大人しくしているから、リビングに居てもいいと言った。ところどころ端が摩り切れた布張りのソファには、古さを隠すためと言うよりこれ以上傷を広げない保護のために、チェックの一枚布が掛けられている。
 有奈とユウは並んでソファに座った。その白い肌は変わらず滑らかなツヤとハリがあり健康そうで、しかし空虚が醸し出す色気の他は表情が無い。明王はそこに苛立ちを覚えた。このままではつまらない。
「おいアキ、買い物行ってこい」
 姉妹の前でテレビゲームをしていた弟にメモを差し出し、明王が言う。
「はアー、なんでオレだし」
「るせえ、ゲームしかしてねえじゃねェか」
「ッたよ……。ん」
 立ち上がり催促した手に、財布を置く。
「余計なモン買うんじゃねーぞ」
「へーい」
 何だかんだ文句を言いつつも、何かを頼まれて期待以上に実行することに優越感を見出したいのである。出ていったアキが自転車に乗る後ろ姿を窓から見送りながら、ケータイを取り出して電話をかけた。
「よぉ。イイぜ」
 裏の林の中から若い男が四人現れ、呼び鈴も鳴らさず玄関から入って来た。
「おお~! すっげぇカワイイじゃん!」
「なに、姉妹?」
 有奈とユウが驚いて身をすくめ、逃げようとする前に男たちが取り囲んで動けなくなる。ツンツン尖った短い金髪の男、プリンを肩まで伸ばした男、尖った黒髪で鼻ピアスの男、刈り上げてスタジャンを着た男の四人だ。彼らは町では有名なチンピラだが、ここへ越してきたばかりの頃明王一人に惨敗し、以来ずっとアニキと呼んで慕っている。都合の良い時に呼び出して問題を解決したり、老人一人が店番しているような小さなコンビニから売上を頂戴するにはちょうどいいメンバーだ。
「うわ、肌スベスベ……たまんねぇなぁオイ!?」
「さわ……るなっ……」
「いいねえ、女王様タイプだ?」
「やべーでけえ!!」
 鼻ピアスが断りもなく有奈の胸を両手で掴み、ゆさゆさと揺らした。そういえば巨乳好きだったか。逃がれようとする有奈はしかし、金髪に抱き留められてしまう。
「メッチャ可愛いね、何歳? 中学生?」
「ひっ……」
 ユウが息を呑む小さな声が聞こえた。スタジャンが顔を寄せて間近で見ている。ロリコンだったとは知らなかった。耳に鼻息がかかって、さぞ気色が悪いだろう。
「今日は鬼道ちゃんたちにバイトして欲しいんだよね」
 明王は、姉妹の顔を見ずに言う。
「一人一回イクごとに一万な」
 男たちに言うと、まじかよと口々にざわつく。それは期待に輝き、今にも始めたいと舌なめずりする声だ。明王はダイニングの椅子を一脚持ってきて、全体が見渡せる場所に置き腰掛ける。
「オレはここで見てるからな、チョンボしたら金玉ぶっ潰すぞ」
「あはは……やだなぁアニキ、これからヤるってのに、縮んじまうじゃねーすか」
 ひきつり笑いをする鼻ピアスに、金髪が言った。
「ま、こんなカワイイ子とヤリ放題できるんなら、蹴っ飛ばされたってすぐ勃つけどな?」
 ヒャーハハハハと下品な笑い声が広がる。さっそく有奈の服が引っ張られ、抵抗も虚しく脱がされていった。これは見ごたえのある光景だった。もがけばもがくほど男の欲望を煽ることに、彼女はまだ気付いていない。
「やっ……やめろ! はなせ!!」

