<こんな表情をしているが、実は玩具を入れられている。>






 教室を移動する生徒たちの群れの奥に、廊下の角を曲がる赤い布が見えた。
 そろそろ限界か。
 不動はつい上がろうとする口元の筋肉を抑えながら目の前の廊下の角を曲がり、反対側を見た。鬼道が、壁に手を付き少し休んで、再び歩き出す。男子トイレに入ろうとしたが、人が出入りしているのを見て方向を変える。
 部室棟への連絡通路は、それほど長くない。しかし今は、きっといつも以上に長く感じられるだろう。
 時々壁に手を付いて足を止めながら、背後を気にしながらシャワー室へ入る姿を、見つからないように追いかけた。頭上のスピーカーから、授業の開始5分前であることを告げるベルが聞こえている。

「はぁっ……はぁっ……」

 一人だと分かった途端、抑制をやめた強い息遣いが、離れていても聞こえた。
 不動はゆっくりと近付いていき、鬼道が気配に少し遅れて気付きハッと顔を上げるまで待つ。閉めようとした個室のドアを掴んで阻止し、反対方向へ力を加えると、呆気なく開いた。

「サボリは良くないねェ、鬼道クン?」

 見つめる先には、驚き、焦り、そして怒りが滲んだ赤い瞳。

「き、きさま……っ」

 既に、力が入らなくなってきているらしい体を何とか壁に寄りかからせ、精一杯睨んでみせた。
 不動が近付いていくと、鬼道はマントをきつく体に巻きつけて身をよじろうとする。だが走ってまで逃げる気は無いらしい。もっとも、走るのが不可能なのかもしれないが。

「どうしたよ? 抵抗してくれてもいいんだぜ」
「くっ……はぁ、っ……」

 歯を食いしばり、苦しげに歪ませる、その顔が何とも扇情的に映った。苛立ちと屈辱が薄紅に染まり、理性が崖の縁で何とかぶら下がっている。
 眼下は快楽の谷。そこへ沈むと味わえる歓喜を、彼は知っている。
 気に食わないのは、目の前の恋人のやり方だ。不動はそれも分かっていて、不愉快にならないギリギリのところまで攻め入るのを楽しんでいた。

「抵抗、だと……っ? 笑わせる」

 情欲の炎が揺らめいた。縋るようにも思える鬼道の手が引きちぎらんばかりに不動の制服を掴み、少し震える指先でボタンとベルトを外していく。
 不動も、鬼道の発する熱と視覚効果で膨らんできた股間を、もう隠してはおけない。彼のマントの紐を解き、帝国のキャプテンの象徴を手持ち無沙汰なシャワーヘッドに掛けた。
 鬼道はベルトを外した不動のズボンのチャックを下ろし、下着を引っ張る。中が十分に育っていると分かって、一段と昂ぶったようだ。背を向けて、自分のベルトを外しにかかる。だが時々指が滑って、少し目眩もするようだ。
 不動が手伝おうにも手を出そうとすると拒み、覚束ない手つきながら強引にズボンも下げ始める。仕方なく、鬼道が下着をずり下げるまでに、不動は空いている自分の手を、彼のシャツの裾から潜り込ませた。

「ふあっ……!!」

 腹部の肌に直接触れただけで、ビクンッと体が震えた。
 そのまま、指先に引っかかるものを探して上へ滑らせる。程なくして、小さな突起を探り当てた。

「ひっ……や、やめろっ……、くぅぅ――ッ!!」

 ガクガクッと小刻みに震えた後、力が抜けて壁に寄りかかった鬼道は、そのままズルズルと乾いたシャワー室の床に両膝をつく。

「乳首さわっただけでイッちまったの?」

 制服が汚れたから、後で誰にも見つからないようにジャージを取ってくる羽目になるだろう。しかも授業はフケたし、練習も見学になりそうだ。
 元々些細な遊びで負けた鬼道に、興が乗って持ちかけた罰ゲーム。後で三倍返しに遭いそうだが、今の状況は二度と無いかもしれない貴重な瞬間。
 ズボンがシワになるのも構わず膝立ちになった鬼道が、尻を突き出しながら顔だけ振り向いた。

「いいから……はやくしろ……っ」

 ネットで買った銀色の小さな楔。初心者用とはいえ、十分に役目を果たしてくれたらしい。鬼道の言外の希望通りそれをゆっくりと引き抜いて、代わりのモノを挿し入れた。驚くほどすんなりと、少しずつ入れるはずが一気に奥まで入ってしまった。

「くぁ……ッッ」
「あ、すげっ……! トロトロ、」

 内側に溜まっていたジェル状のローションを纏って、ほぐれにほぐれた入り口を攻める。
 鬼道は壁にしがみついて、息も絶え絶えになっているようだ。彼の股間からはポタポタと雫が垂れ、またガクガクと震えた。

「あぁ……ッやべ、出る……」
「なっ……! よせ……ッ」

 そう言われても。不動は溶けかけた思考を必死に巡らせようとしたが、迫り来る射精感には抗えそうにない。
 鬼道が腕に力を入れて、立ち上がろうとしているのか、身をよじろうとしているのか、しかし動こうとしたことで余計に締め付けられ、結果は早まった。

「鬼道……ッ!!」
「ぅぁ……っ」

 こうなったらもう、思いっきり注いでやれ。後で罵られようが、一週間口を利いてくれなくなろうが、知ったこっちゃない。
 鬼道の体を後ろから抱きしめて、抑えていたストッパーを全て外す。訪れる至福の瞬間を、一秒すら惜しんで記憶に刻みつけた。

「……はぁ……はぁ……、くそ……っ」
「あぁ……わりぃ」

 悪態をつかれ、不動は素直に謝っておいた。素直な態度に見えたかは疑問だが、鬼道は未だふらふらする頭を片手で押さえ、盛大にため息を吐く。

「はぁっ……おまえ……っ、一生許さん……っ」

 案の定、制服はドロドロのグチャグチャ。まだ授業中だろうから、これからシャワーを浴びて、制服をカバンにとっとと突っ込み、隣のロッカールームへ行ってジャージに着替える余裕はたっぷりある。

「一生って良い響きだな」
「馬鹿か?」

 床に座ってグチャグチャのまま、抱きしめながら耳元で呟いた。
 返ってきたのは軽蔑混じりの悪態だったが、少しして呼吸が落ち着いてきたころ、ゆっくりと長いキスをした。








2017/10


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