混沌の中で泥のように眠り、目が覚めると部屋は暗いままだった。しかしベランダの窓から漏れる一筋の光を見つけて、唯一の窓が木板で塞がれたことを知る。厚い板は簡単には壊すことはできなさそうだ。
部屋にあったハンドタオルを洗面所で濡らして、体を拭いた。こんな状況でも何とか生活をしようと考える姉の虚ろな目を見て、ユウは涙をこぼした。
「姉さん……」
有奈は黙ったまま妹の髪を撫で、抱き寄せる。二人が一緒にいることが、せめてもの救い――なのだろうか。
階段を登ってくる足音に反応して、一気に緊張が高まる。強ばった体で身構えていても、どうにもならないと分かっていながら、ユウは体を縮めた。
鍵の開く音に続いてドアが開き、明王が入ってくる。
「よお。お目覚めか」
鬼道姉妹はベッドで生活していたので、布団を畳む習慣はない。布団の側にしゃがみ込んだ明王は、面白がっている様子で目を細め、軽い調子で口を開く。
「気分はどうだァ?」
良いはずがないことを知っていて、わざと聞いているのだ。黙ったまま睨みつけている姉妹を確認して、明王は笑った。
「ククッ……腹減ったろ。メシにしようぜ」
立ち上がり、ドアを開けたまま待っている。
とりあえず従っておいた方がいいと判断し、有奈がゆっくりと立ち上がった。ユウも真似をしたのを見て、明王は先に廊下へ出る。
階段を降りると、ごく一般的な家に見えた。フローリングのリビングには六人掛けの大きなダイニングテーブルと肘掛けのない椅子が六脚置かれ、壁側には食器棚が一つ。キッチンは一部が対面型になっており、コンロ側の壁は焦げている。すぐ側の四畳半には二十年ほど前のモデルの二十六インチのテレビと、炬燵が置いてあるのが見えた。
畳は薄茶色に焼け、柱は傷だらけで、壁が剥がれていたり、床が軋んだりとあちこち古いようだが、掃除はそれなりに行き届いているようだ。テーブルには白米と味噌汁など、食事が用意してあった。
「あ、起きた? 冷めちまうから早く食えよ」
用意していたらしいアキが、テーブルの端にマヨネーズのボトルを置きながら言った。ユウは躊躇したが、ゆっくりと椅子に座る。味噌汁と焼き鮭の香りに安心感が広がり、震えながら箸を持った。
「栄養失調でくたばったりしたら困るからな。……しっかり食えよ」
隣に座った有奈に屈み込んで最後だけ囁くように言ったあと、明王は上機嫌で向かい側に座った。アキがその隣、ユウの向かいに座る。
「いただきまーす」
ありがたみを感じないおざなりの言い方で、彼らは食べ始める。かなり気が滅入っていたが、腹は今にも鳴りそうだ。仕方なく、有奈は椀を手に取った。ちらと目線を寄越され、やっとユウも箸を持つ。
「そうだ、窓どうした?」
「あ? びっちり塞いだ」
「うし」
咀嚼の合間に兄弟が話すのを何となく耳にしながら、温かい食事を口に運ぶ。食べ始めた姉妹を見ていた明王が、満足そうに言った。
「全部オレが作ったんだぜ。なかなかうまいだろ?」
口の中のものを嚥下して、アキが続ける。
「外で買うとさ、人件費とやらが入ってるじゃん。だったら自分で作るし、ってゆーね」
「お前は米しか炊いてねェじゃん」
「ハー、これ全部オレ一人でもできるし」
妙に普通の会話が交わされていて、ユウは忍び寄るような安堵を感じ、そのことについて恐怖した。
「それなりに腕は立つようだな……でもこんなことで、油断させようとしたって無駄だ」
その恐怖を打ち消したくて、口を開いたのだと思う。明王が面白そうなものを観察する目でユウを見た。
