「ユウ、起きろ。ユウ。……行くぞ」
 もう耐えられないと呟く姉に違和感を覚えながら、起き上がって眠い目を擦る。ユウは怠い体を抱え、眠る前の記憶を辿ろうとしたが、うまくいかなかった。覚えているのは恐怖と、悲しげな目をしたアキの苛立った声。
「あいつが出掛けた。今しかない」
 有奈はそっと音をたてないようにドアを開け、廊下のようすを確認してから、耳を澄ました。姉が出ていくので、ユウも後に続く。この違和感が何であるかは分からないが、今になって逃げ出そうとし始める姉は何か妙だ。
 リビングからゲームの音が聞こえる。アキが最近ハマっているらしいゲームのBGMと効果音だ。ゾンビの叫び声が上がっている隙に、足音をたてないように廊下を進み、玄関へ向かう。携帯も財布も取り上げられてしまったが、無人島ではあるまいし、こちらは被害者なのだから、外に出れば何とかなるはずだと思った。
「っ……!」
 玄関のたたきへ降りる時、低い位置にロープが張ってあり、有奈は運良く踏まなかったが、ユウはつまづいて転びそうになってしまった。転ばずには済んだものの、下駄箱に掴まったり、床を滑ったりと、大きな物音がした。早く行かなければと焦るが、細いロープが足首に絡んで、そうこうするうち飛んできたアキに後ろから腕を回され、ユウは足を止めざるをえなかった。
「どこ行くんだよ? ユウちゃん」
 絞り出すようなアキの低い声が耳を舐める。
「逃げて!」
 咄嗟に叫んだが、有奈は動けないようだった。アキはユウの腹に両腕を回し、ゆっくりと後ろへ数歩下がる。
「外に行きたいなら、言ってくれりゃアいいのによ。それとも……オレたちから逃げようっての?」
「ユウっ……」
 有奈がドアを開ける前に妹を解放させたいと願い、表情で訴え、それをアキは見ていた。だがユウは動かなかった。
「まさかな?」
 アキはユウにだけ分かるように、両腕の力をゆるめた。彼を突き飛ばせば逃げられたはずだが、ユウにはそれができなかった。姉とアキの狭間で彼女は何かを言いかけ、足を震わせたが、玄関のドアを開けたのは姉でもユウでもなく。
「なぁ~に楽しいことしてンだよ」
 運悪く……と言うべきか、思いのほか早く用事を済ませたらしい。入ってくるなり状況を把握した明王が口角を上げる。ほどけたロープがユウの足に絡まっているのを見て、アキに目配せし、有奈の肩に腕を掛けた。
「そんなにオレのことが恋しかった?」
「放せ外道……ッ!」
 抵抗する前に、腕を封じておく。明王は有奈の体を抱き寄せたまま、引きずるようにして2階へ連れていった。ユウは乱暴に連れて行かれる姉の後ろ姿を見送りながら、アキに「来いよ」と引っ張られた。
「くっ……離せ!」
 強引さに拒絶を示すと、アキはまたあの時と似たような表情を浮かべた。
「いいから来いよ!」
 無理矢理腕を引っ張られ、階段を上がる。きつく掴まれた手首が痛いが、もう振りほどけない。
 部屋に入るなり有奈を突き飛ばしたのが見えた。続いてユウも、布団に向かって突き飛ばされる。うつ伏せに倒れた有奈の横に手を着いたユウは、体を反転させて起き上がろうとしたが、すぐにアキが乱暴にのしかかってきた。
「まだ自覚が足りねえみてーだなァ、ユウちゃん」
「まあ、待てよ。お仕置きしねぇと、またやるよなァ?」
 明王が薄く笑みを浮かべる。アキは不満そうに兄を見上げたが、すぐにその意図を理解して口角を上げた。アキが体を引いたので、ユウは困惑しながら閉じていた目を開く。
 しゃがんだ明王が有奈の顔を覗き込んで言った。
「逃げようとした罰として、オナニーして見せてくれよ」
 驚く有奈の体が強張ったのを、寄り添った肌から感じた。ユウは姉の腕をそっと掴む。アキがニヤニヤと視線を向けているのに気付いて、有奈の背に顔を隠した。
「したことある? アンタはあるよなァ? 妹ちゃんに教えてやってよ」
「誰が、そんなこと……」
 きつく睨まれた明王はポケットから携帯電話を取り出して少し操作した後、有奈に画面を見せた。画像フォルダには、昨日の痴態がずらりと並んでいて、その中の数枚は明王に抱えられているものだった。
「随分と気持ちよさそうな顔してるよなァ~。オレの肩にしがみついちゃってさ……」
 決して良い状況ではなかったはずなのに、撮り方が卑怯だ。有奈は携帯電話を奪おうとしたが、明王は取らせない。
「別にィ、バックアップもあるから消したっていいけど。……これ、イロイロ使えると思わねえ?」
