<タイミング>




 FFIが終わってから、オレは奴に対して振りかざしていた激しい嫉妬や憎悪がすっかり薄くなったのを感じていた。
 友情なんて言葉では済まない感情を相手も少なからず持っている、そんなことは察しが良く頭脳明晰なお互いにはバレバレで、さらにそれがバレバレなことも明らかだった。つまり俗に言う「両想いの恋人同士」になったのはあっという間だったが、告白的なことは何一つしていないしお互いほとんど何も言わずに推測だけで判断していて、バレバレだから仕方ないのだが、とにかくこんなのは不本意だった。
 まあオレは告白とかいうこっぱずかしいイベントは誰が相手でも元から嫌いだったし、バカ正直に気持ちを伝えるのは文字通り馬鹿のすることだと思っている。それに、幸い二人ともロマンチストじゃない。

 けれどもこの微妙な空気で付き合って三ヶ月、確固たる確証が一つも無いことに気付いてからは、少し不安が過りだした。FFIが終わり鬼道が雷門へ残ると聞いて、真夜中のライオコット島の林のはずれで何とかキスだけはしておいた。前日夜から計画して計算して準備した上で格好よく襲ったつもりだったのに、ものすごく幼稚でアホっぽいキスだった。馬鹿のするみたいな。計画の八割は海の藻屑となった。舌も入れることができなかったし。

 だから余計に不安になる。もし、自分の勘違いだったら?

 ああ、だからみんな言葉にするのだ、例え花火のように一瞬で終わる関係だったとしても。途中まで一緒に下校したり、くだらないことで笑ったり、自分達だけにしか通じない高度な冗談を言い合ったり、そんなことを話しながらボールを蹴ったりしてるだけでは、仲の良い友達と変わらない。でもキスをしたじゃないかと心の反対側が叫ぶが、あんなの夢だったかもしれない。現実だとしても、奴の気まぐれということも考えられる。

 ともかくオレは、しばらく様子を見てから何か行動を起こそうと計画を練り始めた。クリスマスはリア充で過ごしたい。そうすればオレも勝ち組というわけだ。別にクリスマスとかはどうだっていいけど、せっかく恋人(たぶん)がいるのにまだ童貞とかおかしくね?
 いや、実際はまだ十四才、中学二年生が終わろうとしているだけで、童貞で当たり前だ。しかしかの帝国学園だというのに、クラスにこっそりエロ本を持ってくる奴はいるし、オレみたいな勉強嫌いの思春期真っ盛りはそういうコトに興味津々で仕方ない。
 成績は奴に見せびらかすために何とかトップを取ってやったけど、気付けば頭の中はピンク色の妄想で埋め尽くされている。自分が気持ち悪いが、仕方ないのだ。精液はガンガン製造されているし、どんなものも目覚めたばかりとか始まったばかりというのは一番勢いがあるものだ。

 だからといって、緊張に口から胃が出そうになりながらコンビニで余計なスナックで誤魔化しつつコンドームを購入した直後に、当の本人にばったり会うなんて運が良すぎる。

「――不動」

 ゴーグル越しの赤い瞳は何を思ったかなかなか表情が見抜けないが、恐ろしく観察力が鋭い奴のことだ、スナックの袋の横に透けて見える薄紫色の小さな箱が何であるか理解し、この状況が何を意味するかいくつかの選択肢を並べただろう。オレは絶望した。

「よお」

 もっとマシな挨拶は無いのかと罵ったが、逆に普段通りでよかったかもしれない。鬼道は眉一つ動かさないが、まさか気付いていないのだろうか。ここで隠したりしたら余計に怪しいと思ったので、コンビニのビニール袋を然り気無く持つよう気を遣った。鬼道は少し口元を微笑ませる。

「ちょうど、お前に用があった」

 ははあ、それでこんな住宅街を一人で歩いているわけですか。このコンビニはオレの借りている帝国の学生寮まで、歩いて数分である。近所はリスクが高かったが、ぼーっとした若い男の店員がいるからここにした。様子を見て顔見知りに会わなそうだったから今日決行したわけだが、結果的に大失敗だ。オレ様も大したことない。
 言いそびれてたけど今日は土曜、朝練という名の玉遊びはとっくに終わって日も暮れた午後の四時。寒いのに何の用があってこんなところまで連絡もせずにのこのこ来たのだろう。

