<やっぱりできない>
ある夜のこと 。
中央の街は冷たい雨に濡れ、やけに静か った。
エドワード・エルリックはホテルの一室で、一世一代の決意を抱え、うち震えていた。
障害者のための成功例も沢山ある。
準備も万端に整えた。
深呼吸をして、両手を合わせた直後、青い錬成光が少年を包む。
光がおさまり、エドワードは五体満足でどうやら成功したらしいことに、胸をなでおろした。
その胸が、ゆるやかなカーブを描き、もはや少年ではないことを示しているのを見て、再び鼓動が速くなる。
股間もきれいにさっぱりして、妙な不安感と共にエドワードは部屋を飛び出した。
仕事が片付きやっと帰ってもいいと優秀な補佐官が首を縦に振ってくれた時、急に電話が鳴って、ロイ・マスタングは顔をしかめた。
「はい、マスタング」
「あッ……」
相手はどうやら、仕事ではないらしい。
途端に顔がほころんで、横で待っていた中尉もそれを見て軽く息を吐くと共に執務室を去って行く。
「どうした、鋼の?電話なんて珍しいな」
エドワードは黙っている。
最初の一声をなんというか迷っていたの が、ロイの声が聞えた途端、 がまっしろになり何も言えなくなってしまった。
えて、間違い電話 ということにして切ろうかと思った時には、これもタイミング悪く自分の声 とバレてしまった。
嬉しくもあるの が、今は些細なことに喜べる心境ではなかった。
破裂しそう 。
「あ、あああ、あのさ……大佐、いま、いつものホテルにいるんだけど」
「ああ、」
「あの……」
滅多にどもったりしない少年が言いづらそうにしているのを聞いて、これはただ事ではないと察知したロイは、あらぬ方向へキレの良い を働かせる。
「エドワード、何も言うな。今から行くから待っていろ」
「へ?あ、いや、その……」
違う、そうじゃなくて、と言う前に電話は切られてしまった。
結果としては自分から望んだことではあるの が、避けられない運命を作ってしまった自分を今は呪いたい気分でエドワードはベッドに倒れ込んだ。
人体錬成について調べていたとき、錬金術の本の中にその方法が載っているのを見つけたのが、そもそもの始まりだった。
医学方面の高度な錬成技術で、性別を変えるというもの 。
許可されている錬金術師はそんなに多くはいない。
性転換障害ならともかく、こんなことに使う術師は自分くらい ろう、と自暴自棄にも似た気分を味わっていると、ドアのノック音が耳に届いた。
緊張に震える手でドアを開ける、いや開けようとしたができそうにない。
「開いてるぜ」
仕方なく腕組みをして仁王立ちに構え、外にいる相手に向かって言った。
すぐにドアは開いた。
ロイは兄弟のうちどちらかが怪我をした とか、誘拐 とか、何か面倒に巻き込まれたのではないかと心配ばかりしていた。
「鋼の!大丈夫か?」
から、まずエドワードの無事を見て安心した。
「そんなに慌てなくても……何ともねえよ」
ぶっきらぼうに答えて部屋の中心に戻るエドワードは、三編みをほどいているからか別人に見える。
体つきも、どこか変わった。
ロイはエドワードの態度と違和感に眉をひそめ、部屋に入ってドアを閉めた。
「心配したんだ。さっきの電話は尋常ではなかったぞ。一体、何があった?」
濡れたジャケットを脱いでコートフックにかけ、ロイはエドワードに問う。
洗面所からフェイスタオルを持ってきたエドワードは、黙ってタオルをロイの顔に押し付けた。
「何をする。今夜の君は、ちょっとおかしい……」
タオルを退けて目に入ったのは、シャツを脱ぎ捨てたエドワードの姿 。
ロイは口を半開きにしたまま、タオルを落とした。
「大佐、オレじ、じじ実は……女なんだ」
惜しげもなく晒される乳房は、14の少女に似つかわしく膨らんでいる。
桃色に色づいた乳首が飾られており、ロイは思わず生唾を飲み込んだ。
エドワードがタオルを拾い上げ、改めてロイの髪にかけた。
「もし、その……大佐がよければ、オレ、……大佐になら、あげてもいいかなって」
濡れた黒い髪を優しい手つきで拭きながら、エドワードは言う。
恥じらいながら俯く様子は、恋する人間の象徴のようで、彼が嘘の下手な事もよくわかっている。
鼻血の出そうな勢いで、ロイは首を振った。
「いかん!いかんよ、君!もっと自分を大切にしたまえ!」
叫ぶように言うロイはエドワードの二の腕をつい掴んでしまい、その柔らかさと細さに動揺した。
二の腕のすぐ隣には当然ながら、むき出しにされたふっくらと実ったおっぱいがあり、ロイの手は震え目はどこを見るべきかさ迷った。
