<露天風呂の日>
豪華な旅館に泊まって贅沢するのも慣れてきた。部屋に付いている小さな露天風呂に、早速二人で入る。夕暮れの山々や清流を背景に、スーツもスマホも鞄にしまったまま、日常から遠ざかったプライベートな空間で、一糸纏わず抱き合う。
腰をチャプチャプと音をたてる湯の中でごくわずかに動かす鬼道は、奥をえぐり続けるのがよほど快いのか、声が出るに任せて、無意識に身を委ねている。そんな彼を見るのは久しぶりで、日常生活の疲労を彼の生真面目な性格のせいでなかなかほぐしきれていないらしいところを心配していた不動は、安堵すると共に、抑えきれない程の欲情を感じた。
「あ、あぁ、ふど、っはぁ……」
話す時の声より少し高めの嬌声が、涼風に乗って誰かの耳に届きそうだ。肩に掛けられた手の指先に力がこもる。腰の揺れに合わせて下から突き上げると、赤い眼が歪んだ。
「ぅあッ……ぁあ、たの、む、このまま……」
「ああ、いいぜ……ッ」
「んぁ、ぁああっ……!!」
湯が濁らないことに優越感を抱きながら、開きっぱなしの乾いた唇を舐めてやった。舌を絡めとられ、ゆっくりと口内を愛撫する。
「んんッ……ん……はぁ、はン……ッ」
風呂に入る口実に何だか色々と理由をつけていたが、そんなものは大して意味がなく、本当はこうして何も気にしなくて済む場所で、思いきり快楽を楽しみたかったのだ。
「軽い息抜きとか言ってたけど、随分と乱れるじゃねェか」
胸をぴたりとつけ鼓動で鼓動が感じ取れそうなほど密着して、鬼道は再び腰を揺らし始める。
「お前を、骨抜きにしてやろうと、思ってな……」
わざと誤魔化す苦笑を撫でて、笑い合った。今は何の邪魔も入らない、二人だけの空間で。
end
2015/06/26