<魔法を解いて その後>
「魔法を解いて」の続き
ところで正月はどうしているんだとさりげなく見えるメールを決死の思いで送ったら、思いがけない答えが返ってきた。年明けは四日まで会社も休み、当然学校は冬休みだし、特別なイベントも合宿もない。三日は仕事初めの準備があるとしても、大晦日から二日の夜までは暇だと言う。
暇、というのがまた妙だ。鬼道のことだから誰かと会う約束をしているものかと思っていたし、そうでなくとも実家で義父とまったり過ごすのかもしれないと思っていた。
つまり、予想が正しいならば、これは罠だ。
それなら敢えて罠にかかってやろうと考えた。
学生時代はよく二人で必殺技を考えたり、戦略を練ったりしながら、合間に他愛ない話をしたりして、あーでもないこーでもないとやっているのが楽しかったものだが、大人になってからはなかなか二人きりで会う機会は少なかった。周りも不動が仲間というものに打ち解けてきたから、皆一緒に楽しくやろうという空気で、その中で話したりして用が済んでいたのだ。
さて、それじゃあせっかくだしどこかへ行くのかと聞いたら、人混みは好かないとのことなので、結局また鬼道の家へ行くことにした。
不動はあまり深く考えずに、一部の可能性を期待しないように抑制していたし、そういった考えをしないよう厳重に警戒していた。もし間違ったら二度と元の関係には戻れなくなってしまう。
帝国学園からさほど離れていない住宅街にそびえる、二十階建てマンションのエントランスに入る。部屋の番号を押して中で応答すると、ドアが開いて入れるようになった。近未来みたいでちょっとテンションが上がる。
エレベーターが最上階に着く頃には、何が起きても、何も起こらなくても、別にいいやという気分になっていた。どうにでもなれというやつだ。松風天馬の決め台詞より、年季が入ってスレた、半ば諦め気味の考えだ。
「よお」
「よく来たな。入ってくれ」
鬼道は相変わらず、サングラスにYシャツにやや厚手の紺色のニットカーディガンという格好で、微笑んで迎えてくれた。
「これ、よかったら」
「ああ……すまないな。高価いやつじゃないか」
紙袋に入れただけの、一万と数千円するウイスキーを差し出すと、受け取って中を見た鬼道は驚いたらしかった。靴を脱いで、廊下を歩いていく。ドラマに出てくるような、きれい好きな若い男の住み処らしく片付けられた、シンプルでモダンな部屋だ。
「それで? 改まっちゃって、なんか話でもあんの?」
軽い調子で言ったのは、そうでない場合にも対処するため。
「い、いや……」
しかし鬼道は言いづらそうに口をもごつかせた。明らかに何か重要な話があるようだ。
「あ、もしかして黒岩サンの話とか? 聞くだけなら悩みでも何でも聞いてやってもいいぜェ」
話しやすいように持ちかけたつもりだが、鬼道はノってこないどころか、どこか申し訳なさそうにしている。
「いや……その、本当に、そういうのは大丈夫だ。どちらかと言うと……お前に関わる話で……ああ、悪い話ではない、それは確実だ。……いや、やっぱりお前にとっては悪い話かもしれない」
妙に歯切れが悪く、俯いていて、珍しく自信の無さそうな鬼道が、目の前で、ぶつぶつ言っていて、しかもそれは影山零治とは関係ないと言う。じわじわと体温が上がってきた。
「あー……何となく察してきたっつうか、予測がつき始めてきたっつうか……、イヤ、でもこういうのってハッキリ口に出した方が良いと思うぜ……」
鬼道は口元を手で撫でるようにして覆った。サングラスを掛けていると、口を隠したら本当になんの表情も読み取れない。
「ああ、それで、呼んだんだ」
「ああ……うん」
さらに黙ってしまう鬼道を眺めながら、ソファに座る。
「えーっと……じゃあなに……? オレはどうすればいいの?」
鬼道はダイニングの椅子を数十センチ移動して座り、二人は斜めに向かい合わせになった。
「そうだな、まず……おれの話を聞いてもらえるだろうか……」
「おう……」
鬼道はしばらく、改まりすぎて顔から火が出そうなのか、顔を隠していたが、わずかに体を起こして、それでもまだうつむいたまま話し始めた。
「随分前から、おれは自分がおかしいとわかっていた……思春期になり、いつまで経っても、異性に興味が湧かなかったんだ……」
不動は予測が確信に変わっていくのを感じながら、黙って鬼道を見つめる。鬼道は相手の視線に拒絶の色が混じらないかどうか、うかがいながら、いつもよりやや低いトーンで先を続けた。
「総帥にはとても相談なんてできなかった、同級生にも言えず、義父にも言えなかったが義父は察していたかもしれないな、とにかく、おれは普通じゃないんだ。サッカーには関係無かったし、いつか治るだろうと思っていたが、これは病気じゃない。……だが、大人になればいつか解決すると思っていた」
不動はだんだん気が滅入ってきた。このまま悩み相談が続くのだろうか。改善するために協力しろなどと言われたら、苦痛の日々が待っているかもしれない。いや、むしろその方が自分にとっては好都合なのだろうか。想いを隠し続けながら、何でも話せる相手として存在している方が?
