<練習中に発情期が来てしまったら公開セックスするしかなくない??>






 再結成したイナズマジャパン。
 15歳になって、よりレベルアップしたメンバーは、来る初戦へ向けて練習に励んでいた。ボール回しに、プレス、パスカット。チームワークも一段と磨きがかかっているように感じられる。しかし鬼道は、めまいがして立ち止まってしまう。少し息切れもしていて、だが不思議と疲労は感じない。よく分からないが、ひとまず休んだほうがよさそうだ。

「なんだよ、キレがわりぃなぁ?」

 そこへ後ろから駆けてきていた不動が、声をかけた。彼に気付かなかった鬼道は、マントの下でビクッと体を揺らす。
 実は朝から熱っぽいと思っていた。早めに就寝すればなんとかなる範囲だと思い、周囲に心配をかけないようにしていたのだが、よりによって不動に見破られるとは。鬼道のプライドが不満を感じ、それによってさらに不動を意識する。

「いや……か、考え事をしていた、すまない」

 誤魔化すも通用せず、不動の手が額に触れる。

「おいおい、熱があるんじゃねぇか? 病人は休んでろ、このバカ――」
「お、おれに……さわるなぁッ!」

 鬼道が叫び、半径五メートルにいた者たちが吹き飛ばされた。
 ただし、不動以外の人間が。
 鬼道は真っ赤な顔で、不動の手首を掴んでいた。触るなと言われて引き留められていることに不動は驚いているようだが、周囲の吹き飛ばされたメンバーたちのことは少しも見ない。完全に二人だけの世界が存在していた。




「こ、これは……キラーフィールズ発生時と似ています……!」

 ベンチでデータを取っていた目金がいち早く異変に気づき、身を乗り出す。

「また新しい必殺技か?」

 隣で水分補給していた風丸が、首を傾げて目金の視線の先を振り返った。
 不動が、崩れそうなほど力が抜けた鬼道の体を抱き止め、しかし介抱しているというよりそれはどこか、食らいつこうとしているように見える。練習を続けていた他のメンバーたちも異変に気付いて動きを止め始めていたが、二人は周囲のことなど一切気にしていなかった。




「はっ……鬼道、なんだこれ……っ」
「あ、ふ、不動……っ。んっ……熱い、ふどう……助けてくれっ……!」

 クラクラする。熱のせいかと思ったが、これは風邪などではない。不動のニオイだ。首筋から、体から、汗に混じって不動のニオイがする。体臭と言うと臭くて嫌なイメージを想像してしまうが、それは何とも形容しがたい不動だけの持つニオイで、体の中に化学反応を起こした。目の前にいるため当然、呼吸をするたびに鼻孔へ入ってくる。

「くっ……不動ぉぉぉッッ!!!」
「鬼道ぉぉぉッッ!!!」




 掴み合い、闘技場の犬よろしくもつれあう二人を、止めたくとも近寄れず、メンバーたちはただ見守ることしかできなかった。
 もみ合う中でゴーグルが外れて首元へ落とされ、鬼道の素顔を初めて見た者たちが息を呑む。

「う〜ん、これはもしかして……」

 事態の予想がついたのか、実は経験があるのか、吹雪がごくりと生唾を呑み込んだ、そのとき。取っ組み合っていた二人が、バランスを崩して倒れこんだ。ざわっと周囲が心配の声を発する。




 鬼道は、掴みかかり押し返そうとしていた手を止めた。不動も止め、鬼道の腰をぐっと抱き寄せる。密着した股間が熱く主張しているのをお互いに自覚して、そこからおかしくなった。おかしくなったというのはつまり、理性が飛んだということだ。

「うぉぉぉああっっ」

 咆哮のように聞こえる声を上げたかと思うと、不動は鬼道に覆い被さり、唇を奪った。

「えっ!?」

 見守っていて、止めに入るタイミングをはかっていた周囲の何人かが、驚きの声をあげた。目金が動揺して立ち上がるが、叫ぶことしかできない。

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと不動くん!!」
「鬼道くんの手が伸びる方が先だったわ。ホラ、見て」

 やけに冷静な木野が、目金に言う。よく見れば確かに、鬼道も両腕を不動の首へ巻きつけている。
 腰を揺らして股間を擦り付け合い、さながら発情期の獣のように、欲望をあらわにしていた。

「おい、不動……さすがにここじゃマズイんじゃねぇか? その、とりあえず部屋に行けよ……」

 近付いていった染岡が、不動の肩に手を置こうとした次の瞬間、何か磁場のようなパワーが発生した。染岡は吹き飛ばされ、尻もちをつく。見ると、鬼道の赤い目がらんらんと輝き、どこか楽しげに睨みを効かせて一瞥したのが、離れたところからでも分かった。




 鬼道は不動を押し倒し、腰を跨いで馬乗りになる。そのゆらめく腰を不動がせっかちに撫で、ユニフォームのパンツをずり下げたが、マントで隠れた。
 いよいよ鬼道が艶めかしい声を漏らし始め、見物していた者たちはそわそわと目を逸らす。

「おいおい、まだ十五歳だぞ」
「練習中にこんな事、無いと思っていたのに……」
「練習中だからこそ起こるのさ。可愛いよねえ」

 既にツガイのいる面々はほほえましく見守ったり自分達もいちゃついたり、童貞組は慌てて逃げるかガン見するかだが、大半は呆れ返って目を逸らした。そろそろ耳も塞ぐか、この場から逃げ出さないとマズイ。




「うあッ! くッ! ひ、ふぁあッ!」
「んおッ! はッ! は、くぁ……ッ」


「鬼道はオメガだったのか、ちょっと意外だなー」

 残念ながら、と言うべきか、天才ゲームメーカーと謳われた少年は、グラウンドの上で今しがた出来たばかりのパートナーに馬乗りになり、雄々しい悲鳴をこぼしながら腰を揺らしていた。
 もう既に非常識な状況となっているため、ここで一般的な反応を持ち出しても意味がないかもしれないが、甘美で完成された肉体を持つ鬼道がいかに淫らな姿を晒そうとも、また彼に全身で応える不動がいかに強く逞しいセクシーさをアピールしようとも、見物ギャラリーにはさほど影響がなかった。というのは、二人のフェロモンはキスをした瞬間から、いや恐らくもっと前、意識し始めた段階で、お互いにしか作用しない匂いに変化していた。



 事故なので直ちに監督が通報したが、キラーフィールズ状態と言えばいいだろうか、止めようと近付けば、発生している磁場のパワーに弾き飛ばされてしまうのだった。
 やっと鎮静剤と避妊薬を打ち込むことができたのは、二人が同時に五度目の絶頂に達して、ふっと力が抜けた時だった。
 救援チームの隊員たちは薄い毛布を掛けて、眠りに落ちた二人を専用の大きな担架へ乗せる。ヒート時の結合では、しばらくペニスは抜けないだろう。



 翌日の試合は延期されることになり、鬼道は抑制剤を投与されたが、引き離すと精神に負担がかかるという医師の判断で、不動と同じ部屋で三日を過ごした。
 その間、練習に参加できなかったが、発情期を終えて深い絆で結ばれた二人は、イナズマジャパンが二大会連続で得た歴史的勝利に多大な貢献をもたらしたのだった。



おわり








2018/07


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