<5000ピースのジグソーパズル 19>







372

ガシャンと派手な音がした。イナズマジャパン合宿所のミニキッチンに、風丸、ヒロト、立向居、綱海、円堂といった面々がいて、近くを不動が通りかかったところだった。
鬼道は豪炎寺と椅子に座っていたが、騒ぎを見にキッチンへ向かう。
「バカヤロ、動くんじゃねぇよ!」
不動が風丸を後ろから抱き締めて動きを抑え、片付けようとして焦る立向居に叫んでいた。
「はい、退いてくださーい!」
虎丸がホウキとチリトリを持ってやってきた。割れた皿の破片がジャラジャラと集められていく。
皆が口々に虎丸を労っていると、不動が掃除機を持って来た。虎丸と、申し訳なさそうにしている立向居を手伝おうとした風丸に再び怒鳴りつける。
「おい、動くなつってんだろ! バカか、てめぇら!」
掃除機で細かい破片を吸い取り、デンジャーゾーンは再び平和を取り戻した。掃除機が止まり、円堂と風丸の声が聞こえてくる。
「本当、面倒見いいよなぁ」
「うん、母ちゃんみたいだ」
振り向いた不動は円堂の笑顔を見て、茹で蛸のように真っ赤になった。
「フン。気ィ付けろ、鈍くせぇ」
掃除機を持ってさっさと行ってしまうのを眺めていると、豪炎寺が笑った。
「あの余計な一言が無ければな」
「――そうだな」
心の中を見透かされた気がして、鬼道は慌てた様子を見せないよう静かにテーブルへ戻った。






4034

四年に一度のワールドカップだというのに、日本代表イナズマレジェンドジャパンの司令塔は一人だった。鬼道は国歌を聴きながら、胸に拳を当てて深呼吸する。この歓声を、熱気を、十人の友と分かち合う。だがその中に、不動はいなかった。代表に選ばれ、メディアに公表する直前になって、本人から参加を辞退すると連絡があった。
故障かと噂されたが、あれから話もしていないし聞いていないので、実際のところよく分からない。一度電話したら、適当に誤魔化して切られてしまった。忙しいようだが、サッカー関連で話は聞かない。実家に帰っているらしいと風丸が言っていたが、家族のことは聞いたことがないので分からない。
(お前がいないなら、最高のプレイをして見せてやる)
あんな奴のことを気にやんでいる暇はないと割りきって、今しっかりと両足で芝の上に立っている。ホイッスルが鳴るまで、久しぶりの緊張感に全身が高鳴るのを感じた。






407

砂浜にせり出すようにして存在する岩の端に、円堂の背が見えた。
「おっ、不動! こっち来いよ」
「何してんの? こんなとこで」
ジャージのポケットに手を突っ込んだままで、不動は怪訝に眉をひそめた。円堂は不動が自分の誘いを無視していることにも構わず、夜空を見上げて両手を広げる。
「見てみろよ! この星空を見てると、すっげーワクワクしてくるんだ」
「いいけど、そろそろ寝ろよ。明日は閉会式だぜ?」
そう言いながら見上げた空は、確かに見たことがないほど美しく煌めいていた。
「母ちゃんに電話したら、帰ったら高校に入る準備だって言われてさ。俺、先のことなんて分かんないけど、なんかすげーよな!」
静かに波が打ち寄せ、心地好いBGMになっている。不動は何も言わず立っていた。
「不動は帝国に戻っちゃうのか?」
「あ? ああ……そうだけど」
「遊びに来いよ! 鬼道もいるぞ。あいつ皆勤賞だからさ」
「は?」
怪訝な顔は暗くて見えないのか、円堂は構わず続ける。
「お前たち二人を見てるとさ、すっげーアツくなってくるんだよな! 鬼道はいつも全力でサッカーしてるけど、不動がいると、二人の……何だっけ、ナントカ効果でさあ、すげーんだよ」
不動は瞠目したのち、円堂への憧憬と鬼道への執着を自覚させられ、顔が火照るのを感じた。
「……相乗効果?」
「そう! それそれ! ソージョーコーカ!」
ひとり納得する円堂を見上げ、不動は己のむき出しの後頭部を少し撫でた。
「よく分かんねーけど。馴れ合うのは好きじゃないんでね。それに、オレはあいつのライバルだ。ぶつかる方を選ぶぜ」
にやりと口元を歪ませた不動に、円堂は頷いた。
「そっか。それもいいな! あきらめなければ、いつか絶対に夢は叶う! だから、大丈夫だ!」
その目が星のようにキラキラしていて、不動は面食らった。会話が噛み合っていないようで、円堂は全て分かっている。ほとんど無意識かもしれないが、人の細かいところを見逃さない男だ。
大袈裟にため息をついて、不動はしかし微笑んだ。
「ああ、そうだな。ためになる助言をどーも」
拳骨を突き合わせ、嬉しそうな円堂が破顔するのを見届けると、不動は踵を返して歩き出した。
「あっ、おい! どこ行くんだ?」
「明日は閉会式だって言ってんだろォ。おやすみ、キャプテン」
顔だけで振り向いてひらひらと手を振り、まだ明かりのついている宿舎へ戻った。






