<player 3>






 時空を行き来できるようになって一番嬉しかったのは、若い頃の恋人にもう一度会えたことだ。モヒカン頭の中学生は身長も大人の肩までしかなく、足も腕も不安になるくらい細くて、顔にはまだ幼さが残っている。粋がって入れたのだろうメッシュも懐かしく思え、鬼道は無意識に微笑んだ。きつく睨まれてやっと自覚したが、やめる気は起きない。

「……なんだよ」

 その中学生も、二十四歳という絶頂期の輝きを放つ鬼道を前に静かにしている。ふと今よりもさらに挑発的だった態度が恋しくなって、遊び心に火がついた。

「あの頃の不動も、今見ると可愛いなと思ってな」
「はァッ!? なに言ってくれちゃってンのアンタ!」

 敏感な年頃ゆえのオーバーリアクションも懐かしい。

「昔のおれは、さぞ突っ慳貪で険悪だっただろう。だが本心は違ったんだ……」

 ふっと笑って余裕を見せる。少年はむくれたままぼそぼそ言った。

「……それ、今オレに言うことなの? 知ってたけど」
「ああ、知ってるだろうと思っていた」

 呆れるほど鬼道がやわらかいので、ため息を一つ、強がりをやめた薄い唇が歪んで持ち上がる。

「ハッ……あんまりそーゆーこと言うと、チョーシ乗るぜ?」

 懐かしい表情と同時に、よく知っているそれを、鬼道は愛おしく思う。その表情を見たいがために、わざと挑発したりしたものだ。そんなことを考えていると、近付いてきた少年が手を伸ばしてきた。
 ジャケットを掴んで、押してくる。まさかとは思ったが、都合よく後ろにあったソファに崩れて、さすがに慌てた。

「まっ……待て、いくらなんでも……」

 中学生に組み敷かれることは初めてだが、本気を出せばやめさせることはできるはずだ。

「とか言って、本心は違うんじゃねーの?」

 心の裏側を撫でるような声と共に、脇腹を手が這う。期待した体を自分で叱りつけながら、鬼道は起き上がろうとした。奴も本気じゃない、遊んでいるだけだ。

「ばかなことは――」

 しまったと思ったのは、腹筋を使って上半身を起こしたために、自分から顔を近付けたようになってしまったこと。あと少しで唇に触れそうだ。このままではいけないと分かっているのに、体は動こうとしない。少年は鬼道の許可を待っているようで、隙を狙っているようでもある。できるだけ動かないように小さく口を開いた。

「……ひとつ聞くが」

 鼻先をすこし掠る。大人になりきれていない丸い輪郭が、たまらなく愛おしい。

「なに……?」
「もう、おれとは――」
「何やってんだ」

 第三者の声がして、思考が停止する。誰なのかは声で分かったが、改めて顔を見ると焦燥が高まった。二十四年の月日は不動を大人の男へ育て、二人の関係を深めた。

「ふ、不動っ」

 心臓が喉元まで跳ねたのは、今まさにその関係を自ら揺るがそうとしていたからだ。咄嗟に起き上がり、ソファに正しい姿勢で座る。押しのけられた中学生は、特に悪びれもせず隣で片膝を抱えた。

「お邪魔だったかねェ?」
「何もしていない」

 眉をひそめて、しかめ面を作る。

「へぇ? お前が慌てるの久しぶりに見た……」
「理性はある!」

 いちいち言及される前に話を叩き切ろうとしたが、細めた目で見つめられて思わず顔を背けた。

「しかし……お前だぞ。拒めなくて当然じゃないか……」

 ちらと、中学生を見やる。そっぽを向いた頬のやわらかさと、つるりと剃りあげた後頭部。つい手を伸ばして撫でたくなる。

「はぁ? マジで? オレよりこいつがいいの?」
「そうは言っていない」
「じゃあ、どっちを選ぶんだよ?」

 思考回路が同じだと、妙なところで意気投合するようだ。四つの青緑に睨まれ、わずかに後退りした。

「え、選べない……どっちも不動じゃないか」

 これについては、とりあえずこう言うしかなかったのだが、大きいほうの不動が特に強い反応を示した。確かに同じ自分とは言え、今の恋人は鬼道と同じ年齢なのだから、過去の自分を気に入られても微妙な気分なのだろう。