 下着を引っ張って露になった乳房を掴まれ、真紅の瞳が潤んだ。気の強い口は固く閉じ、押さえられた腕は時々振りほどこうと強く動くが、餓えた獣たちは離さない。
「嫌だ? 早く終わらせたい?」
 座ったままの有奈の目線に合わせた金髪を、潤んだ赤い瞳が鋭く睨む。そう、それが見たかった。下卑た唾液にまみれても尚、従うまいとする強い光が。彼女は言葉を発せずに、コミュニケーションを絶っている。どんなビデオより欲情した。
「じゃあ余計なことしないで、俺たちの希望通りにしてくれれば、スムーズに終わるぜ」
「まずは、きれいなお手手でおっきくしてもらっちゃおうかな?」
 金髪がズボンを脱ぎ始めた。
「おまえ、もうおっきくなっちゃってんじゃん」
 下品な笑い声の中でベルトのバックルが金属音をたて、ジッパーが開く音が続く。金髪は右手を掴んで自分の股間に当てさせようとした。反対側では鼻ピアスが真似をし始める。どす黒い性器は首をもたげ、有奈に迫った。
「うお、手もすべすべ」
 顔を背け、手を引き抜こうとするが、男たちは離さない。明王は有奈に声を掛けた。
「口も使ってやれよ、昨日教えただろ?」
 整った顔に浮かぶ恥辱の色がさっと濃くなる。
「姉さんが怠けてるぶんは、妹ちゃんががんばらねぇとな?」
 クスクス笑いながらスタジャンが、ユウの頬を撫でた。
「っへー? 調教ってやつ?」
「羨ましいぜ、こんな美人に毎日しゃぶってもらえるなんてよぉ!」
「うまくできたらご褒美やるよ、ってか」
 口に押し付けられてユウは顔を背けるが、頭を固定されてしまい、鼻を摘まんで開いた口に無理やり押し込まれた。
「んむぅうっ……!」
 苦しげな声は男を煽るだけだ。もどかしいこともあり、ユウが動かなくても勝手に口を使ってしごく。嫌なら思い切り歯を立てればいいなんて、パニックで思考が及ばないのだろう。
「やべー、もう出そう」
「マジかよ、この早漏」
「ウッ! ……はは、すげーイイ眺め」
 スタジャンはよほどユウが気に入ったらしい、早くも白く濁った粘液が柔らかいほほを汚した。
「ぶ……っうぇ……」
「ううっ、げほっ……」
 姉の体にも、次々と精液が掛けられた。口の中はさぞ不快なことだろう、有奈は眉をしかめて手の甲で口元を拭う。
「最初誰いく?」
 彼らはじゃんけんで順番を決め始めた。金髪が一番になったらしい。
「いやっ……やめろぉ……っ!!」
 二人がかりで足を開かせられ、抵抗するもとうとう有奈は金髪に組み敷かれる。ビデオで見るような構図と、それよりも強烈な光景に、明王は満足げに目を細めた。
「やっべ……メッチャ締まりイイ! すっげえ」
「マジかよ……おい、早く交替しろよ」
 豊満な乳房が四方八方へ揉みしだかれ、奥歯を噛んでいるのだろう、悲痛に歪んだ顔は劣悪な律動に耐えている。
 不動はケータイで数枚、写真を撮った。それからスタジャンの下で、太い肉棒を突き立てられがくがく震えているユウの口に、白い錠剤を押し込む。
「ホラ、これ飲んどけよ。こいつら、ナマが好きだからさぁ。これ飲んどけば大丈夫だから、な」
「んんっ……ふぐぅ……っ」
 妹の方が従順だ。スタジャンの呻き声の下で涙に濡れた大きな赤い瞳が、助けてと悲痛に訴えている。これも素直ゆえの輝きだ。明王は笑って見せ、立ち上がった。これを無視するのはかなり胸糞が悪く、たぶん微妙な笑みになってしまったことだろう。気を取り直して、もう一錠を取り出す。
「ホラ」
 姉には、手が届きにくいこともあって、聞いていないのかなかなか飲ませられない。また媚薬だと思っているのかもしれない。仕方なく彼らの間に割って入り、口移しで飲ませてやった。
「んぅうっ……ぅう……っ」
 気持ち良いと言うより、ひたすら苦痛に耐えるような呻き声が続く。なぜか今は、気分の良いものではない。男たちはそんなことはお構い無しに、それぞれ薄ら笑いを浮かべながらヒステリックに喘いでいる。これも聞くに耐えない。そんな不協和音の中で、明王は手に入る予定の万札を数えていた。







