注意
※不動が鬼道以外の男や女と付き合う
※鬼道が不動以外の男と付き合う
※鬼道が無関係の養子をとる
※二人の過去、両親の設定などをねつ造/不動母親の登場
※家クモの描写
※嘔吐表現
※流血表現
※リアル寄りゲイ描写
※オリキャラ複数登場
※他CP(匂わす程度)→ヒデフィ、源佐久、円豪、天京、一瞬ふど←はる
※円堂は女性と結婚(誰とは言わない)
※デモーニオとルシェは恋愛関係ではありませんが同棲
以上が大丈夫な方、何でも許せる方向け
<5000ピースのジグソーパズル 1>
プロローグ
白い壁の家々が成す美しい街には、絵の具でそのまま塗ったような鮮やかな青空がよく似合う。それぞれのドアは様々な色で塗られ、赤や黄の花が窓を飾っており、振り向けば道の先は海へ続いている。
中学生くらいの少年が、石畳のゆるやかな坂を駆け上がり、その中を通り抜けていく。街の端にひっそりと建つ、やはり同じような白い家の深緑のドアを開け、この国のものではない言葉で叫んだ。
「ただいま!」
広すぎず狭すぎない家の中は住みやすく整頓され、掃除が行き届いていて、明るく有機的に見え、年季の入った建物の所為かどこか哀愁が漂っていた。静まり返った家に耳を澄ました少年は、玄関に通学鞄を放り出しリビングに向かう。ソファには少年と同じ国の生まれの男が一人、座って待ち構えていた。少年は飛びかかり、相手の動きを封じようと躍起になるが、男のほうは微動だにしない。もみくちゃになった手を振りほどいて隙を伺う少年に油断した振りをすると、予想通り、再び飛び込んできた。裏をかかれた少年は捕獲され、抵抗するが脇腹をくすぐられて、もがきながら悲鳴混じりの笑い声をあげてしまう。男も笑って、ささやいた。
「おかえり」
弱い力で腹いせに男の胸を叩き、少年はソファを降りる。好奇心旺盛な目が捉えたのは、壁に掛けられた額、そこに収められた一枚の絵。横に長い長方形で、ずいぶん大きく感じる。壁の一角を占める横幅は、少年の背丈ほどあるだろう。
「ねえ。これ、どうしたの?」
「ああ、向こうから持って来たんだ」
今朝まで無かったはずのそれはよく見ればジグソーパズルで、沢山の小さなピースが集まって美しい油絵風に、湖畔に建つ洋風の家を再現していた。少し古風な英国の田舎のような風景は、朝の幻想的な霧と木々や草花に彩られている。
「なんで一個だけ色が違うの?」
淡いグラデーションの空の一部、一つだけ色褪せたピースを見つけ、少年は隣に立つ男を見上げた。男は絵を眺めながら、少し懐かしむような苦笑を浮かべる。
「長いこと、離ればなれだったんだよ」
「なんで?」
「さあ、なんでかね。ま、おおかたオレのせいだ」
男は絵を眺めながら、少し懐かしむような苦笑を浮かべる。
「バカだったんだ」
男の顔を見上げ、色褪せたピースに目線を戻し、少年は困惑した。
「パパはバカじゃないよ?」
納得できず不服そうに呟いた少年に微笑み、男はぐしゃぐしゃと嫌がる彼の頭を撫ぜた。窓から窓へ、穏やかな風が吹き抜けていき、カーテンを揺らした。
子供の頃、かくれんぼが得意だった。必ず最後まで隠れ通し、皆が口々に降参と叫んでしばらくしてから、したり顔で出て行っていた。皆が隠れようと考える場所より更に見つけにくい場所を探すのと、じっとして気配を消すことが他人より少し得意だったのだ。
思考の裏をかくのが楽しくて、皆が自分を探して敗北感を味わっているのが快かった。その代わり見つかるまで、暗く狭い場所に息を潜めているのはとても退屈で、寂しかった。
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持って生まれた天然パーマのブルネット、地中海のように青い瞳、人懐こい笑顔。イタリア人はひたすら陽気だ。目の前の奴も例に漏れず、俺はどちらかというと深い関わりを好まないため、浅く楽しければそれでいいという彼のスタンスが有り難かった。
最初はどこで出会ったのだったか、よく覚えていないのは酔っていたせいだろう。以前住んでいたスペインの首都へ戻ってから数ヶ月、彼らにもだいぶ慣れた。この国は日本よりも広く、太陽と自由と快楽で溢れている。ちょっと脇道を覗けば、一夜限りの相手なんて発情期の野良猫のようにいる。男なんてそんなもんだ。名前しか知らないまま、その名前もすぐに忘れて、生臭い路地裏でアルコールの味しかしないキスをする。
