目が覚めると、薄暗い部屋で横になっていた。妹は目の前で丸まっている。彼女の左腕と有奈の左腕が、短い手錠で繋がれていた。
「ユウ……!」
 妹はすぐに目を開けた。
「ぁ……、姉さんっ……」
 ぎゅっと抱き締め合って、しばらくそのまま、お互いを慰める。一人じゃなくてよかったという気持ちと、妹にまで辛い思いをさせているという気持ちが同じくらいに高まり、涙が滲んだ。
 落ち着いてから、自分達の置かれている環境を観察した。今居る部屋は、部屋と言うよりは倉庫のようで、長方形の狭くて埃っぽい空間だ。天井は高く古そうだが 頑丈な作りで、壁際にある支柱と棚板だけのラックには無地のひしゃげたダンボール箱がびっしり置かれている。窓は小さな明かり取りが上の方に二つあるだけで、何か台に乗らなければ外を見ることはできないだろう。扉は一つしかなく、外からは何の音も聞こえない。
 起き上がると手錠で引っ張られるため、ユウも体を起こした。コンクリートの床にアクリル毛布を二枚重ねて、その上に寝かされていた。
「ユウ、大丈夫か? どこか、痛いところはないか?」
 ユウは少し考えた後こくりと頷いたが、直後にその赤い瞳を歪ませた。
「あいつら……っ!」
 悲しみと怒りと、言葉で表現しきれない感情がぐちゃぐちゃに混ざって、滴がこぼれた。
「ユウ……」
 自由の利く右手で細い肩を撫でる。震えながら、ユウは袖で涙を拭った。
「大きい方が不動明王、弟はアキって名前だって。姉さん知ってるか?」
「いや……不動という名字自体、聞いたことがないな」
「なんか、お父さまに恨みがあるみたいだった……」
 話しながらぎゅっと抱き締めてくるユウのやわらかい髪を、弱い力でふわふわと叩くようにして撫でる。奴らの目的は何だかはっきりしないが、この名前自体に怨恨があり、身代金目当てで誘拐したのだろう。昨日の口ぶりでは暴行は予定外のようだったが、一体どういうつもりなのだろうか。その時、錆びかけた重い鉄の軋む音がしてドアが開き、暗闇から足音が近づいて来た。
「おっ。目ェ覚めたかァ?」
 明るいところに現れたのは、弟の方だ。アキは持っていた大皿とペットボトルを、近くのテーブルに積まれたダンボール箱の上に置いた。ピザトーストの良い香りが漂ってくる。美味しそうだと思うくらいには空腹だった。
「ちょっち遅い昼メシだぜェ。親切だろォ? ついでに良いことを教えてやるよ。見りゃ分かるが、ここは町外れで、ご近所さんなんかいやしねェ。泣いても叫んでも、誰も来ねェとこだ」
 睨み付ける姉妹の顔を交互に見て、アキはさもそれが望みであるかのようにニヤついている。
「用があるまで、ここで大人しくしてな」
 去って行こうとする少年の後ろ姿に、有奈は大きく声を掛ける。
「早く父に電話して身代金を要求したらどうだ」
 皮肉と軽蔑を込めて言うと、アキは振り返らずにケタケタと笑った。
「人質が指図すんじゃねェよ」
 笑ったまま、強い声で彼は言った。ドアが軋み、重々しい音をたてて閉まる。ユウが腰に回した手に少し力を込めたのを感じ、ゆっくりとした動作で髪を優しく撫でた。それは姉にとっても、妹にとっても、唯一安らぎを得るための手段になっていた。





§





 すっかり部屋が暗くなり、室温が下がってきた。この倉庫らしき場所から全く出られないことが分かってからは、ずっと毛布にくるまり抱き合って座っている。外からは本当に、何の物音もしない。
 ピザトーストとミネラルウォーターに口をつける気はしなかったのだが、背に腹は変えられず、まず有奈が毒見をしてから、二人で分けあって食べた。何も無いよりはマシだが、冷めていたし味は分からない。
 することもなく数時間が経ち、恐怖にも疲れてきた頃。不動兄弟がやって来た。
「おら、来い」
 布で目を隠して立たされ、腕を掴んで引っ張られる。抵抗を抑えながら連れて行かれた先はどうやら、家の中のようだ。フローリングの床を進み、階段を上がってドアを開け、ずっと腕を掴んでいた手がパッと放された。妹を抱えて受け身を取ろうと身構えたが、倒れたところはやわらかく、痛くない。解放された手で目隠 しを取ると、どこかの家の狭い部屋で、フローリングに布団が敷いてあった。
「ここならとりあえず寝れるだろ。便所はこっちな」
 明王が指をさす。この部屋に面しているのは入り口とそのドアだけで、唯一脱出できそうなのはベランダへ出られる窓だ。しかし考えを見越して、明王が笑った。
「言っとくけど、この家からもし出られたとしても、アンタらには自力で帰ることなんかできないぜ」
「私たちをどうするつもりだ」
「さァ、どうしようかねェ」
 ふざけた態度に、怒りが沸く。
「ここから出られなくとも構わん。うちの警備がすぐに、私の居場所を突き止める。貴様らは捕まって刑務所行きだ」
「へぇ……強情な女は嫌いじゃないぜェ……」
 唇を歪め、明王は有奈の顎を振り放す。細めた目で一瞥したあと、明王は何かを思い付いた。