4612

クリスマスだと言うのに自分のためだけに何か作る気が起きず、かといってチーズもナッツもササミも飽きたので、ワインだけでちびちびやっていたらいつの間にか一本空けてしまった。不動は空き瓶を持って行く途中でグラスの最後の中身を飲み干す。
(アイツが好きそうな味だ)
イタリア産、辛口の白。見たことのないラベルだから買ったのだが、彼のことだ、きっともう知っているだろう。シンクにグラスと瓶を置いて、己の思考回路に気付きげんなりした。
(ったく、こうやって生きてくことしかできねぇのか、オレは……)
ソファへ戻り、不動は体の力を抜いてもたれかかる。色々なものが溜まっているし、体調も絶好調というわけではない。
ドイツへ来て一ヶ月、規律に厳しくきちんとした物づくりをする国民たちは親日家が多く、思ったより歓迎されている。強豪スペインに認められた男ということ もありチームにはすぐに馴染め待遇も良かったが、どうも調子が出ないのはやはり二年分のブランクが効いているのか。自分は慣れていると思っていた孤独も、 いつの間にか心を侵蝕していたらしい。
(絶対、アイツの女房よりイイ女見つけて結婚してやる。この際、ドイツ人でもポルトガル人でもいいや。胸がデカくて、器量良しで、明るくて楽しい女)
軽率で自暴自棄な考えが浮かんだのち、不動は思った。
(そうすると国籍はどうなるんだ? つーか、式とか入籍とか、めんどくせぇ……)
再び目を閉じる。面倒くさいなんて、不健康な言葉第一位だ。
(あーあ。結局、こうやって生きてくのかよ……バカだねぇ、オレは。どこで間違えたんだか――)
ドイツ人は基本的にはフレンドリーだが、キャプテンのライナーはどうも干渉しすぎる性格らしい。ちょうどクリスマスということもあって、家族構成や恋人のことまで根掘り葉掘り聞いてくる。
悪いことではなく、チームを円滑にまとめるためにはむしろ必要なのだが、回答が億劫になった不動はつい、日本に相手がいると口を滑らせてしまった。
"いやぁ、初恋相手が何となく忘れられないってだけなんだけどさ"
早く話題を変えたかったのに、さらにライナーの興味を引いてしまったらしい。
"へえ! いつから? 付き合ってるの?"
"付き合ったことなんか無いし、今は連絡も取ってない。中学二年の時に出会ったんだけどさ"
"ええっ、じゃあ……十年以上も片想いしてるのか?"
"ああ……そうなるな。別に、片想いって程でもないから気にしないでくれよ。そのうち可愛い女の子でも見つけるさ"
言ってから、ライナーの感嘆は意外とダメージが大きかったことに気付いた。かれこれ十二年もこんなことを続けていれば、麻痺もしてくるわけだ。不動は身を起こした。殺風景な賃貸の部屋で独り、外は薄暗く雨の音が聞こえる。
それなりに誰かと付き合ってきたつもりだが、今思えば男も女も彼の代わりに性欲をぶつける相手でしかなかったように感じる。自分はこんなに酷い奴だったのかと失望して、何故こうなったのかを考えた。
そもそもあの時、十七歳の夏の部室で、誘いに乗らなければよかったのか? しかし無知で青臭いうちは、目覚めたばかりの性欲に逆らうなど不可能に近い。理性が成長すると、それが言い訳に使えなくなるだけだ。
それなら、再会した時に同じ過ちを繰り返したせいか? 体を重ねる度に深みに嵌っていくのを自覚していたくせに、やめようともしなかったのは、誰よりも大きな荷を背負いながら一人茨の道を進む彼を放っておけなかっただけだろうか。
昔から思いやりなんてものは持ち併せていない。あるとすればお節介の類だが、単に怖かっただけだ。少しでも自分を必要としてくれるなら、彼の為に何だってできた。
(ちくしょう……)
いつからか、彼を追いかけていた。ずっと、追いかけていた。気になったのは類稀なる技術や頭脳だけではない。始まりはあの時――激しいドリブルの最中でゴーグル越しに見た、負けず嫌いの赤い瞳に惹かれたのだ。これを運命というなら、あまりにも残酷すぎる。






