いつも一緒に居るようにしているためか、二人で出掛けることが増えた。
 明王は家に居ても四六時中ずっと監視しているし、有奈は深く考えるのをやめてしまったのだ。何かが彼女の心の重要な部分を覆い隠してしまった。
 かと言って有奈は、自身を喪失したわけではない。自らの意志で、籠の中の鳥として居続けていた。

 天気の良い日に、昼食を済ませたとき、これから出掛けようと明王が言った。仕度をしてこいと言われ二階へ向かったが、有奈は鏡の前で立ち尽くした。何を仕度するのだろう。服は着ているし、髪型はいつも通りだ。化粧は道具が無いので諦めている。
 結局何もしないで、一階へ下りた。明王がちょうどやって来たので合流し、一緒に玄関へ向かう。居間を通り過ぎると、ソファでユウが喘いでいた。アキが腰を打ち付けるたびに、ソファの背もたれにしがみついたユウの小ぶりな乳房がかわいらしく揺れる。
「ひゃっ、ぁあんっ、やっ、ぁあっ」
 華奢な嬌声と、肌がぶつかって立てるぱんぱんという音、そこへアキが時折、堪らないとばかりに唸り声のようなものをあげる。
「ンッ、んおおッ……やべっ、ぁあ~ッ」
 明王は黙ったまま口元をゆがめてニヤリと笑みを浮かべ、玄関へ行って有奈の靴を出した。
 有奈は犯される妹を見ても、何も心配しなくなった。心配する必要が無いからだ。
「あっ、あっ、んぁっ……アキ、アキぃぃ……っ」
 ドアを閉め、妹の声が聞こえなくなった。





 明王の運転するミニバンで、静かな家々の前を通り過ぎていく。会話は無い。音楽もかけず、しかし気まずい空気というわけではなかった。有奈はむしろ、心地よかった。
 家々は次第に少なくなり、木々が鬱蒼としてきた。坂道になって、ゆるやかなカーブを描きながら上がっていく。快晴の空が広がり、窓を少し開けていると心地良い風が入ってくる。
 そんな山道の途中、誰もいない休憩所に明王は車を停めた。道の横に四台分の駐車場があるだけの場所だ。
「なァ、しゃぶってくれよ、有奈」
 そう言うなり、シートベルトを外して、ジーンズのフロントを寛げ始める明王を、怪訝な顔で見た。
「いいだろォ? 誰も見てねーし」
 少しためらった後、有奈はしぶしぶ明王の股間に屈み込んで、下着をずらす。ぶるんっと出てきた肉塊の熱に触れ、じわりと自分の体の芯も熱を持ったのがわかる。
「ん……ふ……」
 まだ柔らかい明王のペニスを舌で舐め、口に含む。みるみるうちに張り詰め、口の中で太さと硬さが増した。
 有奈が頭ごと上下させるのを眺めながら、明王は彼女の尻を撫でる。パンティの上から中心を触ると、薄い生地が濡れて染みができた。
「ふんん……んぅっ……」
「もういいぜ」
 明王は座席を最低まで倒し、有奈を抱き寄せる。
「来いよ」
 導かれるままに明王の膝へ座り、跨がる。
 キスをしながら乳房をまさぐられ、有奈は太腿に硬く勃起したペニスが当たっているのを感じた。
「もうノーパンでいいじゃん、毎日さァ」
 面倒くさそうに、からかうように言いながら、明王はパンティを引っ張ってずらし、隙間から秘部へ挿入した。
「んぁあアっ……!」
「あぁ……イイぜ。たまンねェ」
 ギシギシと、腰を揺らすたびに、車全体が揺れる。
「あっ……ぁっ……んぁぁっ……」
 座席には膝の置き場所が少なく、明王の膝に座るのが精一杯で、腰を上下するのは難しい。だが挿入したまま最奥をえぐるように突かれ、子宮を揉まれるような快感を得た。
 声もなく有奈は達する。
「なに、もうイッたの? ハハッ…」
 笑いながら明王が乳房を愛撫していた。ぼんやりとした意識で、体を芯から揺さぶられ続ける。車ごと、ギシギシと揺れている。
「あ~やべぇ、このままじゃ汚れちまうなァ」
 二度目の絶頂が迫って来ているとき、明王は腰を動かすのをやめて、有奈を押し退けようとした。ペニスが引き抜けて、何とも言えない喪失感が襲う。
「飲んでよ」