夜の街に溺れているとは思わない。相手がどんなに顔よし器量よしのテクニシャンでも、満たされることはなかった。
瞳の色がどうだろうと、髪型がどうだろうと、多少の変わった性癖があろうと気にしたことはなかった。生理現象としてのセックスは、朝食のトーストに添えるジャムと同じだ。あると旨いが、無くても生きていける。
快楽に溺れ酒とドラッグで人生を滅ぼす奴もいれば、愛がどうのと言って決めた相手と以外は何があっても寝ようとしない奴もいる。
人生はシンプルだ。俺たちは食べ、歩き、排泄し、眠る。その他のことはオマケか、ちょっとゴージャスなオマケに過ぎない。
「愛してる、アキオ」
熱っぽい目線と共にその言葉を聞いたのは、混雑したバーを出た直後の舗道の上でだった。練習帰り、行き着けになりつつあるバーでよく見かける顔、他の奴らに混じって世間話をしているうちに意気投合し、ある夜酔った勢いで部屋へ上げてしまった。俺は一夜限りのつもりだった、と言うかはなっから、先の事なんて考えてもいなかった。
さっきの台詞に、俺は答えあぐねた。好きだと言われた事すら、人生で数えるほどしかない。中学に入るまでは荒んでいたし、高校に入ってからはサッカーひと筋で女気がなかった。そもそも、周囲に近寄るなオーラを放っている無愛想な俺を好く人間自体が絶滅危惧種だ。
そんな奇特なスペイン在住のイタリア人は、美大生で油絵を専攻し、サッカーが好きらしい。気さくで明るく、ユーモアに溢れている。体の相性はさておき、一緒にいて悪い気はしない。同じ性別ということを疑うくらい美人だし、はっきり言って申し分のない相手だ。二股でなければ、だが。
こんな風に分析までして考えるなんて、俺はよっぽど参っていたのだろう。知り合いの居ない未知の国で、一人で居ることに疲れてきたのも理由のひとつかもしれない。独りでいることに飽きていた。もっと言えば、退屈な上に建設的でないし、不健康だし、人間らしくないとさえ思っていた。
俺はロマンチストではない。約束だの運命だのと聞くと寒気がする。
「悪いな。お前は良い奴だよ、俺には勿体無い」
とんだ茶番だ。泣き出しそうな顔を追いかけようとした自分の中に、偽善者の面を見て吐きそうになる。ただ飲み過ぎただけかもしれない。イタリア人だから気にしたのだろうか。馬鹿な事を考え始める前に、数ブロック離れた自宅まで、左右の足を交互に出すことだけを考えた。
赤い糸だの何だのなんて信じない、俺は現実主義者だ。永遠、純愛、約束と女は口々に言うが、そんなものはまやかしだ。砂糖のように、そいつごと溶けてなくなるか、冷たく固まって突き刺さる。
狭い階段を上り冷えた手で鍵を開けて、真っ暗な部屋に入り、まだ俺は足掻こうとしていた。時計は日付が変わる寸前を指している。ポケットから出したスマートフォンを点け、しかし暗闇の中で光る画面に表示された名前を見て、ベッドに放り投げる。足掻いてもどうにもならない、結果を出さなければ。
(何やってんだか)
ベッドに寝転がりアラームをセットすると、目を閉じる。中学の頃が舞台の、とりとめもない夢を見た。
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ホイッスルが鳴って、マネージャーが声を張り上げる。
「休憩でーす!」
鬼道は妹のクリップボードを覗き込みながらドリンクを二つ取って、向かって来ていた不動に片方を渡す。受け取った不動は踵を返し、鬼道と並んで歩き出す。
「必殺技がもう少し欲しい」
「無茶言うね」
水分補給と女子の笑顔に群がるチームメイトたちの邪魔にならない程度に離れると、二人は立ち止まる。鬼道が立ち止まったから不動も立ち止まったのであるが、そこには話をするためという理由がある。
「事実だ。備えあれば憂いなしと言うだろう」
「備えすぎてもねぇ……」
思考に新たな刺激を加えたくて視線を動かすと、マネージャーであり鬼道の妹である春奈の、嬉しそうな顔が映った。
(何だ?)
