<沈む>






 手順は大体わかってきた。
 まず機嫌の良さそうな日を選ぶ。夕食前かどこかで、ボディータッチを多めに。
 風呂上がり、意味深に視線を送る。ベッドに入った時抵抗されなければ、作戦成功。問題はそこからだ。
 ゆっくりと時間をかけて、気分を高めていく。何なら口も使って、たっぷり甘やかす。鬼道が少しも不快な思いをしないよう、細心の注意を払って。
 着ているものを脱がすのに苦労する。まずキスをして、手や足で撫でていく。撫でながら、体の線に沿って、少しずつ肌を露出させていけばいい。
 それから、何度も時間をかけて覚えた鬼道の好きなところを重点的に攻める。すぐに、閉じていた足が開く。腰が揺れて、吐息が熱くなったら頃合いだ。




 始まりは乱雑だった。今振り返ると、鬼道はよく文句を言わなかったものだ。あまりにも幼稚で、あまりにも無知だった。
 だから反省して、できるだけ早く的確に快感を与えようと思い、そのために努力してきた。そう言うと自身を抑えているかのように聞こえるかもしれないが、そんなことはなく、不動にとっては鬼道があられもない姿で乱れれば乱れるほど、歓びとなるのだ。








「不動」

 鬼道が自分を呼ぶ声がした。今夜も、いつものように服を脱ぎ始めた時。

「な……なに」

 下着一枚になった鬼道が、ベッドの上に膝を立てて座り、髪を留めていたゴムを外している。その斜め下向きになった横顔にベッド脇のミニランプが明かりを投げていて、えらく綺麗に見えた。

「その。おれは……お前とゆっくり過ごすのも、悪くないと思っている……」
「は……、そう」

 見惚れていたので、彼の言葉を理解するのに普段より時間がかかった。意味を理解しても、なんだか信じられないというか、もう一度聞きたい。だが意味は理解した。
 素っ気ない返事に聞こえてほしくないので、必死に言葉を探すが、出て来なくなった。

「……っ、」

 鬼道が不安げな顔をする前にと、慌てて口付けた。
 胸が苦しい。

「んっ……ふ、はっ……」

 何度交わしても、もっとうまいキスのやり方があるんじゃないかと思える。不安を拭いたいというより、より良い方法を研究したいのだ。こういうところは、お互い似ているなと思う。
 多くの場合、キスに夢中で、やり方のことなんてどうでもよくなっているのが原因だろう。だが気持ち良ければいいという問題ではない。うまいやり方を見つければ、もっと気持ち良くなるはずだ。そういう願いがますます膨らむ。

「ま、待て……こっちだ」

 昨日より強く激しいキスを続けながら下着を脱がそうとしたら、手を掴んで止められた。その手を、鬼道は自分の胸へ持って行く。

「ゆっくりでいい」
「ふーん……? 焦らせってこと?」
「いや、それは……お前が耐えられるまででいい」

 その言い方に不動は少しムッとしたが、次の瞬間には別のことを考えていた。もしかすると鬼道は、こういうベッドの中での二人きりの時間がもっと欲しいのかもしれない。
 ピンポイントに攻めて効率よく点を取ることを重視してきた。それをやめろと言われたら、今度は焦らす作戦。両極端なのだ。白か黒かではない。

「……長期戦、覚悟しとけよ」

 腰から背中へ手を這わせ、鬼道の胸に自分の胸を合わせる。見つめた先で、赤い目が強気に光った。恥じらいと期待を含んで、心底嬉しそうに。








2018/11


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