目まぐるしく先を予測しつつ心の準備を進めていると、鬼道がフゥと小さな息を吐いて、ひときわぼそぼそとした声で言った。
「でもなぜか、お前に会って……ひどくなった」
ドキッ、と心臓が跳ねた。鬼道は続ける。羞恥からか、もう相手の顔は見ていない。
「ひどくなったと言うか……抑えられなくなっていった。その前から色々していたんだが、途中から、不動のことを考えるだけで……」
そこから先が聞こえない。不動は声を絞り出す。
「オレのことを考えるだけで、何?」
「いやっ、ち、ちがうんだ、決して不動のことだけを考えてしていたわけでは……」
そこまで言って鬼道は、はっとして再び顔を伏せて黙ってしまった。何かとんでもない事を言ったので穴があったら入りたい、といった様子に見える。
右手がふらふらと宙に揺れる。
「ちょ、ちょっと待て、話を戻す……」
「えっ、まさかゴハンとかオカズとかそういう話ィ?」
軽い調子で遠回しに聞いたら、鬼道が両手で目元を覆って呻いた。
「うう……」
図星か!あの帝国の鬼道が耳まで顔を真っ赤にして焦ってるよォ!と叫びたくなったが、ぐっと堪えた。そんな時代は過ぎ去ったし、それよりも嬉しくてたまらない。頭が沸騰していて、衝動的に動きたくなってくる。
「こんなことは許されないと分かっている……だが、この間、その……お前に、可能性を感じて……」
「可能性……? この間? って、クリスマスん時か?」
鬼道は頷いて、絶望的な声を漏らした。
「ああ、軽蔑してくれて構わない……金輪際口を利かなくてもいい、おれの中で気持ちの整理を――」
「え、むしろオレ今、喜んでンだけど」
「ぁ……?」
顔を上げた拍子に、サングラスが鼻からずり落ちた。不動はテンションが上がりすぎて引きつり笑いのようになりながら言った。
「あー、オレの話するとさ? かれこれ二十四年生きてきて、イコール彼女いない歴だし? 自慢じゃないけどサッカーひと筋で生きてきたわけですよ。ね? 別にモテないわけじゃなかったよ、地元の高校は実際、可愛い子いっぱいいたしさぁ。でもなんか、毎日それなりに忙しくて、わりとスルーしちゃって。サッカーのことしか考えられなかったんだよなぁ」
鬼道はサングラスをかけ直し、黙って、と言うより固唾を呑んで、聞いている。不動は今にも暴れ出しそうな自分を落ち着かせようとしながら、結論へとできるだけ急いだ。
「今分かったぜ。この間のが、どういうことだったのか……オレ、ずっとモヤモヤしてたんだけど、今分かった」
お互いに動かず、不動はむしろ淡々と言葉を続ける。だが、それ以上は口にできなかった。代わりに、顔から火が出そうなほど熱くなっているのを自覚しながら、鬼道の顔をじっと見つめた。すっ、としっかりした手がサングラスを外し、濡れて熟れたやわらかそうな真紅の瞳が現れる。
「……、はは、」
こらえきれず、鬼道は一瞬だけ笑った。口元を押さえ、泣きそうに顔を歪めて、必死に言葉を探している。不動はソファの端に移り、身を乗り出した。磁石で引き寄せられるかのように、鬼道も身を乗り出す。
ぎゅっと唇を押し付け、一度離れて、相手が求めているのを体を引かないことによって確かめ、もう一度、今度は優しく唇を重ねた。
甘いものは得意じゃない。今まで出来るだけ避けていたから、むず痒いというか、ぞわぞわと奇妙な違和感が体を走る。
それはお互いに感じているようで、しかめ面をして、さっき座っていたのと同じように体を戻す。ゆっくりと鬼道がソファへ移動し、隣に座ったので、二の腕がぴたりと寄り添った。
「おれ、は……いつでも、お前を受け入れる覚悟ができている」
囁いた声がやけに甘く響いたのが、自分でも奇妙だったらしく、恥じらいに慌てて他の言葉をかき集め隠そうとする。