「おいアキ、あれ取って来い」
「あれ……ね」
 ニヤリと笑ったアキが何かを取りに行っている間に、明王は姉妹に近付く。背後に回られると、よく見えないために抵抗しづらい。しかし手の拘束が一瞬ゆるんだ隙に、ユウがパッと立ち上がった。有奈の両腕は強く掴まれていて、すぐに再び拘束されてしまった。
 ユウはドアまで走ったが、有奈の様子を見つつゆっくりと明王が近付いていく。ドアは鍵がかかっていて、開かないらしい。
「ユーウーちゃんっ。悪いコだなァ……」
 抑揚をつけて子供をなだめるように、明王はにやりと笑みを浮かべる。腕を掴まれ、ユウは激しくもがいた。
「やっ……やめろ! はなせ!」
「ユウ……っ!」
 頼むから大人しくしていてくれと、表情で妹に呼びかける。もがけばもがくほど、明王の手に力がこもっていく。少女の細い腕は折れてしまいそうなほどで、ユウは痛みに顔をしかめた。
「大人しくしてろよ。今から楽しいコトすんだからさ」
 ドアが開き、アキが戻ってきた。兄の目配せを理解したアキは、がっちりと押さえつけられたユウの手首にもう一つの手錠をかける。ベッドに向かって突き倒され、ユウは小さく呻いた。
「おい! 妹を傷つけたら許さんぞ!」
 有奈が叫ぶと、早速ユウに覆い被さるアキがアハハと笑った。
「知るかよ!」
 抵抗するユウとアキの間に割って入るために立ち上がろうとしたが、ぐいと体が引っ張られる。
「アンタはこっち」
 後ろから抱きついてくる明王から逃れようとするが、首筋をねっとりと舐められ、力が入らない。必死に耐えるしかないのかと思った矢先、目の前に突き出されたのは、毒々しいピンク色の物体。すぐに目を背けたが、男性の性器に似せた形は脳裏に焼き付く。
「これ、どうやって使うか知ってっか?」
 毅然として黙っていると、無理やり押し開かされた足の中心に近付けられる。グニッとした触感が肌に当たって、思わず足の神経がビクッと動いた。そのまま、異物は体内に挿入されていく。
「知るわけねぇか。これは、こーやって使うんだよ」
「ひ……っ!!」
 また引き裂くような痛みが起こると身構えていたのに、痛みは感じない。分かるのはこれが常識範囲外のことだということと、本来は気色の悪いはずがない行為だということ。
「で、こう」
 カチッとした音の後に、機械が動くヴィィィンという音が始まった。同時に、体内に挿入されたおぞましい物体が、くねくねと勝手に動き出す。
「うぅぐっ……!? な、なんだこれは! ぁ……っ!」
 青ざめる有奈を見て、明王はニヤニヤと笑っている。
「気持ちいいみてェだな。すげー濡れてきたぜ、この淫乱」
「くっ……この……っ」
「やぁぁ……!」
 声がして横を見るとユウも同じように、アキに監視されながら足を開かされ、苦しみ悶えていた。ちょうど妹の小さな膣に、コードのついた卵のようなピンクの物体が押し込まれたところだ。コードの端にはリモコンが付いており、アキが操作するとユウの反応が強くなる。若干の仕様は違うが、同じようなことが起こっているらしい。
「ひぁ……!? な、なに! やめろ……っ!」
「どーだ? なかなかイイだろ」
 ニヤニヤと、アキはユウの反応を眺めている。
「っぁ、っは、う……っ!!」
 まだ今朝の痛みが残っているのか、ユウは眉と瞳を歪め、苦しげに身をよじっている。何か声を掛けてやれたらと思ったが、有奈は自分のことで手一杯だった。内壁を一定の間隔でえぐりながら震動する機械は、電子音をたてながら蹂躙し続けている。理性と意識の手綱をしっかりと両腕に巻き付け、必死に声を抑えていたが、後ろから明王が抱きついてきた。
「アンタ、こんなオッパイしといて処女だったの? 信じらンねーな……」
「ひぁ……っ!?」
 いつも胸を隠すような服を選んでいたのに、今は脇の上までたくし上げられている。いつの間にか下着を外されてあらわになった、やわらかい肉塊を明王は弄ぶ。突起を好きなようにいじられ、同時に膣に与えられる刺激が、次第に感覚を昂らせていく。
「ぁ……ッ、や……! は、は……っ」
 またあの不思議な感覚が襲いかかり、胸への刺激と秘部への刺激のどちらなのか、抵抗する間もなく一気に昇りつめた。
「あ、ぁああッ……!!」
 ビクンビクンと震える有奈を抱いて、明王は耳元でささやく。
「お、イッた? オモチャでイッちまうなんて、処女のクセにどんだけ淫乱なんだよ」
 大人らしく控えめだが下品な笑い声が耳の裏を舐め、やや麻痺した内壁を延々とえぐり続ける機械が引き抜かれた。ほっと息をついたのも束の間、仰向けにされ今度は張り詰めた明王の肉棒が容赦なく突き挿さる。突き飛ばしたいが両腕は背中で拘束され、両足は明王が阻んでいる上に力が入らない。
「ふぐっぅうう……っっ!!!」
 一瞬麻痺したかのように感じた内壁は、一段と敏感になったようだった。昨日と感触が、何となくだがゴム一枚分違うのも分かる。辛うじて服を噛んで声を圧し殺し、機械とはまた違った刺激に揺さぶられながらユウの様子を見る。妹は懸命に、屈辱に耐えていた。
「あぅ……ぐ……抜け……ぇっ……」
「ああ? お前もオレの方がいいのかよ?」
 しょーがねーな、と呟いて、ローターが引き抜かれた。アキはどこか嬉しそうに体勢を整える。避妊具をかぶせ、少年ながら立派に膨らんだ肉棒が、成長途中の花びらを一気に貫いた。