「あー……何? オレんち来ンの」
「ああ」

 即答された。これはやはり、完全にバレていると考えたほうが良さそうだ。こういう時は開き直って、状況を最大限活かすしかない。オレはちょっとだけ肩をすくめて寮の方向へ歩きだした。ささっと自然に追い付いてすぐ隣を歩く鬼道は、雷門の青い学ランを完璧に着こなしている。

「今日さぁ、みんな動き悪かったな」
「一段と寒くなって来たからな。ランニングを一番最初に持ってきたらどうだ?」
「いいけど、メッチャ疲れんぞ」
「血行が良くなればその後の動きも良くなる」
「準備ちゃんとすりゃ平気だろ。来月には慣れてるよ」

 普段どおりに会話を進ませながら、オレは挙動不審にならないように気を付けた。帝国の学生寮は誰かさんの養父が出資を惜しまないおかげで豪華な造りだ。ほとんど一般向けマンションに見える。こいつや誰かがオレの部屋に来ることは数回あったけれど、今日はオレのメンタルが違う。言わば、鬼道は自分から捕われに来たようなものだ。やれやれ、罠を仕掛ける手間が省けて助かったぜ。……こんな風に強がっておかないと、心臓が吹っ飛びそうで、正直怖い。
 これで訪問は三回目くらいだったか、間取りも知った鬼道は「失礼する」とか何とか言って靴を脱ぎ勝手に上がる。別にいいけど、二人きりは初めてだ。

「片付いているな」
「ぁあ? そりゃ……オレさま綺麗好きだからねぇ」

 苦しい。誰か来た時は薄暗い部屋に電気をつけてとりあえず飲み物を出すんだと学んでいたので、冷蔵庫を開けてスポーツドリンク――牛乳を出す勇気はなかったし茶を淹れるムードでもない――を取り出した。
 鬼道は通学用バッグと共にリビングのカーペットに腰を下ろす。ソファは無いが、日本の家らしくフローリングに一部カーペットが敷いてあり、ローテーブルが置かれている。
 そこにペットボトルを置くと、「ありがとう」と呟くように言って早速少し飲んだ。やはり緊張しているらしい。
 どこから攻めてやろうか、考えながら間を取っていると、鬼道が先に口を開いた。

「やはりお前も同じことを考えていたんだろう」
「は、何のハナシ?」

 隣に座るなんてわざとらしすぎる。テーブルを挟んだ向かい側に膝を立てて座りながら言うと、なんと奴の手がすっと例の奇抜なゴーグルに当てられ、もう片手が頭の後ろからゴムバンドを外すために弧を描いた。激レア姿の鬼道クンは例のおっさん関連でないと拝めないのかもしれないと思っていたオレは、心臓が過労死するんじゃないかという勢いだったので少し慌てた。

「とぼけても無駄だ。さっき何を買ったか知っているんだぞ」
「備えあれば憂いなしって言うじゃん」
「宝の持ち腐れとも言う」

 目線をどうしたらいいか分からない。激レアが出現してるのに、堪能しなくてどうする?
 オレの心を見透かしたかのような、ため息が聞こえた。先手を打たなければ。

「風呂入った?」

 オレはバカか。

「ああ。家で」

 わざわざ家へ寄ってからここへ来たというのか。雷門中のサッカー部部室には、シャワールームなんて大層なものは無い。

「オレ、軽くシャワー浴びてくるわ」

 携帯電話を取り出した鬼道が喉の奥で返事をする。オレは立ち上がって、着替えを取りに行くついでにさっき買ったものを気づかれないよう封を開けて、ポケットへ忍ばせた。準備OK。あとはオレの度胸と采配が運命を決める。
 こんなに急いでシャワーを浴びたのは初めてだ。もちろん、大事なトコはしっかり洗った。しっかりと落ち着いた歩き方を意識しながらリビングへ戻ると、携帯電話を持ったまま沈黙していた。明らかに携帯電話なんか見ていないところをみると、やはりガチガチに緊張しているらしい。