369

夕食後のひととき、イナズマジャパンの宿舎は楽しげな笑い声もとい少年たちの他愛ない馬鹿騒ぎで満ちている。入浴までの自由時間、カードゲームで盛り上が る横で駆けまわったりボールを投げたりしている連中がマネージャーの怒りを買っている間、さっさと部屋へ引き上げる者も何人かいる。
ふと見るといないというのはよくあることだったが、鬼道は彼に対していない時はどこにいるか程度の予測を立てられるようになっていた。だがドアをノックする躊躇が起きる前に、廊下で不動に出くわしてしまったのは予測していなかった。
「なンか用?」
この時間に二階の廊下を歩いて、向かった一角には不動しかいない。誰かを探していることにしてもよかったが、今はメンバーのほとんどが階下の談話室に居り、それに怒りが先に出てしまった。
「思い上がるな。おれはまだ、お前を信用したわけじゃない」
横を通り過ぎて、突き当りのトイレに向かう。不動はその背中に声をかけてきた。
「オレたちが初めて会ったときのこと、覚えてるか?」
楽しんでいるような声で傷を逆撫でされ、さらに怒りが増す。
(こいつは馬鹿か?)
愛媛でのことは当然強く印象に残っていたが、自ら自分の評価を下げるようなことを平気で言うとは、怒りを通り越してバカバカしくすら思えてくる。
「――忘れる筈がない」
顔だけで振り返り、鬼道はトイレへ入って一息ついた。あの時のことは比較的鮮明に覚えている。何しろ友だちを失いかけ、取り戻し、不動と強烈な出会いを果たした。あの頃唯一、決着がつかないまま終わってしまった試合で、彼と対峙した。
(ぶつかって、ぶつかって、必殺技が生まれたのは初めてだ。そもそも、あいつと連携ができるなんて……)
鬼道は蛇口をひねり、水を出した。冷たい水が洗面器に当たってユニフォームの腹部に少しだけ跳ねる。
(そうだ、あの時もぶつかった――)
混乱を払い落としたくて、火照った顔に水を当てて深く息を吐きだす。ベルギーの諺を思い出した。ダイヤモンドはダイヤモンドで削る。
(まさか……不動は、そのことを?)
顔を手早く拭って勢いよくトイレから出たが、廊下には誰もいなかった。
後味が悪く、モヤモヤとする。ただ混乱させたいだけなら大成功だが、その後見かけた不動は何も仕掛けてこなかった。鬼道の心に、さらにモヤモヤが増えた。






4311

昨日、不動と一年ぶりに会って、唇を重ねて、そして思い知った。やはり彼との絆を断ち切ることはできないのだ。
女々しい気もするが、これが恋というものなのだろう。おれは海外ドラマを映す四ニ型の液晶画面をぼんやりと眺めながら、なんとかして思考から奴を追い出そうと必死になっていた。
ドラマの準主人公である連邦警察特殊捜査官は、事件捜査の関係で昔の恋人と再会する。彼女は事件に関わっていないことが分かった時、ほっと胸を撫でおろした捜査官は言う。
『あの時のことは、もう怒ってないよ』
付き合っていた十年前の学生時代、結婚を約束していたのに突然、彼女は消えてしまった。一通のメールが残され、捜査官は大きな街へ向かい新しい人生を始めた。
彼女は哀しげに笑って応える。
『運命の人に出会うのが早すぎたのよ。十年前は心の準備ができていなかった。浅はかで愚かだったわ。私、恐かったの』
二人はソファの横で向き合って立っている。
『でも、今は――』
彼女は一歩進み、捜査官の頬に片手を添える。彼はゆっくりと微笑した。
『最初から、運命なんて無かったのさ』
捜査官は仕事へ戻り、相棒の捜査官と無事に殺人犯を捕まえ事件を解決した。
おれは深く考えないことに決め、宗一朗にサッカーと勉強を教え、風呂へ入ってぐっすり八時間眠った。