 青白くなった姉の顔、その唇が震えているのを、ユウは見た。
「わ……わかった……」
「よーし、物分かりがよくて助かるぜ」
 にっこりと笑った後、明王はアキと共に数歩離れて、観客席よろしくフローリングに腰を下ろした。
「オレたちは、こっから見てるから。好きに始めてもらっていいけど……」
「ストリップシーンをじっくりやってくれると嬉しいなァ?」
 期待を隠しもせずに見つめられ、ユウは思わず胸の前で手を組んだ。
「ホラホラ、まずはこっからだろォ」
 アキに腕を引っ張られ、ユウはブラウスのボタンを外し始めた。
「いいねェ。その調子」
「んじゃ、お姉サンの服も脱がせてやれよ」
 明王を睨む有奈は、ユウが手伝う前に自らカットソーを捲り上げ、ブラジャーを外した。
「これでいいか」
 顎を上げる、その目は羞恥に燃え、怒りに震えていた。明王は面白そうに目を細める。
「いいや。まだよくねェなァ。自分のキモチイイところ知ってるだろ?」
「……っ」
「触れよ」
 言う通りになどしたくないが、逆らえば卑猥な写真をどうされるか分からない。有奈はゆっくりと右手を下へおろし、太ももの隙間へ差し入れた。
「ンだよ、恥ずかしがることもねェだろ?」
 もぞもぞと動く膝を人差し指一本でくいと押して、明王はニヤリと笑った。真っ赤になった姉が顔を反らしながら横目で彼を睨みつけ、ゆっくりと足を開くのを、ユウは見ていられなかった。
「いいねェ、その格好。妹ちゃんにオッパイ揉んでもらえよ」
「……!」
 急に呼ばれ、ユウは肩を揺らした。姉に寄り添って体をちぢこめていたユウは、明王に手を掴まれて抵抗しようとした。だが有奈の柔らかい肉塊をつかませたあと、手は離れていって、ユウは安堵した。
 以前からふざけて胸を軽く触ったりすることはあった。それほど有奈の乳房は美しい造形と色ツヤを持っていて、思わず触って弾力を試したくなるのだった。大きなまんじゅうのようなマシュマロのような、それでいて張りのある乳房をやわやわと揉むと、妙な安心感に包まれた。
「ん……っ」
 有奈が困ったような目を向ける。ユウも困っていたので窺うように見上げた。
「ご、ごめん……私はひどい体型だから、姉さんの、いつも憧れてて……」
「そんなことはない……ユウだってこれから大きくなる。それに、お尻が小さくて可愛いじゃないか……」
「ひゃっ」
 姉は何かで安心させようとしたのだろう、スカートから覗く白い丸みを撫でられ、くすぐったくて思わず小さな声を上げた。有奈の胸にかかる力も強くなり、彼女も身動ぎした。姉妹のやり取りを黙って見ていた明王がニヤリと笑む。
「ホラ、スイッチ入っただろ? そのまま本能に身を任せてみな……」
 足を組んであぐらをかき、ベッドに頬杖をついて、明王は有奈が睨みつけながら自分の太ももを撫でるのを眺める。
「ユウちゃんもやってみろよ」
 少し離れて見ている明王とは違って姉妹の目の前にいるアキは、手を伸ばしてスカートの端をめくる。
「ユウちゃんがお姉サンの、お姉サンがユウちゃんの……でも、いいんだぜ?」
 睨みつけるとさらに楽しそうに口角が上がった。震える手を自分の太ももの間に差し込む。それだけで顔から火が出そうになり、ユウは俯いた。
「それじゃあ見えねーだろ」
 アキが笑って足の親指でくいくいと、ユウの膝を開かせようとする。
「見られてる方が感じるだろ? お姉ちゃんのマネして、やってみてよ」
 羞恥に燃える顔で睨みながら、ユウは足を開いて、下着に指を当てた。
「ホラ、ちゃんと指入れてさァ」
 何かが麻痺していく。下着の中に手を入れる。柔らかいささやかな茂みを通って、なだらかな丘を下り、湿ったところへ辿り着いたところで、一部始終を見ていた明王が動いた。
「なーに、ぬるぬるやってんだよ。日が暮れちまうじゃねーか」
 ユウを抱き上げて膝に座らせ、下着を脱がせる。開かせた片足を押さえて、秘部にユウ自身の指を入れさせ、その手ごと掴んで動かした。
「ひぁ……っ」

 アキは気に入らないらしい。
「……オイ兄貴」
「なんだよ。ホラ、イイ眺めだろ?」
 くちゅくちゅと愛液がたてる音を聞きながら身をよじろうとするが、明王が手を離した。その手はユウの小ぶりな乳房を掴む。
「やっ……やめろ……っ」
 腰に硬い熱を感じ、それが何であるか分かる今は、さらに頬が熱くなった。