「は、早かったな」

 オレに気がつくと、鬼道は顔を上げて腕を組んだ。強がっちゃって。

「いつもこんなもんだぜ」

 すでに乾き始めているモヒカンを軽くいじると、鬼道は納得したのか小さく頷いた。
 オレはTシャツにジャージで、今度は隣と言うか近くに腰を下ろす。

「脱いで待ってんのかと思ったのに」
「はぁ!? そんなわけないだろう!」

 ちょっと逃げられた。追い討ちをかけてみる。

「脱げよ」
「お前こそ何故そんな格好なんだ」
「だって寒いし」

 さらに何かを言いかけて呆れ、結局口を閉じた鬼道に近づく。上着を掴むと、赤い瞳が慌てて少し後退りした。ここまで来てやっぱりダメとか、冗談キツいぜ。

「ちょっと待て! 先にすることがあるだろう!」
「なんだよ……?」

 そうか。確かに、ドラマやアニメではまずキスをして油断させる。脱がせていいかどうか確認している節もある。

「鬼道クン……」

 ごくりと、生唾を呑んだ。目の前で瞼が閉じて、長い睫毛がよく見える。いや、よく見えるのは瞼が閉じたからじゃなく、至近距離で見ているからか……。
 数回、付けては離れを繰り返し、オレは瑞々しい唇とほんの微かに頬にかかる鬼道の息を感じながら、同じように出来るだけ静かに呼吸しつつゆっくり舌を伸ばした。掴んだ鬼道の肩がピクッとしたが、拒絶はされない。むしろ、鬼道の口内ではやわらかい舌が待っていた。

「ん……、ふ……はぁ」

 滑らかな舌同士の絡み合いが起こす刺激は脳天が蕩けそうで、いつやめていいか時間感覚がなくなる。が、グイグイ押してつい倒してしまったので、強制終了となった。すかさずオレは倒れた鬼道に覆い被さる。やる気満々で濃厚なチューを再開しようとしたら、全力で胸を押し返された。

「ちょっと待て! ここでやるのか?」

 ストップ再び。起き上がった鬼道は、つい出てしまう癖なのだろう、ささっと乱れた制服を直す。はだけたままの方がエロかったのに、勿体ない。

「どうする?」

 にやりと笑んでみせたがそれはスルーされた。堅物め。

「どうするって普通、ベッドで……だろう」

 立ち上がって、鬼道はやっと上着を脱いだ。あとはシャツとズボンと、下着だけ。オレは正直どこでもいいと思ってたが、機嫌を損ねでもしたら一貫の終わりなので、黙って寝室へ向かった。後からついてくる鬼道の足音を確認しつつ。

「狭いからさぁ……」

 ドアを開けて シングルベッドの前でオレは足を止める。振り向くと隣で立ち止まった鬼道が控えめにだが寄り添ってきて、思わず固まった。えっ、なにコレ?

「不動……」

 だからそれ、いい加減にやめて欲しい。目線ですべてを語ろうとするなっての。思わずキスをした。そうか、こういうことをするのに理由は要らないんだ。
 とりあえず肌寒いので、シャツはボタンを外すだけにしておいた。ベッドに座らせて、ここでやっと計画その1、乳首を攻めることができる。

「うわっ……何をする!」

 ビクついてるわりには逃げないし拒否らない。ということは続けていいわけだ。オレは小さな突起を舌でこねくり回し、口に含んで軽く吸ってみた。

「ぅあ……っ!」

 何だ、今の声。戦慄さえ覚えるオレの肩を掴んで、鬼道は抑えきれなかった声で喘いだ。呼吸が徐々に荒くなってきている。二人とも。

「もういい……っ」

 そう言いながら両手を然り気無くオレの背中へ回してくる。離れられないんですけど。

「こっち?」

 オレがこんなに興奮してるんだ、あんなに喘いでた鬼道が興奮しないはずはない。股間に手を当てるとバタついて足を閉じようとしたが、それはただの条件反射だ。手を当てたままでいると、吐息と共に足は再び開かれた。

「ん……ッ」

 布二枚を介しても、その体温と硬さは分かる。軽く揉んで、ベルトを外す。チャックのつまみを探していると、オレのへそを撫でるようにしてジャージの中に手が入ってきた。ゾクゾクする。オレが熱いせいで、鬼道の手がやや冷たく感じる。ちょうど、相手の急所も手中に納めた。

「んッ、はぁ……っ」

 向かい合わせと隣同士の中間みたいな位置で、お互いのモノを擦り合う。何度かキスをしてた気がするが、イく時はもう何も考えられなかった。
 呼吸が落ち着いてくると同時に意識が定まってくる。奴のものでドロドロになった指先を舐めたら、鬼道が横から顔を近付けてきた。ちゅ、と応えて目を合わせる。

