張させられる。
ロイは先ほどとは違う大人の声音で言った。

「きみはなかなか気付いてくれないようだから、この際ハッキリ言わせてもらう。おれはきみがほしい。こんな風に思うのは……エド、きみに対してだけだ。それを疑うのはかまわないよ」

心臓が跳ね上がった。
そのまま跳ね続けて、動けなくなる。

「急かすつもりはない。きみがその気になるまで、待っている」

そっと頬を撫でられて、何を言うか必死に考えていると、ふいにドアが開いてアルフォンスが顔を出した。

「ちょっとお邪魔するよ。痴話喧嘩するなら、もっと静かにしてくれない?兄さん」
「は、はあ?痴話喧嘩?」
「すまない、アルフォンス。邪魔をしたのは私達だね。最も、私が悪者のようだが」
「どうかな。とにかく、何やってもいいから静かにしてよ。それと大佐、兄さんはわき腹が弱いので」
「ちょ、バカアルフォンス!余計なこと言うんじゃねえ!」
「そうか、ありがとう」

やりとりが終わり、ドアは閉められて再び密閉された。

「まったく、兄さんはもっと素直になればいいのに。……追い剥ぎコースのほうがよかったかな?」

エドワードはロイの思考を読んで、即座にベッドをまわり窓際まで離れた。
ロイはそれを見て、堪え切れずに笑いだす。

「ほんとにきみは……」
「な、なんだよ!来るな!」

ゆっくりと近づくロイに、エドワードは後退する。
両手を合わせ、錬成姿勢をとった。
だが、それはハッタリだと知っているロイは、立ち止まることなどしない。

「好きだよ、エドワード」
「う、うるさいっ。来るな!」
「おいで」

合わせた両手を、その上から包まれる。
これが実戦ならば危険すぎてあり得ない行為だが、これは実戦ではないしただのハッタリであり脅しにすぎない。
手のなかで力が抜かれるのを感じて、ロイは微笑んだ。

「……くそっ」

叩きつけるように抱きついて、悪態をつく。
その勢いでベッドに腰を落としたロイは、そんな少年をぎゅっと抱きしめた。
エドワードはベッドに座るロイに屈むような姿勢で、されるがままにしている。
ロイの肩に掴まって、この苦しい体勢をどうにかしようと思っていると、唇が近づいてきたので目を閉じた。

「ん、ん……」

無意識にベッドに膝を乗せて、体が安定しようとする。
ロイの手がわき腹を撫で、エドワードの身体が大きく跳ねた。

「っ!……てめ!何すんだ!」
「アルフォンスは嘘をつかない」

ずる賢い大人は笑みを浮かべて、完全にロイの膝に座る体勢になってしまった少年を逃がさぬよう強く抱きよせる。
冷えていた体に熱いものを感じて、悪ふざけより気になった。

「……女の人と、しないのかよ」
「どうしても仕方ないときだけだ。きみに会う前の話だがね。……こんなふうになるのは、きみのせいだ」

やけに甘く聞える声が身体に侵入してくる。
真実を知って、エドワードの心も柔らかくほぐされた。

「それって、その……オレと、したいって、こと……?」

金色の前髪が小刻みに揺れて、エドワードはゆっくりとロイを見た。
ロイの黒い眼は真っ直ぐに見つめ返す。
見るんじゃなかったと後悔する前に、一気に体が熱くなった。

「そうだ」

お互いに引かれてした二度目のキスは、次第に深くなる麻薬的な味がした。
止まらなくなって、エドワードが抵抗しないのを確かめながら、ロイは安いベッドに押し倒す。
好奇心に負けてもう一度触れたわき腹は、先程とは違う効果をもたらした。

「んっ……やめ、ろ」
「……したくない?」
「……ちがう。ワキ……」
「ごめんよ」

ロイはくすりと笑って、体を起こす。
本当に拒否だと捉えてしまったのかと焦るエドワードの前で、軍服が脱ぎ捨てられる。
久しぶりに目にした、少尉のむさくるしさとは違う男の筋肉に、自分でもわからない奥の部分が疼いた。
さらに男の象徴を見かけてしまって、少年は目をさ迷わせる。
困惑するエドワードの着ているもの、それはロイの普段使用するアンダーウェアなのだが、それを脱がすのは奇妙な感じがした。
荒くなった呼吸に戸惑いながら、自分が与える刺激に反応する少年に愛おしさを感じ、何度もキスをする。
エドワードは珍しく大人しい。

「は、……んっ」

水音と、息遣いだけが空間を支配している。
少年相手に何をやっているのだろうと自嘲しながらも、その意味を理解している大人であるからこそ、ロイは彼を抱き、撫でた。
エドワードは愛撫に反応する度に体が勝手に揺れることに戸惑いながら、付け根の痛みに耐えていた。
ふたりは唇と心の奥、そして全てでつながった。

「……ぅ、く……っ」
「エド、……」

何も言えなくなって、代わりに口づけを交わす。
痛みしか感じないこの行為に、嫌悪でなく感動を覚えて泣きそうになる。
辛そうに見える歪んだ顔を見てロイが口を開きかけたが、エドワードが先に口を開いた。

「ごめ、ん……」

荒い呼吸に合わせて平たい胸が上下する。
ロイは眉を寄せて、小さく首を横に振った。
ベッドに投げ出されたままのエドワードの右手を取り、自分の肩にかけさせる。

「あ、ダメだ……アンタの、肩が」
「いいんだ。……このほうが、いい」

直後に続けられた刺激は不思議なことに、快楽に変わっていった。
右手も左足も痛みを忘れるほど、強い大きなものに包まれる。
そのなかでこの男のことを考えようとしたが、エドワードは意識を手放した。

翌朝、ベッドのちいさな赤黒い染みを見てロイは焦ったが、それは自分の肩がベッドに触れた時に少しついただけのことだった。
弟は気まずい空気の中、清々しい朝の顔で朝食を作り、その兄は付け根とは違う痛みに顔をしかめ、肩の傷に絆創膏を貼ってもらった彼の恋人は、彼の弟に「兄に怒られて傷をつけさせるような事はするな」と説教されて、大人しくそれを聞いていた。






2011/09




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FA Fanfiction / ROYED

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