<あまのじゃくなもので。>






 オレの恋人は世界一可愛いけれど、生真面目で指示が細かい。こだわりが強くて頑固なところも魅力的だが、彼氏との愛の営みにまで色々と条件を設けている。
・食後三時間以降
・準備は一人でしっかり済ませてから
・落ちる心配のない広いフィールドで
・スケジュールの心配をしなくて済むタイミングで
・アルコールはほろ酔い
・携帯電話の電源はOFF
・どうせやるなら全部脱いで素肌で触れ合いたい
 まだあるかも。
 言いたいことも気持ちも分かる。分かるが……しかし。

「そこまで気にすることか?」

 ついそう言ったら、赤い目にきっと睨まれた。

「もっと追加してもいいくらいだ」

 頷いて了解を示す。
 オレの愛する恋人だ、いつだって全面的に支持したい。全て肯定してやりたい。

 でもある日つい、オレの天の邪鬼な部分が顔を出してしまった。
 夜の十時、いつものようにソファに座ってタブレットを見ていた鬼道の隣に座って、サングラスを奪う。まだ食後二時間半しか経ってない。

「鬼道くん、しよ」
「えっ……んっ、ん……っ」

 強引にキスをして、舌をねじ込む。鬼道はキスが好きだ。そのおかげで、オレもいつまでもキスしていられる。

「ふ、んむぅ……は、はぁ、不動!」

 何とか唇を離し、鬼道が抵抗しようとする。
 でもオレの体は暴れているから、抑えることなどできるはずがない。

「ムリ、待てねえ」

 ちゅっちゅっと鬼道の首筋に唇を付けて、わざとらしく音を立てると、鬼道は少しもじもじし始めた。なんだかんだ言って、鬼道もノッてきている。それを確認したオレは、完全に遠慮を捨てた。

「せ、せめてもう少し、準備を……」
「だめ」

 押し倒して、何度もキスをしながら、ベルトを外しスラックスを剥がしていく。
 下着越しに尻を撫で回し、むちっとした筋肉の感触を楽しんでいると、鬼道がオレの首に両腕をかけてくれた。
 もうどうにでもなれと、自暴自棄になった赤い目が睨んでくる。嫌いじゃないのだ。むしろ、その逆で――

「不動……」

 スーツがシワになるとか、明日の予定とか、言い訳ならいくらでもあるはずだが、鬼道はムッとしつつも何も言わなかった。
 どこかで、どちらかのスマホが鳴っている。
 でもオレたちに出る気はない。鬼道も、電話の向こうが何かよほどのピンチであろうと、一時間くらい待たせておけと思っているだろう。でなければこんなふうに太腿をすり寄せてこない。
 シャツは着たまま、靴下も脱いでいない。準備もしていないし、ここは狭いソファ。明日も仕事があって、携帯電話も切ってなくて、お互いシラフ。

「おれを怒らせたいのか?」
「怒ってんの? 怒ってるおまえも好きだけど、セクシーで」

 そう言ったら、ムッとして軽く腿を膝で蹴られた。
 鬼道の手がオレのモノをやんわりと掴む。もう挿入れたくて挿入れたくてブルブルしているのを感じただろう、思わず息を呑むのが聴こえた。
 オレを欲しがっているのが分かる。ソファの上でうつ伏せになると、片足が床へ落ちてしまう。そんな崩れた体勢の鬼道をしっかり抱き寄せ、オレは下着をずり下ろして可愛いピンクの穴にローションを塗った。

「さすが、に、ゴムは、着け……っ」

 いつの間にかプルプルと震えるほど勃起している鬼道のモノに寄り添う袋の裏を撫でると、熱いため息がこぼれた。

「そお、着ける? 今から寝室に取りに行っていい?」
「……おまえなぁ……」

 恨めしそうな声がオレを睨む。ローションは持ってきたくせに、確信犯め。とでも言いたいんだろう。
 ニヤリと笑って、オレは欲望のままに鬼道の中へ入っていった。もう期待に昂ぶる内壁は、オレが触る前からとろとろにほぐれていたくらいで、あたたかくて濡れてて最高に気持ちいい。
 鬼道はといえば、この状況を受け入れはしたものの、歓迎しているわけではないことをどうしても示したいらしく、声を押し殺して長めの呼吸を繰り返している。

「あー、いい……鬼道くんナカ最高」

 そう言いながら、オレは鬼道の好きなポイントをジワジワと責めてやった。さすがの鬼道も、うっかり声を漏らすほどには悦いらしい。

「もっと声出していいんだぜ?」
「この、……ん、ばかっ……」

 悪態があまりにも可愛かったので、オレは腰を揺らしながら、シャツを着たままの背中を撫でてやった。少し勢いを緩めて、ゆるゆると動かしていると、呼吸を整えた鬼道がオレの下から抜け出した。
 欲に濡れた赤い目が光っているのが見える。

「攻守交代だ」

 オレを突き飛ばしてソファに座らせると、鬼道が跨って来た。肩とソファの背もたれにしがみつきながら、再びつながると、鬼道は妖艶な笑みを浮かべる。

「え……なに、あ、ハッ……」

 しまった。こいつを煽ると、とんでもない結果になるってことを、忘れていた。
 特に、ストレスが溜まっている時は。
 ということは、最近わりと疲れてたということだろう。発散の手助けになれたなら、それ以上の喜びはない。

「ぁ、あ、んんッ……あ、ふどう、」
「あぁ、いいぜ……オレも、イク……ッ」

 脳まで溶けそうになりながら、オレは鬼道の中へ、鬼道はオレの腹へ、それぞれ射精した。
 イッた後にぼんやりしながらダラダラ続けるキスほど、気持ちいいものはない。そうだ、やっぱりオレは、ちょっと疲れた鬼道の横顔にムラッと来てしまったんだ。
 やっぱりして良かっただろ。なあ、鬼道。たまにはルール破りも良いもんだろ?

「……いいや、駄目だ」

 オレの思考を読んだかのように、鬼道が言った。

「まだ何も言ってない」
「言わなくても分かる。おまえはすぐ調子に乗るからな」
「そんなことないだろ」

 鬼道が本当に駄目なラインはわきまえてるつもりだ。だからほら、今おまえは笑ったんだろ?








2020/11


(鬼道さんはルールにうるさいけど、それは自分が守れないとどんどんユルユルになってっちゃう気がして怖いからだといいなあ、という妄想です。 不動くんはルールを破るの楽しい派だけど、ちゃんと常識はあるんだよね。)

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