<W司令塔のクリスマス大作戦>




☆鬼道有人のクリスマス大作戦

 第一段階:さりげなくターゲットに「今何時だ?」と聞く。腕時計を持っていなかったら持っていないことを、腕時計を持っていたら何か欠点を見つける。

 第二段階:ターゲットの好きそうなデザインや色、スタイルを把握した上で、突然プレゼントしても自然に見えるような時計を探し、普段から身に付けておく。

 第三段階:ターゲットを家に呼び、「そういえばお前、この間腕時計を持ってないとか言っていただろう。中古でよければおれのがいくつか余っているんだが、使わないか?」とさりげなく会話に混ぜる。

 第四段階:自分の持っている上品なスタイルの時計を数本持ってきた中に(一応、これらも選ばれても構わないものにしておく。人間はいつどうなるか分からない)、先日自宅用にと購入しておいたターゲット用の時計を混ぜておき、「これなんかどうだ?」と見せる。

 最終段階:「ふーん?こんなの持ってたんだ?」となればあとひと押し。状況にもよるが、「気分で買ったものだ、全然着けてない」に加え、「別に要らないならいいが」または「おれより似合うんじゃないか?」辺りでシュートをキメる。「着けてみろ」を言えればもっとよい。渋ったり遠慮したりしたら、「クリスマスぐらい、甘えておけ」とでも言えばOK。

 ポイントは柔軟に対応すること。そしてゴールだけを見て焦ったり突っ走ったりしないようにすること。万が一ターゲットが興味を示さないようであれば、早い段階で作戦を変更するべし。




☆不動明王のクリスマス大作戦

 第一段階:プレゼント慣れしてる奴には(女ならいくらやっても物で釣れるらしいが)別の手を使う。 まず一緒にめしを食い、ターゲットの好きなものと嫌いなものを把握する。家に上がれるようになったら隙を見てさりげなく軽食を作っておく。

 第二段階:ある日「お前、飯は?」と聞かれたらどちらかの家で自炊を提案してみる。このときは気合いを入れずに、あくまでも「たまにはいいんじゃね?」くらいの雰囲気にしておく。盛り上がらない。

 第三段階:当日、恐らく人混みと世間体を気にして外出をいやがるはずなので、自然に自炊を提案する。「オレが材料買ってくから掃除でもして待ってろよ」とでも言って、先手を打っておく。ここで友達を呼ばれたら親密度が足りない証拠だ。来年に期待。

 第四段階:大体の料理を自宅で作り、タッパーあるいは鍋ごと持っていき驚かせる。「時間短縮」とでも言っておけばなおイイ。三ツ星シェフにバカにされるような普通の家庭で出るレベルのごちそうをしっかり作る。機嫌を損ねないよう酒は任せると良い。

 最終段階:ここでもテンションが上がらないよう気を付けなければいけない。完璧な料理にケチをつけたり、「おでんにすりゃ良かったなー」と冗談を混ぜる。「クリスマスにおでんは無いだろう」「いいじゃん。じゃあいつ食うもんなの?晦日?」その後「年末年始は帰省するのか?」などと聞かれれば成功。

 補足:もしターゲットが手ぶらでこっちの家に来ると言う場合は、半分以上オレの手料理に期待していると考えていいため、心置きなく準備できる。 ちなみに、オレは気にしたことがないが世間では恋人たちにとって特別な日らしいので、ベッドで使える新しい小技か道具を習得しておくとよい。



 風丸「あいつら、いつ見ても争ってるようにしか見えないんだが……疲れないのか?」
 ヒロト「何言ってるんだい。ごらんよ、あの顔。次はどうやって驚かせようか楽しくて楽しくて仕方ないって顔じゃないか?勝ち負けは関係ないのさ」





《その後?》



 雷門サッカー部で行われた、蹴って食べてのクリスマスパーティーに顔を出したあと、大人は飲める場所へ移動した。代表メンバーがほとんど揃っている中に懐かしい顔もあり、適当に付き合って気付けばいい時間になっていた。解散して駅へ向かったオレは、暗い夜道に気配を感じて振り返る。
 ロングコートに暗い赤のマフラーをした鬼道が速足で向かってくる。奴の家まではここからタクシーで五分程度。追い付いた鬼道は再び歩き出したオレの横に並び、オレは駅とは別方向の大通りへ進路を変える。

「さっみぃ」
「ああ」

 ポケットに手を突っ込んだままで、白い吐息が混ざった。
 鬼道の家も冷えていて、オイルヒーターのある寝室へこもった。手をかざしてしゃがむ大人二人はどこか滑稽だ。雷門中で鬼道が赤い服を着て登場し、白い袋から菓子の入った小さな袋を配る姿を思い出して笑みが浮かんだ。

「何をニヤニヤしている」
「おまえ、サンタ似合うね。髪型のせい?」
「そうか?」
「オレにはプレゼント無いの?」

 挑発的な色を混ぜると、鬼道は膝をつきオイルヒーターを回り込んで、しゃがんだままのオレに近付いてきた。不敵な笑みを湛え、わざとらしいほど優しい声がささやく。

「良い子にしていたか?」

 危うくアホ面で固まりそうなところをこらえる。

「もちろん」
「信じがたいな」

 酒の力もあるのかもしれないが、こいつは正体がなくなるほど酔うタイプじゃない。やわらかい少し乾燥した唇がオレにキスをして、ゆっくりと離れた。随分と優しい感触に、深いものを感じてオレは微笑む。

「もっとくれよ」

 コートに手を掛けて、オレは鬼道が満足そうに笑うのを見た。




 メリークリスマス♪




2013/12

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