<5000ピースのジグソーパズル 3>
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高校二年の夏、帝国学園サッカー部は日本一決定戦の前に三泊四日の強化合宿を行った。避暑地の練習場は四方を森に囲まれていて、いつもの無機質な雰囲気とは真逆だ。胸いっぱいに綺麗な空気を吸い込み、バスで固くなった体を伸ばしていると、管理人と安西が挨拶しているのが聞こえ、言葉の端からここも鬼道財閥の出資と分かってテンションが一気に落ちた。
それで隙あらば皮肉の一つでもかけて不愉快にしてやろうと企んでいたのだが、練習、トレーニング、他校のビデオ鑑賞と、あっという間に夜になってしまった。
入浴が済めば、もうこっちのものである。少年たちは中学生の頃と同じようにふざけ合い、くだらないことを叫んで笑った。
布団を敷き詰めた座敷に雑魚寝というスタイルは大騒ぎになるに決まっているのだからやめた方がいいと思うのだが、毎年人数が増減するため仕方ない。
一度先生が消灯の確認に来れば、寝たフリをした流れで多少は静かになる。しかしその後は最後まで起きてた奴が優勝という暗黙の了解が支配するのだ。
一人、また一人と眠りの底へ堕ちて行く中で、隣に寝たせいで佐久間から鬼道への一方的なくだらないやり取りを延々と聞かされるはめになった。
やっと静かになったので、すぐに寝るか夜の空気でも吸いに行こうかと悩んでいると、真っ暗な部屋で鼾に混じって声が聞こえた。
「まだ起きているのか?」
まだ話し足りないのかよと思わずツッコミそうになりながらも、「ん?」と優しく応えてやる。
よく考えれば鬼道はずっと聞き役で、彼もまたやっと解放されたというところなのだろう。
「最近、授業中に寝てばかりいるから、とうとうお前にも成長期が来たのかと思っていたが」
ちげーよ、うるせーな、と心の中で呟く。
「ご心配どーも」
両隣は寝息をたてている。不動の右側は辺見だったが、微かに鼾が聞こえだした。
「やはり、彼女でもできたのか?」
寝たのかと思った頃、囁くような声が頭の上から聞こえ、質問が暗闇に浮かんだ。応えたのは失敗だったかもしれない。
「ハッ、親父みてぇな聞き方だな」
再び沈黙。周りが起きないように、誰かが来たらすぐに寝たフリができるよう気を配っているので、自然と途切れ途切れになってしまうのは仕方ない。
「お前が童貞じゃないとはな」
ぽつりと呟いた、その挑発的な一言は割りと頭にきた。だがここで否定したらまだ童貞だということになり、肯定したら童貞ではないと認めることになるのだ。
特にトゲがあるわけでもなく、居眠りによる成績の心配までしてくれて、態度はとても好意的に感じたが、ひどく腹がたった。
「鬼道クンは、捨てる予定も無いみてぇだな」
周りは寝静まっているので100%聞こえたはずだが、返答は得られなかった。
しばらく耳をそばだてていたが、寝ている様子でもない。いつの間にか眠ってしまうまで、黙ったまま相手が何か言うのを待っていたが、それ以上沈黙が破られることはなかった。
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高校生という響きが彼らを有頂天にし、思春期の宴へ導いていく。
偏差値が高く由緒正しい名門校でも、教室は混沌と化している。
「おい、やべえやべえ! しまえって!」
帝国学園の名に恥じぬ成績を叩き出すご立派な脳みそは、いかにしてバレないようにエロ本やビデオを持ってくるかや、いかにしてスカートを覗くかということに費やされる。
(アホくせぇな)
不動は同じ空間にいて適当に対応しながら、彼らとは一線を引いて軽蔑していた。
興味が全く無いと言えば嘘になるが、今は女よりもボールを追いかけているほうが楽しい。サッカーバカにすっかり洗脳されてしまったわけだ。
それにしても、どうせならもっと有益で効果的なやり方がごまんとあるのだからご自慢の脳みそを有意義に働かせればいいのに何故そうしないのだろうか。蚊帳の外でゲームの話をしていた源田にぼやくと、彼は苦笑してこう言った。
「直球だと、ダメだった時のダメージが大きいだろ。だから、怖くて言えないのさ」
「とっととシュート決めねーからじゃねぇの? つか、ダメだったとしても落ち込んでねーで次の女探しゃいいじゃねぇか」
頬杖をついたまま言うと、源田は困ったように肩を竦める。この体育会系キーパーに関しては、楽天思考でたまについて行けない時があるのだが、今回もそうだった。
「不動はモテるんだから、一度付き合ってみればいいじゃないか。あいつらがああやって、一見現実逃避みたいにガヤガヤやってる理由が分かるんじゃないか?」
物知顔で諭されたが、そう言えば源田自身は恋愛とやらを知っているのだろうか。
(余計なお世話だ)