 一通り男たちが満足したところで、彼らに囲まれながらも尚、身体を縮め胸を隠そうとしている有奈の隣へ近付く。
「どうだよ、どのちんこがよかった? お気に入りがいたら、また呼んでやるぜェ……」
 屈んだと同時に、左頬が、勢いよく鳴った。
「最低だな……っ!」
 明王はカッと火がつくのを感じた。怒りと、煽られた性欲の火だ。彼女に拒絶されることを望んでいなかったと自覚したことも、憤りの一因にあった。
「ハッ、マワされてもピンピンしてんじゃねーか!」
 殴り返して怒鳴りたいのを堪え、ズボンを腿まで下げると、四人分の精液でドロドロになった有奈のヴァギナに、己の肉棒を突き挿した。
「んぅぁあ……ッ」
 虚ろな目のまま、有奈が呻く。気のせいだろうか、漏れる吐息も嬌声も、疲れきっているが、先程までとは少し違う。
「ハハッ、お嬢様はてめぇらのローテクじゃ満足できねーってよ!」
「ひッ……んア……ッ」
 胸や肩を押して突き放そうとする両腕を無視しながら、激しく突き上げる。もう少しだ。最後のひと突きで、快感に屈する瞬間がやってくる。そう思った直後、ビクビクッと震えて、有奈が声も無く絶頂に達した。
「イッた?」
「おほ、さすが」
「抵抗しなくなったぜ」
「アニキのテクはやべぇな~」
 急に、脳が冷める。興味を無くして戸惑うペニスをズボンに収め、明王は黙ったまま大きく息を吐いた。
 鼻ピアスは有奈が犯されるのをニヤニヤと眺めながら、大好きな乳房を揉み続けている。スタジャンはユウを膝に抱き、プリンが頬を舐めんばかりにして愛撫している。
 有奈が、浅い呼吸を繰り返しながら、ぼうっと霞んだ目で明王を見ていた。すぐに、肉欲にまみれた男どもの裸体に隠れて、見えなくなってしまった。遠くで物音がする。
「ナニしてンだてめェら!?」
 ドアの開閉音と足音だ。丁度良いタイミングでアキが帰ってきた。スーパーの買い物袋を投げるように置いて、責めるように明王を見る。明王は顔色一つ変えないまま、何も言わず、卵が割れていないかどうか心配していた。
「汚ねェ手でさわンじゃねーよッ!!」
「おい、アキ、待てよ……」
 膝に座らせたユウの胸を揉んでいたスタジャンに掴みかかろうとしたアキを、羽交い締めにして強い力で引き留める。もがくのでそのまま突き飛ばし、振り向いて今度は明王に掴みかかろうとしたところを、思いきり殴った。顎に入って口内を切っただろう、だが自分にしてはぬるいパンチだ。
「邪魔すんじゃねえ、大事なお客さんだ」
 しかしこれ以上続けられないのは、明王も分かっていた。口元を押さえながら睨み付ける弟を一瞥し、客たちに声を掛ける。
「ま、彼女らも疲れちゃったから、今日はこれでお開きってことで。な。お疲れサン」
 よほど満足したのだろう、男達は文句も言わずに、しかし「これはクセになるわ」「やべーハマった」などと、ふざけた感想をつぶやきながら服を着始めた。
 アキが奪うようにして駆け寄り、ユウの体を支えて顔を覗き込んでいた。
「な、ユウちゃん、兄貴ひでぇな、ユウちゃんはオレのだから、あんなことさせたくなかったのにさ」
 薄く開いた眼はぼうっと、アキの怒りを含んだ悲しげな顔を見つめ、理解しきらないままに再び閉じた。
 金を受け取っている間、アキがぐったりとしたユウを抱きかかえて風呂場へ向かうのが見えた。有奈を見ると、彼女も床に敷いてあった毛布に手足を投げ出して横たわり、目を閉じている。乾いた唾液と精液があちこちにこびりつき、目の回りは涙の跡が貼りついて、虚ろで病人のようだ。気を失っているのかもしれないが、ただ動かないだけなのかもしれなかった。
「アニキ、マジ最高だったっす」
「またすぐにでも呼んでくださいよ、俺らいつでも調教を手伝いに来ますから」
「もーっホント、ありがとうございます」
 いつもならここで、ニヤけた顔で得意げに、任せろなどと言っただろう。
「ああ、またな」
「連絡くださいよ、いつでもいいんで!」
 明王は口々に感想を言い合う男たちを裏口へ追い立てながら、募るばかりの苛立ちの飼い方について、必死に考えようとしていた。飼わなければいいのだとは、とっくに分かりきっていた。








つづく









2016/05


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