「も、もちろん今すぐにどうこうとは……!」
鬼道は、顔を上げて言葉を失った。
「好きなヤツに目の前でこんな話されて、我慢できるほどデキた男じゃねーよ」
不機嫌な声で言う不動の、真摯な目に射抜かれたかのように。驚きが消えて、うっとりと切なげに瞼が伏せる。
「おれだって……。きっとそれでいいんだ……」
欲望のままに、夢中でキスをした。お互いに探りあい、何度目かで舌を入れることを覚えて、歯もぶつけずに済んだ。
「んっ……ふ……ぅ……」
鼻と口からこぼれる吐息を聴いて、熱が上がっていく。初めての感覚に戸惑いながら、どこか冷静に分析しようとするのは、試合の熱狂の中でゲームメイクしてきた癖のおかげだろう。
つい、ソファの背もたれに体を押し付けて、鬼道の首筋にまで唇を付けていた。吐息が絡まる。
「あ……待てよ、ここでじゃないよな……」
言いながら体を起こして離れると、鬼道が答えた。
「そ、うだな……」
立ち上がって、鬼道は少し立ち尽くした。視線を合わせ、歩き出した鬼道について行き、寝室へ向かう。ベッドを見てさらに興奮が高まる中、二人は一瞬手持ち無沙汰になった。とりあえず服を脱ぎ始めた不動に、続いて自分もシャツのボタンを外しながら、鬼道が言いづらそうに口を開く。
「その……一人でしていたのは、前だけじゃなくてだな……」
「まじで?」
「だからその……知識だけはあるんだ、任せて、くれ……」
「……まじで……」
二人とも下着一枚になって、ベッドへ乗り上げる。おぼつかない手つきで触れ合って、キスをした。直接に肌を撫でると、伝わりかたがいつもと違う。初めての感触に戸惑い、興奮が増していくのを感じながら、少しずつ確かめていく。暗闇で離れた場所からひもを手繰り寄せていくようなイメージに似ている。どこまで引っ張ったらいいのか、相手を驚かせないように手探りで、反応を確かめながらひもを引っ張るのだ。
「そうは言っても、こっちは特に問題ないようだな……」
「う、わ……」
鬼道の指が下着のふちに掛けられた時点で、腹の辺りがくすぐったくて身を捩ろうとした不動は、そのまま盛り上がった股間を撫でられて、思わず固まった。
「こんなに……嬉しいぞ、不動……」
硬さを知った鬼道が、はにかんだように微笑む。何ともコメントできないでいると、下着がめくられた。
「あ、うわ、ちょっ……鬼道……!」
止めようとしても鬼道は既に、うろたえながらも自身の高揚を抑えられないでいるぺニスを掴んでいる。撫で、さすり、舐めて、そっと吸われた。やわらかい舌が潤いを与え、器用な指が刺激を送る。初めてのことでも、自分がされたら嬉しいようにすればいいのだから、男同士はある意味では楽だ。
「んっ、あ……っ、待てよ、やべ、出る……ッ」
そう言ったら、鬼道は口を離すどころか、震える屹立を半分くらいまで口に含んだ。
「うぁッ……!」
そのことに驚いたのと、温かい口の中があまりにも気持ちよくて、思いきり噴射してしまった。腰を引こうにも鬼道がくわえているので動けない。やっと口を離したと思ったら、鬼道は口元を拭って唇を舐めて見せた。
「え……、飲むなよ……」
「スマン……」
批難したわけでもドン引きしたわけでもないことを伝えたくて、手を伸ばして唇を親指で撫でる。
「だってさぁ、……不味いんだろ?」
「美味くはない、な」
開かせた口の中に親指をゆっくりと差し込み、舌を撫でると、鬼道は親指を舐めて返した。
「すっげーエロい」
立ち上がって、ベッドに座っている不動の隣に片膝を乗せ、鬼道は止まる。
「も、もうやめておくか……?」
「ぁあ……? なんで……」
その腰を撫でながら抱き寄せ、肌を触れ合わせる。