4800

一歩ずつゆっくりと深い赤紫色の絨毯を踏みしめて、義父の屈む机へ近づいた。先ほど挨拶を済ませた宗一朗は、広間でメイドと遊んでいるはずだ。午後の斜陽が窓から差し込み、部屋を温めている。目を上げた義父に、鬼道は言った。
「お見合いの話は、まだありますか?」
義父は逡巡したのち、ふうと息を吐いてペンを置き、ゆったりと椅子に背中を預けた。
「座りなさい」
側にあった椅子を引き寄せて、鬼道は腰を下ろす。義父は老眼鏡を外して、机に置いた。
「よく考えたのか?」
鬼道にはよく分からなかった。
「はい、考えました。おれは父さんに、自分にできることで恩を返したいんです。それが一番の願いです」
実家には、昨日の昼過ぎから滞在している。宗一朗を紹介することが目的だったが、本当に話したかったのはこの事だ。
「それに、もう二十七ですから。いい加減に身を落ち着けないと。鬼道家次期当主として振る舞うべく、全力を尽くします」
自信に満ちた微笑を浮かべる鬼道に対して、義父はやや渋い顔を向けた。
「――分かった。相手は慎重に選ぶとしよう」
鬼道は義父が目線を動かすのを待って、ほっと胸を撫で下ろした。背後でドアが開く音がして、宗一朗が入ってきた。ちょうど、義父が口を開いた。
「宗一朗くんは、どうするんだ?」
宗一朗は嬉しそうに近づいて、鬼道の膝に片方の尻を乗せた。
「成人するまで一緒に住むつもりです。ただ、やはり恥ずかしながらおれ一人では不足な時もあるので、母親の代わりが必要ですね」
「ふむ……そうだな」
義父が微笑みかけると、宗一朗は笑い返した。すっかり人懐こくなったらしい。
「僕、あきおがいい!」
少年の無垢な声は書斎に響き、見えない部分で鬼道を貫いた。
部屋が静まる。辛うじて、笑い飛ばすことができたのは、既に心に保護膜を張っていたからだろう。
「はは……何を言っているんだ。あいつは男だし、役に立たん」
「なんでー? おいしいごはん作ってくれるよ。お部屋もピカピカにしてくれるし、歩きおんぶもしてくれるよ! こないだはねー」
延々と語りそうな宗一朗の頭を撫で、鬼道は苦笑した。
「あいつは忙しいんだ。宗一朗――もう少し、大事な話があるんだ。ハルミさんと遊んでいてくれないか? 良い子だから」
「はぁい……」
つまらなそうな顔をして、ぶらぶらと退室するのを見送っていると、ドアが閉まる前から義父が言った。
「誰だね?」
心臓が跳ね上がった。
「た……ただの友達です。宗一朗と妙に気が合うようで……ですが、大した奴じゃありません」
「そうか。どんな奴なんだ?」
その声が、質問しているというよりはあまりにも穏やかで、ついその先を喋ってしまった。これは義父の得意な世渡り術の一つである。
「FFIで一緒だったんです。高等部は同じクラスでしたが、不器用だし、これといって取り柄もない」
半ば自棄になって、次から次へと言葉が浮かび、不本意ながら饒舌になっているのを止められないでいる。
「教養も財力も無ければ、人格は穴だらけ。ガサツで粗暴で、段ボールみたいな男です」
さすがに欠点を並べすぎた気がして、咳払いをする。とにかくもう関係ないので気にしないでくださいと口を開きかけた時、義父が言った。
「私は――お前を、何不自由なく暮らせるよう育ててきたつもりだ」
義父は立ち上がり、窓の前へ歩いていく。天井近くから腰の辺りまで開いた大きな窓にはレースの遮光カーテンが引かれ、部屋の中に柔らかい光を投げ込んでいる。
「だが、ずっと不自由なままにさせてしまったな」
「そんなことないです。父さんはおれにはもったいない程、たくさんのものを与えてくれました」
困惑しながら必死になる鬼道は、窓を開ける義父の背中を見て、立ち上がるべきか迷っていた。カーテンが初夏の風にそよそよと揺れ、義父は腰の後ろで手を握り合わせて一呼吸おく。そのまま振り向いて、血の繋がっていない一人息子の目を見た。
「いいか、有人。養子を迎え入れた時点で、私の血筋は途絶えているんだ。今更こだわることもないだろう……実の子が必ず優秀かと言えば、そういうわけでもないしな」
数歩進んで来て優しく微笑むその言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。親しくしているとある会社社長の息子はやりたい放題で、ろくでなし同然だ。そこまで極端でなくとも、父親が実業家でも息子は平凡だったり、その逆だったりというのは、よくある話だ。しかし義父は血迷ったのか、さらに続ける。
「家名と誇りさえ残っていればいいのだよ。そんなことよりも、お前がここに来た意味をもっと考えなければと思っていたんだ。お前なら大丈夫だ、好きなようにしなさい」
鬼道は困惑した。
「はい……? しかし……! 父さん、おれが来た意味は――」
「お前の役目は、この家を維持して、その名に相応しい人間で在り続けることだ」
「おれは、この家に相応しい人間になれるんですか?」
「有人……何度も言ってきた事だが。一点の恥もなく、世界に向かって胸を張って立っている、それが鬼道家の人間だ」
義父はふっと笑い、鬼道の頭に大きな片手を軽く置いた。
「そして、全てを凌駕しコントロールする。良い方向へな。そのためにはまず、お前自身が完璧であるべきだ。違うか?」
何と言っていいか分からず混乱の中にいた鬼道は、サングラスの中で目が潤むのに気付いて、理解した。サングラスを外して目を拭い、微笑がひろがる。立ち上がり、父親の広い胴にしっかりと両腕を回す。やっと完全に思い込みを捨てることができた。
「父さん。ありがとう」
抱き返す腕は慣れていないために少々ぎこちなかったが、優しくその背中を叩いてくれた。






