<my sweet honey>
玄関ドアの鍵を開け、中へ入って戸締まりをする。その音で分かったとはいえ、すぐに足音が近づいて来る。待っていて、聞き耳をたてていたのか。
「おかえり~」
ぱたぱたとキッチンから出て来た不動は、白黒ボーダーのロングTシャツの袖をまくり、膝上丈の緑のカーゴスカートの上に、淡いあずき色の胸当てつきエプロンを着けている。ミニスカートからスリッパまで剥き出しの生足も非常に魅惑的だが、エプロンの胸当ての上からでもはっきりと分かる豊満な乳房の存在に、思わずごくりと生唾を呑み込む。
「ただいま」
「お疲れさん。とりあえず風呂入ってリラックスしろよ」
結婚して、半年。自宅に帰ると女性が、というか妻という存在が出迎えてくれることに、まだ慣れない。
「あ、ああ……」
やや挙動不審な鬼道の様子を見て、不動は首を傾げる。
「……どうかした?」
「ん? いや、なんでもない」
リビングへ向かってなんでもないように歩き出すが、ついて来る不動がニヤリと笑って言う。
「あ、もしかしてアレやって欲しかった? おかえりなさいアナタ~。ごはんにする? お風呂にする? それとも……ってヤツ」
「ち、ちがう。あんなの、本当にやる奴があるか」
思わず廊下で立ち止まり、否定するのだが、不動は余裕の笑みを浮かべたままだ。
「やってもいいよ?」
「やらなくていい」
「じゃあ、オレはただいまのちゅーがいい」
ぐいっとせがむように突き出された、艶っぽく色付いたあまりにも魅力的な唇を見て、小さく溜息を吐いてから口付ける。
軽く応えてすぐに離れるつもりだったのに、不動はすかさず鬼道の唇を絡め取り、歯列を割って舌を滑り込ませてきた。
仕事と行き帰りの運転で消耗した神経に、幸福というみずみずしいエネルギーが染み渡っていく。頑丈に閉め切っていた扉を開けて本能が溢れ出し、いつの間にか淫らに求め合うようなキスへ変わっていく。
胸を押し付けるように抱きつかれ、鬼道は身じろぎした。
「ふ、不動……、その……」
離れて欲しいと言いかけた薄い唇に、爪を短めに切り揃えた人差し指を当てられる。
「やだ。あきおって呼べよ」
いたずらっぽく笑い、鬼道の顎に唇を付けるので、生唾を飲み込み口を開く。
「明王」
「なぁに〜?」
その華奢な肩を掴んでおきながら、鬼道は目を閉じて顔を逸らし、下腹部から湧き上がるものをぐっと堪えた。
「風呂に入るんだ、おれは」
そう言ってさっさと離れれば良かったのに、返事など待っているから、不動が右手の甲で、スラックスの上から股間を撫でる隙が生まれるのだ。ほとんど力を入れずに撫で下ろしただけなのに、存在を主張し始めた熱源をはっきりと感じられたはず。キスだけで興奮した自覚は、一応ある。
「後でいーじゃん。ホントに疲れてたら、こんなん、ならないだろ」
「っ……」
鬼道を見上げながら、さす、さす…っと、不動は手を動かす。
彼女が扇情的に小さい舌を覗かせ唇を舐めるのを見て、はぁ…と溜息を一つ。鬼道は不動の頬を撫で、その青緑の強気な目を見つめた。
「仕方のない奥さんだな……」
凛々しい眉の下で、赤い目が優しい光を湛え、うっすらと欲情の炎に揺らめく。
「う、わ……オクサンだって」
「嫌か?」
不動は再び鬼道の肩に両腕を回し、体を預けた。
「……嫌だったらここにいねーよ」
あまい、あまいキス。何度も重ね、舌を絡ませ、淫らさを増していく。
スイッチの入った鬼道は、力加減が少し強くなる。腰を抱いていた手を下ろしていき、スカートごと尻を掴んだ。柔らかい肉の感触が、股間の熱を煽る。
手を自分との間へ割り込ませ、スカートの中に滑らせた。温かく柔らかい太腿の間をゆっくり進み、湿った布地へ辿り着く。
