<帰る 所>



家を焼いた後、がむしゃらに生きようとしていた。
けど周りは驚く程親切に接してくれ、ひとりの男は見慣れぬ優しい眼差しをくれる。
甘えなどとっくの昔に消滅したが、彼は常に甘やかした。
その態度を完全に受け入れられないでも、拒否はせず好きなようにさせている。
こうして過ごすうちどこかで、奇妙な違和感が生まれた。
理解していないから、説明できない。だが、気持ち悪いものではないようだ。
その、おそらく感情の一種であろうものに名前をつけられないまま、エドワードは生きてきた。



罪を背 った自分など、どうなってもいいと思った。
アルフォンスの体を元に戻せるなら、自分の体を削って、たとえ死に至ってもかまわないと考えた。
16歳になった。
背が少し伸びた。
性を知った。
生きていること自体が罪悪に感じた。
ロイの肌のぬくもりを知って、余計に辛くなる。
何度も別れようと思った。向こう って、子供相手に本気ではないだろう。
それなら、ま いいかと言い訳して、結局そのまま 。
滅多に会えるわけでもない。
お尋ね者というレッテルを貼られてしまった以上、うかうかと気軽にセントラルへは行けない。

しかし約束の日が近づき、否応なしにセントラルへ向かうことになった。
そこへ行って万が一彼との関係が敵に知られれば、弱みを握られることになる、とは思いつつも足を止めない自分がいた。
何ヵ月ぶりかに自宅の暗闇に現れたエドワードを、ロイは無言で強く抱き めた。
躊躇いもなく応えれば、挨拶もそこそこにベッドへ寝かされる。
裸のまま抱き合って夢を見た。
目が覚めたときには、カーテン越しの朝陽に照らされる優しい寝顔があった。
すぐに黒い瞳が開き、真っ直ぐにエドワードを見つめる。

「この瞬間さえあれば、おれは、何も思い残すことはないな」

やけに穏やかなうっとりするほど優しい声で、だけど顔に例えようのない、悲しみに似た表情を浮かべるのを見た。
エドワードはその時唐突に理解した。
初めて生きることの意味を知った。

「ロイ……」

エドワードはキスをして、ベッドに横たわる逞しい胸板に抱きついた。

「バカヤロー、ま 終わってねえだろー。……オレの生足、拝みたいっつってたのはどこのどいつ よ」

シリアスになりすぎてしまわないようにわざと冗談めかして言ってみたが、結局しまいには声が震えてしまった。
ロイは黙ってしまったエドワードの頭を撫で、長く優しい口づけをした。
位置を変えて角度を変える度に唇と唇の合わさる部分が反応を起こす。
次に見つめた金色の瞳は、強く明日を映していた。

必ず一緒に、生きてここへ帰る。
から別れの言葉は必要ない。
仲間もみんな無事で、アルフォンスとエドワードは元の体で帰る。
胸の奥からそこはかとない力が湧いてきて、今ならなんでも出来そうな感覚がした。






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