<罰ゲームになってない>






 確かに、悪いのはオレかもしれない。
 練習中は鬼道のことばかり見てて、終わったら一緒に帰るのが当然とばかりに待っていて、一緒に帰るなら男子寮のオレの部屋へ寄ってイチャつくもんだと思い込んでいた。
 もちろん例外はあるが、条件が揃っていればそれはもういつもと同じだと予測できる。
 いつもと違ったのは、鬼道が蔑むような視線をゴーグル越しに残して、佐久間たちと先に帰ってしまったことだ。

「マジで……? オレ、なんかした?」

 解せない。
 ひとり校門の脇に突っ立ったままのオレの足元から、混乱を燃やし尽くすような怒りが湧き上がってきた。
 ふざけんな。
 仮に何か気に入らないことをしでかしたなら、皆の前でもいいから苦情を言ってほしい。無視だけはいただけない。
 だが空腹で苛ついているだけで、本当は何でもないのかもしれない。オレはとっとと帰ってメシ食って寝る方がいいと判断し、釈然としないながらも寮へ向かった。




 オレの部屋のドアを開けて中へ入ると、なぜか鬼道のピカピカのローファーがきちんと揃えてあった。

「は? ……オイ、なんで居ンだよ?」
「静かにしろクズ」

 部屋の奥から聞こえてくるのは、紛れもない鬼道の声だ。通常より小さく、低くて、オレと同じかそれ以上に怒りを含んでいる。
 靴を脱いで、鞄を放り出し、奥のベッドスペースへ急ぐ。鬼道が制服――上着を脱いで白いシャツをさらした――姿で、長い足を組んでベッドに座っていた。

「遅い。それから最近のお前は最悪だ、特に今日の態度」
「はあ? なんだよそれ!」

 鬼道の前に立つと、さっきまで感じていた怒りに若干の恐怖が混ざる。ここでの態度如何によっては、今日ここでおしまい、サヨウナラということもありえる。――それでも諦めるつもりはないが、鬼道をこれ以上怒らせるわけにはいかないと直感で思った。

「オレが何したって言うんだよ?」

 両手のひらを見せて理不尽を訴えると、鬼道は表情を変えずに答えた。

「オレのことを意識しすぎている」

 オレは目が点になった。それから、ふいに笑い出して止まらなくなった。安心したからだ。しかし胸ぐらを掴まれ、ゴーグルの中から赤い目に睨まれて、その安心感もまた薄れてきた。

「真面目に聞け、このクズが!」
「わーりぃわりぃ。ひゃは……それで? それのどこがいけないわけ?」

 胸ぐらを掴まれたまま引き倒され、オレは無様にベッドへ顔から突っ込んだ。アスファルトとかレンガの山より、よっぽどいい。どこも痛くない。

「いいか? 貴様は自分の立場が分かっていないようだな。オレとのことがバレたら、退学もあり得るんだぞ」

 "お前"呼びから"貴様"呼びになったときは、とりあえずちゃんと姿勢を正してふざけないほうがいい。オレはベッドの上で正座した。

「悪かったって。……」

 でも待てよ。鬼道はオレとのことがバレても、厚い人望があるから問題ない、最悪の場合は金で何とかできるだろう。だから困るのはオレだけだ。

「……オレのためにわざとツンツンしてたのか?」
「お前のため? フン、貴様はボールを当てるのにちょうどいい。代わりを探すのが面倒なだけだ」

 まだ眉間の凄いシワと腕組みは解けないが、オレはすっかり嬉しくて舞い上がった。

「フゥ?! そうだな、オレも退学は困る。気をつけるぜ」

 すっかり安堵したオレは、鬼道の背後へ近付いていって、後ろから耳の下あたりに唇を寄せた。鬼道の臭いを肺に吸い込んで味わいながら、腰に手を回そうとした。その時、鋭角な肘がオレのみぞおちへ直撃する。危うくベッドから落下して首の骨を折るところだった。

「がっは……!!」
「誰が触っていいと言った?」
「いてぇよ……!」
「貴様のようなクズは、罰を与えないと学習しない」

 マジかよ、と思いながらオレは床にうずくまる。

「一週間接近禁止だ。サッカーの必要最低限のこと以外は、学園内ではオレを無視すること。学園の外では口をきかないこと」
「えーっ!?」
「元々それほど会話があるわけではない、容易いだろう」
「ちょっと待てよ、会ってもくれねぇのか?」

 オレが慌てたので、鬼道は少し機嫌を良くしたらしい。口元に、今日初めて笑みが見えた。

「フッ……この時間にここで会うのは、リスクが少ない。続けても大丈夫だろう」

 ほっとして、それなら甘んじて罰を受けると言おうとした時、鬼道がおもむろにゴーグルを外した。

「ただし、触るのは禁止だ」
「なんでだよ!?」

 鬼道がゴーグルを、立ち上がって数歩のところにあるタンスの上にそっと置き、ベッドへ戻りながらベルトを外した。
 オレは思わず、ごくりと生唾を呑み込む。何が始まるか期待が高まる。

「それでは罰にならないだろう?」

 目の前でストリップショーが、それも世界一ゴージャスでスペシャルなシーンが展開されていく。
 ズボンを脱ぎ、シャツをはだけ、下着を脱いで、鬼道はソックスにシャツだけというマニア垂涎ものの格好になって、オレのベッドへ乗り上げた。オレは上ると怒られそうなので、とりあえず大人しく床からそれを眺める。