「ぁ……ここで……?」
「問題が、あるか……?」
キッチンのカウンターに掴まらせて、太腿の感触をもてあそぶ。
「ん、ふ……早く、したい」
下着を手探りで避け、指が濡れたのを感じて、その先へ押し進める。不動が小さく声を漏らすのを聞きながら、自然に開く足を割って、中指と人差し指をひだの内側へ挿し入れた。
「ひぁっ……! ぁ、や……っゆう、とっ……」
ぬチュッ、チュくゥッと、いやらしい水音が鼓膜を犯す。しがみついてくる不動とキスをしながら手を動かしていると、間もなく変化が訪れた。
「んぁっ! だめ、ゆうとぉっ……や、や、ぁ、あ、イクぅっ……ふぁあッ!!」
ビクビクンッと、不動は絶頂の快感に全身を震わせ、収縮して、ふっとゆるんだ。
「早いな」
「ずるい……有人のでイキたかったのに」
今度は鬼道がキッチンのカウンターに掴まる番だ。フローリングに膝をついた不動がスラックスを下ろし、下着を落とす。現れた、猛々しくそそり立つ肉棒をうっとりと眺め、手に取った。
「もう、こんなになってる」
硬さを確かめて嬉しそうに言うが、離そうとはしない。根元を指先でさすりながら、先端を口に含む。
「んっ……む、はむ……ぅ」
「ふっ……く、っ……」
器用な指と舌に翻弄され、最上の悦びを与えられる。
先程からお預けを食らっていて、限界が来るのは早かった。普段は冷静沈着で忍耐強いはずなのに、不動の誘惑には理性が効かない。
「くっ……出す、ぞ……ッ」
ぱくっと咥えた不動の視線を確かめて、安堵感も手伝い、一気に射精した。目を閉じ、めまいを堪えながら、呼吸を落ち着けようとする。
「っん、んふ……、多いね」
白濁が嬉しそうな彼女の小さな口から溢れて、エプロンにポタポタと垂れた。
「ごっそーさん」
口元を拭い、不動は濡れたエプロンを外して丸める。
「ふぅ……。腹が減ったな……」
「んじゃー、メシにすっか……」
立ち上がった不動を抱き留め、背後から手を伸ばして体をまさぐった。
「明王」
「ぅあ……っ、ちょ、ふぁあっ……」
乳房を鷲掴みにして、欲望のままに揉みしだく。邪魔なエプロンが無くなったので、服を捲り上げ、ブラジャーのホックを外した。EカップかFカップか、サイズなど詳しいことはよくわからないが、やはり、素肌の方が柔らかさと体温を手に直に感じられて気持ちいい。達したばかりの下半身が、もう疼き出している。
「まだ足りない」
「んぁあっ」
指先に掛かった突起を優しくコリコリと刺激すると、さっきよりやや高めの媚声がこぼれる。腰が揺れて、やわらかい尻を押し付けられ、剥き出しのままだった鬼道自身は再び絶好調の硬さになった。
「ゆうとぉ……もおむり、挿れてえ」
甘えた声でねだる不動に、返事の代わりにキスをして、体をまさぐり合いながら数歩移動する。
不動はソファに座った鬼道の膝の上へ腰を下ろし、太腿に当たった肉棒をそっと支え、自分の秘部へ導く。再び底知れない歓びを感じるまで、時間はかからなかった。
「んはぁああ……っ、スゴ……気持ちいッ……!!」
待ちかねた快感で力が抜けて、不動の動きが緩慢になっていく。もっと強い快感を得たくて、体勢を変えて彼女をソファに座らせ、足を思い切り広げさせたところへ一気に挿入した。
「くぅぁああっ」
不動の片足を掴んで固定し、自分はソファの座面に片膝を乗せ、本能に身を任せる。腰を打ち付けるたび、内壁をえぐって、ヒダが一つ一つ打ち震えた。きゅんきゅんと締め付けられ、鬼道は目の奥が白飛びするのを感じながら、一心不乱に腰を動かす。
「やばっ……おかひく、なっ……はうっ……ぅあぁっ……」
青緑の目が快感に歪んで、ぽろぽろと涙をこぼした。律動の合間にキスをするのも難しくなってきて、固く抱き合いながら根元まで楔を打ち込む。
