<七夕に寄せて:取り越し苦労>






 笹だとか星だとかすっかり忘れて、同棲生活二年半めの夜にどうやって相手をその気にさせるかということしか考えていなかった。
 キスまではいい。そこからベルトを外し、手を入れて体を下へずらす。たまには先に舌で攻めまくってやろうという作戦だったのだが、鬼道は手を入れた時点で慌てて身を引いた。

「まっ……待て待て待てっ……!」

 掴まれた髪の毛が引っ張られて痛い。止めたのが分かるとすぐに離してくれたが、解せぬ。不動が尋ねる前に説明がされた。

「別に、嫌だというわけじゃないのだが……今日くらいは静かに寝よう」
「……はァア??」

 解せぬ。嫌だというわけじゃないのに何故拒否るのか、全く理解できない。この顔から読み取ったのだろう、鬼道が気まずそうに言った。

「ほら……昨日も散々やったし、一日くらい休ませろ」

 もちろん体力も気力も、スケジュールも、全部把握して、様子を見ながら調整してる。例え今日も散々したからといって、明日の予定に不具合が出るとは思えない。

「……言えよ、本当の理由」

 納得しねぇぞ、このままにすると無理矢理にでも襲うぞ、という脅迫を込めて睨むと、鬼道は長い息を吐いたあと小さな声で言った。

「その……あまりお前といちゃついてばかりいると、織姫と彦星のように引き離されてしまうかもしれないと……思ってな」

 思考が停止した。

「はァ? なにそれ」
「織姫と彦星というのは、それぞれ働き者であったわけだが、結婚したら仲が良すぎて仕事が疎かになってしまい、村人たちは着るものがボロボロになっているのに新しい着物を縫ってもらえず、彦星が面倒を見ていた牛たちが病気になってしまったので、村人たちが天帝に訴え、怒った天帝が……」
「わかったもういい」
「なっ、ふど……」

 話を遮り、キスで塞いでやる。

「お前、だめだと言っただろう……! 一年に一日くらい、意図的に禁欲もできずに、男として恥ずかしくないのか……!!」
「うるっせーーーなァァ……もう日付変わったんだよ、あいつらもヤリまくってんだろ」
「ふっ……ふどぉぉ……!」

 怒ったような声も、すぐに甘くとろけていった。






end


2015/07

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