「だから!」
その手を剥がし、大胆にもそのおっぱいに当てるエドワードは、自然と上目遣いに、ロイを見つめる。
「オレの初めて……大佐にならあげてもいいかなって思っちゃったりなんかしちゃったりして……」
常ならば、反抗心を露にしながらも芯に強い志を湛える金の瞳は、今は恥をしのび潤んでいる。
この気持ちを伝えたくても、色々なものが邪魔をして、今まで し続けてきた。
放置されていた想いはやがて、まさに爆発と名をつけていいように暴れだし、手に えなくなるの 。
もし失敗して嫌われでもしたら、仕事のことも考えなければならない。
それほどまでに、少年は欲しかった。
もう、あとには戻れない。
「大佐は、オレが欲しくない?」
ぴったりと寄り添う華奢な体は、ロイが気づかないうちに育てていた想いを遂に爆発させた。
「エドワード……!」
少年、いや今は少女 が、彼が危険を冒してまで望ん キスは、甘く濃厚で、切なかった。
ま 、油断するわけにはいかない。
自ら誘ったの から優位に立ち続けるつもりでいたが、経験には敵わない。
理性を失くした大人は容赦なく口唇を犯し、長い舌で恋心を絡めとり、ハリのあるおっぱいを揉みしだく。
二人はベッドに沈ん 。
「あ、やっ……ひゃあっ」
聞いたことのない声が上がり、聞いた方も本人も驚いた。
エドワードが何を言えばいいか困惑していると、ロイが微笑ん 。
「可愛いよ」
普段ならここで憎まれ口の1つでも飛び出すところ が、今夜はひたすら大人しい少女でいようと決めていた。
直に、 直に、と頭の中で連呼する。
しかしそんな思いを知ってか知らずか、ロイはそれ以上触れてこなくなった。
エドワードは不安に駆られ、上体を起こして想い人を見つめる。
彼は目を閉じて、それから黒い目で真っ直ぐに見つめ返した。
「やっぱり、出来ないよ」
予想はしたが聞きたくなかった言葉を聞いて、エドワードは必死に考えを巡らせた。
「あ、や、やっぱもうちょいボインの方が良かったかな?オレの体じゃ、これが限界で……」
「エドワード」
遮るように、ロイが呼ぶ。
パニックになりそうで、圧迫された胸部で吐き気がした。
しかしその目をしっかり見たら、不安にならなくてもいいということ けは、感じることができた。
「よくわかった。でも、違うん 」
ロイは金色の髪を撫で、細い肩にしがみついていたシャツを引っ張って体を してやった。
「おれは少年であるきみを愛しているんだ、エドワード」
信じられない、といったふうに口をパクパクさせ、見開いた目線をさ迷わせるエドワードは、次第に俯いていき真っ赤になった。
額に口付けを落とすロイは、少年が涙をこぼしたのに気づく。
言葉を探していると、エドワードが言った。
「オレ、何にも判ってなかった。また、また……」
呟くように言って握った拳を、一回り大きく節くれ った手がそっと重なる。
「大丈夫 。おれも似たようなもの から」
あのまま己の欲に流され真実ではないエドワードを抱いたら、この純朴な少年は二度と救えなかっただろう。 自分もまた然りである。
「エドワード、きみを抱きたい」
耳元で囁くと、エドワードはごしごしと目を擦り、両手を祈るように合わせた。
光の中から現れたのは、見慣れた愛しい少年の体。
「だったら、もっと早く言え!」
つり上がった金色にはま うっすら涙が浮かんでいて、それは恐らく新しい別の涙だろうと察しながらロイは笑った。
「エドワード、愛しているよ」
その笑顔はまさか軍人 とは思えないほど優しさに満ちていて、憎たらしいほど男前だった。
エドワードは唐突に理解する。
「大佐……オレも」
少年が欲していたものが、やっと手に入った。
何度も執拗に攻められて数回達したあとであっても、そこは狭くロイを受け入れるには慣れが必要だった。
しかしエドワードは叫ばずに苦痛に耐え、元の平らに戻った胸を上下させて喘い 。
「っは……んァ、大佐ぁっ……」
「エド……動くぞ」
「っくぅぅ……!」
鋼の手に男の手が重ねられ、しっかりと指が合わさる。
慎重な律動に煽られ、次第に 速する行為は、もう痛みを生んではいなかった。
エドワードは全身を痙攣させて達し、自分を抱く男をしがみつくように抱き める。
手に入れたこの大切なものを、二度と離さないかのように。
終
2011/09
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