4809

突然今まで閉ざされていた――自分で閉ざしていただけだが――道の扉が開き、どこへでも行っていいんだと言われ、鬼道は混迷していた。どう一歩を踏み出すべきか考える必要があった。
義父の言葉は心底嬉しいが、ここで決めた道を選ぶということは、重大な責任を伴う。ゆっくり考えようと、宗一朗と共に自分のマンションへ戻ったはいいが、決めてしまわないことには落ち着かない。
どうするべきか思考を整理しながら何気なく見ていたニュースの隅に、名前を見つけた。それは欧州リーグ復帰で話題になった彼に、胸中を洗いざらい語ってもらおうというファン向けのインタビュー記事だった。

――まずは、完全復帰おめでとうございます!
不動明王選手(以下、不動):ありがとうございます。
――この二年は、どうされていたんですか?
不動:身内に不幸があって、実家にいました。それだけでなく、僕自身ちょっと休息が必要だなと思ってたんですよね。ノンストップで行き過ぎてたんで、小休止みたいな感じで。二年は休みすぎましたけど(笑)
――確かに休むことも大事ですよね。今回、復帰のきっかけになったことは何があるのでしょうか?
不動:やっぱ、このままじゃいけないなって思ったんですよ。自分を応援してくれてる人がいるんだって、改めて実感したのもあって。これは全身全霊で応えなきゃいけねぇな、と。
――私も応援してますよ。
不動:ああ、ありがとうございます(笑)
――中学時代から想い続けている方がいると聞きましたが、その方も応援してくれているでしょうか?
不動:誰に聞いたんですか(笑)。それは学生時代に終わった話です。プロになるって決めてから、サッカーのこと以外は考えてる場合じゃなくて。よく余裕ぶっこいてるって言われるんですけど、今も昔も自分のことでいっぱいいっぱいなんです。
――だから相手を見極め、裏をかくトリックプレーが得意なんですね。今も独身ということは、誰にでもチャンスがあるように思えますが(笑)、その時のお相手はどのような女性だったんでしょうか?
不動:まだ話さなきゃダメですか(笑)。そうですね……正義感の塊みたいな性格で、生真面目なのに、お茶目なところもあって。オレとしょっちゅう意見が分かれて、ケンカばっかりしてましたね。
でも高校入って、スペイン行きの旅費をバイトで稼いでたんですけど、オレかなり無理してて、その時見かねてその子が手作り弁当持って来てくれたんですよ。 それが涙が出るほど美味くて。あんなに仲悪かったのに応援してくれるんだって、嬉しかったんですよね。あれ以来、食事に気を使うようになりましたしね (笑)
――ステキな方ですね。今はどうされているのでしょうか?
不動:さあ……あんな子は、とっくに結婚して良い嫁サンになってるんじゃないですかね?(笑)サッカーにしか興味がない奴には勿体無いですよ。
――甘酸っぱい思い出を語っていただきました。最後に、これからの意気込みをお願いします。
不動:代表入りも逃したんで、しばらくブンデスで修行させてもらおうと思ってます。まだまだ絶頂期ってヤツを迎えてないんで、自分ではもっと上へ行けると感じてます。良い意味で、皆さんの期待を裏切ってみせますよ。

やや間を置いてから、液晶画面が滲んで歪んだ。彼の嘘と行間に込められた想いを理解できるのは、この世でただ一人だけだった。
「ふ――ぅ……っ」
肩を震わせて、鬼道は額を押さえる。何か確実なものが欲しかっただけで、本当はこの心に抗えないことを分かっていた。恐らく、随分前から知っていた。もっと早く認めてあげれば良かった――そんな後悔が脳裏を過ぎったが、それ以上に満たされた。
自分が何をすべきか分かった瞬間は、雲の隙間から一条の光が射して大海を照らしだしたかのようだった。その為に、手遅れにならないうちに確かめなければ。鬼道は指先で目元を拭い、咳払いをして携帯電話を手にとった。
「フィディオ、おれだ。頼みがある」
電話の向こうはお祭り騒ぎと化したが、声も聞き取れないような騒がしさも今は心地よかった。