むくれつつ、もうどうでもよくなって新しい戦術を考えようとした時、視界の隅にドレッドが映った。
家柄だけでなく全校生徒から一目置かれている鬼道が通るとさすがに皆引き締まるが、今日は無言の圧力に加え鋭い一瞥を頂いてしまい、一気に教室の色が変化した。
軽蔑と嫌悪の目線にも思えたそれを見て、不動は少し驚く。
(童貞がどうのとか言ってたくせに、お高く止まってやがるぜ鬼道クン、お前だって男だろ)
ネタが出来たかもしれないなどと、この時は軽く考えすぎていた。
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たまたまシャワーを浴びたのが最後になってしまった日、下着姿でロッカールームに戻ると、とっくに帰ったはずの鬼道がロッカーの間にあるベンチに座っていた。
ただでさえ練習でミスをして苛立っているというのに、これ以上神経を使うことはしたくない。
早く帰るが吉と黙って着替えていると、あろうことか向こうから仕掛けてきた。
「無視か。まあいいが」
不動は振り返らないよう己を抑える。
(何を言えってんだよ)
「なに? わざわざご丁寧に嫌味言いに戻って来たわけ? 日頃のお返しってことか、感激だね」
鬼道はふんぞり返ってというよりは、少し慌てて答えた。否定するとは思わなかった不動は、彼の口が発する言葉にさらに意識させられる。
「あれはタイミングがずれただけだ。他は完璧だった」
(要はオレの指示が甘いってことだろ。それぐらい分かってんだよ)
「ご親切にどうも。ブリーフはいてる奴に言われても慰めになんねぇけどな」
これはさすがにまずかった。言ってすぐに後悔したが、もう遅い。
「ブリーフがなんだというんだ! 大人だってはいてるだろう!」
小中学生の頃、確かに周りは白いブリーフばかりで、鬼道坊っちゃんも例に漏れていなかったわけだが、それをからかったのを未だに根に持っているらしい。
やれやれとロッカーを閉めると、腕組みをしたご立腹の様子が目に入った。
(そんなに嫌ならはくなよ。からかわれるに決まってんだろ)
面白がっているのが顔に出たのだろう、凛々しい眉がつり上がる。踵を返しドアへ向かう寸前、彼は捨て台詞を残した。
「キスをしたこともないくせに」
ああ、これでおあいこだ。不動はその腕をつかみ、ロッカーに叩きつけた。
「したことないと思うか?」
忌々しいゴーグルをずり上げて、さらけ出した赤い瞳を睨む。脇をすり抜けて逃げようとすれば許してやったのに、彼は動かなかった。
身体が心臓になったようだったが、あと数センチしか離れていなかった唇を重ね合わせるのは容易だった。
「どうだ? これでもう馬鹿にできねーな」
達成感と優越感から、不動はひきつった笑みを浮かべて離れる。
突き放した後は、カバンを掴み足早に部室を去った。誰かが来たら堪ったものじゃない。
後から思えば気が動転していて、一刻も早く立ち去りたかったのだと分かった。
ファーストキスはあまりにも幼稚で浅はかだった。
2988
一週間経って、共同生活にも大分慣れてきた。
家事は日替わりで当番制に決めた。部屋に鍵なんて付いていないが、不動は泥棒じゃない。
「風呂空いたぜー」
声がかけられたのでノートパソコンを閉じ、リビングからバスルームへ向かう。キッチンへ入ってきた不動は腰に巻いたバスタオル一枚で、コップに水を汲み始める。
欠伸をしながらそこに立っているのは、五年前より背が伸び筋肉が付いた一人の成年男性だ。
引き締まったウエストと腹筋の上は、薄いがきちんと胸板が盛り上がっていて、まだ若く痩せてはいるがトレーニングと本戦で鍛え上げられた身体という印象を受ける。
「……なに?」
左肩の外側から二の腕にかけて、三センチ幅くらいの美しい書体の横文字が黒い模様を刻んでいるのを、初めて見た時は少し驚いた。
「……いや」
足を止めていた理由は特に無かったように思わせ、慌てた素振りを見せないようゆっくりと当初からの目的を果たしに行く。
不動と暮らすことに慣れたなんて嘘だ。明日のオフは街に行って気分を変えようと計画しながら、あらぬ考えごと頭を洗い流した。
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帰ると見せかけて誰もいない部室へ戻ると、推測通りちょうどシャワーを終えた不動が着替えているところだった。
思わず、目撃者となりうる人物を脳内で整理し始める自分に苦笑する。動揺を表に出さず、鬼道はドアを閉めた。
鍵をかけようか迷い、今はやめておいた。ズボンを穿いてシャツを着ていない不動が、溜息と共に振り返る。
鬼道がゴーグルを外すのを見ると、そのまま何も言わず向かってきて不機嫌な顔が目の前で止まった。
(おれに会いたくないなら早くシャワーを浴びてさっさと帰ればいいのに。おれのことが気になっていたんだろう?)