「まだ続きがあるんだろ?」

 ニヤニヤしてるオレはたぶんすごく気持ち悪いと思うが、生憎止められない。だがそれを聞いた鬼道もニヤリと笑って見せたから、恐らく同じような心境なのだろう。

「フッ……」

 やはりなとか、勿論だとか、当然だとか、やる気満々だなとか言いたげに黙って笑った。そのまま押し倒して……そう、何故かオレが押し倒された。

「オイオイ、待てよ。逆だろ」
「何? どう考えてもお前が下だろう」

 どう考えてもそうはならない。オレは頭をぶつけたりしないように気をつけつつ、勢い良く起き上がった。

「ふざけんなよォ、ドエムのくせに」
「ドエムじゃない! いいから黙って尻を出せ!」

 あーあ、ムキになっちゃって。笑いが抑えられない。

「ハハハ、どうかなァ」

 オレは身を捩る鬼道を捕まえて、胸の突起を探った。吐息が漏れるのを聞いて、確信する。

「やめろ! っ……」

 逃げようとしたのをグイッと引き戻して、鬼道の後ろから抱き込む格好になる。要は座ったまま羽交い絞めにしているわけだ。それにしてもすべすべの肌だ。

「ふぁ……っ!」
「ほら、どこがドエムじゃないんだよ? オレなんかにこんなことされて悦んでるくせに」
「悦んでなんかいない……っ」

 おいおい、待て待て。こいつはやばい。何がやばいって、オレはこういう、服従されることに弱い。しかもこいつの場合は嫌々なふりをしていて、つまりツンデレなわけだ。堪らない。耳たぶを甘咬みして首筋を舐めると、腕の中の体が震えた。

「くっ……何でおれがお前なんかに!」

 ムカつくのも分からないではない。そのまま前へ押せば、鬼道はベッドへ両腕を着いて、オレはその背に覆い被さる。

「でも期待してんだろ?」

 インターネットで履歴にビクつきながらちょっと調べたところでは、女が受ける痛みよりも強いらしい。そりゃそうだ、そもそも穴の面積が違う。こいつのことだから万全に準備してきたんだろうと踏んで、体を後ろへずらすと共にズボンと下着を脱がせ、そのまま尻を舐めた。やわらかい。

「なっ……お前、正気か!? よせ!」

 問答無用。抵抗される前に舌を伸ばす。

「ひぁあ……ッ!」

 女みたいな高い声が聞こえた。ついでに袋にも舌を伸ばしておく。身じろいで腰が揺れた。

「ふど……も、いいから……」

 オレだってさっきから我慢してる。未知の領域にぶち込みたくて仕方ない。ジャージのポケットから取り出したものを開封する間、鬼道は寝転んだまま膝をすりあわせ、腹で腕を交差させている。さっきまでのドヤ顔も鬼道らしくて良かったが、今の姿はとても天才ゲームメーカー様とは思えない。
 コンドームのジェルが助けてくれたが、鬼道が顔をしかめるのでオレは思わず動きを止めた。怪我をした時みたいな、ものすごい苦しそうな顔で吐息を漏らされシーツを握りしめるのを見れば、そりゃビビりもする。人生で初めて、今までただ退屈にぶら下がってるままだったナニを有効的に使おうとしてるし、受け身の痛みがどれくらいなのかオレは感じない。しかし恥を含んだ苦悶の表情はクセになりそうだ。

「なあ……」
「……っ、だ、大丈夫だ」

 大きく息を吐いて、鬼道はオレの肩に手をかけた。殊勝ってこういうことか。気高い目尻の涙をそっと親指で拭ってやると、何故かそっと笑われた。

「んだよ」
「いや……意外と優しいんだな」

 ――は?
 両耳から入ってきたそれはオレの心を通過し、中途半端で不安がっていた股間を包み込んだ。真っ赤になって顔を逸らすしかないオレを、鬼道の手が撫でる。地肌丸出しの後頭部に、奴の少し冷たい手が当てられた。
 くそ、なんでこいつはこんなに可愛いんだ、男のくせに。こんな時に突然デレないでもらいたい。オレの理性だかなんだかが粉々に爆発しそうだ。まさか、オレを手懐けようとしてるのか。だとしても嬉しい。仮に騙されてるとしても構わないくらい、嬉しい。
 全部が入って、オレは腰を動かす。意識しなくても本能が知っていたようだった。