「ふーん? ……ま、いいけど?」
それから何事も無く、空腹だったので結局おおかた食べて、箸を置いた。
「ごちそうさまでした……」
つい癖で口にしてしまったが、あまり言いたい気分ではない。
アキは黙って、空になった食器を片付ける。彼らが見ていない隙を狙って、なにか……カッターや武器になるものを何か、手に入れられないかと周囲を盗み見る。電話の横のペン立てにカッターが立ててあるのが見えたが、少し遠い。
「オラ、部屋に戻れ」
立ち上がり、腕をきつく掴まれて階段を上がる。
「痛い……放せっ」
アキは少し笑っただけで、手をゆるめない。ドアを開け、敷いたままの布団に向かって放り出した。支えを失って、ユウは倒れる。後ろから明王が有奈を連れて入ってきた。
「おい……っ! ユウに何をする!」
妹を守ろうとしたその体を明王が抑えるのを見やり、アキは口角を上げる。
「別にィ?」
寝転がったユウは、てっきりまたアキが覆い被さってくるのかと身構えていたが、そうではないと知り肘をついて上体を起こした。
「また後でな、ユウちゃん」
合う前に、目を逸らした。ドアが閉められ、再び姉妹は二人だけになった。有奈が心配そうに近付いてくるのに弱い微笑で応え、ユウは布団の上に座り直した。
鍵が開く音がして、アキが入ってきた。手にした丸い盆には、温かそうな湯呑みが二つ乗っている。
「よぉ。茶ァ淹れてやったぜ」
ユウの前の床に置かれた盆を見て、ミネラルウォーターだけでは飽きてきた喉が変化を求めて期待する。
「何か入っているんじゃないだろうな?」
すかさず有奈が睨みをきかせたが、アキは肩を竦めて笑う。
「なんだよ、さっきマトモなメシ食わせてやったろ?」
それもそうかと有奈は渋々、牙を引っ込める。目線で確認すると目だけで頷いた姉に少し安堵して、ユウは湯呑みに手を伸ばした。アキが、少しばつが悪そうに言う。
「さっき、突き飛ばしたけど、どこも痛くなかっただろ?」
どういうつもりなのか、怪訝に思いながら答えておく。
「……まあな」
「良かった」
アキは盆を持って立ち上がり、姉の方へ近付く。
「ホラ、アンタの分」
有奈は湯呑みを受け取って、つい癖で礼を言いかけた口をそっと閉じた。見ていたユウは、温かい緑茶を少し口に含む。熱すぎず口当たりがよく、久しぶりに嗅いだ気のする芳しい香りを深く吸い込んで、少しずつ半分ほど飲んだ。
アキが空の盆を床に置き、ドアへ向かう。しかし開けたまま、出て行こうとはしないので不思議に思った。
「ん……」
湯呑みを盆に置こうとして、ユウは違和感を覚える。体の芯が疼き始め、動悸が激しくなってきた。部屋の外にいたらしい明王がやって来る。
「お? もう効いてきた?」
ユウの隣に腰を下ろし、アキは上機嫌で膝を撫でる。そんな些細な刺激にすら、快感を感じた。
「美味かったろ」
「貴様、何を入れた……!?」
有奈は少し遅れて症状を自覚する。明王は近付いていきながら楽しそうに笑って言う。
「気持ちよくなる薬だよ。まだ立場がよく分かってねーみてえだからさぁ。そのカラダにしっかり教えこんでやらねェといけないだろ?」
何を言っているのか、すぐに理解できない。思考がとろけていく。
「は……なん、か……あつい……」
アキが与える快楽に溺れていく意識を、止めることができない。理性が薬でぐずぐずに溶けてしまっている。アキと淫らなキスを交わしながら、ユウは下腹部の中心が熱く疼くのを感じていた。
「ふ、んむっ……はぁ……」