4841

国際親善試合でイタリアと対戦することになった。だが順位が付かないからといって、油断はできない。
不動はここのところベンチスタートになっており、最後までピッチに上がらないこともしばしばだった。しかしこの日はスタメン起用された。思えば、ここでまず異変に気付くべきだったのだ。
両チームのキャプテン、フィディオ・アルデナとライナー・マイセンが握手し、審判員がコインを天に向かって弾き上げる。
やはりイタリアの白い流星は一筋縄ではいかない。わざと仕掛けたトラップも見抜かれた前半戦、悪戦苦闘の末になんとかディフェンスの穴を見つけることはできた。
ハーフタイム中、渋い顔の監督とどうやって白い流星を堰き止めながら攻めに行くか論議していると、不動の耳にアナウンスが聞こえた。
――選手交代。二十一番トンニーノ・アレッシイから、十四番ユウト・キドウへ。
考えるより先に、体が動いていた。ベンチから飛び出した不動の目に、反対側のピッチでアップする選手の中に見慣れたドレッドが混じっているのが見えた。
なぜ知らなかったのだろう? 敵軍のリストも全て目を通し、どういった戦略で来るのか把握して予測を立てた上でプレーするのだから、見落とすなんてあり得ない。
フィールドの端と端、お互いの姿を認める。不動はしばらく呆然と立ち尽くしたが、どうしようもない高揚感を抑えてミーティングに戻った。







鬼道有人はほぼ常に、人間の成しうる範囲の限界まで完璧だった。
不動は今まで、完璧な戦略を壊して相手のペースを奪うやり方をしてきた。しかし今日突如として現れた鬼道は、変化していた。
完璧さを追求し続け、正確で一分の隙もないプレーだったのが、自ら崩して予め不完全にしてきた。完璧になるはずだと予測してもここぞというところでハズ してくる。完璧を崩すのは得意だったはずなのに、相手にそれをやられては、どちらへ転ぶか見当もつかない。調子が狂うのを必死に立て直し駆け回りながら、 不動は奇妙な違和感に動揺を隠せないでいた。
(あいつ、何か変だ)
彼に何があったか知らないが、今までの鬼道有人とは違うことは明らかだ。
(どうせお遊びだろ。全力で付き合ってやるよ)
具体的にどう違うのか、なぜそのような変化を遂げて、なぜ今日ここに来たのか、じっくり推理して分析するのには時間が必要だった。
とりあえず観客が自分たちの因縁の対決を望んでいることだけは察したので、不動は一瞬ニヤリと笑み、期待に応えるべくボールを高く蹴りあげた。






