※やぶ鬼さん(24)が乱入してきます
※やぶ鬼さん(24)と不動(14)、鬼道くん(14)のキスシーンあり
※やぶ鬼さん(24)が不動(14)に手コキ(なんて贅沢な…)←
※挿入はふどきど(14)だけです
※なんでも許せる人向け







<ゴージャスサンドイッチ>





 十五歳の誕生日、不動は一人で過ごしていた。能力を認められて、FFI終了後も帝国学園で学べるのはいいが、人生というのはそうトントン拍子には運ばない。
 今まで誕生日などというものは、大して深く考えずに過ごしてきた。友達も無関心が多かったし、わざわざ祝い合うのは面倒くさいどころか、女子みたいで格好悪いという風潮すらあった。
 だが鬼道に会って、心境も変化してきた。今年は自分への褒美として、鬼道と一日、めいっぱい楽しく過ごしたい。そう思っていたのだが、大失敗した。あろうことか昨日の夜、喧嘩をしてしまったのだ。
きっかけは些細なこと。

――なあ、明日ヒマ?
――ヒマ、というわけではないが……なんだ?
――よっし、そんならオレとどっか行こうぜ?
――構わないが……

 鬼道には伝えていなかったが、自分の誕生日に好きな相手と好きなことをできるということが嬉しくてたまらず、いつもは髪の毛一本まで気にする鬼道の心情を探ることがおろそかになっていた。電話越しだったから余計に、気付くのが遅かったのだ。

――何だと?

どうして言い合いになったのか詳細を忘れるほど、くだらないやりとりをした。

――お前はいつもそうやって自分のことばかりだな
――はあ? そりゃこっちの台詞だぜ
――何だと。随分な言いぐさだな!
――よォく言うよ! なんだかんだオレに頼ってるクセに
――それはこっちの台詞だ!

 これはまずいと思った直後に、電話は切れていた。襲ってくるのは、試合の緊張以上のパニック。身を守ろうとして、不動の心は勝手に防御システムを作動させる。大丈夫だ、どうせアイツのことだから、次に会ったときちょっと謝ればすぐに機嫌を直してくれる。よくウワサで聞く"面倒な女"じゃあるまいし、貢ぐのは逆効果だ。今すぐ電話をかけ直したら、きっと余計に怒られるか、こじれる。いいやきっと出ない。




 そんなわけで、電話を切って寝て、今朝起きて史上最高に惨めな誕生日を迎え、自己嫌悪に陥っていた。外は快晴、今日は日曜日。良い条件が揃えば揃うほど、反比例する存在の重さを思い知らされる。
 朝食をとる気にもならず、寮の自室で転がっていた。メールを一通送ればいいだけなのに。
 やさぐれて、二度寝しようかとまで思い始めた、その時。ドアベルが鳴って、玄関まですっ飛んでいった。てっきり、鬼道だと思ったのだ。

「惨めだな、クズ」

 そこに立っていたのは、確かに鬼道有人だったが、不動が知っている恋人ではなかった。
 まず年齢が違う。すらりとたくましい脚が伸びた立派な大人で、体のラインにぴったりフィットしたスーツを纏い、近未来風の丸いサングラスを掛けている。ドレッドはハーフアップにして下半分をほどき、肩に薄茶色のすそが波打っていた。

「アンタは……」

 彼はニタァと凶悪な微笑を浮かべた。

「異世界の鬼道有人だ。有人と呼べ」

 緑のサングラスを外すと、鋭い眼光を放つ赤い眼が現れる。

「喜べ、チビクズ。オレがキサマの誕生日を祝ってやろう」
「はっ……?」

 何で知っているんだと訊きたいのだが、唇は塞がれてしまった。有人のキスはそのイメージに反してとろけるように甘く、文字通り腰を抜かしそうになった。足を踏ん張っていると下半身に熱が集中する。不動の好きなところを全部知っているようで、止める間もなく体は反応を示し始める。

「従順でよろしい」

 膨らんだ股間を見て満足げに微笑み、有人は手を伸ばす。集中してきたばかりの熱をそっと握りこまれ、一気に取り乱した。

「ちょ、ま、待てよ、オレは……」

 慌てて体を引こうにも、もう片方の手でしっかり抱きかかえられている。
 その時、ドアベルが再び鳴り響いた。文字通り飛び上がるほど驚いた不動をよそに、有人は愛撫を続けようとする。

「おい……っ、放せってば!」

 小声でじたばたともがくと、面倒臭そうに有人は手を離した。早く身なりを整えて、出迎えなければ。しかし目の前の厄介者はどうする?

