<尻を愛でる不動の話>
最近、不動が素直になってきた。
と言うか、単に要求をストレートに言うようにしただけかもしれないが。
内容は「タオル買い換えたい」から、「天才ゲームメーカー様のコロッケ食いてえ」まで、実に様々で、一ヶ月に一回ほど、ふとした隙を狙って提示される。
大抵は上記のような簡単な要求なので、おれは特に拒否することなく、たまに多少文句を言いながらも応えてやっていた。
それがある日。
「ねーねー鬼道クン、今日オレの誕生日なんだ」
「何? そうだったのか」
突然の情報に、そういえば以前、どこかで不動の選手データを見た時に誕生日を知ったが、男同士だし特に何を贈るわけでもないと、あまり意識していなかった。
今回は少し意味が違う。十年の付き合いがあるとはいえ、恋人という親密な関係になってから初めての誕生日を迎えたのだ。何かしなければならないと思うくらいなら、最初から準備をしておけと思うが、生憎一昨日まで出張があったりと慌ただしくしていた。
全て分かった上での発言なのだろう、不動が青緑の目をきらりと輝かせる。
「鬼道クンにお願いがあンだけど」
「なんだ? おれに出来ることならやってやるぞ」
「オレが用意したものを着て欲しいんだけど……」
なんだそんなことか、と、おれは胸を撫で下ろす。何が不安だったのか分からないが、例え女装でも着ぐるみでも、外にさえ出なければ、今日これからあと数時間くらい着てやってもいい。どうということはない。
「どれを着るんだ?」
「実は、もう寝室に用意してあんだ」
用意周到なのはいつものことだが、不動の嬉しそうだがいつものごとく含みのある笑顔に、ちらっと嫌な予感がした。嫌な、というのはこの場合、嫌悪ではないので、適切な表現ではないかもしれないが。
寝室へ行くと、なるほどベッドの上に小さな紙袋が置いてあった。文房具屋で手帳を買ったくらいの大きさで、持ち上げるといやに軽い。開けて見ると、幅の太いゴムバンドが入っていた。下着に使われているような黒いゴムバンドに、手のひら大の赤い布が縫い留められている。広げると、一本のゴムバンドが三つの繋がった輪になっていることが分かる。それが下着だと分かったとき、一気に顔が熱くなるのを感じ、おれは瞠目した。
「どお? ぜってー似合うと思ってさー……」
ノックをしつつドアを開けて入ってきた不動は、下着を握り締めて立ち尽くすおれを見、ニヤリと口元を歪ませる。
「穿くとこから見せてくれんの? サイコー」
「バカを言うな、」
目を細めて睨んだまま、口元はゆるませて、不動の腰を抱き寄せる。
「お前はエロい事がしたいんだろう?」
「それもあるけど……」
磁石のように双方向から引き寄せられて交わしたキスは、深くて長い。
ズボンの布地越しに尻を撫でられ、ぞわりと肌が粟立つ。
「オレ、鬼道クンのケツがすげえ好きなの。すヴェッすヴェで……やわらけーのにボールみてェなハリと弾力があってさ…この世で一ばn」「分かった! 分かった、もういいッ。穿けばいいんだろう!」
そんなに尻が好きだったとは初耳だ。おれは少々動揺しながら、服を脱ぎ始めた。せっかくの恋人の誕生日だ、このくらいどうということはない…。
全部脱いだところで、不承不承、例のゴムバンドを身に付ける。その間、不動がニヤつきながらじっと見ているから堪らない。何とか、強がって腰に手を当て、ふんぞり返って見せた。
「これで満足か?」
「後ろ向いて」
なるほどあくまでも尻か。羞恥心を抑えながらこれみよがしに溜め息をついて背を向けると、後ろで不動が呟いた。
「ウーン、最高」
背中を押され、ベッドに両手を着く。尻に唇が押し当てられ、べろりと舐められた感触が、ぞくりと下腹部を疼かせる。屈辱的だが、今日は我儘にさせてやろうという気持ちが勝っていて、自分でも不思議な感覚だ。
「っ……」
このままでは新品の下着を汚してしまうという背徳感と羞恥が、疼きを煽る。破廉恥なのは下着ではなく、輪になったゴムバンドごときで芯を熱しているおれのほうかもしれない。
「ン……っ」
「ふ、……」
ゴムバンドはうまい具合にアナルを避けていて、着けたまま挿入できるようになっている。不動の肉棒が押し当てられ、その熱に溶かされそうになりながら、必死で理性を握りしめた。
「くぅ、ん…ッ」
圧迫感に悶えながら、幾度と無く繰り返されてきた行為に安堵すら覚え、そんな自分に動揺しながら、不動を受け入れる。筋肉が動くたび、ゴムバンドの締め付けが効く。
「はっ、ぁ…ふっ……」
「うぅっ……ぁ、ふど、」
「ン…だよ、もう…イクッ?」
軽く笑う不動の囁きを聴きながら、声もなくおれは震えた。激しく胸を上下させながら、未だアナルに挿さったままの不動の脈を全身で感じる。
「ッ……これじゃあ、おれの、誕生日みたい、だな……」
「気にすんなよ、オレは鬼道クンをとろとろにすンのが何よりの喜びだからさ……これでいいんだぜ?」
肩越しに見た、そう言うヤツの顔がまさにドストライクで、ああ、これだからおれはこいつの好きにさせているのだと自覚させられる。相手のためだと言いながら、最大限に自分の欲求を満たす。その狡猾さに、気持ちいいほどの悔しさが溢れる、その瞬間が堪らないのだ。
今度は正常位に体勢を変えた。一旦抜いた、張り詰めたままの不動の肉棒が太腿に当たって、射精したばかりなのに収まらない熱がさらに燃え上がる。
「くっ……ふどう……」
腰に強く両足を絡ませ、思いきり睨んで、思いきり甘いキスをしてやった。
♡おしりまい♡