「無理しなくていいんだ、少しずつやっていけば……」
「だからなんでそんなこと聞くんだよ」
ベッドの上にあぐらのように足を組んで座り、向かい合って、額を寄せる。鬼道はまた言いづらそうに、少し顔を背けた。
「もう、出してしまったから、スッキリしただろう……、」
なんだ、そうか。と、不動は理解する。鬼道が懸念しているのは、射精のタイミングなんかではない。
「ある程度はな。おかげで余裕が出てきたぜ」
唇を重ねると、ためらいがちに肩に掛けられた両腕が少しずつ動き出して、舌をかき回すのと同じ動作で不動の髪をかき撫でた。
「はっ……、あ……っ」
抑えてもこぼれる喘ぎを聴きながら、胸の飾りを愛撫する。乳輪に沿って突起を撫で、たまに優しく摘まむと、熱い吐息と共に身をよじった。
「お前のも見せろよ」
「あっ……」
揺れる腰がビクッと逃げようとしたのを捕まえて、下着を脱がす。
「ま、待て、おれはいい、おれはっ……!」
「何言ってンだよ。お返し」
脱いだはいいが逃げようとするのを捕まえて、張り詰めた鬼道自身を優しく握り込む。
「あ、ぅあ……ッ! ふ、ふどぉぉ……ッ」
乳首を舐めながら握っていたら、それほど強く擦ったつもりも無かったのに、すぐに達してしまった。口でしてやるつもりだったが、しがみつくまいとしながらも、すがるものが欲しくて強く腕を掴む鬼道の様子に、そのまま心臓も掴まれたかのようだ。痛みを感じるほどに。
「ちょっと、落ち着いた、よな?」
暗闇の中を、相手の体を手探りで探すかのように、わずかな表情の変化も見逃すまいと目を配る。思った以上に頼りない声が出て最悪だと思ったが、落ち込んでいる暇はない。
「ああ、……でも、……さらに熱い……」
同じように手探りで暗闇をさまよう鬼道と、やっと手が触れ合った。寄り添って、見つめた目の奥で無言のうちに確かめ合い、炎が二倍、三倍と燃え広がっていく。全てが愛しくて仕方ない。
「もうやめるか聞いたってことは……、この先も……あるんだろ?」
腰から下へゆっくりと背骨を撫でると、鬼道は熱い溜め息を吐いた。
「お前が、いいなら……」
そう言ってナイトテーブルの引き出しからローションを取り、自らベッドに沈む鬼道は、獲物を待ち構える蜘蛛のような妖艶さと天使のような神々しさに満ちていた。混乱を極める中で、ただひとつ揺るぎないことは、己の気持ちだけ。
「念のため、事前準備はしておいたから……中は綺麗だ」
グラウンドの整備はしておいた、などと同じような言い方で、ローションを少量手に取り、肛門へ塗り込む。フーンソウナンダーとわざと、言いたくても何も言えなくて、いやらしい小さな水音をたてるアナルも直視できなかった。今度はじっくり見てやろうと、不動は決意する。
それから、ローションは不動のペニスにも軽く塗り付けられた。嫌でも呼吸が荒くなる。
「コンドーム使わねえんだ」
「あっ……」
鬼道は了承を取らなかったことは盲点だったと言わんばかりに青ざめたが、その手をとって握ると元に戻った。
「別に気にしねえよ、着けないとヤバイ事とか特に無いんだろ?」
「あ、ああ……あれは性病の感染と、望まない妊娠を防ぐためのものだ」
そう言いながら鬼道の手が肩に回される。ゆっくりベッドへ押し倒すと、腰が密着した。性器が疼いて、腫れたみたいに熱く脈打っている。
「ん……っ、」
剥き出しのぺニス同士を、腰を揺らして擦り合わせ、わずかな快感を得る。
「挿れるぜ……」
鬼道が腰を浮かせ、やや突き出すようにした尻の穴を探り当てて、ぺニスを宛がう。穴は小さくすぼまっている上、ローションで滑ってなかなか決まらない。
「うわ、ぬるぬる」
「い、言うな……」
「無理、すんなよ?」
「ああ……だいじょうぶ、だ」
