<コンドームについて、5つのシーン>







 引き出しを開けると、昨日まであった使いかけの箱は無く、新品未開封の箱が入っていた。

「あれ? 鬼道クンも買ってたの」
「ん? ああ……予備というものは、無いとイラッとするからな」

 使いかけの箱はもう残り二個しか入っていなかったから、捨ててしまったのだろう。見れば、隙間に残り二個が差し込んである。――それはいいのだが。
 不動は、たった今入れようとしていた、もう一つの新品未開封の箱を軽く振って見せる。

「オレも買ったのに」

 新品を二つ並べて入れ、隙間に挟んであった前の残り二個を掴んだ。引き出しを閉めながら、鬼道の仕方無さそうな声を聞く。

「……まあ、足りないより良いだろう」
「何回する気~?」

 ふざけて抱きつくと、鬼道は慌てて離れようとした。

「少しずつ使うんだッ」

 壁際に追い詰めて、赤い目を覗き込む。
 腹立たしげに鬼道が息を吐いた。出してきた前の残りの二個を見せると、目を逸らす。だが、行かないでいてくれている。

「少しずつ、ね」

 呟いて軽いキスを始めながら、不動はゆっくりと上着を脱いだ。







 引き出しを開けると、使いかけの箱の隣に、昨日までは無かった新品未開封の箱が一つ入っていた。

「あれ、鬼道くん買ってくれたの」

 留めていた髪の毛をほぐしながら寝室へ入ってきたパジャマ姿の鬼道に言うと、しれっと返事が返ってきた。

「ああ……消耗品だから、いくらあったっていいだろう」

 パッケージの色が違うと気付いて、取り出してよく見るとそれはいつも使っていたものではなく、同社の新商品のようだ。

「さっそく新商品買ってやんの……」
「ギネス記録と銘打ってあったからな……」

 確かに、黒っぽい箱に銀色の文字で目立つように、そう書いてあった。破けにくさを信頼してこのメーカーの商品を購入しているわけだが、果たしてギネス記録に挑戦するほどの薄さとはどんなものか、確かに試してみたくなる。

「さっそく試してみる?」

 開封して一枚抜き取り、いそいそとベッドへ。電気を消して布団に入ってきた鬼道が、不動を見ずに答える――彼はサイドチェストに乗っているランプを消そうとしていて、それを消しても、不動の寝ている側にも同じランプがあるので、真っ暗闇にはならない。

「0.01だぞ? すぐ破けそうだな。お前はすぐ破くから嫌だ」
「使ってみねェとわかんねーよ?」

 笑いながら捕まえて、キスをしたら抱きついてくる。密着した体温が上がっていくのを感じながら、パジャマの中へ手を入れた。







 引き出しを開けたら、空箱が一つしか入っていなかった。

「あれ、ねーじゃん」
「ん……何っ」

 息を乱した鬼道が、下着姿でベッドに寝そべっている。

「買わなかったっけ」
「お前が買ってくるものだと……」

 鬼道の残念そうな声に、脱ぎかけのジーンズを腿に引っ掛けたまま、不動は渋い顔をした。

「えー……」
「……」

 鬼道はイエスと言ってくれないだろう。だがこのまま中止して寝るような気分でも、既に無い。

「……あのさあ」
「却下だ」
「まだ言ってないんですけど?」
「どうせろくでもない提案だろう」

 やっぱりか、と溜息を吐く。ベッドの脇に膝をついて、鬼道の手をとり、残念そうに見つめた。

「ん〜、今から買ってくるからそのまま待ってて?」
「そこまでするか……」

 呆れた顔の鬼道は、やれやれと言いたげな様子で大げさに溜息を吐く。
 中には出さないということで、特別に許可が下りた。







 寝室から鬼道に呼ばれた。

「ふどお!」
「あ? なに」

 ちょうど洗面所の電気を消したところだった不動は、大股で声のする方へ向かう。
 寝室に入ると、鬼道が引き出しの前で箱をパタパタと振って見せた。

「空の箱を入れとくなと、あれほど」
「あーわり、昨日切れたんだわ」

 明日買いに行くつもりだったのだと言いかけて、鬼道が何か含みを持つ視線で引き出しを眺めていることに気付く。

「……」
「……ん? どーしたの、そんな顔しちゃって」

 サッと、赤い目が不動の表情を読む。ひと目で、今日の疲労はどのくらいか、精神状態がどういう感じか、大体把握されてしまう。ゴーグルやサングラスが無い方が危険な目だと思っていると、鬼道が小さな声でつぶやくように言った。

「……いいか、今日だけだからな」

 肩を掴んで引き寄せてから、Tシャツ越しに軽く胸を撫でられた。お誘いオーケーのサインだ。

「やりィ」

 今日だけじゃないくせに。とは、言わないでおいた。







 引き出しのことなんてすっかり忘れて、夢中でキスに酔っているうちに、いつの間にか挿入寸前になっている、なんて時もある。

「んッ……や、やめろ。きたない……」

 愛撫しているうち、どんどん下半身へ向かい、いつの間にか割れ目の奥へ。
 夢中になっている時にふと、わけのわからないことを言われて、我に返った。

「は……? 何言ってんだよ、今更。何年オマエのココと付き合ってきたと思ってンの?」
「そ、そういう問題では……」

 顔ごと脇へ逸らし口元に手を当てる鬼道を見下ろしながら、やっと、彼がこだわっていた理由を理解できた気がした。

「汚くなんてねーよ。鬼道クン、ちゃんと準備してくれてるじゃん」

 鬼道は納得していないようだ。その引き結んだ唇の横に、押し付けるキスを落とす。

「オレはオマエとの間に、何も無いのがいい」
「ム……」

 口説き文句は効いたらしい。
 少し迷ってから、鬼道が唇を捕まえに来た。長いキスの間に、両手を使ってまさぐり合う。
 その後は、今までになく一つに感じた。








2017/06


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