<バスルームでの秘めごと>



★ご注意★
※剃毛プレイ
※流血(微量)
※かっこいい二人はいません。変態しかいません







 蓋をしたバスタブの縁に座らされ、慎重すぎるくらい丁寧に専用カミソリを当てられていく。
 よくそんなに顔を近付けられるなと思いながら、羞恥と感覚にひたすら耐える。いつだったかの延長試合の時に、これほどの忍耐が必要な事があるのかと辟易したものだが、今回はそれ以上が求められている気がした。
 指が際どいところに当てられ、ふーっと息を吐かれ、肌がじわりと反応してしまう。

「もちっと足上げて」

 自分で膝の裏を支えているのを、少し上げる。このような羞恥プレイがあったとは。鬼道は額に手を宛てて小さく呻いた。




 発端は効率化を図るための思い付きだった。脇や髭はもちろん、薄いが、放っておくとむさ苦しくなってくる胸毛は自分で処理できる。だが、アンダーヘアはそうはいかない。何しろ見えないのだ。レーザーを予約しなければと思いつつ、月日が経ってしまった。下着がごわごわして見えるのは気に入らない。
 何とかしたいのだが、クリームは一度使ってかぶれたので、剃るしかないのだ。いつも時間が無い時は、行きつけの脱毛サロンから若い男のエステティシャンを呼んでケアさせていたが、手先が器用な恋人がいることを失念していた。
 いつだったか朝起きた時、洗面所で自分の髭を剃っている眠そうな不動の手つきを見て、その時は(器用だな)としか思わなかったのだが、それを思い出して天才的な考えを閃いた気分になった。
 それに、不動にやらせれば恥ずかしくないと思ったのだ。奴なら冷静に、恋人の陰毛を剃ってくれそうな気もした。




 確かに、不動は驚くほど冷静で器用に剃ってくれた。細かいところまで、丁寧に。
 頼んだ当初は「はぁ? きめぇ」と苦笑を浮かべたが、すぐに「でもま、お前ならやってやってもいいぜ」と言ってくれた。今から思えばこの時、いたずらっぽい笑みに変わったことをもう少し深刻に考えるべきだった。
 つまり頼み事をクリアすれば、そのままご褒美も貰え、頼み事をクリアすることによって下準備も済むだろうという流れが、既に不動には分かっていたのだ。珍しく鬼道は自分の考えが甘かったことを思い知った。不動ほど貪欲な人間はいないというのに。

「いつもこんなんなの?」

 サロンへ時々通っていることを知っている不動は、嘲るような声で言う。

「いや、違うんだ……いつもは、少々の恥以外は何も感じないんだが、」
「ほんとに~?」

 慌てているのはそもそもこの状況自体に動揺しているからなのだが、分かっているのかいないのか、不動は疑うような目で顔色を窺うふりをする。頭に来るが、焦りも感じる。

「本当だっ! 大体、顔も好みじゃないし……」
「へぇ~。じゃあ、お前好みの顔って?」

 うっかり口を滑らせたが、この危機は傷ではなく、良いようにされてしまう前触れだ。
 剃り終わって、不動が温かいシャワーで洗い流す。さっぱりして気持ちがいい。シャワーの音に紛れてしまうほど小さな声で答えた。

「今……目の前にいるようなのだ……」

 しっかり聞こえたらしい、不動はニヤリと笑ってシャワーを止める。

「何だよ、ご機嫌取り?」
「いや、そんなんじゃな……っ」

 体の奥が疼く。

「んじゃ、相手がオレだから、コーフンしてんの?」

 ああ、もう、たまらない。

「だから……そう、言ってるだろう……!」
「フーン……」

 精一杯甘えた声でねだったつもりだったのだが、明らかに失敗した。案の定、不動は面白そうに目を細めて、風呂場の床に膝をつく。

「なーんかちょっとむかついたし、処理代いただかねェとなァ」

 体を引こうにも遅く、片足を肩に乗せ、しっかりと掴まれている。

「敏感になってそー」
「まっ……」

 不動の温かい舌が剃ったところを舐める。性器ではなく、そのすぐ横の肌、骨に沿って出来る窪みを軟らかい舌が撫で上げ、ゾクゾクと全身が粟立った。

「はぁぁ……ッ」

 思わず漏れた声と共に、先端から蜜が零れる。不動が笑った。

「変態だね、お前」

 ククッと喉の奥を鳴らしながら、楽しげな表情の裏に、焼けつくような欲情を隠している。
 掃除の行き届いたバスルームは、オートロックの高級マンションに相応しい広さがあって気に入っているが、その分声も響く。
 期待に息が荒くなっていくのを自覚しながら、顔を隠そうとするのをやめて、足を閉じようとするのもやめた。

「喜んで手入れをする方が、よっぽど変態じゃないのか?」

 立ち上がった不動に続いて足を伸ばし、二人は磁石のように自然な動きでお互いを抱き合う。

「お前ね、礼くらい言ったら?」
「ああ、ありがとう。……だが、お前が欲しいのはこうじゃないだろう?」

 足をやや開いて股間を不動の太股の付け根に擦り付ける。余計な毛が無いので、肌と肌が密に触れ合う。
 不動が苛立ちを込めて唇を奪った。舌を絡め取られそうな激しいキス、温かい肌に触れた陰茎がはち切れんばかりに震える。
 耳元で不動が囁いた。