「っく、ふっ、はっ、ふぅっ、あきお……ッ」
「もっとッ……はげしッんぁ、おくッ……奥ゥ……ッ」
激しい律動に合わせて、不動の腰も揺れる。鬼道が挿入するたび、より奥まで導こうとし、内壁を刺激して奥の壁を叩くと、全体が収縮して刺激を返してくる。得も言われぬ快感。
パンッパンッと肌が肌に叩き付けられる音、二人分の乱れた呼吸、ズリュッヌチュッという卑猥な水音が混ざってリビングに響き、溢れた愛液が鬼道のスラックスを濡らした。
「ひッ、イくッ、イッちゃああッ、ンぁあああ~~ッッッ!!!」
「く、ぅうう……ッッ!!!」
勢い良くラストスパートをかけ、一瞬先に達して痙攣しながら収縮している不動のナカに、思い切り注ぎ込んだ。唇を寄せ、温かい乳房を揉みながら、暫し恍惚に浸る。
さっき彼女の口内に吐き出したはずの欲望が、もうこんなに溜まっていたのかと自分でも驚く。彼女といると、今まで眠っていた雄の本能が疼いて堪らない。
「は、ぁ……すき……大好き。オレの……ゆうと……」
両腕と両足でしがみつき、最後の一滴まで絞り出すかのようにヒクヒクさせながら、不動がうっとりと夢見心地につぶやいた。
「ああ……俺も、愛してる……明王」
抱き合いながらキスをする。何度も、何度も。欲しいからじゃない。与え足りないから、繰り返すのだ。
ゆったりと一緒にシャワーを浴び、黒い∨ネックシャツとゆったりした綿のパンツという部屋着に着替えた鬼道は、温かい夕食が並ぶテーブルへついた。
リラックスしながら二人で向かい合い、不動が用意した中華と和食が混じった彩り豊かな惣菜と、白米と味噌汁を口へ運ぶ。
「お前は俺の妻だ……だから、もう少し、体のラインがハッキリとは出ないような服を、着てくれないか」
勇気を出してそう言うと、不動は少し考えてから首を傾げた。
「これ、だめ?」
「い、いやっ、決してだめというわけでは……俺としては、その、構わないんだが……」
箸先で辛口に煮た金目鯛の身を一口大に切り分けながら、鬼道は小さく咳払いをする。
「留守中に、宅急便の男とか、いろいろ来るだろう。買い物にも行くだろう。犯罪というのは、いつどこで起きるか分からないんだぞ。俺の心配を減らすためにも、もう少し自分の魅力を自覚して、気をつけてくれ」
ちょっとクドクドと言い過ぎたかと思ったが、意外と言うべきか、不動はすんなり頷いてくれた。
「いいぜ、わかった。気をつける」
「ああ、たのむ……家の中でも、これでは俺の身がもたない気がするが……」
「そお?」
もぐもぐとふっくら炊けている米を咀嚼し、飲み込んでから、小さな声で彼女は言った。
「……有人に喜んで欲しくて、けっこう必死なんだよ……」
すぐに味噌汁を飲む仕種で本音を隠そうとする不動の目を見つめ、思わず微笑む。
「十分喜んでいるから、大丈夫だ。料理も、最高にうまい」
ちら、と青緑のつり目が見つめ返し、また味噌汁へ視線を戻した後、はにかんだように笑った。たまらなく可愛い。
「あ、じゃあ、胸を隠すような服着て、有人が帰ってきたら脱ごっかなぁ?」
「脱がなくていい、目のやり場に困る」
「そお? じゃあエロい下着買っとく」
「勘弁してくれ……」
テーブルの下で、スリッパを脱いだ裸足の指同士をつつき合い、くすくす笑う。
不動と視線が交わり、溜めていたものを出してシャワーを浴びスッキリしたはずの体に、再び欲望が揺らめきだすのを感じた。欲望は尽きない。だからこそ、不動ならば全て受け止めてくれるのではという淡い期待が、余計に加速させることも分かっている。
まだ、食事中なのに。鬼道は気付かれないよう溜息を吐いて、ベッドへ行くまでどうやって理性を保たせるか考えた。
2017/06