<はつゆめとあまざけ>
正月こそ遊び倒すべきだ。寒い時こそ外へ行くべきだ。メール一通でグラウンドに数人集まるくらいのリーダーシップは持っている。
オレは携帯電話片手に、一月二日の朝からひとり悶々と窓の外を眺めていた。もちろん、爽やかな快晴を見ていたわけではない。雲を眺めつつ、脳はめまぐるしいスピードで回転していた。
実は大晦日から続いている脳内の議題は、どうやったらごく自然に鬼道に会って気持ちよくセックスできるか?だ。……煩悩?そんなモン知らねえ。
オレの恋人サマは、帝国学園高等部全クラス参加のクリスマス会を最後に、忙しいと言ってメールすら寄越さなくなった。いや、元から筆不精だけど。急に毎日十通とかメールしてきても困るけどな。
ともかく、そんなわけできっかり二週間、オレはお預けを食らってる。その不満のピークが今朝だ。隠し撮りしたゴーグル無しの寝顔で抜くのも限界にきてる。本物に今すぐ触らなきゃヤバイ。温かい肌、滑らかな尻。抱き締めると頬に当たるドレッドの感触。
――ああそうだ、そうだよ。オレはオマエに惚れてる。地球の核でドロドロ煮えたぎってるマグマに突っ込んでも融けないくらい強く。
プライドを捨ててメールするなら今じゃないか?お願いすれば鋼メンタルの鬼道も、少しは優しくしてくれるかもしれない。しかしわざと二週間放っておいて、オレからメールさせようとしているのかもしれない。何もしなかったら三週間になり、六週間になり、そのうち忘れられるかも。ああ、ダメだ。どう考えてもドンづまりすぎる。
携帯電話を握り締めて部屋の中をウロウロするオレの姿は、実に滑稽だろう。
そんなオレを神様が哀れに思ったのか、鬼道が気まぐれを起こしたのか、分からないがとにかくインターホンとは呼べないような寮の部屋にそれぞれ付いているドアベルが鳴った。押し間違いと思うくらいほんのちょっと。
あの押し方は鬼道だ。間違いない。一分以内に出なかったら帰っちまう。オレは玄関へすっ飛んでった。
「……新年早々騒がしいな、クズ」
鬼道はいつものように、通路に誰かいないか確認してからするりと中へ入って、後ろ手にドアを閉めた。たまらず、その体をコートごと抱き締める。
「明けましてめでてェなァ? オイ。二週間も放っといた挙句に、予告なくやってくるたァ、どういうこったよ」
「なんだ、さみしかったのか」
抱き締められたままで、鬼道は靴を脱ぎ、数歩部屋の中へ進んだ。
オレは廊下の壁にヤツを押し付けて、コートのボタンを外す。
「溜まってンだよ」
鬼道の膝がピクリと震え、直後に勢い良く突き出してきた。察知して避けていなければ、股間を直撃していただろう。恐ろしい。だが、避けられる程度に手加減されているのも分かった。本気で怒っているわけではないのだ。
「お前とサッカーしようと思って来たんだがな」
「明日でいいだろ。ヤろうぜ」
ゴーグルを首へ下げ、つやつやした赤い目を見つめながら額を突き合わせて、コートの中に手を入れる。腰を見つけたら、尻のほうへ手を滑らせていく。ああ、これだ。あったかい肌、鍛えられたカラダ。
鬼道はまだ少し迷っているようだったが、やがて盛大な溜息がオレの唇に吹き付けられた。誘われたと思ってキスをする。しっかりと長く、応えてくれた。
「どうッしようもない、クズめ……」
鬼道がうんざりだといった様子で言った後、期待に胸と股間を膨らませるオレを押しながら歩き、ベッドまでやって来た。
「動くなよ」
突き飛ばされ、仰向けに寝転がったオレのズボンのジッパーを下ろし、鬼道が屈み込む。まさか、夢みたいだ。パンツを突き破らんばかりに主張しているオレの股間を見て、鬼道が笑っている。
「待っていたとは、殊勝なことだ。多少の褒美くらい与えてやってもいい」
「はぁ……? んッ……!」
回りくどい言い方をしながら、鬼道は盛り上がったパンツのてっぺんを指先で撫でる。その指がパンツをずり下げ、ビンビンに興奮したオレのペニスが鬼道の目の前にさらけ出された。
「いいか、一回だけだぞ。出したら、去年から言っている例の技を試すからな」
なるほど。一回出せばオレが満足すると思ってるんだろう。ケツを使ったらヘロヘロになって、サッカーどころじゃなくなるからな。
「わかった」
大人しくしていれば、鬼道がフェラをしてくれる。これ以上のご褒美は確かに無い。二週間待った甲斐があった。
薄く笑った鬼道の口がゆっくりセクシーに開いて、オレの亀頭をぱくりと咥えた。待ちに待った瞬間。もう少しで夢に見て夢精するところだった。というか、人生でフェラチオされるのはこれが初めてだ。想像以上に、最高。
「ぉぁッ……やべぇ、超キモチいい……」
最奥まで咥えこんで、口をすぼめて頭を引く。舌で裏筋をなぞられ、カリ首のくびれをいじられ、もう一度咥えこんで軽く吸われたときには、オレは意識を失いそうになった。
「あっ……鬼道……! もうッ、出るぜッ……!」
オレはほとんど何も考えられなくなって、鬼道の口の中に思い切りぶちまけた。何度も言うが最高だった。
起き上がって鬼道を見ると、口の端からアゴへ伝う白濁を手で抑えながら、拭おうとティッシュを取ったところだった。甘酒みたいなオレの精液を口から溢れさせてる鬼道。寝顔で限界が来るわけだ。
「くそ不味いな。アゴも疲れるし、もう二度とやりたくない」
不機嫌にペッと吐き捨てて、丸めたティッシュをゴミ箱に投げ入れた鬼道の腰を抱き寄せて、苦いキスをした。
「すげぇ上手くね? めちゃ気持ちいかったんだけど」
珍しく鬼道は照れ臭そうに、視線を逸らした。
「自分がされたら気持ちいいだろうことをしただけだが……」
初めてなのだから、やり方なんて知るわけがない。もしかしたら、もっとオレを気持ちよくさせて自分の能力が高いことを確かめるために、二度目がありそうな気がしてきた。
「お返しに今日一日、練習付き合ってやるぜ」
それを聞いた鬼道は目を眇めて、口の端を皮肉っぽく曲げて言う。
「今日一日では不足だ」
もう一度キスしようとして、突き飛ばされた。鬼道は笑いながら、ゴーグルを掛け直す。オレは素早くパンツとズボンを直して、バネみたいに起き上がった。
セックスだけじゃ物足りないことを、お互いよく分かってる。三日以上離れてたら欲求不満になることも。
お前のケツも、蕩けて疼いてるはずだ。じゃなかったら鬼道は自分からフェラなんてしない。だからオレは上機嫌で靴を履いて、スパイクとボールの入ったバッグを掴んだ。
これから連携プレーの練習か。今夜はとんでもないことになりそうだぜ。
2017/01