<酔うとキス魔になるので強制終了させた>






 チュッ、チュムッ、チュウゥッ。
 さっきから部屋の中では、淫らな音が響いている。オレは息も絶え絶えになりながら、必死に酸素を求めて喘いだ。
 しかしちょっと唇を離すと、奴は不機嫌そうに唸ってオレの頭を引き戻す。そしてまた唇を貪りだすのだった。
 目の前のキス魔――オレの恋人である鬼道は、どうやらてきめんに酒に酔いやすい体質らしい。気をつけてはいたのだが、チョコレートに目がなく、オレが毒見する前にうっかりウイスキー入りのものを食べてしまった。気付いた時には遅く、ベッドへ連れて来てやったらこうなった、というわけだ。
 困ったことに、鬼道は酔うと延々キスをし続ける。オレは首に手刀でも打ってやめさせたいとまで思ったが、どこにどのくらいの強さで打てば失神させられるのか知らないので、悶々としていた。

「ん、ん。ふはっ……な、鬼道、もういいだろ?」
「よくない。クズが」

 隙をついて言うが、即却下される。
 そしてまた、キス地獄。
 確かにオレは、ずっと鬼道とこんなふうにイチャイチャできたらどんなに最高だろうと思っていた。でも違う、それは我も忘れてキス魔になるほど酔っ払った鬼道とじゃない。
 そりゃあ今は嬉しい状況ではあるが、オレが望んだものとは違う。
 こうなったら、最後の手段だ。

「ん……ふぅ、っは! な、なぁ、鬼道チャン……もっと気持ちイイことしねえ?」

 世界一アヤシイ台詞を口にしながら、オレは鬼道の引き締まった尻を思い切り鷲掴みにした。

「ぅあ……何っ……」

 セーフ!
 蹴られずに済みそうだ。それどころか鬼道は、気持ち良さそうに体をくねらせている。
 オレの太腿あたりに硬いものが当たるようになった。長い長いキスも無駄じゃなかったってことだ。

「な……もっと気持ちよくしてやるよ」

 オレはいそいそと鬼道のスラックスと下着を脱がせ、横へ仰向けに寝かせた。こうしている間キスをおあずけにされているので、鬼道は不満そうな顔だ。
 急いでオレもポケットの中身を取り出してからズボンと下着を脱ぐと、鬼道に覆い被さり、キスを再開する。やっと欲しいものを手に入れて、鬼道は夢中でオレの唇や舌に吸い付いた。まるで赤ん坊のおしゃぶりみたいだ。
 キスに気を取られている間に、鬼道の尻へ手を伸ばす。ズボンのポケットに入れておいたローションを手探りで垂らし、いつもしているように塗り込めていく。
 さすがに鬼道も、異変に気付いたらしい。

「えぁ……んっ……むうぅ……」

 気持ち良さそうな声がキスの合間に漏れる。
 ヒクヒクと内壁が指に絡みついてきて、オレは思わず喉を鳴らした。
 もう、我慢できない。
 舌を絡ませながら、ゆっくりと腰を進めていく。熱い肉に包まれ、全身に痺れが走る。

「んんふぅっ……はぁ、くん、んん……っ!」

 呼吸が苦しくて息継ぎが増えたものの、鬼道はまだキスをやめようとはしない。
 体勢が制限される。
 オレは緩慢で控えめな動きにならざるを得ず、ほとんど埋め込んだまま奥のくびれをグイグイと押すしかなかった。

「ふぅんッ……ぅんんんんッッ!!」

 絶頂に悶える鬼道に舌を噛まれかけ、慌ててオレは舌を引っ込める。
 直後、ぐったりと力が抜けたのを確認して、ゆるやかにピストンを開始した。
 鬼道はドライでイッたらしく、腹は濡れていない。

「んっ……ぅっ……うむっ……」

 もうろうとしたまま、力の入りきっていない足をオレの腰へ巻き付けて、キスを続ける鬼道。引き込まれるようにぐっと結合が深くなって、オレはクラクラする。
 鬼道が酔ってさえいなければ、最高の状況なのに。
 でもオレは知っている。酔った状態でなければ、ここまで甘えてくれないことも。

「は、あ、そろそろ……イクぜ、鬼道……っ」
「んんっ……んっ…!」

 ホールドされたままラストスパートをかけ、オレは思い切り解放感を味わった。
 注ぎ込むたびに穿つオレの腰に合わせて、鬼道もビクンッビクンッと震えている。その体を強く抱きしめ、呼吸が整うまで恍惚にまどろんだ。

「……鬼道?」

 興奮が引いてきた頃、ふと見ると鬼道はすっかり寝息をたてている。別にピロートークがしたいわけではないし、狙い通り無事にキス魔を寝かせられたのは良いが、風呂へ行って後処理をしておくのは酔ったままのほうが都合がよかった。
 でもまあ、起きた時に中出しのせいで半殺しにされようとも、別にいいか、という気分になってくる。

「お前ってわりと、甘えん坊だよな……そうじゃなくても、愛してるけど」
「ん……」

 普段からキス魔でもいいのに。
 そう思いながら、眠りの世界へ落ちていった。








2020/05


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