 シートに座りドクンドクンとそそり立つペニスを示してどこか甘えた声を出す明王を、有奈は目を細めて睨みつけた。乱れて顔にかかった髪を耳に掛け、屈み込んで射精を手伝う。舌で刺激して程なく口の中に注がれた熱い精液は、だいぶ薄い。
 明王はフゥーと満足げな溜息を吐く。だが、有奈の体はまだ火照ったままだ。背を向け、助手席のシートに両肘を着いて尻を突き出すと、明王が少し、プレゼントをもらった少年のような驚きを浮かべた。
「んー……いい匂い」
 息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。微風が太腿に当たってゾクゾクする。そんなふうに焦らしてから、明王は下着を避けて舌を伸ばした。
「んぁッ……ぁあ……!」
 尻を撫でながらチュプッ、クチュ、とわざと大きな水音を立てて愛撫され、有奈はシートにしがみついてガクガクと震える。二度目の絶頂はクリトリスをヂュッと吸われて。崩れ落ちそうな体を抱き留め、明王は小さく笑った。
「ハッ……、ごっそーさん」
 朦朧とした意識のなかで、舌を舌で撫で回すようなキスをしていたのを覚えている。

 少しして呼吸が落ち着いてきた頃、有奈は座り直し、明王がエンジンをかけて、車は再び道を走り出した。




***




 携帯電話が着信を知らせ、明王は眉を顰めてから応答した。アキはそれを横目で、注意深く観察する。
「おう、どうした」
 以前、家に呼んで乱交し、金を払わせた三人組だろうと、アキには見当がつく。
「あ? ……っざけんじゃねーよ、もう掛けてくんな」
 アキは兄が不機嫌に電話を叩き切ったのを見て、満足げにソファに凭れた。恐らく、また以前と同じことをしたいと要求してきたのだろう。
 不安げな顔のユウが、腕の中からアキの肩越しに明王を見ている。その頬を指先でそっと撫で、アキは微笑んだ。
「心配すんな。ユウちゃんはオレのもんだし、もう誰にも触らせねえから……」
「うん……」
 やわらかい唇にキスをする。一度では飽き足らず、舌を絡めて、何度も重ねて。それからぎゅっと抱き寄せ、胸にしがみついてくるユウの手の感触を噛みしめた。
 この関係が、いつまでも続くものではないと、アキにはうっすら分かっている。ユウが自分を受け入れてくれているのは唯一の救いだ。もしも何かあっても、彼女だけ連れて逃げ遂せることができるかもしれない。






 アキが用を足してトイレから出て来ると、ドアの前に兄が立っていた。壁に寄りかかったまま、目配せをして引き留める。
「そろそろ金を調達しねーと……」
 小声で言う兄を睨みつけ、アキは詰め寄った。
「ユウちゃんを使うなら、餓え死にした方がマシだぜ」
 アキの目をまじまじと見て、明王は少し驚いた後、フッと微笑んだ。その顔が珍しい表情で、アキは怒気を削がれ、呆気にとられる。
「心配すんな、前のやり方で稼ごうぜ」
「前のやり方って……」
 鬼道姉妹を誘拐する前は、明王は町の強盗団を手伝ったり、裏の掃除屋のバイトなどをして稼いでいた。掃除屋は気分が憂鬱になったり不安定になったりして辞め、強盗団は逮捕されかけてから参加するのを避けていたのだが、それを提案してくるということは、もう最期の手段だということだ。
「うまくいきゃあ、引っ越せるかもしれねえ。良い服を買ってやってさ……きれいな家で、ずっと暮らすんだ。ここよりもっと、住みやすい町でな」
 そう言う兄に、アキは黙ったままゆっくりと数回、頷いた。
「なァ、アキも手伝えよ。お前がいりゃ、前よりもっとうまくやれるぜ」
「オレ? 相手にされねーんじゃねぇの」
「同級生んちからゲーム機かっぱらった話してやれよ」
 明王は笑って、先にリビングへ歩いて行った。廊下に残ったアキは、足下からじわじわとにじり寄ってくる黒い不安を感じ、それをどうするべきか考えていた。