鼻が触れ合いそうな距離、お互いの目に宿るものは欲情と好奇心。
二度目のキスは慎重にゆっくりで、探りあいをしているかのようだった。
鬼道は少しずつ口を開いていく。不動の呼吸を顔に感じる。
ロッカーの前に置かれているベンチに並んで腰掛け、鬼道は声を押し殺していた。
二本の手が同時に動き、自分が加速すると相手の快感が増す淫らなスパイラルにはまっていく。
(部室なのに……汚してしまわないだろうか。誰か来ないだろうか……)
破廉恥な不安が快感を煽り、自慰よりも早い時間で解放を得た。しかし手を濡らしたのは自分のものではない。
ふと、このままこいつを支配できないだろうかという独占的な考えが浮かんだ。
強い呼吸が空中で絡まっている。
まず唇を寄せる。不動は微かな吐息の後、触れそうで触れていなかった距離を詰めた。
ローファーを脱いで、膝に引っかかっていたズボンを落とす――皺になった言い訳は後で考えればいい。
ベンチに横になると、背後霊のように動作を合わせて付いてきた不動に組み敷かれる格好になった。
知識も経験も無いのに早まった代償は、切り裂くような激痛のみ。
「痛い!」
叫んで突き放した瞬間、全てが終わったかに思えた。不動は体を起こし、呼吸を整えている。
恐怖から何も言えずにじっとしていたが、沈黙ほど怖いものはなかった。
腕を掴んで振り向かせようとしたその手を払って立ち上がり、素早く――だが覚束ない手つきで身支度を整え、不動は足早に出て行く。一言も残さなかった。
鳩尾が締め付けられ、羞恥に涙が滲んだ。
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練習も厳しく、チーム全体の空気も張り詰めてきているが、このままでは来週から始まるFFU-18でのチームワークに支障をきたしてしまう。
不動は相変わらずのように見えた。むしろ、鬼道の方が彼を避けていた。あれから四日、謝って許される有効期限はもう切れかけている。
練習が終わり、もう帰ってすぐに眠り体を休めなければという己の声を無視して、鬼道は部員たちの間を縫ってシャワー室へ向かう途中、不動のロッカーの中に四つ折りにした殴り書きのメモを投げ入れた。
「じゃあ鬼道、今日は用事があるんだって? お先に」
「ああ、また明日」
最後に出ていった佐久間と他二人のいつも駅まで一緒に行く三人組を見送り、着替え終わってゆっくりと息を吐く。蛍光灯が照らす部室は静まり返っている。
(やはり、完全に嫌われてしまったか……)
あんな奴に関わった自分が悪いのだと言い聞かせ、電気を消して廊下へ出る。校内へ続く連絡通路は静まり返っていて、人気はない。
「ここだよ」
投げやりな声に振り向くと、不動が廊下の曲がり角で影に寄りかかっていた。落胆が緊張へ変わる。
「驚かすな」
「部室じゃやばいだろ」
並んで歩き出す。
「で? 話って何」
普通に接してくれているのは、憐れみからか本心からか。
「この間のことだが……」
何と言えばいいのか分からなくなって、鬼道は立ち止まる。不動の周りの空気がピンと張るのが分かった。
「来いよ」
いつもの皮肉ばかり言っているふざけた態度とは別人のような不動がそこにいる。
連れられたのはすぐ側の保健室で、不動は鍵をかけた。
この夜、二つ考えを改めることにした。一つは、性交は生理的に必要な行為だということ。
そしてもう一つは、不動明王は思った以上に礼儀正しく思いやりの深い男であるということだ。
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一緒に出かけ、同じトレーニングをし、共に練習に励み、一つの家に帰ってくるのは、とても奇妙な感じがした。
今まで一人で生きてきた不動にとって、両親以外の同居者は初めてである。
一夜限りの恋人たちはとてもじゃないが数に入らない。
鬼道の運転する車で練習場まで向かう途中は、いつも音楽がかかっている。カーステレオのスイッチを切ることはないため、エンジンをかければ自然に流れ出すのだ。
「うるさかったら言ってくれ」
最初にそう言った彼は、内蔵されてある二十枚のCDをその日の気分で選ぶ。ジャンルにはあまりくくりがないが、どことなく一貫性を感じるセレクションだった。
(短調だ)
音楽に馴染みはないが、聴いていてうるさいとは思わない。それより少しでも彼の好みを探りたくて、僅かでも鬼道有人という男を理解する手がかりが欲しくて、できるだけ耳を傾けていた。
テンポ良く草を踏む足音が近づく。
「それ。どういう意味なんだ?」