「うぁぁあっ……!!」
「どうだ、気持ちイイかァ? どこがイイか言ってみろよォ!」
 引きつったように笑うアキを、ユウは激しい喘ぎに何も言えなくなりながらも鋭く睨みつける。だが相手には効いていないどころか、かえって扇情的に作用してしまったようだ。
「ヒャハハ! オレさぁ、そのカオすっげー好み」
 腰を振り出したアキは、笑みを奥歯で噛み締めて苦しげに前髪をかき上げる。
「足りねえ……全ッ然足りねえェ!」
「ハハッ」
 狂ったように腰を打ち付ける弟に笑い、明王は自分の獲物に意識を戻す。有奈はそれを見ていて、明王に耳をくすぐられながら、腰の辺りがぞわりと粟立つのを感じた。
「オレたちも楽しもうぜ」
 なるべく目を合わせないようにしていたのだが、つい一瞬、視線が交わってしまった。鋭い目はくすんだ青緑色で、ふと少し細めたそれに射るように見つめられ、有奈は時を忘れる。
「ぁッ……は、――ッ!」
「有奈ちゃんさぁ……アンタ、けっこう美人だよな……」
 呟いて、嬉しそうに明王は唇を奪う。
「……っ!? ふ……ん、んぅ……!」
 角度を変え、やわらかい小さな肉塊を貪るように降ってきた激しいキス。有奈は体中を駆け抜けた痺れに動揺し、されるがままになっていた。歯列を割って舌を捕まえた後は、口内をしつこく蹂躙されて唾液が溢れる。
「んっふ……はぁ、んぅう……ッ!」
「姉さん……!」
 妹の声で意識がわずかに戻った。ぼうっとしてきた思考で辛うじて、たった今、人生で初めての青春を奪われたことを認識した。ぼんやりとした暗闇に、全てが消えていく。
「うるせぇなァ、黙ってろよ」
「んむぅ……っ!?」
 アキがイラついた声を出し、ユウの小さな唇を塞いだ。みずみずしく健康的なピンク色のそれは、きっと初恋の儚さを待っていたはずなのに。だが今は、妹のことすら、もう気にかけてやれない。
 ねっとりと絡み付く舌に、反射的に内壁の細かい襞がざわめき、秘部はヒクヒクと収縮したのだが、有奈に自覚は無い。
「おお、なァに締め付けてンだよッ」
 嘲笑を含んだ声で言い、明王は有奈の左太腿を掴んで、ぐいっと押し上げた。
「なに、もしかしてチューも初めてだったとか? ありえねー」
 奥の肉壁に当たるほど、深く強くなった律動に意識が遠ざかり、思考が飛んで行く。今何を言われたかも、よく分からなくなってしまった。
「いァアッ……やッ、ンあッ、――ぁぁああああっっっ!!!」
 体がびりびりと痺れ、電流のようなものが駆け巡り、勝手に震えた。もう数回腰を打ち付けた後、明王も動きを止めて激しい息を吐く。異物は引き抜かれ、有奈はぐったりと目を閉じた。同時頃だったのだろうか、いつの間にかアキも満足げに息を吐き、ユウはぐったりと横たわっていた。
 兄弟が簡単に後始末をし、立ち上がる気配がした。呼吸は次第に、平常へ戻っていく。
「さてと……夕飯の時間だな」
「運動したら腹減った」
 ケタケタと二人が笑い、ドアが閉まる。目を開けて、妹を探した。
「ユ……ウ……?」
 頬についた筋を拭う気力もなく、妹は横たわっていた。閉じかかったざくろ色の瞳はどこを見るでもなく、悲愴に縁取られ艶っぽく潤んでいる。傍に行きたいが、下半身に力が入らない。泣きたくなって、そのまま体を丸めた。
 きっとすぐに助けが来る。黒いスーツ姿しか見かけない警備たちとは、言葉を交わしたことも冗談を言い合ったこともあるが、皆たくましく賢い者ばかりだ。きっと、すぐに見つけて、助けに来てくれる。
 有奈はシーツを握りしめた。






つづく








2016/05


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©2011 Koibiya/Kasui Hiduki