「じゃ、気持ちよくさせたほうを選べよ」
「なっ……」
「お、それいいな」

 何の話だと聞く前に小さいほうの不動が目を輝かせた。身の危険を感じるが、妙な期待も抱き始めている。

「オマエ、鬼道クンとどこまで行った?」

 さっき鬼道が聞きたかったことを、大きいほうの不動が確認すると、中学生は少し赤くなった。

「行くとこまで行ったよ……」

 改めて恋人の初々しい表情を生で見れるとは、なんと貴重な瞬間だろうか。

「嘘つくんじゃねーぞ」
「誰がつくかよ。初めては好きな奴とって決めてたの忘れたのか?」
「あっ……てめ、」

 うっかり口を滑らせたのか、慌てた大人も赤くなる。

「……そうなのか?」
「そうだよ悪ィか!」

 そのまま鬼道を押さえるように壁に手をついて、顔を近付けてきた。やはり腕に力強さを感じる。心臓が揺れて、期待が高まる。

「不動……」

 記憶の海に溺れながら、熱いキスを交わした。不動がいつになくねちっこく淫らに舌を絡めてきたのが、見せつける為だと分かってから、漸く少し焦り始めた。

「っふ、……ふど……」

 中学生を見ると、隣で顔を逸らしている。不動は唇を離し、鬼道の腰を撫でながら、モヒカンに向かって声を掛けた。

「おい、こっち来いよ」
「指図すんな」

 ムッとしたまま、しかし近付けば舌なめずりせんばかりに、中学生は楽しげに見える。不動が壁に向けて体勢を変えさせた鬼道の、前に回り込んで、シャツをはだけさせにかかった。

「んっ……」

 胸板をまさぐって見つけた突起を口に含み、舌で転がす。

「はぁ……っ」

 熱い吐息がこぼれ、小さいほうの不動が顔を上げた。

「キモチイイんだ?」

 にやりと口角を上げる、その唇は変わらない。たまらなく愛おしくなって、自分から不動にキスをした。相変わらず薄いその唇を舐めて、ゆっくりとやさしく食む。少しぎこちなく舌を絡ませてくる不動は、緊張しているのだろう。
 しびれを切らした大きいほうの不動が、背にぴったりと体をつけ、ベルトをゆるめてスラックスの中へ手を差し入れてきた。

「っふぅ……!」
「こいつがウットリしてんのは、オマエのせいじゃねーぜ」

 輪郭をなぞるように指で擦られ、腰が震える。

「ほら、挿れて欲しくなると尻を突き出すんだよなぁ?」
「そ……そんなことは、しないっ…」

 早くも、言葉を組み立てるのが難しくなってきた。小さいほうの不動は悔しそうに、だが未だ口角は上げたままで、壁に背を預け膝をつく。スラックスと下着を足首まで落とし、愛撫していた大人の指を無視して、鬼道の熟した逸物を口に含む。

「ぁう……ッ!!」
「デカくなったなぁ、鬼道クン」

 じゅぽっといやらしい音を、恐らく意図的にたてて、中学生に舌と口でこね回されるのは、どうにも屈辱的で快感だった。

「オレの相手もしろよ」
「あ……!? む、無理だ……いっぺんには……!!」

 慣れた指にアナルをほぐされ、思考とは裏腹に腰が揺れる。無意識に突き出していた尻を掴んで、不動は耳元に笑った。

「期待してるくせに。オレのほうがデカいしな?」

 否定しようにも既に体は粘液を滲ませており、待ち望んだ質量を締め付けて歓喜していた。

「くぁぁ……ッ!! ふぁ、んぅう……ッッ」

 壁に手を着いて、今にも粗相をしてしまいそうな感覚に焦りながら歯を食い縛る。攻め方は緩やかであるのにみっちりと内部を埋め尽くし、さらには前をしゃぶられて、しかも慣れた肉棒は、適所を知っていて的確に押してくる。