***




 不動の家は、テレビはアンテナが無いので映らない。インターネットも回線を引いていないので繋がらず、つまり固定電話もない。情報はほとんど、拾った新聞か、週に一度明王が町に行って、知り合いの家でパソコンを使って仕入れていた。
 明王は早朝に出掛け、いつものように知り合い――呼べば集まる仲間の一人の家で、四方で調達した新品の消耗品と引き換えに数十分パソコンを使わせてもらっていた。
 ニュースの中に、当然『鬼道家姉妹誘拐』『捜索中』の文字があった。いまだ『手がかり掴めず』らしい。
 明王は怪しまれないように、すぐに他のページへ移動する。必ずチェックする知り合いの掲示板で、仲間を募集しているサインがないか探した。彼らは暗号で呼びかけ合っている。
 ちょうど、上手い具合に書き込みを見つけた。仲間の一人が怪我をして、欠員が出たらしい。隣町だが、距離で言えば町境の近くなので、そう遠くない。パソコンを所有している知り合いに訊ねると、知っている人物だと裏付けをくれた。それなら報酬もちゃんと払ってくれるだろう。
 明王は連絡方法を解読して、頭に叩き込んだ。





 *


 風呂から出ると、ちょうど隣町から帰ってきた明王が部屋にやってきたところだった。ジャケットを脱ぎ捨て、明王はバスタオルを巻いた姿の有奈を抱き寄せる。根こそぎ溶かすような熱いキスに、強引に意識を奪われていく。
「ふっ……ん、ぁ……」
 ぱさりとバスタオルを床へ落とされ、ベッドに押し倒された有奈は、黙って明王がズボンを下ろすのを見ていた。
 何か嫌なことがあったのか、これから起こるであろうことにプレッシャーを感じているのか、分からないが、ストレスがかかっていることは伝わってきた。うつ伏せにさせられ、前戯もせずに、後背位で明王が挿入ってくる。
「ひ……ッ、あ、ああ……ッ!!」
 キスだけで濡れたとはいえ、まだ潤滑剤としては不十分だったため、少しひりついた。だが、すぐに暴れるペニスを受け入れ、もっと快感を得ようと肉壁は淫らに絡みつく。すぐに愛液も溢れ出してきた。
「もっと根元までくわえてから腰を上げろよ」
 無意識に動かしてしまっていたらしい、太ももの付け根を撫でられながら言われて、有奈は朦朧とした意識の中で腰の位置を調整した。
 ずぶっ……と、身体の中心を貫かれる感覚が倍に強まる。
「ああッ! いやぁ、おくっ…おくにぃ…ッ!!」
 律動と共に子宮口を叩かれ、強い振動が起こり、そのたびに全身に電流が走って、脳がしびれた。
「だめっ……まだ、アッ……! ア――――ッッ!!」
 絶頂に達して痙攣し、収縮する内壁に揉まれ、明王も達したらしい。射精しながら、両手で有奈のやわらかい乳房を揉みしだき、荒い呼吸を繰り返していた。
 精液を出し切ってもまだ、不動のペニスは熱いまま。ゆるく腰を揺らしているうち、すぐにまた硬くなってくる。
「んぁっ……ぁあ……っ」
 達したばかりの内壁をぐりぐりと突かれ、有奈は悶えた。
 いつからだろう。快楽ではない何かを得ようとして、明王が自分を見ていると気付いたのは。






つづく










2016/05


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