<スーパー甘やかしタイム>






 頭の中に、理性に繋がる糸があるとしたら、まさにプッツンと切れた音が聞こえた気がした。

「あァ!?、ふ、ふどっ…ま、てッ…! ひァッ…!!」

 ついさっき流し込んだばかりの精液が潤滑剤になって、じゅぷじゅぷと卑猥な音をたてている。鬼道は枕にしがみついて、腰を振っている。あられもない格好で、与えられる快感を全身で受け止め、反映させた自分の体で、快感を与え返す。その姿がさらに欲を煽り、不動は無我夢中で突き上げた。言葉を失って荒い息しか吐けなくなっても、鬼道が悦ぶポイントは体が覚えている。制止の声が上がったが、随分と弱かった。それよりも大きく艶かしい声を漏らして、鬼道は呻く。

「ぁぁあっ、ふどっ……ンあ、ぁあーーーッッ」

 シーツが濡れるのも構わず、震える鬼道を容赦なく攻め立てる。すぐに後を追って射精している間、鬼道は体勢を変えた。二回出しても収まらない熱を、鬼道の手が撫でる。正常位で再び挿入しながら唇を重ね、舌を絡め。唾液がこぼれ、吐息が交わり、スプリングは軋み続けた。




***



 頭はスッキリとしているが、何となくぼーっとする。体も軽いが、動かしづらい。妙な感じのまま目を開けたら、朝の光が恋人の不機嫌な顔をキラキラと照らしていた。

「オハヨ」
「…おはよう」
「どうした?」

 欠伸をしながら答えを待つ。聞こえてきたのは、むすっとしたかすれ気味の、低い声。

「いくらなんでも、羽目を外しすぎじゃないか……」

 二日間の連休だと聞いて、昨夜は気がゆるみ、酒を飲んだのがまずかったと言いたいようだが、度を超して飲んだつもりはない。度を超したのはむしろ――。

「二週間!」

 ブイの字を突きつけると、察した鬼道はさすがに、うっと申し訳なさそうな顔をした。

「二週間も溜めてたんだぜ? 羽目くらい外しちまうっての」

 今日こそ会えるかもしれないと、いそいそと出掛けても、緊急の会議が入ったと電話があったり。やっと会えたと喜んで、楽しく過ごせても、次の日は忙しいからと早く寝てしまったり。蔑ろにされているわけではないので精神的な不満は感じないが、溜まるものは溜まる。

「外しすぎだと言ってるんだ。それに、溜めるなと前も言っただろう…」
「今か今かと待ちながら一人でヤってろってか?」
「一気に爆発するよりマシだ。おれの身にもなってみろ」

 文句を言うが、意識が無かったとはいえ鬼道が気持ち良さそうに喘いでいたのは覚えている。むしろ、そのせいでますます加速したと思う。
 自覚もあるのだろう、照れ臭さも含みつつフンと鼻を鳴らして起き上がった鬼道は、顔を洗いに行く前に、下着を取りにタンスへ向かおうとする。不動も伸びをして、起き上がった。コーヒーを淹れてご機嫌を取り戻そう。それから今日は何をしようか、考え始めた、その時。どたんッと重いものが床に落ちた音がして、一気に目が覚める。まさか倒れた?

「おいっ……鬼道、」
「くっ……」

 腰に力が入らず、ベッドから立ち上がろうとして背中から滑り落ちたらしい。回り込んで、巻き添えをくった毛布ごと抱き起こした。

「大丈夫?」
「大丈夫に見えるか?」

 おっと、赤い目はかなりのおこ。同意に、不味そうな顔をして見せる。
 仕方ないので、膝の下と脇腹を支えて抱え上げる。自分も腰を痛めるわけにはいかないので、慎重にバランスを調整しながら、背を伸ばした。

「お、おい、おろせっ」
「何言ってンだよ。床のままじゃ嫌だろ?」

 効率を考えて、鬼道は大人しくなった。再びベッドに戻っていただく。

「お前な…加減というものがあるだろう。だからおれは溜めるなと言ったんだ。」
「ゴメン。悪かった」

 素直に謝ると、鬼道は少し驚いたというか、拍子抜けしたようだった。そっとベッドに下ろし、床に座って鬼道の足の横に肘を乗せる。

「今日はゆっくり休めってことだよ。オレが代わりに、メシ作ったり色々してやっからさ」
「ふん…それで済むと思うなよ…」

 上から睨み付ける鬼道に任せろと微笑む。とりあえず指示通りにタンスを開けて、着るものを出してやった。
 代わりに色々やるのは容易いが、問題はそれ以上のこと。何をすれば許してもらえるだろうか?

 遅い朝食と早い昼食を兼ねた食事を終え(鬼道の好きなものばかり用意した。食べさせてやるとふざけて言ったら鬼道は真っ赤になって拒否した後むくれた)、ふと疑問が浮かんだ。二週間前に溜めるなと言われたことを思い出したのだ。まるで、この二日間の連休までちゃんとした休みがとれないことを想定していたかのようだ。

「鬼道くんさぁ…ホントは、今日も一日ベッドで過ごすつもりだった?」

 腰にクッションを当ててソファにもたれ掛かる、ハーフアップのドレッドに向かって話しかけながら、麦茶を注いだコップを持って隣に座る。

「オレが溜めとくと一気に爆発させるから。セーブしといて、回数を増やそうって、そういう――」
「ふっ、ふざけるな!! 誰がそんな…」

 目を合わせないゆでダコのような顔を見て、思考をそのまま口に出しすぎていたことに気付く。

「わりィ。お前の真意を、汲み取りきれてなかったわ」
「待て、勝手に解決するな。誰も一日中ヤりまくるつもりだったとは言ってないぞ」

 麦茶を置いて、肩に腕を回し、怒られないので調子に乗って頬にキスをする。やっとこっちを向いた赤い目は笑っていた。真意を汲み取ると言えば……さっき気付いたことはどうやら真実らしいが、それが意味するところは?

「おまえ、意外と素直だよな」
「えっ……。そお?」
「そこがいいんだ」

 すり寄ってくるドレッドにふわふわと顎を撫でられ、ゆでダコがもうひとつできた。








2016/12
うちュさんリクエストありがとうございます♪

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