「……不動? おれだ」

 最悪の予想が当たって、不動は青ざめた。

「いるんだろう……開けてくれないか。謝りに来たんだ……」

 鬼道のうなだれた可愛い声が、扉越しに聞こえてくるが、こうなっては喧嘩も何もない。なんとか、中を見せずに外へ出るしかないと思った。外で話をして、鬼道に帰ってもらおうと、軽い考えでドアを開ける。

「よ、よお……」

 今だ、外へ出てすぐにドアを閉めればいい。しかしそのドアをがっしと掴んで、より強い力でこじ開け、不動の腰を抱き寄せる手があった。
 鬼道はあまりに突飛な登場人物を見て小さく口を開けたまま少し固まっていたが、そのあまりにも超次元的な光景だということが逆に理性を取り戻す助けになったらしい、すぐにゴーグルの奥でまばたきして我を取り戻した。

「なぜここにいるんだ……と聞きたいところだが、大体答えは分かっている」

 不機嫌に睨む目の奥では、素早く思考回路が巡っているのだろう。不動の頭の上で、鬼道によく似ているがやや低い、軋みのある声が、正反対の愉しげな抑揚で答えた。

「フン、やはり基本は同じか。少しはまともな思考回路のようだな」

 鬼道の眉がつり上がる。有人が腰を触るので避けようとして、逃げたが逃げ切れず、また捕まる。そのうち鬼道が中に入ってドアを閉めた。

「だが不動からは離れてもらおうか」

 鬼道はかなり怒っている。だが有人は取り合わない。狭いワンルーム、捕まった不動はベッドに突き飛ばされた。

「嫉妬しているようだぞ、良かったな」
「良かったなって……」
「離れろと言っただろう!?」

 不動が抵抗することに疲れてきたのをいいことに、有人は頬に口付ける。鬼道が叫ぶのを見て、面白そうに笑った。

「コイツと付き合っているのか?」

 有人に聞かれて、ゴーグルを外した鬼道が不動を見る。そんなこと分かっているくせに、有人はわざと聞いているのだ。

「……そうだ」

 その赤い目は怒りを帯びて、美しい超常現象のように輝いている。

「妙な空気だな。どうせ、このチビクズが悪いんだろう」
「そうだ、そいつが悪い」
「それなら、俺にくれたって問題ないだろう」

 不動の顎を指先でくすぐる有人は、鬼道を困らせて喜んでいるようにも見える。

「えっ、ちょ……ヒトをペットかオモチャかなんかみてーに言うなよ。チビじゃねーし」

 漂いだした怪しげな空気を必死に止めようとしながら、不動は有人にされるがままでいた。この異次元の鬼道有人は、怒らせると怖そうな気がした。
 恋人の鬼道の様子はというと、腕組みをして最高に不機嫌なオーラを漂わせている。不動は思い出したように、束縛のゆるくなっていた腕をすり抜けて有人から離れた。

「……お前にも恋人がいるんじゃないのか」
「あんなでかいクズのことはどうでもいい」

 そっちでも色々あったかのような翳りが一瞬見え、不動は冷や汗をかいた。実際、そうなのだろう。もう一人の自分もきっと同じような性格だ、毎日のように喧嘩をして、時々こうして離れるのだろう。それで時空間旅行までして異世界を巻き込むのはどうかと思うが。
 顔を上げた有人は、ニヤリと笑みを浮かべた。

「付き合っていると言ったな。それなら試練を与えよう。試練とは、今から俺がすることにどこまで耐えられるか、だ」
「勝負か。望むところだ」

 不動が口を挟む前に、頭に血が上っている鬼道が答える。

「いや、違う。勝負ではない。……お前は、このチビクズに罰を望んでいるんだろう」
「……ああ、そうだ」
「それなら、オレがこいつを拷問しているのを見物するのが一番良い位置だぞ」

 鬼道が怪訝な顔をしたが、不動は呆然とするしかない。いま「ごうもん」と言ったか?

