<still slow>







 高校を卒業して、二十歳になる前にイタリア代表としてレギュラー入りしたおれは、各国との親善試合を楽しみにしていた。特に、対抗意識の強いドイツには、不動明王がいる。おれと同じく、実力を認められた日本人ミッドフィルダーだ。
 高校は帝国学園高等部で、三年間ずっと一緒だった。おれたち二人が中心になって、サッカー部を導いたと言っても過言ではない。
 司令塔としてお互い切磋琢磨しながら、同時に私生活でも刺激を与えた。そう、恋人として。
 不動の願望、もとい、欲望を満たすのは、簡単だった。そしておれも、その欲望に魅了された。おれたちは若さ故の旺盛な好奇心と、湧き出したばかりの性欲の勢いに任せて、毎日のように求め合った。
 三年生になった頃には、あまりにも時間の無い時以外は性急さが薄れ、寄り添う時間を重視するようになっていて、学生寮の不動の部屋でずっと過ごした。
 日本を離れ別々の国へ向かっても、おれたちは何も変わることがなく、練習や試合の合間に時間を作って、中間地点で会っている。
 今夜も、親善試合の後で。おれの借りているアパートへ不動が来るのに、そう時間はかからなかった。




 二人の時間を大切にするようになって、繋がるまでのプロセスをじっくり楽しむことにしたおれたちは、ベッドに座ったらまずは長い長いキスから始める。
 唇と手で触れ合うだけで、こんなにも心地いい。

「ん……今日の、後半。すごかったな」
「あ……? はは、……そお?」

 試合を反芻しながら、ファインプレーをこなしたその足を撫でると、不動はくすぐったそうに笑った。

「追いつけないかと、思ったぞ」

 そう言って首筋に吸いつくと、不動がおれの尻を撫でる。

「光栄だねェ。それはこっちのセリフだぜ?」

 まだ早いと言いかけて、じわりと快感が増す体が言葉を呑み込んだ。今日はもう、我慢の限界。
 それが伝わったのか、不動もせっかちなのか、どさりと押し倒されて、吐息混じりにキスをした。

「いつだって、お前と同じライン、走ってたい」

 カーテン越しに外から街の灯りが入ってくる、薄暗い部屋の中で、青緑の瞳がおれを見つめる。

「おれの前を行くくらいじゃないと。……すぐに追い越してやる」

 いたずらっぽい笑みを返したつもりだが、胸いっぱいにあふれる愛しさがにじみ出てしまっただろう。
 不動も嬉しそうに笑って、その証拠に熱い股間を擦り付けてきた。

「もう、入れたい」
「ああ……いいぞ」

 下着を刷り下げると、不動が脱がす。
 ローションを塗り込んで、いつもならもう少し解すのに時間をかけるが、今日は急かした。
 余裕が持てるようになったと言っても、まだ十九歳。それに今日は、二週間ぶり。抱き合っているだけで勃起しそうだった。

「すげえ……ヒクヒクしてる」
「言うな……いちいち、うるさい」
「だって、エロい」
「いいから、早くしろ」
「そっか、待ちきれないって感じ?」
「それはお前の方だろう」

 うつ伏せになって尻を頭より高く、膝で支えていると、何とも屈辱的な気分になるが、待ちかねた熱い肉棒が押し当てられ、ゆっくりと狭い穴を押し拡げて体内へ入ってくる感覚には、何もかも吹っ飛んでしまう。

「っぅぁぁあ……っ!」
「あぁ……はっ、ふぅ……っ、鬼道……」

 不動の荒い呼吸を耳元で聴きながら、根元まで埋め込まれたペニスを感じ、おれは身悶えた。

「んッ……ふ、ふぅ……ッ」
「あー……も、イキそ……」

 まさぐり始めた不動の手が、おれの胸を撫で回して、突起を探し当てる。コリコリと摘んでこねられ、脳髄が痺れるような感覚に腰がくだけそうになった。

「はぁっ……イッて、いいぞ? んッ……ぅあ、」
「ンン……ッ、まだ……、も少しッ……」

 おれは何がなんだか分からないほど蕩けて、朦朧としてくる。お前だけがいればいいとさえ思う。このままずっとこうしていたいとさえ。
 非現実的な思考を皮肉っぽく眺めるもう一人のおれですら、今は、肩をすくめて見守っているほど。蕩けて暴走する思考はともかく、現在のこの、あまりにも甘い行為をだらだらと続けるこの時間は、未来のおれにとって重要だと分かっているから。

「あっ……あぁ……も、ムリだ、ふどう……。おかしく、なりそうだ……っ」
「はは、……オレも」

 きっと言葉で言わなくても伝わっている。
 体内に注ぎ込まれたあたたかい飛沫を感じながら、小刻みに震える不動に強く抱き締められ、おれは目を閉じた。
 まだ、ゆっくりでいい。ゆっくり、細胞の一つ一つまで、お前を感じたいんだ。








2016/12/22


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