<ハグの日>






「今日はハグの日なんだってさー!」

 嬉しそうなデモーニオに抱きつかれ、二人目以降は笑って断る。ただでさえ暑いのに、むさくるしい男と抱き合って何が楽しいのか。

「まあまあ、いいじゃないか」

 思考を見透かしているらしい副キャプテンに後ろから抱きつかれ、「ぐえっ…」と声が出たが謝る様子はない。

「ジャポネーゼはシャイだからね! 僕らの方から積極的にスキンシップをとってあげないと」
「シャイなんじゃねーよ望んでないの!」

 なんとか引き剥がして、汗で貼りついたユニフォームの内に風を送る。

「そうか、じゃあフドーとキドーは恋人同士でも、抱き合ったりしないのかい? なんだかなぁ」

 フィディオが悲しげに言うので、思わず真剣に思い起こしてしまった。

「あ? いや、あいつは毎晩抱き締めてくる……あ」

 フィディオの顔に笑みが戻る。だが怖いほうの笑みだ。

「きみ、今日は球拾いね」
「はあ!? なんでだよ! イタリア人のノロケは良くて日本人のノロケはダメなんか! 差別じゃねーか!?」

 フィディオは両手を広げて肩を竦めながら仲間たちと行ってしまった。やれやれと言わんばかりに。





 ***




 ソファで今日の練習結果についてノートをとっていると、鬼道が隣にやって来て、座ったと思いきや腕を伸ばしてきた。両腕を背に回して、不動が抵抗しないと分かると力を込め、圧迫まではいかないがしっかりと強く。抱き締められた。

「な……なに……」
「ん、」

 離れていく腕を引き留めるべきか迷いながら呟くように訊くと、予想通りの答え。

「デモーニオが、今日はハグの日だと言うから……いや、その、おれは普段あまり、スキンシップをとらないから」

 途中からごにょごにょと言い訳が始まったが、それすら可愛くて仕方がない。ノートを放り出し、捕まえたとばかりに抱き締め返す。

「そうか? オレ、イク時にぎゅってされんの好きだぜ」
「なっ……! ……ッ!!」

 素直な気持ちを伝えたら、挙動不審の猛抵抗に遇って思いきり引き剥がされた。

「きっ……貴様など今のままで十分だ! スキンシップ不足で毎日不安に苛まれろ!!!」

 たぶん覚えていないほど無意識だったのだろう。それにしても、鬼道がいきなりスキンシップをとってみるなんて不思議だったのだが、たったいま本人が答えを落としてくれた。それすらも自覚していなかったら、天然ボケも良い所だ。

「えーっ……鬼道くーん。鬼道くんに嫌われたらオレしんじゃうぜ~」

 大股で寝室へ避難していった後を追って、不動は笑いをこらえながら立ち上がった。








2015/08/


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