「そこに座って見ていろ」

 鬼道は、勉強机の前にあった椅子に腰掛けた。

「ご、ごうもんって……何する気だよ?」
「ナニだ。まぁそんなにビビるな、今のオレはそこそこ機嫌が良い」

 そこそこってどの程度だよ、と不動はツッコミたくなったが、今は黙っておいたほうがよさそうだ。

「まずは両手を封じる」
「マジかよ……」
「二対一だ、諦めろ」

 ニヤリと笑って、有人は肩越しに鬼道を振り返る。鬼道はばつの悪そうな顔で俯いたが、不動からはすぐに見えなくなってしまった。

「背中よりも目の前で縛った方が、キサマには効果的だ」

 ポケットからテーピング用の白いテープを取り出して、不動の両手首にぐるぐると巻き付ける。粘着力はガムテープより弱いはずだが、何重にも巻かれると手は動かせなくなった。
 ここまでする必要があるのかと怪訝な顔をしている鬼道を見ると、目を逸らされる。なぜかと思ったら、上着を脱いだ有人が覆い被さって来た。股間を撫で上げた手が、不動のジャージのズボンの中へ滑り込む。

「うわっちょ、やめろって……」
「なんだ、もう元気になってきているじゃないか? 相変わらず現金なヤツだ」

 下着ごとズボンを下ろされ、妙に羞恥に襲われる。相手が恋人ではないし、その鬼道は少し離れたところからこの状況を見ているからだろう。晒されて心細そうなムスコは哀れに期待している。それを見て、有人がフッと笑った。

「今見ると可愛いな」

 唇の横を、有人の舌がべろりと舐め上げる。

「お前の恋人は、こんなこと、して来ないだろう……」
「ッ……!」

 耳たぶをそっと歯で挟んだあと、舌を耳の曲線に沿わせて舐め上げる。さすがに鬼道が口を挟んだ。

「おい……! コイツへの罰じゃないのか」
「ああ、コイツへの罰だが。どうせお前にも責任があるのだろう」
「……っ。それではやっぱり、勝負じゃないか……」
「だから、それは違うと言っている。仮に勝負だとしたら、お前は既に負けているぞ」
「なんだと……?」

 すでに喧嘩しているというのに、鬼道をこれ以上怒らせたくないと不動は思った。
 しかし有人にペニスを握られ、思わず腰を引いてしまう。

「うわっ、マジで……」

 鬼道は黙って見ているのかどうか、顔を向けるのがコワイ。
 有人の手は勢いがあるのに、優しくしごかれて、まさに天国を垣間見ているようだ。

「っは、ぁ……」
「随分と良さそうだな」
「し、しょうがねーだろ……! 生理反応だよ、ッあ」
「そうか? この状況、キサマも楽しんでいるのだろう」

 鬼道が止めないということは、よっぽど怒っているか、見捨てられたか、相手が一応異世界の自分だから大目に見てくれているかのどれかだ。確かに、不動も相手が有人でなければ、ここまで許しはしない。むしろ鬼道が怒っていなければ、もっと積極的にこの状況を楽しんで利用していると思う。

「クズのくせに、楽しんでいては罰にならんな」
「ぃあッ、う……うそだろ、っ……!」

 あわや絶頂、という寸前で有人は手を離し、ペニスの根元をどこからか取り出した細いリボンで縛った。徐々にリボンの両端を引っ張り、締めていく。

「っくぁぁ……!!」

 キュッと締められた不動のペニスは先端からだらだらとカウパー液をこぼし、今にも破裂しそうなほど張り詰めてふるえている。それを見て、鬼道は生唾を呑み込んだ。

「次はお前だ」
「なに……っ!?」

 有人は椅子に座っていた鬼道をベッドへ引っ張り倒し、捕らえた獲物を翻弄するかのように、抵抗する隙も与えず服を脱がしていく。鬼道が何か言おうとしたが、キスで塞がれてしまった。

「むぐっ……!? うっ……ふぅ……っ」

 目の前で恋人が他の唇に翻弄されるのを見るのは初めてだが、相手が有人なので、なんだか妙な気分だ。少し興奮する状況かもしれない。しかしやはり、自分が翻弄したいと思っている不動にとっては、憤りが先に来る。