「これも罰になってなくね?」
「どうかな? お前には大したことがないか?」

 既にタイミングを見計らって部室のシャワールームで清めてきたアナルを目の前に見せられ、一気にオレの股間が火を吹いたように熱くなる。今すぐぶちこみたい。
 鬼道はオレの目の色が変わったのを見てほくそ笑みながら、横向きに寝て、唾液で濡らした指を自分のアナルへ挿し入れた。ショックで理性がぶっ飛びそうなオレの目の前で、くちゅっ、くちゅ……などと卑猥な音をたてて、指が入出を繰り返す。鼻血が出そうだ。

「んっ……ふ……」

 鬼道の鼻息が荒くなってきた。何もしていないのに、見ているだけでクラクラしてくる。

「オレのチンコの方が気持ちいいだろ? いつでも代わってやるぜ」
「フッ……自分で、自分の好きなところに、適度な刺激を、与えられるから、お前の助けは、必要ない」
「そお? オレのチンコの方が太くて長いぜ?」
「よくもそんな、大口が叩けるな。隅から隅まで、どうしようもないクズのくせに……」

 鬼道は目を閉じて、手の動きを速めた。

「ふっ、ふぅっ、くっ……んっ、んッ……」
「イキそう? 手伝ってやろうか」

 触ろうと伸ばした手を、鬼道は噛み付いて拒んだ。鋭い犬歯が手の甲に食い込んだところは、かなり痛い。でも鬼道は笑って、噛んだところを舐めてくれた――獰猛な大型のネコ科動物みたいに。オレの指をおしゃぶり代わりに、セクシーな腰が揺れだす。
 鬼道の舌を中指で撫でる。その舌がぬるりとオレの中指を舐めて、唇が窄まり、皮膚がそっと引っ張られる感覚にジンジンと神経が震える。
 歯列に触れると、噛み千切られるかもしれない恐怖が湧き上がって、快感が助長された。

「フェラチオなんていつもしねェのに……」

 呟くと、鬼道が妖艶に微笑む。オレが覆い被さろうとするのを見越して、片足をオレの胸に当てた。そのまま、仰向けで、アナルから前立腺を刺激しているらしい。

「んッ……んふ……ッ、くッ――!」

 間もなくビクビクっと小刻みに震えて、鬼道のペニスが吐精した。
 もう限界だ。
 オレは今がチャンスとばかりに、ズボンと下着をずり下げて、ギンギンに張り詰めたペニスを取り出し、鬼道に覆い被さった。

「ぐゥっ!!」

 しかし足を掴んで開かせようとしたところで、思い切り胸を蹴り飛ばされた。

「いってェ! 何すンだよ?」
「お前こそ。触れるのは禁止だと言っただろう、もう忘れたのかクズ」

 床に尻餅をついて、暴れたくて堪らないペニスの熱を感じ、込み上げてくる怒りに身を任せるかどうか考える。

「さて、オレは帰るぞ」

 鬼道は起き上がって服を着始める。ここで帰せば一週間接近禁止だ。しかし無理やり襲えばどうなるか分からない。
 ただひとつ言えることは、今は二人きりだということ。どうせ接近禁止になるなら、今のうちにチャージしておきたい。
 オレは鬼道がズボンに足を通す前に、滅茶苦茶に激しくろれつの回らなくなるまで犯すほうを選んだ。ベッドに縫い留めた赤い目が、オレを見て眇められる。

「……強欲だな」
「悪ィか? オレは今欲しいモンのために生きてンだ」

 文句は言わせないとばかりにキスをする。合間に呆れたような溜息を一つ、体を回転させて、今度はオレの腹に、再び下着を脱いだ鬼道が跨っていた。

「クズにしてはよく耐えているな」
「そろそろヤバイぜ?」
「脅しても無駄だ。限界を試してやる」

 鬼道のペニスが口に押し付けられ、嫌々ながら舌でじっくり愛撫してやる。達したばかりで敏感なはずだ。時々強めに吸ったりして、快楽を与え続ける。

「ああ……いいぞ、そうだ……」

 まるで大きなライオンがごろごろと、猫みたいに喉を鳴らしているかのような、妙な緊張を感じながら、愛撫を続けた。やがて鬼道の腰が震えて、本日二度目の絶頂へ。

「んぁ……くぅぅ――ッ!」

 わずかな精液が口の中に放出され、それを飲み込んで、オレは意識がおかしくなってきているのを自覚し始めていた。
 ヤバイ。
 でもどうなってもぜんぶ、鬼道のせいだ。

「どうした……? その目は何だ」

 オレを見下ろして笑う鬼道の体を、押し退けつつ支えながら腹筋を使って起き上がり、体勢を入れ替える。勢い良く押し倒してしまえばこっちのものだ。

「鬼道……っ、鬼道ッ……」

 この時、蹴り飛ばそうと思えば、容易にできたはずだ。オレは半ば我を忘れて、鬼道のアナルにぶち込むことしか意識していなかった。この時のオレをぶっ飛ばすことは、風船を割るくらい簡単だったはずだ。
 だが、鬼道は何もしなかった。
 三回は射精した気がする。もっとかもしれない。鬼道がこの状況――オレの理性の限界がきたらどうなるか確かめること――を望んでいたのだと思うと、さらに良い気分だった。

 でも結局、一週間の接近禁止は取り下げてもらえなかった。
 これもまた鬼道が試しているのかもしれない。そう思うとがぜん、ヤル気が漲ってくる。
 お前が言い出したんだからな。覚悟しとけよ?








2016/12


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