強気でいなければ、屈せずにいなければと思うのだが、体はアキの言いなりだ。足を開かせれば簡単に開き、むしろすり寄って行きたい程だ。
「さーて、ココはどうなってるかなァ」
アキが下着越しに、指先で秘部をひとなでした。
「ふぁあああ……っ!」
「すっげ……ちょっと触っただけだぜ?」
もう少しで絶頂へ達しそうで、思わずアキにしがみついた。分かっていて、アキは強い刺激を与えてくれない。ゆっくりと服の上から胸を揉み始めユウを弄ぶアキを見て、有奈が呻く。
「いや……いやだ……やめろ……っ」
しかし彼女もまた、薬の効果に屈伏させられ始めている。
「もっと気持ち良くなりたくね?」
クスッと笑って、明王は有奈の唇を塞いだ。
「ふぅっ……んっ……んむぅぅっ……」
舌を舌で撫で回し、唇を唇で食む。一分以上経っただろうか、ぷはあっと離れると、有奈はすっかり気が抜けていた。とろんとした目で、口の端から一筋の唾液をこぼし、それを反射的に舌で舐めとる。それを見て明王はニヤリと笑う。
服を脱がせる間も有奈は抵抗せず、ぼうっとしている。その豊満な乳房にむしゃぶりついて、明王は唸った。
「ん~っ。サイッコー」
「あぁ、や、んぅうっ……」
もじもじと膝を擦り合わせ、腰を揺らす有奈は、何かに耐えているようだ。
「ぅ……く……」
「欲しいモノは自分で取り出してみな? ちゃんとできたら、気持ちよくしてやるよ」
まだ動かない有奈の耳元で、自分の股間を見せながら、明王は囁くように言う。
「あんたがやらなきゃ、妹ちゃんにやらせるぜ?」
その言葉は威力があったのだろう、有奈の顔色が少し変わった。明王の膝の前に座り、恐る恐る手を伸ばし、ズボンのジッパーを下げる。
震える手が迷っていると、明王が顔で先を促す。やっとのことで思いきって取り出した男性器は太くそそり立っていて、なま暖かく脈打っている。
「舐めてくれよ」
まさかとは思ったが、姉は言う通りにした。従うことで油断させる彼女なりの作戦なのかもしれないが、明王の股間に顔を埋めて、舌を伸ばし、生理的にだろう涙を堪えて。
「ホラ、もっと口開けろよ」
「んむぅぅっ……」
気が強くて頼もしかった姉が、誘拐犯に頭を掴まれ、今は目に涙を浮かべて身を捩っている。
「そうそう……歯ァ当てんなよ」
「ふぐっ……ぅうっ……」
唾液がたてる水音が、卑猥に繰り返される。
「そうだ……ぁあ、いいぜ……んだよ、できんじゃねェか」
キスをして、戯れ、ユウの服を脱がせながら横目で見ていたアキが、目を輝かせた。
「ユウちゃん。オレにも、アレやってくれよ」
「いやだ……気安く呼ぶな……っ」
睨み付けようとするが、呼吸がうまくできなくて力が入らない。アキは太腿を、秘部に向かって撫で上げる。
「いいじゃん。それにココ、もうグッチョグチョじゃね?」
「ひあッ……」
意志を無視して、体が動く。アキが促して、股間に屈み込んだ。
「そーそー。素直に言うこと聞きゃあいいんだよ、ユウちゃん」
雄の臭いにぞくりと体が戦慄く。勇気を振り絞って舌先で触れると、体温と苦味を感じた。
頭に触られて、抑圧に負けまいとユウは口を開く。しかし小さな口は開くことに慣れておらず、ちろちろとかわいらしく舌が見え隠れする程度だ。
「もっと口開けて、しゃぶってくれよ?」
未知だった最初の状態より慣れてくると、今度は妙な感覚が沸き起こってくるような気がしてきた。もう少し、広げた唇でくわえこみ、頭ごとゆっくり上下させる。アキは上機嫌で、呼吸を荒らげている。
「いいぜ……クククッ、イイ眺めだなァ!」