尋ねる前に、鬼道も彼女の変化に気づいて怪訝な視線を向けたのだろう、春奈は言った。
「もうすっかり息ピッタリって感じですね! 次の試合も頑張ってください!」
聞き慣れない単語に驚いて、不動は暫しの間固まった。言葉の意味を理解したのは、驚いていない様子の鬼道のほうが早かった。
「フッ、だと良いがな」
ちらりと、ゴーグルの奥の瞳が、未だ必死に困惑から抜け出そうとして停止している不動を見る。
動揺を見破られそうで、ドリンクを置きに行くことで逃げかわした。鼓動が高鳴っていて、意識しているのだと自覚させられる。だがその理由については、まだ勘違いだらけだった。
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未来を左右する決定的な分岐点というものは、知らぬ間に訪れる。 映画みたいにドラマチックにはいかない。選択肢がどこにあるかなんて考えても、キリがない。行動、発言、返答、意識。人は常に選択し、その連鎖が未来への道を形成する。
ある夜、唐突に鬼道が言った。
「養子を取ろうと思う」
サングラスの奥の赤い目は前を向いていて、不動を見てはいないが、旧知の仲と言える友の冷静で率直な、第三者の意見を求めている。
「どう思う」
「……どうって?」
ズル賢い答え方で逃げて時間を稼ぐことしかできなかった不動は、うす暗いバーカウンターでちびちびとウーロンハイを飲んでいた。
まさかこいつ酔ったのではという疑惑が一瞬頭を過ったが、先程注文したダイキリは一口しか飲んでいない。冗談の訳がなかった。大体、このバーに入ってからまだ三十分くらいしか経っていない。
「別に、独り暮しが嫌になったとかそういうのではないんだ」
「親父さんは?」
「――後継ぎが欲しい、とは思っているだろうな」
(まだ言ってねェのかよ……)
二十六ともなればいい加減に、今まで未知で無視し続けてきた人生一番の行事を表す二文字が背中にのし掛かってくる。一般家庭の長男でさえ受験生のようなストレスに感じるのだから、財閥家の御曹司にかかるものは、想像もできないほどの圧量だろう。
(一人で育てるのか?)