練習場での休憩中、ペットボトルの水を顔にかけていると、隣に来た鬼道が尋ねてきた。
周りがイタリア語に囲まれている時に聞く突然の日本語には少々驚くが、脳はすぐに読解する。
ユニフォームの左肩を捲り上げ、全体を見せてやった。
「In Spiritu et Veritate. 魂と真実において」
タトゥーを入れていると、会う人々に意味と理由を聞かれる。某イギリス人の大スターなどは結婚記念日に一つずつ増やしているという噂まである。さぞかし話のネタが尽きないことだろう。
スペインに来たばかりの頃、神社のお守りのような気持ちで彫った理由はクサすぎて、とても口に出せない。
「勝ち続ける為の願掛けみてーなもん。イケてるだろ?」
にやりと笑って見せ、まくった袖を下ろす。鬼道は納得したらしく、苦笑を返した。
まっさらな肌、穴一つ空いていない顔。
(幸せな家庭を築いて、平和に生きていくのかね)
そんなはずがあるわけがない。
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ライオコット島のジャパンエリアにある宿舎は二人一部屋で組み分けられていたが、寝る時以外は全員が自由に出入りしていた。
そのため韓国戦以来、不動の部屋に鬼道が来て作戦会議することも珍しくなくなった。同室の飛鷹は大抵いない。彼が密かに特訓しているのを知っていて、不動は放っておいている。
「ここはFWをだな……」
「イヤ、FWは後半まで温存しとくんだよ。このぐらいオレたちで何とかなんだろ」
「……そうか。そうだな」
あっさりと納得することも増えた鬼道の態度の変わり様に、まだ付いて行けていない。
(理解なんて求めてねーけど。こいつオレより頭良いはずなのに何なんだ?)
入浴時間を告げるマネージャーたちの声がして、鬼道はベッドの上に広げていたメモやピッチの配置図を片付ける。
床に座ってベッドに肘をつき寄りかかっていた不動は、マントの裾を掴むような気持ちで尋ねた。
「ところでさ、何でペンギン好きなの?」
「えっ」
出ていこうとした赤がぴたりと止まって振り向く。
その顔は相変わらずゴーグルに隠れているが、ペットの名前を聞かれた時のような印象を受けた。
「ペンギンか。特にコウテイペンギンだな。世界で最も過酷な子育てをする鳥と言われているんだ」
「へえー」
(しまった。これは長くなるんじゃねーの……)
自慢のうんちくを聞きながら、風呂場へ向かう準備を始める。廊下を立向居と土方が楽しそうに通って行った。
「天敵から身を守るため、マイナス六十度になっても内陸で卵を温め続けるんだ。他のペンギンは海の方へ移動するのにだぞ。二ヶ月後に卵が孵化し、雌が戻っ てきてやっと海へ自分の餌を取りに行けるようになっても、力尽きて死んでしまう場合もある。雄は三、四ヶ月もの間ずっと飲まず食わずで襲い来るブリザード に耐えながら卵を守り続けているからな」
「何で雌は育児放棄すんだよ」
「育児放棄じゃない。産卵で体力を消耗した為に、餌が必要なんだ。しかしその時期の餌は離れた海にしか無いから、行って戻るのに時間がかかるんだ」
「うへぇ。何でわざわざそんな大変なやり方してんだろうな」
着替えを持って開いたままのドアから廊下へ出る間も、鬼道は嬉々として喋り続ける。
「自然は誰に対しても厳しいと思う。おれたち人間だって、何の道具も無く誰の助けも借りず生きていくとしたら、大変なことだ。おれは彼らを尊敬しているんだ」
「そりゃまあ、確かにそうだけど……」
「それで何故コウテイペンギンが好きかということだったな――」
ゴーグルの奥の目が爛々と輝いているのが透けて見えるほどの鬼道は、サッカーで自分の采配がうまく行った時とはまた違う表情に見える。不動がもう分かったからと言いかけたところへ、春奈が通りかかった。
「しかも苦労して守り通した卵から、この世のものとは思えないほど可愛らしい雛が生まれるんだ。雛にも模様があるのはコウテイペンギンだけで――」
「あ、お兄ちゃんまだこんなところにいたの? 不動さんも! 二人とも早くお風呂入っちゃってくださいね」
「ああ春奈。今、こいつにコウテイペンギンの素晴らしさについて話していたところなんだ」
「またその話?」
妹は笑って、兄と並んで歩いて行く。
「素晴らしい話は何度しても素晴らしさが衰えないところが良いんだ」
(飛べない鳥を尊敬してるなんて、ヘンな奴)
後ろに付いてくる不動なんて最初から居なかったかのように春奈に向かって話し始めたので、鬼道と佐久間の部屋に着いても待たずに一人で大浴場へ向かった。