4842

静かなスタジアムの観客席に、不動はひとり座っていた。六万六千人分の歓声がまだ耳に残っている。
試合後の打ち上げが終わった後は、逃げるようにアパートへ帰ってきた。どうせ鬼道は彼を労い称賛する者たちに囲まれていてゆっくり話も出来なかったのだから、気が利く奴だくらいに受け取ってもらえればそれでいい。
しかし翌朝一番、普通なら遠慮してかけないような早朝に、必ず起きていることを知っている人物しかかけてこない時間に携帯電話が着信を知らせた。いつで もいいから二人きりで話しておくことがあると言う鬼道に、「なら、とっとと済ませようぜ」と場所と時間を決めてやっとのことで電話を切った。
それで今、観客席に座って後ろから階段を降りてくる足音を聞いている。
「ここにいたのか」
長らく聞いていなかったような気のする声が、後ろからかけられたが、不動は振り返らないでいた。
「良いゲームだったな」
鬼道は通路側に座る不動を見て、通路を挟んだ反対側の列の端に腰を下ろした。
「ああ。まったくだ」
「で、何の用?」
相手にしたくないオーラを全開で放出していて、彼もそれを感じ取っているはずなのに、何故か鬼道は楽しそうにすこし笑った。
「お前に、話しておくことがあってな」
「ふーん? 結婚でもすんのかよ」
「いや、こっちへ戻るという話だ」
鬼道は一呼吸おいて、静かに、いつもの抑揚の少ないが今日は穏やかに聞こえる声で言う。
「おれはやはり、サッカーと共に生きたい。昨日はフィディオに頼んで無理やり補欠として入れてもらった。正式に復帰するのは来週からだ」
その声を聞いた不動の中で、砂時計がひっくり返されたような感覚があった。何よりも、遊びじゃないのだということが、不動を満足させた。
「へえ? どこで?」
「イギリスだ。おれのサッカーの原点を、もう一度探しに行く」
「宗は?」
「一緒に行く。あいつもサッカーバカに育ちそうだ」
「親父さん、よくオッケーしてくれたな」
「ああ。父さんはおれが、自由に生きられるようにと言ってくれた。もちろん、己の責務を果たした上でだ」
不動は家を継ぐ代わりにフィールドへ戻ったのだと解釈して、頷いた。
「二足のわらじはできねーとか言ってたじゃねぇか」
「サポートしてくれる優秀な人たちが沢山いるし、おれが関わる分は最小限にしてくれた。帝国学園も、そうだ。総帥になったのは戦略的要素が多分にあったし、おれ自身もまだ未熟なままあの椅子に座るのはどうかと思っていた」
一昨年、傾きかけていたグループ傘下の会社を一人で立て直したことで経営者の資質は十分にあると判断されたためだが、それは後で知った。
不動は、どうやって彼との距離感を掴めばいいか測りかねていた。正直に言って、こんなかたちでフィールドに戻られてもあまり嬉しくない。彼のためを思えば何だって堪えられるが、それなりに受け入れるための時間は必要だ。
「まあ、じゃあ……良かったな」
そう言って、不動は立ち上がった。
「次会う時は結婚式かねェ。ああでも、EURO出るんだろ?」
鬼道は口を半開きにしたまま、少し固まった。驚いているように見えたが、なぜだかは分からない。そんなに突拍子もないことを言ったとは思えなかった。
「ああ、どこまで行けるかは分からないがな」
答えて、彼は微笑する。不動は振り向いて、未だ座ったままの横顔をさり気なく眺めていた。
もう、こんなふうに過ごすのもこれが最後になるかもしれない。
「大会よりも、イギリスのサッカーをもう一度見ておきたいんだ。宗一朗にもちょうどいいと思う。何しろ、サッカー発祥の地だからな」
「原点を見つけるにはまず原点からってか」
幼い頃に影山に連れられ学んだものを、もう一度見に行く。彼の決断は不動の中で、尊ぶべきものとして認識された。
「多分、今までずっと避けていたんだ。イギリスへ行くことをな。でも、おれはもう自分を偽ったりしたくない」
サングラス越しに目が合って、微笑みかけてから背を向ける。どこからだろうか、何かが引っかかっている。
「いいんじゃねーの」
少し歩いて、フェンスの手すりにもたれる。やや離れたが、十分に声は聞こえた。
「明日、行く前に日本で記者会見をする予定になっていてな、全部話すつもりだ」
「仰々しいねえ」
振り向いて手すりに背を預け、腕を組んで鬼道を見る。
「全部って?」
「復帰のことと、――聞かれればプライベートも、だろうな」
やはり見ていられなくて、目線を遠くへ移した。わざわざ言うなんて人が悪すぎる。自分に恨みでもあるのだろうかと被害妄想すらしそうになった。
「へぇ、お前が結婚するなんてなァ。急に年取った気分だぜ。相手は?」
「そうだな。まず第一に、優しい心を持っていることだな」
鬼道の言葉が、やけに優しい声色が、胸をえぐりに来た。彼はこんなに、他人への気遣いが足りない人間だっただろうか?
「強さが何なのか理解していて、他人のことを理解しようと努力し、己を過剰にひけらかさず、いつもおれにその時必要なものが何なのかヒントを与えてくれる。お互いに刺激し合うような、打って響く相手だ」
「お前に見合う女なんて、世界中どこを探しても居なさそう」
皮肉っぽいコメントを返しながら、やけに饒舌なことも妙だと思った。
「――ひとりだけいるんだ。死んでも忘れられそうにないと思った奴が」
いつの間にそんな存在ができていたのか?なぜ自分が知らなかったのだろうか? 不動はつい、あからさまに眉をしかめたが、鬼道は遠く緑の芝を眺めていた。
「その人がいたからということも、おれがここへ戻った理由の一つにある。何のしがらみもなく、本当の自分としてフィールドに立ちたかった。そう思わせたのは、その人の生き様だ」
「お前がそこまで言うなんてな。こりゃあ是非とも、そのハッピーな女のお顔を拝見しに行かなきゃならねぇなァ」
鬼道はこらえきれず、小さく笑った。
「女じゃない。それに――」
混乱の中を、激流が駆け巡る。
「結婚するとは、まだ言ってないぞ」
鬼道は立ち上がって、一瞬だけサングラス越しに目を合わせた。ジーンズのポケットに手を入れ、満足げに小さく息を吐いた。不動は倒れそうになりながら、自分の精神の細さや、観察力や理解力の無さや、自惚れを罵倒し、鬼道を怪訝な目で見つめ返すことしか出来ないでいる。
「――会えて良かった。EUROが楽しみだな」
話は、唐突に終わった。
「え。……っおい、」
引き留める言葉が出て来ないし、狼狽する間にも背を向けた鬼道は出口までの階段をさっさと上がっていく。不動は混乱の中に取り残された。つい今しがたの記憶の山を必死にめくって、ある一つの可能性に辿り着く。
(まさか)
確かめる方法はいくつかあったが、階段を駆け上がってエントランスへ飛び出した時、ちょうど鬼道の車が走り去って行くのが見えた。誰もいないスタジアムの入り口で、不動は立ち尽くす。何かしなければと思ったが、為す術が無い。落ち着かない。
帰り道、何度も携帯電話を睨み、その度に考えて、やっと鬼道の言葉を思い出した。記者会見の放送情報をチェックして、とりあえずシャワーを浴びる。この時には、半ば自暴自棄になってきていた。