「この、強がり」

 まったく、ずる賢い。全て相手のせいにして、被害者面をしてみせる。だがこうして鬼道が喜ぶことも分かっている。不動が変態呼ばわりされたのは、鬼道が魅力的なせいなのだから。

「ァ……はァぁあ……ッ」

 背後から挿入されて、待ちかねた快感に歓喜が満ちる。タイルの壁に手を着いて、しがみつくところを求めてさ迷うが、タイルは薄すぎて掴むところは無い。代わりに、不動がその手を掴んだ。

「ンぁ、ぁあ……ッ!」

 呆気なく達してしまって気まずいと思ったが、不動が最後に数回擦り足元に精を吐き出すのを見て、耳元の荒い息遣いを聴いて、同じくらい最初から欲情していたのだと安堵した。
 力が抜けて、そのままタイルの床に腰を下ろす。呼吸が落ち着いた頃、鬼道は顔を上げて微笑んだ。

「お前も剃ってやろうか」
「オレは鬼道くんほど濃くねェし」

 そう言った直後、不動は考えを改めた。いや、鬼道の思惑に気付いたと言うべきか。

「悪くねェかもな……?」

 鬼道が立ち上がり、バスタブの縁に不動が腰掛ける。カミソリの細い刃が紅い目を映し、甘い欲情にきらりと光った。






「くすぐってぇ」

 笑っていられるのも今の内だと思いながら、鬼道は復讐も兼ねて、だが慎重にカミソリを当てていく。
 不動の肌は血の気が少なく、自分や周囲と比べると白っぽくて不健康そうに見える。黒々と控えめに飾っている毛を剃り落とすと、白さがより際立つ。だが、その腿を覆う、場数を踏んで鍛えぬかれた筋肉は逞しく、再び首をもたげ始めた陰茎をしっかりと支えている。

「よし、足を上げろ」

 一瞬、不動は顔をしかめた。しかしわざとらしい溜め息を吐いて、足を持ち上げる。その玉袋を左手で押さえながら、肌の曲線に沿って尻の方へ。生理反応も含めて、竿の太さが倍になった。
 中学生の頃の髪型にオマージュを捧げて、ギャランドゥの真ん中を細く残せば良かったかと思いながら、ごくりと唾を呑み込む。正直かなり、無理をしている。こんな状況で冷静になるなんて不可能だ。天才ゲームメーカーと謳われているが、今は肉欲の象徴、それも自分の体を知り尽くしている恋人のそれが雄々しく目の前に反り返っているのを見て、平常心を保てる方がおかしい。

「っあ……! す、すまない」

 これで終わりだと思い手を引いた瞬間、尻の近くの太腿をほんの僅かに切ってしまった。痛みは感じないらしく、血も少々滲んだ程度。

「ああ、舐めときゃ治ンだろ?」

 不動が浮かべた笑みを睨むこともできず、屈み込んで舌を伸ばす。柔らかい太腿に軽く吸うようにして口を当てると、鉄の味が微かに広がった。もう血は止まったらしい、小さな赤い線だけが残っている。

「大丈夫か……?」
「平気平気、それより」

 屈んだ不動が顎を捕らえてキスをする。

「コッチは大丈夫じゃないっぽい」

 囁いた台詞に笑って、シャワーをかけた。




体を拭くのもそこそこにバスルームから出ると、ベッドに雪崩れ込む。
 少し冷えた上半身が布団に包まれ、相手の体温が心地良い。キスをして、密着した股間を擦り合わせた。滑らかな肌がすべり、触覚が敏感になっている気がする。

「んうぅ……ッ」

 不動は屹立を蜜壺に納め、密着させたまま円を描くようにゆっくりと腰を揺らした。熱を直に感じ、輪郭が分かる。

「はッ……すげぇ、……」

 それ以上、何を言えばいいか言葉が見つからない。重なる鼓動と荒い息遣いだけを聴きながら、触れ合う肌と内側を抉る感覚だけに集中する。したくなくても脳が求める。今度はしがみつく場所があった。肩まで伸びた不動の髪を掴んで、もう片手は手を繋ぐために。
 一定の間隔で軋むベッドが一体感をつのらせる。

「っあ、っぁあ……! ふど……ふどうっ……っ!!!」
「ん、は……ッ、トロトロじゃ、ねぇかよ……!」
「あ、だめだ、ぁあ、いく、イク、う……ッ!!」

 ビクビクと震えながら己の腹に白濁を溢し、狂ったように息を吐く。不動も締め付けられて達したようだ、くぐもった声で呻くと吐息が降ってきた。
 悶えながら交わしたキスは長くて深い。

「エステサロンだかなんだか知らねえけど、そんなとこ行ってねーで、毎度オレがやってやるよ」

 消火しきれなかった熱が再び勢いを増していくのを感じ、見つめながら、自嘲に溜め息を吐いて、大袈裟に疲れた顔をして見せる。

「剃る度にこれでは、身がもたん……」
「なんで? 顔も好みなんだろ」

 意識すればするほど、不動が自分の内で大きくなる。芯が疼いて、奥へと求め、抗おうにも方法を見失う。

「悦すぎる」

 一体、これ以上にどんなやり方で快楽が高まるというのか。意味を汲み取った不動が笑うのを聴いて、どうしようもなく満たされた。






end


2015/09

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