尋ねる代わりに、コップに三分の一程残っていたウーロンハイを一気に流し込んだ。これで鬼道が動揺を察しようが構わないし、むしろ今はそれもいいかもしれない。この堅物もたまには動揺するべきだ。
「あの子だろ。悪くないと思うぜ。良い指導者がつけば、トップレベルになる素質が十分ある」
「別に……同じ道を歩ませようとは思っていない」
「じゃあ何が目的なんだよ?」
「目的……か」
店内に流れる有線のジャズ・トランペットがわざとらしいほどムーディーな雰囲気を作り出すのに一役買っていて、人々の控えめな話し声と混ざり、映画のワンシーンのようだった。
バーテンダーは暇なのか、離れたところでグラスを磨いている。確かに二人の若い男以外、カウンターに客はいない。鬼道は黙ったままグラスの縁を指でなぞっている。
「何。なァんか、湿っぽいぜ? 溜まってンじゃねーの」
「フッ……かもな」
場を茶化すつもりで言ったのに、思いがけない返答を釣り上げてしまい後悔する。
(かもなじゃねぇだろ……)
次に来る台詞を予測して当たった時ほど、帰りたいと思ったことはない。
「お前、明日は?」
「特に」
口を開いてから、もっと勿体ぶればよかったとさらに後悔した。墓穴を自ら掘るのは得意だという自負はあるのだが。
彼が甘えてくると、つい甘やかしてしまう自分も悪い。だが相手が甘え下手だと知っているから、ささやかな努力の結果を認めてやりたくなるのだ。
バーを出たらさっさと帰ればいいのに、沈黙をいいことに家までついてきてしまって、やめればいいのに中へ入った。
(「帰らないのか?」とか、なんか言えよ。養子取るくせにパートナーはいねぇのか? ……相変わらず、何考えてんだかねぇ)
部屋へ上がると、手持ち無沙汰な不動を捕まえて、鬼道はうっとりと目を細める。いつの間にサングラスを外したのか、久しぶりに見る造形は扇情的で甘美だった。
腰に手を回せば体を寄せ、見つめれば見つめ返す。まるで長年連れ添っている恋人同士のようにストレートな感情表現に思えたが、果たしてどこまでが本心なのだろうか。解読できない暗号を前に、不動は焦燥を感じる。
「風呂、入ンねぇの……」
「どうせ濡れる」
キスを始めると、余裕が無くなっていくのが手に取るように分かった。
(がっつくほど溜めてんじゃねーよ、バカ)
一度、離れたのは服を脱ぐ為にだけ。求められる程に応えてしまう自分の甘さに、苦々しい顔で笑った。隠せるはずもない、何も身に付けていないのだから。
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もし彼の短所を一つずつ積み上げたなら、鉄塔と並ぶことができるだろう。
返事はちゃんとしない、目を合わせない、無視やスルーはしょっちゅうだし、いちいち鼻につく態度をとる。
口を開けば皮肉ばかり、天上天下唯我独尊とでも思っているのか、しかし阿呆のように見えてそれなりに働く頭を持っているからまた腹立たしい。
マイペースで思いやりが足りないなんてもんじゃない。彼の場合はわざと挑発して、引き出した感情を手玉に取り、相手を操ろうとするのだ。
生い立ちを聞いて成る程と納得はしたものの、いつまでも一歩以上距離を置いて皆を監視しているような姿が許せなかった。
放っておけ。あれが不動明王なのだと言い聞かせ、気にしないようにと思ったが意識しないようにすればするほど苛々して仕方ない。そもそも、“意識しないように”意識しているのだから、意識しないわけにはいかないのだ。
「パーティーに不動も呼ばなければならない……どう思う?」
クリスマスの一週間前、そろそろ冬休みという頃。苛々している自分を落ち着かせようと思い付いたのが、円堂と豪炎寺に相談することだった。
FFIが終わっても彼らの頭にはサッカーのことしかないかもしれないが、それでも何も言わずに一人で悶々としているよりはマシだと考えた。
「不動? ああ、あのカッコイイ頭のヤツだな!」
「カッコイイか……?」
素でボケる円堂とツッコミを入れる豪炎寺のおかげで、少し笑顔を取り戻せたような気がする。