体勢を変え、鬼道の手伝いもあって、先端がやっと埋まった。激しい呼吸を繰り返しながら、不動の肩にしがみついて、鬼道はゆっくり腰を落としていく。
「あ、あぁ……っう、く……っ」
ずぷずぷと肉芯は埋め込まれ、お互いの吐息が煩いほどに鼓膜を熱くする。
「あぁっ……すっげ、きもちい……ッ」
「ふ、ふどう……っ! っあぁ、」
眩暈がしそうだ。鬼道を寝かせ、キスをして、足の付け根をさらに密着するよう調整した。
「これ……、動いて、いいの?」
鬼道が目を閉じたまま頷いた。
「す、少しずつに……っはァ、」
慎重に少しだけ腰を引く。
「ひっ……」
眉を寄せ、屈辱を感じながら、快楽に溺れていく鬼道がやけに艶めかしく、再びぐっと腰を押し進める。
「んァッ……!」
ゆっくりと、引いたり押したりを繰り返すうち、いつの間にか速度が上がっていった。吐く息を荒げ、豊かなやわらかいドレッドをふり乱して、鬼道は喘ぐ。
「もっ、おっ、おく……だっ!」
「ぁあっ? 奥っ? ハッ、はァ、」
「そ、そうだッ……奥に……っ! 前立、腺の、奥を、」
朦朧としてきた頭で、何とか前立腺の場所を思い出す。鬼道の足を支えて、結合を深め、突き上げた。
「こぉかよッ?」
「うぁぁッ! くゥんンッ……!」
三回突き上げたとき、鬼道の動きが固まって、全身がガクガクと震えた。勃ち上がりっぱなしだった鬼道の先端からは、半透明の粘液がとめどなく溢れ出していた。粘膜が収縮して、搾り取られるような感覚に意識を奪われそうになる。
「ぅあ、あっ、きど……ッ!」
吐き出しきって、一気に疲労に襲われた。ちょうど小さくなったぺニスも自然に押し出され、腰を下ろして呼吸を整える。ふうーと大きく息を吐いて、頭を揃えて横になった。隣で満足げなため息が聞こえ、それが実に艶のある吐息だったのだが、さすがにもう手を伸ばすのはやめておいた。
「あー……ヤったあと腹が減るって本当なんだな……」
呟くと鬼道が笑った。
「ああ、おれも今そう思っていた」
起き上がろうとして、力が入りにくかったらしく、鬼道はまた寝転んだ。全裸を隠そうともせず、お互いの体液にまみれて、しばらく横たわっていた。
「これから……どうするんだ?」
「どうって……ホラ、」
鬼道と自分の間を人差し指で行き来し、小さく肩をすくめかけてそれはやめ、不動はジェスチャーをやめてじっと赤い目を見た。
「とりあずそば食うだろ? あとシャワー」
鬼道がくすりと笑う。
「お前、予定は?」
「ない。全然ない」
「嘘つけ。正月くらい帰ったほうがいいぞ」
「年明けに行く」
だから、邪魔だって言われるまで居座るつもりだということを視線にこめると、鬼道は照れたようにうつ向いた。
「……いきなりこんな……いくらおれでも、身がもたん……」
「べ……別に、ヤりたいわけじゃないぜ? オレはただ……」
起き上がってやっと、熱が落ち着いてきたのを感じた。だが胸の奥は相変わらず高鳴っていて、いちいち鬼道の表情やしぐさに、はねて震える。
ゆっくり起き上がった鬼道が、恍惚に浸ったまま目を細めて言った。
「分かっている……だから、身がもたんと。……どうにかなってしまいそうだ……」
熱くて、恥ずかしくて、愛しくて。どちらからともなく長いキス、しっとりと激しくはない長いキスをして、そっと離れた。
「完膚なきまでに、どうにかしてやるよ」
「来年の抱負か?」
「いや、一生の。」
むっとした鬼道が、仕返しのように唇を押し付けてきた。もっと欲しくなって、だが応えようとする前に離れ、赤い眼が誇らしげに睨み付けてくる。不動は引きつった照れ笑いに唇を歪ませながら、確かに、どうにかなってしまいそうだと思った。
happy new year!
2015/12