<王様の戯れ>






 スプリングの軋む音が続いている。今にもばかになって壊れるんじゃないかと思うほど、不動の部屋の安いベッドが悲鳴をあげているのだが、そんなことは今はどうでもいい。

「ル゛ア゛ッ……グゥ、ゥゥ……ッ」
「フゥーッ……フゥーッ……」

 獣のような低い呻き声は、自分で制御しきれない範囲のものだ。汗だくになって目眩に耐えながら、相手の弱点を探り合う。水滴がベッド脇のライトに光る背をまさぐり、手が滑る。そのまま、強く律動が再開された。

「ア、ア゛アッ!」
「ぐ、フゥ、フ……ッッ」

 歯を食い縛り、まるで拷問にでもかけられているような呻き声をあげ、引きちぎらんばかりにしてしがみつき抱き合いながら、快楽を貪る。

「……ッ、がァ、ァ――!!」
「ンァァァァッッ!!」

 咆哮と共に精液を放ち、頂点から滑り降りるが、高揚は一向に収まる気配を見せない。首を絞めかねないほどの強さで掴む肩から手を離し、不動はゼェゼェと喉に風を通しながら、身を引いて座る。ぺニスが抜けたとき、鬼道のアナルから白濁が糸を引いた。

 太陽が見張っている間は、二人とも先輩ヅラをした、頼れる教師に成りきっている。だが世界が夜の闇に包まれ、二人きりになると、その仮面を剥ぎ取り合い、肌をさらして激しく絡み合うのだ。いつもは闇に隠している本性をさらけ出せる相手を見つけ、互いが互いにとっての特効薬的な役割を果たしている。ある意味、相性が良いと言えるだろう。

 土曜の夜になると、鬼道は姿を消す。実家には帰らず、携帯も切る。同じ頃、不動も連絡がつかず、どこにいるか誰にも分からなくなる。
 日曜の朝まで、二人はどちらかの家か、フロント係を買収してある帝国ホテルの一室にこもる。我慢しきれず車の中で爆発させてしまった時は、助手席が壊れた。ホテルでは数回、ランプやベッドを壊した。不動の借りているマンションではもっと気がゆるむのか、クローゼットのドアが外れ、さすがにその時は腰を打って、数日安静にしていなければならなかった。
 だが、そんなことはどうでもよくなるくらい、肉欲にまみれたかった。

「フゥッ、ン゛、ン゛ンッ……」

 座る不動の腿を跨ぎ、唇にむしゃぶりついて、鬼道は腰を揺らす。勃起したぺニスが鍛えられた腹に擦り付けられる。先程達した時の精液をまだ纏っていて、それは少し乾いているため、不動の腹に擦り付けるたびにぽろぽろと落ちる。だがすぐに透明なカウパー液が漏れ出て、滑るようになった。

「グゥゥ……ッ!」
「んぉぉッ……」 

 鬼道が腰を落とし、座位の状態で、再び不動の肉棒は肉穴を圧し拡げて埋め込まれる。
 掴む所を探し、きれいに爪を切り揃えた指先を肌に食い込ませたり、行き場の無い手はさ迷って頭を撫で、髪を握り締めた。
 荒い呼吸がぶつかりあって、爆発しそうなほど空気が熱される瞬間に、震動を受けて気を失いそうだった。正気も失いそうだ。
 重傷を負った獣のように、苦しそうな呼吸をしていた不動が、ぐっと鬼道の太腿を掴む。抵抗する間もなく、隙をついて押し倒し、正常位へ体勢を入れ替えた。すぐに猛烈なピストンが始まる。

「ん゛ぉぉぉぉぉっ……」
「がア゛ア゛ア…! ぎ、キサ、あ゛ァァ…ッ」

 ほどなくして、不動が腰を止めて震わせ、勢いよく噴射された。直腸の奥の内壁が受け止めるのは、精液の最後の数滴と、半分カウパー液の混じったような無色に近い尿。

「ヒィ、ハ、ヒッ…ハハ、クハハハッ……」

 そのまま待っていると、不動のペニスが再び体内で膨張を始めたのを感じる。圧迫感に耐えながら、できるだけ深く息を吸って吐く。

「貴様……最低の、クズだな……」
「ハハハッ……、その、最低の、クズとやらに、やり込められてンのは、誰だよ?」

 鬼道は不動の胸を足で押してゆっくりと起き上がり、そのまま尻を不動に向けた。

「誰が、やり込められてるって?」

 重力に従って、白濁の混ざった液体がアナルから、まるで湧き水のように流れ出てくる。太腿を伝って、ぐちゃぐちゃになった毛布へ染みていく。思わず、不動の顔に笑みが広がる。

「アンタ、最高」

 ハッと強く一瞬で笑い飛ばした鬼道は、不動の肩にかかる髪を一房掴んで引っ張り、顔を寄せた。

「当然だ」

 もし淫魔が実在するなら、こんな微笑を浮かべるだろう、そう思わせるような笑み。妖艶で、優雅でありながら、何者も敵わない魔界の帝王のような強さを持つ。だが鬼道は、その強さや魅力を一切秘めない。特に不動の前では。
 見せつけようとしているのでも、相手を支配しようとしているのでもない。ただ純粋に、解放しているのだ。
 それを知っている唯一の男は、自由を謳歌する我侭な帝王に、渾身の口吻を贈った。









2016/06


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