「オイ、何してンだよ」
「キサマがいかにヘタクソなやり方か、教えてやっている」

 ニヤリと笑う有人の下で、とろんとした目の鬼道が呼吸を荒くしている。

「ってことは、アンタはどこで教わったんだ? まさか影山じゃねェだろ」
「おい不動、なんてことを――」
「こんなときに、趣味の悪いことを言うな」

 二人にドン引きされた。不動は慌てて、本当に言いたかったことを口にする。

「じゃあ異次元にも、アンタにお似合いのオレがいるとか?」
「……そろそろ、口が利けないようにしてやろう」

 この流れで答えないってことは、もしかして図星かもしれない。だがそれ以上聞き出す前に、不動は有人にペニスを掴まれ、素早くしごかれる。

「あぁ! 鬼道! きどぉおっ」

 射精したいと願ったその時、根元を縛っていたリボンがほどかれた。

「んぉぉぉっっっ」
「うぁ!」

 ぶちまけた、という表現が一番適切だろう。鬼道は顔まで飛んだ液体を指で拭い、目を開けた。その赤い目と合って、不動は我に返った。

「あ……わりィ……」

 鬼道が、文句を言うよりもキスを求めた。一度、二度と、唇を重ねて応えると、鬼道が小さめの声で言う。

「いいんだ……本当は、おれがしてやりたかったが……。今日は、不動の誕生日だからな……」

 あんまり嬉しくて、不動は夢中で可愛い恋人の唇を貪った。鬼道も同じ強さで応え、二人は乱れて一つになっていく。

「元サヤに納まって結構なことだ」
「も、元サヤってか、べつに別れたわけじゃねーし……」

 ギャラリーがいることをうっかり忘れるほど夢中になっていた。有人がつまらなさ半分、温かさ半分といった雰囲気でベッドの上にあぐらを組んで眺めている。彼はおもむろに近付くと鬼道の下着を脱がし、足を広げさせた。
 半勃ちになったピンク色のペニスとふぐりの下に、よく熟れてヒクヒクと誘う小さな蜜壺が口を開けていた。

「ンっ……」
「不動、お待ちかねの尻穴だぞ。思うままに突っ込め」

 恥ずかしそうに身じろぎする鬼道を、有人が押さえ込んでいる。その体勢のまま、手を伸ばして、不動の手首に巻いたテープをちぎった。

「ふ、ふどう、待っ……」
「わりィ、待てねェよ……」

 先程の熱いキスと、あまりにもふしだらな恋人の様子に再び硬くなったペニスを、ひと思いに鬼道のアナルへ挿し込む。待ち望んだ快感が全身を駆け抜けていく。

「んぁあっ……!!」
「フッ……こっちも相当、お待ちかねだったようだな」

 まだギャラリーがいるが、もう気にならないほど快感の虜になってしまっている。
 有人はサッカーの手ほどきどころか、ペンキの塗り方でも教えるかのように言った。

「おい、そんなガサツな抱き方ではダメだ。最初はもっとゆっくり動かせ」

 何とか必死に理性を手繰り寄せ、腰の動きをコントロールしようと試みる。

「ひ、あ……、いぁ……っ」
「キサマ、よくこんなのと付き合っていられるな?」
「うるせぇよ……」

 言葉にならない鬼道の代わりに、不動は答える。
 呼吸を深くすると、少しスピードを落とすことができた。

「ぁ……っん、く、ぅ……っ」
「そろそろいいぞ、徐々に強くしろ」
「まっ、待て……っ」

 有人の指示に、鬼道が焦る。だが制止の言葉を聞いて止める前に、不動は腰を一気に押し進めていた。

「ぅぁあッ」

 その鬼道があげた、いつもより高い、少し苦しそうな、詰まった声が何ともいえず愛おしくて、不動は思わず腰を抱く手に力を込めた。

「あッ、ああッ、ふどッ、ぅぁッ」

 ラストスパート。キスをして、ギャラリーがいることも忘れて。

「ひぁぁああああっっっ!!!」
「うぁぁ……っっっ!!!」

 余韻に浸りながら、しがみついてくる鬼道の手の力加減とか、体温を感じていると、側であぐらを組んだ膝に頬杖をついた有人が、やれやれとばかりに溜息をついた。

「少しは理解したか? チビクズ。せいぜい仲良くやるんだな」
「あ……、ありがとよ……」

 消え入りそうな声でだが、自然と感謝の言葉が口から出てきた。それにしても、どこから来て、どこへ行くのか?
 有人について根掘り葉掘り聞こうと、質問を頭の中で整理しているとき、ドアが勝手に開いて、どことなく聞き覚えのある声がした。