「そう、あのモヒカン頭のことだ」
「モヒカンっていうのかー。すげーな!」
「どうした、鬼道。練習試合のことなら心配いらないぞ、俺たち三人がいれば最強だ」
心配性だった豪炎寺も自信たっぷりに微笑んでいて、いつものドヤ顔に和みつつ、そうじゃないと首を振る。
「どうにも、おれは奴が気に食わない。色々原因を考えたが、影山のことは葬式も終わったしもういいんだ。やはりあいつが異常のような気がしてならない。そこで二人には、不動がどのような人間に見えるか聞きたいんだ」
呟くようなトーンで一気に言いたいことを出しきってしまうと、二人は黙って考え、円堂が先に口を開いた。
「オレは、離れてもみんな仲間だって思ってる。友達だろ? サッカーやってる奴に悪い奴はいないよ!」
「それはそうだが……」
煮え切らない様子の鬼道に、豪炎寺ですら苦笑した。
「鬼道が人間関係でそこまで悩むなんてな。不動か……確かに最初はとんでもない奴だと思ったが、不器用なだけだ。それに良い足を持ってる。お前たちはFFIで打ち解けたように見えたけど、違ったのか?」
「そうだよ、どこが気に入らないんだ?」
分かってない様子の二人を前に、鬼道は腕を組んで考える。
「確かにプレーは高く評価できる時もあるが……問題なのは奴の人格だ。マイペースで自分のことしか考えてないし、全ての人間を自分に従わせようとしている。司令塔が務まるわけがないだろう。口を開けば嫌味しか出てこなくて、態度も横柄。あれじゃあ、いつか周りに誰もいなくなって、ひとり寂しく孤独死するだけだ」
まるで独り言のような鬼道の愚痴に、親友二人は顔を見合わせる。直後にふっと笑い出した二人を見て、鬼道は眉間のシワを深めた。
「な……なんだ? 何かおかしいか?」
豪炎寺でさえ珍しく声を出して笑っている。
「孤独死だって!」
「結局、不動のことが気になっているんだな」
「気になっているんじゃない、気・に・入・ら・な・いんだ」
「そっかー、鬼道は不動のことが好きなんだな!」
「好きなわけないだろう」
「円堂、それ以上はやめておけ」
「なんだそっかー。おかしいと思ったよ! そっかそっか」
親友にさえ、理解してくれないと怒りが沸いてきて、これでは八つ当たりしてしまいかねないと判断した鬼道は、立腹した様子で席を立つ。昼休みはまだ半分残っている。後ろから、クラスメイトたちの日常的な騒ぎに混じって、円堂のよく通る声が聞こえた。
「鬼道と不動って似てるよなー。きどう、ふどう、あっほら名前も似てる!」
「ああ、冷静なところとムキになるところがそっくりだな。二人とも負けず嫌いなんだろう。もっと認めあって仲良くなれば良いコンビなのにな」
「え? もう仲良くなってるんじゃないのか?」
どんどん遠ざかって行きたい、もうこんな話はやめにしたい、聞いた自分が馬鹿だったと呆れるほどなのに、円堂と豪炎寺の声を聞き漏らすまいと廊下で耳をそばだてている自分がよく分からない。
(気になっているだと。馬鹿馬鹿しい。大体、どこが似ているというんだ。ありえん)
こんな調子で頭に血が上っていては、午後の授業もままならない。どちらにせよ帝国学園で学んだことの復習しかしないと言っても過言ではないのだが。
鬼道はとりあえず屋上へ出た。爽やかな冬晴れ、風がモヤモヤを吹き飛ばし、気分を変化させてくれる。短所を積み上げてやるといっても、たかが鉄塔レベルだ。富士山には届くまい。
(あんな奴に四の五の言っているなんて。おれもまだまだ子供だな)
鬼道の自宅で行うクリスマスパーティー兼FFI優勝祝いには、帝国イレブンを招待しているし、雷門中の親しい友人たちは全員来るので、かなり賑やかになると思う。一人のクズに構っている暇も無いだろう。いざとなれば、源田と佐久間がいる。
(おれとしたことが……)
自嘲に笑みを軽く、予鈴に屋上を後にした鬼道は、くだらない人間についてあれこれ考えるのをやめた。まだしこりは残っているが、鬼道有人が悩むような問題ではない。全く馬鹿馬鹿しい。
しかしこれは、後に重大な間違いだと分かった。