「こんなことしなくても、いつもみたいに好き勝手すればいいだろう……!」
 有奈が、弄ばれる妹を何とかしたいと思いながら、しかし手を出すことはできず、低い声を絞り出す。明王が目を細めた。
「なに、ヤキモチとか?」
「なっ……ふざけるな」
 羞恥と憤怒で真っ赤になった有奈の目の前で、明王はユウの頬に唇を付ける。ユウは酸素を取り込むので精一杯だ。
「ふぁ、んあ……っ」
「オレをソノ気にさせてみろよ。そうしたら、この部屋から出してやってもいいぜ?」
「……っ」
 有奈は唇を噛んで、一瞬迷った。ユウは明王のぬるい愛撫に耐えている。ふとアキを見ると、目が合った彼は兄の腕越しにキスをした。
「んっ……ふ、」
 舌を愛撫され、ぞわぞわと背筋が震える。
「んひゃあっ!」
 乳首をこねられ、一気に快感が増す。アキが唇を舐めて、ズボンを下ろした。屹立をしごく手が視界の端に見える。
有奈はベッドの上に座り直し、ゆっくりと足を開いた。目は相変わらず強く、明王を睨みつけている。
「そうそう、その調子」
「……何をしても無駄だ」
 有奈は蔑むような目を細め、吐息を漏らす。
「私は、お前のものになどならない」
 見せつけるように、手の動きに沿って形状を変える乳房が揺れた。
「……言うねえ」
 明王はユウの指を、クリトリスに当てるよう導いた。
「んああっ……!」
「ココが一番敏感なんだぜ。なあ?」
 視線を向けられた有奈は眉間のしわを深くした。秘部を見せ、自分の指が出入りして卑猥な音をたてるのを聞かせ、明王の思惑を逆手に取って、支配しようとする。
 だが、快感には、抗えない。
「ぁひ、ふぁぁあっ……!!」
「やっとイったか」
 ユウは解放され、朦朧とした意識の中でアキと目が合う。考えるより先に、体が動いていた。
 重力に抗い意気揚々と、期待している屹立に舌を伸ばし、先端を舐める。
「ッハ! どうせなら、奥までくわえてくれていいんだぜ」
「……っ、んむぅ……」
 ユウの頭を撫で、髪を弄ぶアキが、すぐに息が荒くなっていくのが聞こえた。
「ぁあ……イイぜ……っ」
 ユウは、この少年が自分に固執していることに気付いていた。少し好意的に接するだけで、従順になる。まるで手懐けられた狼のようだ。
「ハハッ、最高……ッ」
「んぅうっ」
 アキが吐き出した精液の勢いに驚き、ユウは戸惑いながら口や頬を手で拭った。
「きれいにしてやるよ……」
 そう言って口元を舐めたあと、唇を揉むようにキスをしてきたアキは、やけに嬉しそうに見えた。
 明王の声がする。
「妹ちゃんの方が素直みてぇだな」
「ん、ふ……ぅ……っ」
 ベッドに横たわった有奈はうつ伏せになり、腹側から手を伸ばして、蜜が溢れる様子を見せていた。卑猥な音が続くばかりで、どうにも決定打に欠ける原因を、彼女は知っている。明王は立ち上がって、横になった有奈の目の前で下着をおろした。
「コレが欲しいか?」
 顔をしかめる有奈はしかし、快楽に抗う力も弱くなってきている。明王はベッドに片膝をついて、自らペニスをしごいた。震える唇はあと少しで開いたのかもしれなかったが、吐き出された精液にまみれて、覆われてしまった。
「んぷっ……」
「まだおあずけだぜ」
 顔をぬぐった手を震わせ、有奈は言葉もなく明王を睨みつける。
「おい。メシにするぞ」
 兄に従わず続けるのではと思ったが、残念そうに少し笑っただけで、アキは立ち上がった。
「あー、腹減った」
 兄弟は悠々と部屋を出ていく。ユウは無性に寂しくなって、しかしどうしてなのかまでは今は考えられず、とりあえず酷い事態にはならなかったことに安堵しながら、ベッドへ横になった。
「姉さん……大丈夫?」
 ティッシュで顔を拭いた姉は、行き場のない熱を抱えたまま、そのことを隠して悲しげに微笑んだ。
「ああ……ユウ、お前も無理はするな」
 こくりと頷くが、ユウはその言葉をあまり聞いていなかった。無理をするつもりはなかったし、いま無理をしているとは思っていなかったからだ。
 窓の外はすっかり暗くなってきていて、確かに空腹を感じる。体は中途半端な熱を抱えたままで、ユウは小さく溜め息を吐いた。有奈はそれを、薄目で見ていた。




つづく








2016/05


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©2011 Koibiya/Kasui Hiduki