4844

日本へ戻り、今後肉体的な限界が来るまで選手としての活動に専念すると発表した小規模の記者会見を、不動はインターネット生中継で観ていた。
『来週からイギリスに入ります。プロと言うよりは、初めてイタリアに行った頃のような気持ちです』
『帝国学園は新総帥を迎えます。私が信頼している方で、きっと我が帝国学園に新鮮な響きをもたらしてくれるでしょう』
鬼道は、記者たちの質問に一つ一つ丁寧に答えていく。マネージャーまたは秘書らしき男が一名と、隣には佐久間の姿もあった。
なぜ正式復帰をご決断されたのですか?という問いに、鬼道は微笑んだ。
『ある人の気持ちに、応えたいんです。その人にまだ本当の自分を見てもらってないと思った時、自分のプレーも本当のプレーではないと気付きました。家のこ ともありますし、二足のわらじと言われるかもしれません。サポートしてくれる皆さんのおかげあってこその、我が儘な選択だと自負しています。ですが私自身、もうサッカーのことしか考えられないんです』
本人の自嘲がかった微笑にわき起こる、軽い笑い声。それは誰なんですか?と、同じ記者。他にも手は挙がっているが、鬼道に急ぐ気配は見られない。
『男であるとだけ、言っておきましょう。――大切な人は沢山います、とても有り難いことです。ただ彼だけは、どうしても必要な存在なんです――うまく、言えませんが。この発言によって今後の選手生命に影響が出るかもしれない、そのリスクをあえて負う程の存在なんです』
一瞬、カメラのシャッター音だけになった。驚愕から我に返り事実を把握した記者たちのざわめきに、『飛行機の時間が迫っておりますので、この辺で終了させ ていただきます』と叫ぶ佐久間が意図的にカメラを睨んだが、不動は見なかったことにした。それよりも、画面が滲んで見えなかった。
鬼道が足早にだが堂々と、どこかの――例によって帝国だろうホテルの会場を出ていく。記者たちですら、頭の整理が追い付いていないようだった。
不動は自分が四十センチのノートパソコンの画面を見つめながら、自分が見たこともないほど感情にひれ伏していることに気付いた。十年以上かかってやっと鍵をかけたというのに、こうも簡単に開けられてしまうとは。
(クソッ……芝居がかりすぎなんだよ)
袖に水分を吸わせ少し震えたあと、恐ろしい程の速度で思考が組み立てられていった。安堵と怒りと悔しさと恥でぐちゃぐちゃに混ざったものが頭の中で洪水を起こした。
スポーツニュースは鬼道の話で埋め尽くされ、どこから出してきたのか雷門にいた頃の画像なども見かけた。メディアの反応は当然公平に気を使っているよう だったが、六割以上のファンが彼を支持した。特に欧州では、不可能と言われていた現役での告白に称賛する選手が多く、厳格な規律を守ってきたイギリスが彼 を受け入れたという事実が強力に作用していることもあり、同志たちには勇気と希望をもたらした英雄と崇められた。
そういった状況を何となく把握しながら、不動は鼻をすすり携帯電話を取り出した。






459

八月の午後五時半、強い西日に向かって立つ後ろ姿が、同じ色で目に焼き付けられるようだった。それはフィルムネガのように、消せない記憶となっていつまでも残る。
オレンジ色のグラデーションに輝く髪の毛は光の筋そのものが編み込まれたかのようで、触れたら熔けてしまいそうな輪郭に釘付けになる。翻る青いマントに、ゴーグルのレンズが太陽光を反射して、オレは思わず目を瞑った。
風が吹いてオレたちを揺らす。汗の臭いと夏の花。振り返ったその口元が楽しそうに笑っているのを見て、つられて少し笑った。けれど、眩しくて目を細めたように見せて誤魔化した。
「不動!」
この気持ちを拭い去らねばならないと分かっていながら、オレは飛んできたボールを胸で受け利き足で押さえた。顔を上げた先には、弾けるような笑顔がある。
オレはボールを蹴った。例え背徳に塗れた叶わぬ恋だとしても、このボールがオレとあいつを繋いでいる限り、退くものかと心に誓った。







(鬼道有人の携帯電話より メールでのやりとり)

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13:16 from:不動
昨日、一番大事なとこ言わなかっただろ。許さねえ
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13:18 to:不動
怒っているのか?
会見は見れただろうか。
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13:20 from:不動
怒ってないけど

つうか、見たからメールしてんだよ。おまえどういうつもり?
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13:22 to:不動
すまない、どう伝えればいいか……
不動にも選ぶ権利があるということを、はっきりさせておきたかったんだ。
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13:23 from:不動
だから、何で昨日なにも言わなかったんだって。新手のイジメかと思ったしふざけんなよ
ったく、覚悟しとけよ、決勝
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13:25 to:不動
望むところだ。
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13:37 to:不動
ありがとう。
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13:42 from:不動
それこっちのセリフ
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つづく







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