「うぁ……ああっ……」

 鬼道の上げる声は、鼻から抜けたような聞いたことのない高い声だ。前後するよりは上に突き上げるようにして、ゆっくりしているのにもういっぱいいっぱいな感じがする。

「んあ、ふど……うっ、ふぅ……」

 肩に掛けられた手に力がこもる。さぞかし、自分の口から飛び出す声は屈辱的なことだろう。

「ハッ、はぁ……鬼道……」
「ア、んんッ……ふど、……はぁっ!」

 鬼道の反応が変わってきた。もっと気持ちよくなればいいかと思って、片手で太ももを支え、もう片手で鬼道自身を掴んだ。

「んああ! やめっ……う、ぁ、はァ……ッ!」

 鬼道の細い腰が、オレの動きに合わせて揺れる。絶頂はすぐだった。

「ぅあ……ふど、ッく……う……!」

 ビクンビクンと大きく体を震わせて、鬼道は腹に精液を吐き出す。オレはまだもう少し、と思った矢先にギュウギュウ締め付けられ、成す術もなくこちらも絶頂へ達した。

「っう……! きどうクン……」

 走った後みたいに上がっていた息が少しずつ収まり、満足したオレの分身を引き抜いてコンドームを外す。こうして見ると、少ないように思える。ああそうか、二回目だからか。
 やや放心状態になって座ると、鬼道が起き上がった。こういう時は何を言えばいいんだ? すげぇ気まずいじゃねーか。つうか全裸は寒い。オレはいつの間にか脱いでいたジャージの上着を拾って羽織った。

「不動」

 ああ、話しかけてくれて助かった。だけど目は合わせてこない。

「いや、何でもない……」

 何だよ。言いかけてやめんなよ、と開きかけた口に唇が迫ってくる。鬼道クンからキスなんて。オレはすっかりのぼせ上がって、思いっきり舌を絡め返した。

「んぅ……っふ、はぁ……っ」

 目の前で、赤い瞳が見つめている。堪らなくなって、顔を背けた。そう、こいつのことが可愛いと思い始めてから、オレの中で変化が起こったんだ。

「念のため言っておくが……おれは、正義感が強くモラルのある人間だ。嫌いな奴とこんなことはしないからな」

 ――はい?
 思わず、喋った本人をまじまじと見た。目を逸らして口は横に引き結んでいる。薄暗い部屋は真っ暗な夜になりつつあるが、それでも分かるほど赤くなって。

「オレもそうだぜ。好きになったのはお前だけ」

 もういいや、という、半ば自暴自棄というか、どこか諦めのついたような状態でオレは言った。別にもう、こいつとゲーム以外で争うことが急にくだらなくなったと言うか。ゲームメイクだって、お互いを尊重してリスペクトし合ったっていいわけだ。敵も味方も関係ないって言ったのはオレたちのキャプテンじゃなかったか?

「は……」

 しかし鬼道は驚いていた。そして何故か、憤慨された。

「おれが先に言うはずだったのに!」
「何が? ……あ」

 そういうことか。オレは思いもよらないうちに天才ゲームメーカー様から一本取ってやったわけだ。真っ赤な顔を覗き込んで、オレを見るように頬の下に手を添える。

「別に、一生言わなくてもいいぜ? 相手の心が読めるくらいじゃないと、天才ゲームメーカーの裏には立てねぇからなァ」

 オレのニヤニヤした顔にイラついたのか、ただ恥ずかしかっただけなのか、鬼道はシャツのボタンを閉めてベッドを降りた。下着を探して身に付ける後ろ姿を眺める。これがオトナの余韻ってやつか。

「言葉にしなければ、意味がない」
「じゃあ、言いなよ。さぁどうぞ、いつでもいいぜ」

 目を閉じて両手を開くと、その手をはたかれた。

「この流れで言ったらバカだろう! 信憑性もない!」

 帰るのかと思いきや、オレの隣に戻ってきた。ベッドに並んで腰掛けて、沈黙が訪れる。でもコンビニの前で会った時、オレんちに上がった時とは、空気がぜんぜん違う。これがリア充か、とオレは触れる肩の感触に得る優越感と親密さを噛み締めた。

「――腹が減ったな」
「うち、今日親子丼」
「寂しい一人飯に付き合ってやってもいいぞ」
「鬼道クンがどぉーしても!って言うんなら、仕方ないねぇ」

 肩で小突かれるが、鬼道は笑っている。このあと順番にシャワーを浴びて、親子丼の作り方や材料で揉めて結局味比べ勝負に発展するのだが、それはまた別の話。









2014/02


戻る
©2011 Koibiya/Kasui Hiduki