「ここか――ったく。探したぜ、有人」
「……!」
「え、……オレ? 異次元の……」
「あれが……?」

 モサモサした髪を肩まで伸ばした大人の明王は、マイペースな足の運びでさほど急いだ様子を見せていないように思えたが、近付くと素早く有人の腕を捕らえ、ベッドの上に膝立ちになった彼を抱き寄せて熱烈に口付けた。

「ぅン……んフ、ハむゥ……ッ、ふンんッ……」

 有人も拒否せず、強く深く、合わさった二人の口の中で、舌がうごめき絡まりあっているのを想像させられ、その証拠に目の前で唇の端から唾液が溢れる。このまま本番を始めるんじゃないだろうかと思わせる淫らさで、何分経ったか、実際より遥かに長い時間を感じさせたキスをやっと止めて、明王は目を開けた。

「勝手にどっか行くンじゃねーよ」
「いつどこへ行こうが俺の勝手だ」
「まだ話が終わってねーだろうが」
「話などしていたのか。キサマに会話という概念があったとはな」
「今もしてンだろうがよ」

 初っ端から今にも噛み付きそうな喋り方だが、本当に怒っているならとっくにもっと強く、怒鳴り散らしたりしているのではないかと思わせる何かがあった。そう、よく観察していると、有人への視線がやけに熱い。顔を突き合わせたまま、やりとりは乱暴だが、黙っていれば単にいちゃついているだけにしか見えないと思う。

「いーから、帰ンぞ」
「お前が来たら四人でするのかと思ったが」
「ナニその意外そうな口ぶり。はっら立つ」
「まぁ、コドモには刺激が強すぎるか」

 有人の言葉に、不動は隣の鬼道が体を硬くしたのを感じたが、明王は不機嫌そうに苦笑を浮かべた。どうやら、有人の前では、しばらく良い子でいるつもりらしい。別れの言葉もなくドアが閉まって、いつの間にか二人は居なくなっていた。

「い、行ってしまった……」
「はー、よかった」

 ギロリと睨まれて、理不尽さに慌ててフォローする。

「いや、違ぇって。いなくなってくれてホッとしたんだよ」
「……わかっている」

 フォローしたつもりが、かえって逆効果になったかもしれない。

「鬼道くんって結構、嫉妬深いのな」
「なっ……そんなことは、ない」

 ――そうでもなさそうだ。

「そーお? さっきの、ムキになっちゃってときとか、可愛かったぜ?」
「なっ……おれに、可愛いなどと……言って、喜ぶと思っているのか?」
「喜ばないから言うんじゃん? 鬼道くんカワイイ~」
「やめろ」

 怒りと羞恥で真っ赤になった鬼道の肩を抱き寄せ、少しトーンを落とした声で言う。

「可愛い、イコール、ヤりてえ、だから。オレの場合」

 ジト目で見られても、今は照れ隠しだと分かる。

「なんだその最低なクズ発言は……」
「別に? 可愛いのは鬼道くんだけだし」
「そ、……それで許されると思ってるのか?」

 さっきの、有人のキスを拒まなかったことについて言われている気がした。誕生日だし大目に見てもらいたいところだ。
 それに鬼道だって、大人の明王に同じことをされたら、どうするんだ? そう聞きたくなったが、今はやめておく。

「今から許してもらうぜ」

 鬼道の首から顎を撫でると、少しくすぐったそうにしながらも、口元がやわらかくなった。
 大切なものをどうやって大事にするか学んだことが、今日の一番のプレゼント。
 異次元とはいえ、明王の姿が未来の自分の姿の一つだと思うと、妙にやる気が出てきた。鬼道に相応しい人間になってやる……そんな誓いをこめて、不動はキスをした。








2017/04

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©2011 Koibiya/Kasui Hiduki