「あぁっ……くぅんっ……!」
「やっぱり。随分と気持ち良さそうじゃねぇか。コイツ、淫乱に育ったと思わねえ?」

 閉じられなくなった口から唾液が滴り落ちるのをくい止めるので精一杯だ。片手で裏筋を舐める不動の後頭部を撫で、品の無い喘ぎ声をこぼして、鬼道は壁にすがり付く。

「んぁっ! ああッ……も、出る……! ふぁあ……!!」

 不動が口を離す前に射精してしまった。だが殊勝な中学生はちょっと噎せただけで、力を抜いて恍惚に身を任せる鬼道自身を舐めてくれた。

「大人になってもかわいーじゃん?」
「むしろ、かわいさ増してンじゃね?」

 ゆるくかき回しているだけだったぺニスも引き抜かれ、耐えきれなくなって床に膝をつく。呼吸は荒いままだ。

「はっ……ン……」
「えっろ」

 小さい不動が、鬼道の乱れた足に引っ掛かっていた下着とスラックスを抜き取った。達したばかりで未だヒクついているアナルを撫で、舌を当てる。大きい不動が床に腰を下ろし、鬼道の濡れてふるえる唇から呼吸を奪う。

「不動……まだ、イッてないだろ……」

 ジッパーが開いたままのズボンと、下着をめくり、一旦隠されてしまった不動のぺニスを取り出す。袋を指先でそっと撫で揉み、肉棒の先端を口に含む。吐息が聞こえて、指先が耳の横を撫で始める。
 と、アナルをいじっていた指が急に太くなった。不動のぺニスが挿入されたのだ。

「んふぅうっ……!!」
「は……すげぇ、」

 成年に負けないほど硬くなったそれが熟れた肉壁を突き上げ、鬼道は身悶える。

「あんま擦らねえで、奥のほうをえぐるだけにしてみ」
「ハッ……うるせぇよ、」

 鬼道の耳の後ろを指先でなぞりながら余裕の声を掛けられ、小さいほうの不動は牙を見せたが、助言通りにした。

「どうせ届かねえか」
「ぁあっ……イイぞ、そこだ……ッ」

 中学生の背に合わせて少し腰を低くする。少々無理がある体勢でも快感を優先するようになってしまった。確実に、後で起き上がれなくなるだろう。

「そうやって痛くしねぇように、的確に突いてやれば、こういう淫乱ができあがるわけだ」

 不動のペニスをゆるく握ったまま、吐息がこぼれるままにしていると、癇に障る類のニヤけ顔が目に入った。鬼道は腰を揺らしながら睨みつける。

「なに、言ってるんだ……、高校出てしばらく音信不通だったくせに……」

 半開きの唇をなぞる、その指を舐めてやる。

「だーから、散々話しただろォ……」

 こんな会話に何を感じるかと思ったが、若き性欲は絶頂を前に盲進し、より強い快感を得るために加速していた。

「あっ……ン」
「くぉおッッ……!!」

 腸壁の奥に当たる熱い飛沫を感じるのは、何とも心地良い。

「満足したか……?」

 背を曲げて覆い被さってきた小さい不動の頬を撫でて、舌先から始まるキスをする。大きい不動が悩ましい手つきで背筋を這わせた。

「オレも早くイかせろよ」
「……顎が疲れた」

 体勢を変え、大きい不動の腰に跨る。

「あー……やっぱ、お前ン中が一番」
「ンッ……は、おれも、また……イキそうだ……ッ」

 横を見ると所在なげに座る中学生がいた。手繰り寄せるようにして、唇をついばむ。

「やはり、回復が……早いな、ン……ッ」

 再び首をもたげている若い屹立を握りこんで、大きい不動を見下ろす。太腿を掴まれ、さらに奥へ捩じ込まれた。

「んぁあっ!」
「ホラ、仲良くイこうぜ?」

 大人よりつるりとした細めの指が、胸板を滑って乳首を摘まむ。軽い目眩を覚え、鬼道は口の端から零れた唾液をはしたなく思いながらそのままに、片手でいきり立つ若いぺニスを擦り、もう片手で不動の逞しい胸板を撫でながら、しきりに腰を揺らして喘いだ。

「んう、うぅっ、んぅぁああーー……っっ!!」

 ほとんど三人同時に射精が起こり、鬼道は真っ白な恍惚の中でガクガクと震えた。背に寄り添う細い体と、前から抱き締める腕に身を委ねる。

「で、どっちがいい?」

 再び蒸し返されたその問いに、鬼道は満足げに甘く長い吐息を漏らした。






end


2015/09

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