<ささやかなプレゼント>
疲れた。普段は自分の体調について他人に伝えることはなく、自分でもあまり崩さないように気を付けているのだが、そんなおれでもさすがに疲れたと言いたい。
自宅の鍵を開けるだけで溜息がこぼれた。もう着替えもせずこのままベッドに倒れ込んでしまいたいが、それはおれの理性が許さないので、風呂のスイッチを入れる。
冷蔵庫から出してきたスポーツドリンクを片手に、ソファに座ったらおしまいだと思ってダイニングチェアに腰を下ろした。
少し落ち着いてきた。やはり飲み物は重要だ。
風呂が溜まるまであと十分はかかる。何もする気が起きないので、ポケットからスマホを取り出して開いた。
三十分ほど前に、メールが届いていた。
『おつかれさん✋』
絵文字なんて、滅多に使わないくせに。
思わず表情筋がゆるむ。
『今どこにいる?』
返事はすぐに来た。
『会いに行っていいってことか』
少し迷ってから、文字を打つ。
『明日はまだ予定が無い。お前は?』
返信が来なくなった。どこかを歩いているのか。
不動が来るならと暖房をつけ、夕食代わりの軽食から五時間経っていることに気付く。何か食べる気はしないのだが、ココアなら飲みたいかもしれない。
不動も飲むだろうか、少し部屋を片付けながらタイミングをどうしようか考えていると、インターホンが鳴った。思ったより早い。近くの本屋にでも居たのだろうか。
ドアを開けると、優しい笑顔を浮かべた恋人が立っていた。
「メリクリ〜」
柄にない挨拶に、少し苦笑が混じる。わざと言っているのが分かるからだ。
もうちょっと弱っていたら、泣き出してしまったかもしれない。それくらい嬉しく感じた。
「ちょうど風呂が沸いた」
「それ誘ってんの? じゃなくても入るけど」
「どういうことだ、それは」
笑いながら、二人で服を脱ぐ。
シャワーから出る水が温かい湯に変わる数秒の間、唇をふさぎ合った。
風呂から出て、ココアを作った。
温かい湯に浸かって体の芯まであたたまり、頭はさっきよりスッキリしている。不動に体を洗ってもらった。洗い返そうとしたら、邪魔だから温まってろと言われ、湯船に浸かりながらちょっかいを出す程度に留めた。
不動は高速で体を洗い終え、肩まで湯船に浸かって、寒いから勃起もしないと愚痴だか何だか分からないことを言っていた。おれは思わず笑って、下ネタで笑う淫乱呼ばわりをされた。
それからパジャマを着て、不動に部屋着を貸し、ソファに並んでココアを啜っている。まったりしているうちに瞼が重くなってきた。
「おい、ここで寝るなよ?」
「ああ……」
立ち上がり、不動に付き添われて寝室へ向かいながら、何だか子供か老人みたいだと苦笑する。面倒を見てもらいすぎていて、申し訳なくなってくるほど。
ベッドに入ると、冷えた布団はすぐに温まった。不動が温かいし、二人の相乗効果で冷めにくくなっている。
真っ直ぐ仰向けに横たわるおれのみぞおちの辺りに、横向きに寝る不動が腕を乗せた。
「ぜってー風邪ひかねえな、これ」
「はは、そうだな……」
嬉しそうな不動を見て、まどろみながら、おれは心がじわりとあたたまっているのを感じた。まるで、サンタにプレゼントをもらった気持ちと、プレゼントをあげて喜んでいる子供を眺めるサンタの気持ちが、同時に湧いたかのようだ。
サンタは6歳のクリスマスから来なくなった。でも、誰でもサンタになれると気付いてからは、気にならなくなった。
手を触れ合わせ、ぬくもりを確かめる。
☆Merry Christmas☆
2017/12