腰を動かして、アキは無理やり速度を上げようとする。なんとか抵抗して離れた瞬間、アキが射精した。
「は……っ」
驚いた時の高い声が抜け、アキはにやりと笑った。
「どお? したくてしたくて堪らなくなってきただろ」
ユウはぼんやりしたまま顔に飛んだ精液を指で拭い、体を見た。服と、はだけた胸元にも白い粘液が付いている。
明王は口の中で達したらしく、有奈がむせこんでいた。
「なァ有奈ちゃん、アレやってよ」
「ふぁ……?」
「ホラ。このオッパイでさ、オレのを挟んで、」
言いながら胸の上に跨がり、両手で掴んだ乳房で己の逸物を挟む。
「や……っ」
「いいぜ……んで、こう……」
明王は乳房を揉みながら、しごくように己に押し付け始めた。
「んぅ……やめろぉ……っ」
「あぁー、すげぇ良い眺め……でもやっぱ、舐めてもらった方がイイな」
クスクス笑いながら、明王は有奈の手を掴み、自ら胸でしごいているような錯覚を起こさせる。
姉を助けなければ……しかしユウは朦朧として、押し倒されたことにもすぐには気付かなかった。
「オレもう待てねー」
アキが太腿を容易く開いて、秘部を人差し指の先でそっと撫でる。
「んふぅうっ……!!」
ほんの微かな刺激なのに、体中の神経が騒ぐ。
「すっげ。オレのちんこ舐めながら感じた?」
「……っそんなわけ、はぅぅ……っ」
「カワイー」
「っや……!?」
熱いものが宛がわれたのを感じて、体が反応する。認めたくないが、期待している。この状況が異常だとか、彼らの素性も目的も不明なままだとか、何もかもがどうでもよくなる程の、快楽を求めて。
「ご褒美。やるよ」
ぐっと腰を進め、アキは滑らかで華奢な肢体を貫いた。
「ひゃぁぁぁああんっ!!!」
薬のせいで過敏になった膣壁はすぐに絶頂へ達し、アキを切なく締め付ける。
「ハッ、すげ……おい、まだ終わってねーぞ」
抱きつくのもままならず腕をさ迷わせながら、ユウは許容範囲以上に与えられる快感に翻弄され、圧倒されていた。それはアキも感じていた。腰を打つたび、ざらついた肉壁が絡み付いて、強すぎる刺激を起こす。
「ちっ……オレもすぐイきそ……ッ」
笑みを浮かべながら、アキは息が上がるままに任せた。
「ハァ、ウゥッ……!!」
精液を注ぎ込んで体を休めるが、まだ挿入したままだ。ユウは朦朧とした意識を何とか繋ぎ止めようとしながら、アキに胸を愛撫されて「んぁ……ぁ……」と口を開けたままにしていた。
「仕方なくクスリ使ったけど……やっぱ、つまんねェな」
明王は有奈に、ゆっくりと味わうようにキスをした。溶けるように舌を絡めながら、奥深く挿入し腰を打ち付ける。
「くっ……」
ぐったりとした有奈の子宮に精液が注がれ、びくびくと震えた。掻き出さなければと理性が叫ぶが、体は指一本動こうとしない。
隣でアキが叫ぶ。
「ハァ、ハァッ……カーッ! たまんねェエ!!」
「ひぁああああっっ!!!」
何度目だろうか、ユウが涙を流しながら絶頂の悲鳴をあげた。ほとんど意識を失ったユウの体から力が抜けても、まだアキは腰を振っている。これでは、どっちが薬を飲んだか分からない。
「おい、あんま乱暴にすんじゃねぇよ。明日も使うんだぜ」
「ハハッ……だって兄貴、止まんねーんだよォ……ッ」
「ぁうっ……ンッ……ふぅ……っ」
「ユウちゃん……もう、オレのもんだかんな……」
唇にねっとりとしゃぶるようにキスをされる感覚も、気持ち悪いとも何とも思わなくなってきていた。疲労が彼女を蝕んでゆく。しかし絡ませたその舌から伝わる微かな痺れのようなものは、不快ではなかった。
2016/05